事の真相と付け加えられた史実
(15)
地球にある東京に住んでる普通の中学生。
迫る受験戦争の前の息抜きで、発売したてのゲームを購入。
『無双OROCHI Z』
起動したら月蝕が訪れ、その闇と共に喪月神と名乗る神が現れた。
銀糸の髪を夜風に靡かせ、縄文時代風の服に身を包んだ神。
その神は、を『麒麟の神子』と呼んだ。
刻々と過ぎる刻を惜しむように、喪月神は説明を省いてを誘った・・
そうして連れて来たのは見た事もない場所。
空に浮かんだ山には、何故か最高神と呼ばれし天帝の姿。
崑崙(とも呼ばれる山ではある所)に呼ばれたのはの他にも二人居合わせた。
その者達はと言うと・・・
が漫画として親しんだ者達、平古場と甲斐その人だったのだ。
彼等と話してみて更に驚く事に。
何と彼等も同じ無双を起動し、喪月神に連れて来られたと言う。
共通するのはゲームと月蝕、そして同じシナリオの選択だった。
そして運命は更なる出会いを用意していた。
女神に案内された部屋には、更に四人の青年らの姿があり
全てがテニスの王子様のキャラ達だったのである。
これは偶然なんだろうか?
いや、この世に偶然なんてない・・全て必然だったんだ。
天帝は言った・・・私に、喪月神の代わりとして生と死を管理する力を使い
遠呂智に永遠の眠りを与えよ、と。
それをするのが私の役目で・・・彼等はこの力を狙う人達から私を守る存在・・
え、つまり・・俺様何様跡部様達もって事!!?
何か畏れ多い気がするなぁ、だってあの跡部様だよ?
遠慮がちに彼等を伺い見た。
彼等は跡部を中心に何やら話し合いを始めている。
「わったーといったーやー以外にはたーがいるんばー?」
「アーン?・・・忍足」
「何や跡部、樺地の代わりさせる気ぃか?まあええけど・・俺等は留守番で、後の三人は散策や」
「お、噂をすれば一人戻って来たみたいじゃ」
「あれ・・?君達は・・・・」
「ぬぅが青学の不二やっさー」
「ぶっ!」
凛の問いに目配せで忍足に答えさせた跡部。
何かもう漫画の1コマを見てるかのような気分だ。
と言うか・・・こんな時代背景の違う場所にいるのに何か違和感なさすぎ・・・・
凛が跡部に聞いた問い掛け、それはも気になっていた為耳を傾けた。
どうやら話を聞く限り、此処に呼ばれたのはを入れた10人。
今戻って来たのは凛君が言った通りに青学の不二君だ。
予期せぬ魔王登場に用意されてた中国茶を噴きそうになった。
何て言うか、彼ともう一人、立海の魔王様がいたら遠呂智なんて怖くないような気がしてしまう(笑)
でもこの世界は遠呂智が創り出した完全に別の次元だし・・テニスも関係ない。
ゲームと同じなら、間違いなく自分達は戦いに身を投じる事になるだろう。
人を殺す・・なんて事はないって喪月神は言ってたけど、物凄く不安だ。
一足先に武器を貰ってしまっている、人を傷つけられる武器をこんな近くで見ている。
今更だがその事をとても怖いと思った。
何より、彼等に此処が無双の世界なんだ・・・と説明するのが怖く感じた。
「おい」
「あ、はいっ」
「お前今、何か見てなかったか?」
「何も見てな―――」
突然呼ばれて顔を上げれば、正面の椅子に座っている跡部と目が合う。
咄嗟に神剣を背凭れのない椅子に座る自分の真横へ沈める。
だが跡部に誤魔化しは利かず、彼は立ち上がると目の前に来るや否
柔らかな椅子の座る部分に沈めて隠した神剣に気付かれまいと両手で覆ったの手を掴み
糸も簡単に両手を片手だけで退かした。
あの跡部が自分の手を掴んでいる事実に驚いてしまう。
ハッと神剣が見られてしまった事に気付くが、既に跡部の片手は椅子の隙間からその剣を拾い上げた。
しかしこの後にある意味で事件が起きました。
「嘘なんかつくな阿呆、お前が隠したのはコレだろ?」
「そ、それ俺のですから返して下さいっ――ひゃあっ!!」
「??」
「アーン・・?何だ?女みてぇな声出して」
「(『みたい』じゃなくて女です)な、何でもないです!」
「つーかぬーんでぃがらーゆたさんからへーく返してやれよ」
手にした細身の神剣を鞘からは抜かずに眺めてる跡部へ
早く返して欲しいと顔を向けた瞬間、事件は起きましたよ・・・
あの跡部様の顔がすぐ真ん前にあったんですよ!!
