拒絶と否定
古代中国の宮中を歩いてるような夢を見ていた。
心地よい風が頬を撫でて・・・
流れる風を追いかけるように視線を漂わせれば視界に飛び込む金色。
視線を上げると映るのは、スラリと伸びる長身と綺麗な横顔。
それからぼんやりと思う。
ああ、彼は確か・・テニスの王子様のキャラクターだ。
こんなに近くを歩いてる・・・?
紙面上では常に目が合った状態だったけども
あ
今こっちを見た?
金色の髪をした綺麗な男の子が何か言ってる。
ちゃんと口が動いてるなんて凄いなあ・・・・・・・・?
『――――があるよ』
え?漫画の世界からのメッセージ??
ぼんやりと見惚れつつ彼の唇を読んでみた。
と同時に凄い勢いで腕が引っ張られる。
「そっちは崖」
「――っわあ!?」
やけにクリアな怒鳴り声と共に、急に現実が戻って来る。
白く霞んで見えた光景が光を取り戻し、腕を掴む感触もリアルになった。
ああー・・つまり私、歩きながら白昼夢見てた訳ね(
宮中を歩いてる夢じゃなくて、実際に歩いてたのよ。
しかも天上はあるけど横はその天上と下を支える柱があるだけで隙間がある造り。
つまりはその隙間から真っ逆さまに落ちる所だった訳ですわ。
注意してくれたのも腕を掴んで引き戻してくれたのも金髪の彼、平古場凛・・ではなく南斗星君。
何で平古場凛、凛ちゃんだと思ったんだろ?初対面から誰かに似てるなあ思ってたが・・そっかこの人平古場凛に似てるんだ
しかし何故に似てるんだろ、確かにテニプリで一番好きだがな。
にしても恥ずかしいな自分・・・歩きながら夢見るなよ←
「ボォーッとしてんなよ、死にたいのか??」
「あ、はい・・ごめんなさい・・・?」
「南斗、だからお前は口の利き方がなってないな」
「兄上が硬すぎるだけだろ、それに、魂は同じでも瑤姫さま自身じゃない」
「・・・あー・・うん、確かにそうだね」
「南斗!」
既に自分自身で反省し呆れてたのに南斗星君にズバリ言われると腹は立つけど事実だった。
魂は同じでも、この二人が共に過ごした瑤姫さんではないもんね。
北斗星君と違い、初対面では好意的に見えた南斗星君からのハッキリとした否定に胸が疼く。
私だって来たくて来た訳じゃないのに。
偶々魂が同じで喪月神とも波長とか言うのが合ってしまったから問答無用で連れて来られただけ。
本当は戦いたくもないし、今すぐ家に帰りたい。
そう天帝にも喪月神にも怒鳴り散らして無理矢理にでも帰ろうとしたかった。
でも、ここの世界の神とか言う人達が提示した目的を達しなければ元の世界に帰れないなんて
理不尽だしご都合主義にも程がある、めんどくさい・・!すぐにでも役目なんて放棄したいわ
放棄だってやろうと思えば出来る・・それをしないのは我が身が可愛いからだ。
役目なんか知らないと、無視したせいで本当にこの世界が滅びたら後ろ指刺されるのは私・・誹謗中傷もされるだろう。
誰かの恨みを買う事だけは人として避けたかった。
一方で南斗星君は自分の本音に対して見せたの反応を見ていた。
怒る訳でも泣く訳でもなく、ただ、自嘲めいた笑みすら浮かべてという人間は肯定した。
面白くない、好き放題言われているのに牙を剥く気配すらないなんてね。
瑤姫と同じ魂を宿してると聞き、期待もしていただけに南斗星君は失望した。
それでもこの世界の為にはを助け、導き、守らねばならない。
その事が、南斗星君にはとって苦痛でしかなかった。
明らかにに対し、猜疑的な弟 南斗星君を見やり、秘かに北斗星君も嘆息。
ただ南斗星君の失望感も猜疑感も分からなくはない。
自分達兄弟は、前世・・と言うべきか分からないが且つて存在していた頃の瑤姫に仕えていた。
生前の彼女の気高さと儚さ、凛とした佇まい・・・気品と慈愛を兼ね備えた至高の存在。
同じ魂を持つなら、少しくらい片鱗があるかと期待する気持ちも分かるのだ。
だが今目の前に現れた異界の娘からは、瑤姫と同じ魂を持つ事を感じさせる部分は皆無。
容姿は人並み、感情の伺えない表情の乏しさ。覇気もない。
諦めにも似た表情とまだ何処か他人事にしか捉えていない現状の把握度
これでは瑤姫と同じ魂を持っているとは思えないし思えと言う方が無理である。
恐らくまだ己が剣を手に他者を弑する事の重さなど、微塵も理解していないだろう・・
に対してまだまだ猜疑的にしか接せられなくても
現状は天帝や喪月神に言われた通り、に付き合うしかない。
一方でも二人が自分を信用してない事は雰囲気と態度から察していた。
自身も未だこの世界の為に何故私が戦わなきゃなんだろう程度にしか思ってない・・
要するにあれだ、反目し合う者達がお互いの目的の為に一時的に手を取り合う。
「呉越同舟って奴かー」
「・・・呉越同舟?」
「そ。」
「ほう・・お主の世界にも体よく表す言葉が存在したか」
「北斗星君は知ってるんだね流石、まあ要するに利害の一致ね。お互いの目的の為に取り敢えず手を組むって事。」
「・・・・ふーん、言ってくれるね・・けど今の俺達にぴったりの言葉じゃん」
「確かに、この状況をよく表しているな」
今まで静かに南斗星君と北斗星君を眺めていたも空気を読むのが得意な為、今の自分が置かれている立場は何となく理解。
凛ちゃんの顔で拒絶されたのはショックだったけど、彼が私の人生観に及ぼす影響なんて皆無だ。
生きる世界も違うし、平古場凛はそもそも紙面上に描かれた存在。
元々交わる事のない道が、何かの悪戯で交わってしまっただけの事。
だから平古場凛と同じ顔をした南斗星君に嫌われようが疑いの目を向けられようが
生きて行く上で痛くも痒くもない、寧ろ協力して貰ってサッサと元の世界に帰る方が大事だ。
まあ・・この人の中で私と言う人間=疑わしい女、ていう情報がずーーっと残ったままってのは面白くないけどねー・・・
脳内のスイッチが切り替わったは、めんどくさいけども帰る為だけに彼らに協力する姿勢を示した。
偶々知っていた言葉を例えにし、反目的な南斗星君をも丸め込んで
自分という人間について少しばかりの興味を持たせることに成功。
こうすれば多少なりと協力的な態度を取ってくれるはず・・!
と言う下心を隠した会話により、若干南斗星君から向けられていた刺々しい視線が和らいだ。
「そうと決まれば早速、これより地上へお主を下ろそう」
コホンと1つ咳払いした北斗星君が表情を引き締めて口にした。
口振りからして一時的な協力体制を承諾してくれたんだろう。
「うん、お願いします」
「急にしおらしくなったね、緊張してるんだ?」
「そりゃあね、ゲームとして慣れ親しんでたとは言え・・これは現実。後戻りは出来ないから」
からかうような南斗星君の声色に対し、から返された言葉は、少しだけ南斗星君と北斗星君を驚かす。
『気負らず貴女らしく進むんだ、いいね?』
天界から地上へ下りる入り口を前に、ふと喪月神が残した言葉が脳内に木霊した。
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