泣いてる女の子を慰めない所か
物凄く表情の乏しい人

ってか名乗らないつもり?


§嗣鏡眼の管理者§


――コンコン

何やら気まずい空気の場に
無機質なノック音が響いた。

気まずさにどうするか考えていた私としては
そのノックに感謝すらした。
現れた第三者が喋るまでは←

「入れ」

困惑したいたように見えた男は
ノックの音に、表情を最初の色に戻して応える。

応じられて入ってきたソレを見て
パニくりそうになった。

「嗣鏡眼の司様、新たな本が届いております」
「ああ、またか。此処に置いておけ」
「・・・・・・・其方の方は」

ソレの目が私に向けられる。
シキョウガンノツカサってこの男の名前?

とか思う前に、ソレから目が離せない。
やっぱりコレは夢だ。
夢に違いないんだっ

そうじゃなかったらおかしい

無機質なノックと共に現れたソレは
に、本の中ではと思わせる物その物だった。

エメラルドグリーンのくせっ毛
ふわふわの髪は1つに纏められ
ソレの肩から前へ流れている。

白目はなくて、本来黒目であろう部分しかなく
その黒目の色は菫色をしていた
この時点で人間じゃないし←

無国籍な衣装に身を包み
神官風っぽさも匂わせている。

そして極めつけはソレの背中だ
もしかしなくても、翼・・ですよね?
それに耳も・・・え?獣?

最高潮にが混乱している傍らでは
暢気な男とソレの会話が展開されていた。

「ソイツは『巫覡の尊』(かんなぎのみこと)だ」
「この方が・・ついに顕れたのですね」
「ついに、な。いよいよって所だろう」
「そうですね・・・各部所へ連絡も必要です」
「あ〜・・それはお前に任せる」
「承知しました」

またも聞き慣れない言葉の羅列だった。

「私は連絡をして来ますけど」
「ああ」
「嗣鏡眼の司様は、巫覡の尊様にご説明・・きちんとされて下さいね?」
「流石『聴遠の獣人』鋭いねぇ、へいへい」

気付けば二人の会話は終わっていた。
翼と獣の耳をした人(?)も
私に一礼して部屋から出て行く

またしても置いてけぼりの会話だ。
このめんどくさがり屋の男に説明させなければならない・・

いや

寧ろさっきの獣の人に聞いた方が早かったのでは?
今更気付いてももう遅い。
彼?は立ち去ってしまったし

この部屋を出たら何処に繋がるのか知らないから
自分から聞きに行く事も出来ない。

それに私は『ここの部屋』自体の説明もされてない。
これで動けと言うなら虐めだ。

選択肢は1つしかない。
目の前にいるこの男に教えてもらう他ないのだ。

と言う訳で、は動いた。
歩みを進めて男の前まで行く。

あの獣人がノックした時
男はまた椅子に戻ってしまったから。

「今すぐ帰せなんて言わないからちゃんと説明して下さい」

今は状況を知る事が先だと思った。
何も分からないままではどうにもならない。
私には知る権利がある。

目つきの変わったを見た男も
それはまた面白そうに笑みを浮かべるのだった。

「いいだろう、覚悟は出来たみたいだしな。何が知りたい?」
「此処はどんな所なの?」
「面白い質問だな、『何処』なのかときかねぇのか?」
「愚問だからよ。取り敢えずは地球じゃない
あの店に入った途端空間が変わったし
普通じゃ考えられないもの」

ほう・・・・?・・と男が笑う
面白そうな笑みだけど
少しその色が薄いと感じた。

ハッキリと現れない表情の色
上手く言えないけどそう思った

やっぱり『巫覡の尊』と別名視されるだけの事はあるな。
影響力もビシビシ伝わるぜ・・
作り変えられねぇようにするのが精一杯だ。

着眼点は頗るいい。
駆け引きも心得てるように見受けられる。
子供であってもただの『子供』ではない

巫覡の力で御言葉を使う存在だ
侮るなかれ・・ってか?

「悪くない答えだ。」
「なら答えて」
「お前の言うように此処は現にはない空間だ。寧ろ狭間と言ってもいい」
「・・・・狭間?」

男が言うには。
此処はあの店から繋がる別の空間にある部屋で

現と異世界の間に存在し
異世界に創られた『世界』を管理しながら
同時にその『世界』を修繕しているらしい。

修繕の形は様々で、現にもある本となって
この部屋へ届けられるか
または聞く者の手で運ばれる。

そう。
運ばれたコエを聞くのが私。

コエを聞けるのは現の者だけ。
この空間にいる者は聞けない。

あの獣人が聴くのは
この空間のコエのみ。
此処で起きた異変やら問題を察知し、この男に伝える役割だ。

「どうして此処に呼ばれたの?」
「それは最初聞いただろ?」
「?」
「此処に来る前に何か聞かなかったか・・って」
「まさかあれが?」
「そのまさかだ。そのコエがお前を選んで呼んだ。」

つまりは本が私に助けを?
修繕して欲しいって直接頼んだって事?

益々ファンタジー・・・・・
ファンタジーついでに次の問いを

「『巫覡の尊』って?私の事は『御言葉使い』って呼んだよね?」
「どっちもお前の事だよ」
「・・・・え、ナニソレ」
「『御言葉使い』は創り手の代わりにその言葉1つで全てを紡ぎだせる。
そして唯一既定伝承―アカシャ―(創り手が書いた筋書き)を書き換えられるんだ」

淡々と説明する男は更にこう続けた。

「だから神(創り手)に成り代われる者
またはそれに近しい、創り手の威のまま
或いはそれすら捉われずに力を使えると言う意味で『巫覡の尊』と呼ばれるんだよ。」

ぎょ・・仰々しい・・・・
と言うかいっぺんに説明されても
理解が追いつかない・・

つまりは、私と言う存在は
特別視されていて―――

『お前の存在は異質で特別』

そうか。
だからあの時この人はそう言ったのね?

確かに二つ名を持つ私の役目を説明するには適した言葉だ。

「じゃああのコエの本を直せば帰れるの?」

やる事と理由は理解した。
なら、帰れるのは遠くない未来では?

そう言う意味合いを込めて問うと
男は少しだけ表情を曇らせた。
・・どうやら事態は簡単ではないらしい。

「そうだといいんだが、な」
「やっぱりね・・・・」
「用が済めばサヨナラって訳には行かなくなってる」

そして感じる第二の災厄。
後編