これには流石に免疫なくて、恥ずかしいが悲鳴じみた声を出してしまった。
跡部の手は離れたが恥ずかしさは消えない、しかも悲鳴とか上げたらバレちゃうっての
取り返そうにも身長差のせいで適わず、どうしようかと試行錯誤するの耳に不機嫌そうな凛と裕次郎の声が割って入り
早く返してやれと言う凛の声を合図にの神剣を眺める跡部の視線が凛を捉えた。
跡部は面白くなさそうに凛を睨んだ後、すぐに視線を持ったままの神剣へ注ぐ。
重量感は少し感じる程度だが、これがの持ち物だとは思い難い。
男のに対し細工や造りは女性らしさを感じさせる物で、柄も細めで持ちやすい仕様・・・・
男の跡部も少し重いと感じたが、此方を睨むように見ているへ返してやった。
普通に手渡してやった神剣、受け取る側のはそれを平然と手にした事に跡部は目を見張る。
いくら女性用のような造りとはいえ、あの造りは真剣そのもの。
間違いなく殺傷能力はあるはずの真剣を、あの細腕で苦もなく受け取るとは・・
「お前・・・重くねぇのか?」
思わず躊躇いもなく疑問をへ向けていた。
純粋な問い掛けにも驚きを隠せないが、何やら真面目に聞いてくる跡部の姿が可愛らしく感じ
「重さは感じないよ?さっきも持ってる事すら忘れてた」
「そいつは不思議だな、俺は少しばかりだが重さを感じたぜ」
「へぇ?それは興味深いね」
「て言うかお前さん、此処に来てから渡されたんじゃろ?」
「あ、うん・・・・その・・・神様から」
「喪月神にかい?」
「えっと〜〜・・・・・」
これはどう説明したらいいんだろう、と内心で悩む。
どうやら天帝に会ったのはだけだと言う事が彼等の反応で分かったからだ。
まあ神様、と濁したからかもしれないが。
細かい事を説明する役は向いていない上に、此処に居る彼等全員を納得させられるのかが自信ない。
何とも心許ないヒロイン。
それを見兼ねたのかは定かではないが、丁度いい人物がこの部屋を訪れた。
「やあ待たせたね童子、そして・・・・竜生九子達」
この建物の主であり、天を統べる最高神の天帝その人。
女神達は連れずの訪問、しかもを童子と呼び・・彼等をまたも聞き慣れない名前で呼んだ。
勿論引っ掛かりを感じた跡部達の目が険しくなる。
彼等は天帝を今初めて見たのだから無理もないだろう。
姿はが見た時のまま美しい青年その物。
怪訝そうな目を向けたままの彼等の前に立ち、手で弧を描いてみせた。
その瞬間、天帝の手の上に10枚の手袋が現われる。
「先ず君達が何故此処へ連れて来られたのかを説明してあげよう」
「ひょっとして、貴方も何かの神様か何かかい?」
(天帝様にもタメ口とは流石魔王サマ・・・・)
「今のが手品じゃなけりゃそうだろうな」
(キングも負けてない・・)
「手品とは面白い事を言うね人の子よ」
わー・・・魔王とキングをあしらったよ流石天帝様だ・・・・
ちょっと感心してしまった(
あの黒い微笑みの魔王サマと俺様何様跡部様ですよ??
唯我独尊のあの帝王を煙に巻くなんて誰にでも出来る芸当じゃないもの。
ある種尊敬の眼差しでが天帝を見守る中、天帝はにも話した事をもう一度説明し始めた。
此処は仙界で罪を犯した邪仙が創り出した物、仙界にて閉じ込められていた場所を妖仙の手引きで脱走し
三国と戦国の世のどちらでもない融合した世界なのだ、と説明。
これには皆口を閉ざし、目を見開く。
流石の跡部も驚きを隠せない風に見えた。
まあ誰でも驚くに違いない。
つい数時間前まで無双をやっていたなら尚更だろう。
あのあらすじは鮮明に覚えているだろうし。
「じゃあ聞くが、何の目的で此処に連れ込んだんだ?アーン?」
「麒麟の童子を守る為にだよ」
「ほぅ・・・?まんまゲームの世界って訳でもないようじゃ」
「どういう事だい?仁王」
「簡単ぜよ、俺達が買ったゲームには本来そんな設定はない。これもまた――」
「用意されたシナリオ、とでも言いたいんだろ?仁王」
「何やつまりは俺等が来る事は予め作られてたって事かいな」
「創り手が織り成したシナリオだからね、要は永劫の生を与えられた邪仙と脱走を手引きした妖仙から彼を守ればいい」
確かに仁王の言う様に、OROCHIにも再臨にもZにもない設定だった。
天帝の言う創り手とやらが新たにシナリオを加えたとでも言うのだろうか?
Zまでプレイしたは大体の終わり方は知っている。
皆で協力して遠呂智を倒すのがセオリー・・・
創り手は・・最終的な決め手を敢えてに与えた。
全くの外の次元から来た生身の人間であるにそれを与えたのは何故なのか
それは全く分からないまま。
ゲームと言う造られた物としては戦いをこなして来てはいるが、実践なんて全く経験ない。
武器すら握った事がないと言うのに、本当に目的を達成出来るの??
私を守ると言う役目の彼等に命の保障はあるのだろうか???
本当に身を危険に曝すような事になるのだとしたらどうしたらいい?
と言うか、何かの目的の為に『麒麟の神子』と言う設定を創り出した様に感じるのは何で?
その事について考えようとすると何故か刹那さが心を捕らえた。
真相は天帝が言うよりもっと複雑なような気がしてならなかった・・・・
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