何ですか此処


何か訳も分からないまま此処にいた。
蝕の神であり、喪月神と名乗った月の神の姿は今はない。
慌しく彼は何処かへ出かけて行ったから。

納得した訳でもないが、連れて来た理由を教えると言われ
已む無くついて来た感じではある。

私に出来る範囲なんだろうか?
あれから自分の部屋はどうなってるんだろう。
テレビもゲームも付けたままで来ちゃったし・・・・

話が終わったら家に帰してくれるよね?
だって論文もしなきゃだし、好きな漫画だって読みたい。
新テニスの王子様の最新刊だってもっかい読み返したいな・・

今頃何もなければ普通にオロチのプレイを愉しんでたのに。
どうして此処にいるんだろうね。こんなさ、山肌にある不思議な建物にさ・・・

建築様式は日本とは違うようにも見える。
ちょっとした崖からは、眼下にある雲海とチラッと見える黄色い海も見えた。
絶対日本じゃない!もしや地球ですらなかったりして???

・・・・・・・・・・・・・

怖い事を考えるのは止めよう・・うん。
て言うかいつまで此処にいれば?

喪月神は戻る風もないし、人っ子一人いない空間。
信じたくないがこの山は空に浮いてるから下山は無理←

まあいいか、あの人説明はしてくれるって言ってたし
もう寧ろこれは夢だとでも思っとけばいいのよ。
だって現実に空に浮いた山なんてある訳ないし、黄色い海だってない・・・・

『僕の事は信じなくてもいい、でも、自分の目は信じてあげなさい』

つまりはやっぱ現実なんだろうなぁ・・・・
こうやって目の前にあるし、山肌にも触れる。

そうよ、現実なら逃げちゃ駄目だ。
受け入れなくちゃね、よく見れば景色もいいし眺めもいいわ。

「ほう?これはこれは胆の据わった娘じゃな」

危険はなさそうと判断したが手近な石に腰を下ろした瞬間
背後から老練なる声、まあ、老婆の声が鼓膜を揺らした。

慌てて振り向いた先にはやはり老婆が立っていたが、その姿はすぐさま変化した。
の見ている前で老婆の姿は20代くらいの美しい男の姿へと変わる。
これが俗に言う変身って奴ですか!?

同時に驚いているの回りに、ポンッと軽快な音が響くと
男の傍に控えるような形で、これまた綺麗な女性達が数名現われた。

この展開に先ずついて行けない。
彼等は何なのか、どんな者なのかが分からないです。

「よく来たな、瑤姫の魂と同じ魂を持つ者よ。」
「は??」
「お主の事だ。人間の娘。」
「・・・私ただの人間なんですけど・・・・?」
娘娘ニャンニャン説明してあげなさい」
「はい天帝。瑤姫さまと言うのは天帝の妹姫さまです」

は?天帝の妹?天帝って確か天界を治める神さまだったよね?
辞書っ子だから知ってたりするけど・・確か、とも呼ばれて、天帝の補佐をする四御の1人
地母神でもあるから土の道に通じる中央を守る四神の長とか呼ばれてるとか。
そして三皇から受け継いだ五帝の黄帝を補佐する五佐も兼任してたんだっけ?

その人の魂と・・私が同じ魂だって?なにそれFANTASY?
それに国も違うし実在の人かも分からんじゃん!私が瑤姫と呼ばれる理由はないと思う。

しかも彼等の呼び名の知識も記憶の中にあった。
『天帝』と『娘娘ニャンニャン』某漫画から気になって趣味で調べた語句。
その通りだとするなら、この人とこの女性達は

天を治める最高神と、その女神達と言う事になる。
えぇぇえええ!!!!!??
しかも瑤姫の魂が私に宿ってるとか訳が分からない。

「お主を此処へ連れて来た男がいただろう?転生前のお前は我の妹で、四御の1人 として三清を補佐し全ての土地を統括する地母神だった。
五行で土は陰、故に転生前の魂を転生後も宿すお主は喪月神と同格なのだ」
「喪月神さんとですか?それに幾ら転生前?が女神?だったとして、今の私はただの人間ですよ??」
「だとしてもお主からは妹の気配も感じるのじゃ、魂は転生しても同じ。実際の所喪月神はある場所に封じられている、『生と死』を司る故だな」

なにそれ横暴すぎる!
幾ら私は人間で、転生前とか転生後とか知ったこっちゃないと言っても立て板に水 口を挟む間すら無い。
今は聞いて貰え無さそうだと踏んで天帝と名乗る男の話に質問したりしてみる事にした。

