後編
「つ、つまり?」
「お前は『御言葉使い』として
恐らく修繕へ出向く事になる」
「は?」
「出向けるのはお前だけだ。」
「なんでよ」
「お前にしか使役出来ねぇからだよ」
「だから何を」
堂々巡り。
ああもうやっぱ分からんわーっ
この人説明に向いてない。
さっきの獣人さんカムバーック
「あ゛〜・・・めんどくせぇ」
「またそれかぁぁあ!!」
「うるせぇ喚くな」
「何にその口の利き方!って言うか名前くらい名乗りなさいよっ」
「だったらそっちが先に名乗りやがれ」
むっかつくぅうう!!!
今すぐこの男の横っ面を殴り倒したくなった。
――が、ベストタイミングで再び扉がノックされ
適任の彼が現れるだった。
「何やってるんですか」
扉を開けて開口一番。
獣人の彼はそう口にした。
++++
「そう言う事でしたか」
「はい・・どうにも分かり難くて」
「――フン」
言い争う様にポカンとした彼に
はあらかたの事情を説明。
それを聞いていた彼はニコリと笑うと
直ぐに理解し、納得した。
「嗣鏡眼の司様が説明に向かない方だと知っていたのに
説明を任せてしまった私のミスです」
「と、とんでもないですっ」
御赦しを、――
とか言って頭を下げる獣人さん
何やら敬われるのが慣れていない私は
居心地の悪さを感じ、何故か謝ってしまう。
これも人間の無意識の反応だ。
緊張やら慣れない事をされると無意識に謝る。
緊張しすぎて笑ってしまう
ってのと同じような物だ。
そして彼は、直ぐにの疑問を晴らした。
「何故尊様を此処へ呼んだ本を直しても帰れないのか、でしたね?」
「はい。この人は私が修繕に赴く事になるだろう・・って」
に席を勧め、めんどくさがり男の斜め後ろに控えた獣人さん
それからニッコリ微笑むと
彼は説明を始めた。
「『御言葉使い』と言う存在は稀有です。
そのせいか、一度選ばれると創り手に認められ
この空間に存在を組み込まれるのです。」
「組み・・込まれる?」
「はい。つまりはこの空間に関われる資格を得るのです。
一度資格を得ると、役目を終える時まで関わる事になるのです。」
「・・・・だから修繕に赴く事になるのね?」
「仰るとおりです、尊様は理解が早いですね」
獣耳をピンと立てて嬉しそうに笑う。
・・・・可愛いかも(
「『御言葉使い』としての任を解かれるまで
尊様は此処で過ごされる事になります」
「え、役目が解かれるのっていつ?」
「それは私には解りかねます・・
ですが、此処に居られる間は私や嗣鏡眼の司様が尊様を手助けさせて頂きますよ」
いつ帰れるか分からないって言ってるような物じゃん・・
す・・と目の前が暗くなる。
励ますような気遣いの言葉に獣人と
それからずっと膨れっ面したあの男を見る。
不本意そう・・・・・・
しかし此処から帰れないとなれば
此処での過ごし方を習わなくちゃならない。
尚更名前聞かないとだ・・・・
「分かった。それしか選択肢なさそうだし・・・」
「・・・・・決まりのようだな」
「うん。決めた、だからお世話になるよ」
「尊様のお手伝いが出来るのはとても光栄です」
二人をしっかり見てから言葉を紡ぐ。
この言葉にどれ程の価値があるのか分からない
不安もたっぷりある。
でもこの獣人(けものびと)は、手助けしてくれると言った。
この男の人も居場所を提供してくれた。
だったら腹を括ろう。
此処で『御言葉使い』として生きて行く為に。
「名前、教えて」
「・・・名前?」
「これからお世話になるんだし」
「さっきから獣人が呼んでるだろ?」
「あれ長すぎる」
文句垂れる私に獣人は微笑み
男は呆れて溜息1つ零すと
「『喪月』」
「え?」
「俺の名だ、これなら短いだろ?」
「ええとっても」
「私の事は何なりと」
膨れっ面の男(喪月)の傍らで微笑む獣人。
未知なる新たな日常が始まる予感がした。