「封じられている??じゃあ私の会った喪月神さんは??」
「申していただろう?時間がない、と。あれが自由に下界へ降りられる日は特別な条件が揃わなければ叶わぬ事なのだ」
「・・・やっぱり月蝕が関係しているんですか?あの人は私に何をさせようとしてるんですか??」
「本当に聡い子だな、その通り・・あれは月の神だ。しかも裏のな。故に蝕の夜にしか下界へ降りられぬ。」

裏・・・・・・・?????
益々話が見えない。
何で喪月神は天帝の所に私を連れて来たのか。

全てを理解するには時間が掛かると思う・・・
時間がないと言いつつ現われた喪月神、あれは彼本人だと天帝は言った。
今こうして目の前に天を治める神がいるとか、物凄い光景だわ・・・・

喪月神は裏の月神と言うのは、月の神にも表と裏があると言う事になる。
日本の月神は月読尊つくよみのみことで、夜を司る神。

その言い伝えが此処の場でも通っているなら
此処の表の月神は月読で、喪月神は裏・・夜ではなく『生と死』を管理してるらしい。

月が姿を隠し、神々が留守になる神無月。
蝕を迎えた闇の中、監視を逃れて下界へ降りた喪月神は
を訪ね、この山?へ連れて来た。

「どうして私が連れて来られたんですか?」
「言ったであろう?あれとお主は同格、後はお主自身の回答をあれが気に入った。」

喉を鳴らして笑う天帝。
こっちからしたら、とても笑い事ではない。
連れて来られた理由を『気に入った』で片付けられては納得も出来ないもの。
そんなの顔色を読んだのか、微笑んだまま天帝が言葉を紡いだ。

「そうむくれるな、お主の役割はあれに代わって『生と死』を管理して貰う事になる。」
「は!!???」
「あれは仙界で罪を犯した邪仙に罪なき命が摘まれる事を嘆き、自ら邪仙に永劫の罰と不死を与え、仙界にて刑に服させていた。」
「あれれ・・・・・??」
「しかし邪仙は妖仙に唆されて仙界を脱走、その際あれは妖仙の罠にはまり封じられてしまった。」
「・・・・え・・」
「あれはお主を選んだ、己の代役に・・或いは、同等の神格を見抜いてな。」

つまり言うと、この世界にいた喪月神は『生と死』を司り管理する神で
仙界で殺戮を犯した邪仙を罰する為、永遠の命を与え、仙界で罰に処した。
しかし、その邪仙が妖仙に手引きされて脱走。

その時に喪月神は姿を封じられてしまった。
が、残された力を振り絞り、蝕の夜に下界へ降りて
瑤姫、もといの魂を宿し、神格の素質がある自分を選んで此処へ連れて来た。

脱走したその邪仙に、再び罪なき命が散らされる前に
喪月神により宿らされた力を使って、邪仙に永遠の眠りを与えて欲しい・・との事。

確かに大スペクタルな話だが、には物凄く聞いた事のある話だった。
あまりにも酷似していて、我ながら認めるのが怖いくらい・・・

だって今聞いた話は、私が天帝の妹さんの魂を宿してるって事と喪月神の下りが出て来ないだけで
つい数分前まで自分が起動していたゲームの設定とソックリ同じだったのだから!
思わず背筋が冷たくなった。そうなると此処はゲームの世界って事になるじゃない?

ただ違うのは、あの時点、つまり一作目の時点では
この仙界?のキャラやらは出て来ない、それにこの人達も喪月神も出て来ない。
やっぱ新シナリオ????でもまあ兎に角これは現実なのよね・・・何度も言うけど←

「あの、私、戦闘とか戦いとか・・実戦経験はないんですけども・・・」
「心配するな、創り手も其処まで無茶振りはしない。故に私がお主に役立つ物を預かっている」

今さり気にまたしても聞き慣れない名前が出たような・・
思案するには気付かずに、天帝は娘娘ニャンニャンに何やら持って来るように指示。
八人いるうちの二人が席を外した。

手持ち無沙汰でソワソワしていると、席を外していた二人の女神が戻って来た。
手には珠みたいな物と、見るからに剣みたいな物をへ手渡す。

剣の柄に細長くしなる紐?が巻かれ、紐の先には鋭い小刀が飾りのように付いている。
銅とかで作られてそうなそれはさぞかし重いのかと覚悟して持ってみると
驚くほどに容易く持てて、手に馴染む・・・・○法○士レイ○ースみたいだな(世代がバレる)

「その撃剣は選ばれし者のみが扱える神剣だ、戦いの場で使う事になるだろう。敵に当たると命を吸い取り悪しき者は浄化され、魂魄塔へ昇華される。」
「つまり殺してしまうと言うよりは、浄化の為に使うんですね?」
「うむ。此処での『死』は昇華される事だ。殺める為ではなく、浄化の為のもの・・お主の手が穢れる事にはならぬ・・・安心するといい」
「・・・はいっ!・・それではこの珠は?」
「その珠は宝蓮灯と呼ばれる神器だ、謂わば力その物だな。蘇生の力と治癒の力、吸生の力を駆使する時に使う物になる。」
「三つの作用が全部宿ってるの?」

何で天帝の妹さんの魂と私が同じなのかはさて置き、戦う事に関しては心配しなくても良さそう。
優美な撃剣を手で携えるようにしてから、天帝が挙げた効果の割に、剣は一振りしかないその疑問を向けてみると

「いや、瑤姫の魂を宿しているお主の中に、残り二つの効果を宿す剣と全部で十二の剣が収められている」
「は!?えっ?私の中に??でも生きてるし痛くもないよ?」
「実際にはお主に宿った魂の主、瑤姫の中に収められている。」
「なるほど、他の剣はその瑤姫さんから借りればいいのね?・・・・・うーん、名前からして吸生は使いたくないなあ・・・」

そう呟くを慈愛に満ちた目で天帝は眺め、ふわりと髪を撫でてやりつつ先を進めた。

「ここは外界から独立した天界に存在している、これからお主を地上へ送り届けるが・・行き先は選んだ先で相違ないか?」
「・・・え???」
「我なら選んだ先とは別の者らの所へ送り届ける事も出来る故な」
「・・・・・」
「ただし一度きりじゃ、二度目はない。だが、我が妹姫の転生後の魂を持つお主の助けにはなりたいのだ・・」
「私はその・・転生前、つまり前世?が天帝の妹さんで、魂が同じだから転生前の能力を引き出して借りれるって事ですか?」
「恐らくな、人間に転生したとは言え魂は同じだ、この世界だからこそ客観的に転生前の姿を知れている。」
「・・・ですよね、普通は前世なんて覚えてないし・・まあ先ずはやってみないと分からないですよね(気は進まないし怖いけども・・)」
「我にも創り手の意図は分からぬが、お主や妹姫の魂まで巻き込んだ事に多少腹が立っておるのでな・・可能な限り手助けをするつもりじゃよ」

初めて聞く名前に意味が分からず置いて行かれてる
愉しげに微笑んだ天帝が答えた。

世界の創り手の話だよ、と。

だがには何の事なのかサッパリだった。
昔は色々あったようだけど、今は上手く創り変わったようだね。
と、一人懐かしげに話す天帝は実に愉しげである。

天を治める最高神なのに、随分気さくな神様だなあ・・・・
でも神様でもこんな風に優しい顔をするし、妹さんの心配もするんだね、いい意味で親しみ易いかも。

・・・私の力を狙う人達、かぁ・・・・
天帝が言うには、諸悪の根源を脱獄させた邪仙や妖仙達だろうとの事。
命を与えて命を奪い、命を管理する神様が私を選んだ・・ちょっと怖いな・・・今までただの薬学部の学生だったのに。

いきなり連れて来られたと思ったら、天帝の妹と魂が同じ?で
その力を借り受け、罪を犯した仙人(オロチ)に永遠の眠りを与えろ・・だなんてさ。
つまりは死を与えるって事でしょ?
まさかそれを私がする事になるなんて、思いも寄らない展開だ。

それから天帝はに男装するように言うのだった。
これからはあらゆる者達から狙われる事になる。

その時に女の子でいるよりも、男の子として居る方が少しは狙われ難くなるのではないかと
と言う意味合いが篭められているようだ。
たったそれだけで敵意を向けられ難くなるとは思えないが・・兎に角は着替えを済ませる。

茶髪の髪はそのままに、中国服の男性物に身を包み
今後は瑤姫ではなく、四御としての名『』と名乗るよう言われた。
折角男装したのに意味なくないか?
と混乱しそうな状況を整理しようかと思った矢先、彼は再び現われる。
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