世界で一番 10
沈みかけた夕陽、何処をどう走ったのか分からない。
それでもは走った。
きっと、誰かが迎えに来てくれるって信じて。
そりゃあ勿論、探しに来て欲しいのは唯1人。
逢いたい・・・逢いたい・・・・それだけを望みます。
心細いよ・・暗くて、静まり返っていて。
変な人とかいたらやだなぁ。
まずいないと思うけど。
ファンの子達も、皆帰っちゃったのかな・・
そう思えるほど会場は静かで、自分の走る靴の音しかしない。
「うぅ〜お兄ちゃん・・たっちゃん、聖くん、ゆっち、じゅんの〜」
心細くなって、もう泣きそうになりながらあたしは皆とお兄ちゃんの名前を呟き
それから、今一番逢いたくて仕方のない人を呼んだ。
「――和也・・・――」
幼馴染で、小さい頃から一緒で
隣りにいるのが当たり前になっていた人。
でももう、唯の幼馴染じゃいられない。
うんん、もう・・あたしが『幼馴染』として見れなくなってしまったんだ。
『ただの妹のくせに』
繰り返し思い出すファンの子達の言葉。
そのままじゃ嫌だ。
駄目だ、このままは。
違う風に見て欲しい――
あたしを、和也の『特別』にして欲しい。
ただ逢いたくて、その気持ちだけで走って。
広い通路が、右に大きく曲がる。
その時、何か影が視界の端に映った。
誰なのか確かめる事なく、走ってる勢いのままは突っ込む。
そんなを、聞き覚えのある声が出迎えた。
「うわっ!?・・?」
吃驚した和也の声、どうやらぶつかる所だったみたい。
和也との身長差はほんの10cm。
だから丁度、の目線は和也の首筋に来る。
わー、キス出来そう・・・・・
思わずそう考えてしまい、ハッとしてから離れる。
離れて舞う、互いの香り。
昔に比べれば、そんなでもないが
抱きとめたの肩は小さく、余計に愛しさが増した。
変わってしまった俺達の関係。
いや寧ろ、変えてしまいたかった。
俺がもう・・・幼馴染として見れねぇから。
不自然な間が、この空間を包む。
沈黙が辛いから、俺からコンサートの感想をに聞く事にした。
「ど、どうだった?俺等のコンサート」
「え?うん、凄く良かった。嬉しいサプライズもあったし。」
「そ、そっか・・でもオマエ才能あるよ。」
「才能?あたしに?」
「ああ、二つともいい詩だったぜ。」
ドキドキと勝手に強く鼓動を刻む心臓。
その鼓動を聞こえないようにするかのように、俺は話した。
も、俺が詩を褒めたら すぐに笑ってくれた。
俺が、いや・・俺達が好きな笑顔で。
小さい頃から、俺と仁で守ってきたの笑顔。
ずっと守るのが当たり前になってて
それが、いつからか特別になった。
和也が、あたしの詩を褒めてくれた。
それだけで、認めて貰えたように感じる。
あの歌は、貴方を思って作った歌。
一人ぼっちで置いて行かれそうな不安を、歌った。
それを、和也が歌ってくれた。
その事で、何か安心したような気持ちになれた。
凄いね、和也が歌ってお兄ちゃんが歌って。
たっちゃんが曲を付けてくれただけで、こんなにも安心出来るなんて。
皆が、傍にいていいよって言ってくれてる気がしたの。
だからね、あたしの中で変わってしまった物があるから・・・
「あたしね、欲張りになったの。」
しっかりと、和也を見つめて言う。
目の前の和也は、少し驚いた目で自分を見てる。
貪欲なあたしが嫌いって言われても、もう駄目だよ。
欲しい物は欲しいの。
ちゃんと、意識して欲しいの。
「あたしは、和・・・亀ちゃんが好きなの。今日のコンサートで分かった。」
「・・・・・・」
「気になって、目で追っちゃって心臓がドキドキして。
もう、前のままじゃいられなくなったの。」
胸の前で手を組んで、鼓動を聞きながらは言った。
幼馴染としてじゃなく、1人の異性として意識してしまった事を。
そんなの告白を、惚けた顔で見ていた和也。
正直、信じられなかった。
上手く行きすぎじゃないかって、思って・・・。
「マジ?」
「マジだよ、亀ちゃんは前のままがいい?」
まさか!前のままなんかやだよ。
前の関係に戻っちまったら、アイツ等に取られるじゃん。
だから俺は、力いっぱい首を横に振った。
「んなの、決まってんだろ・・俺だって・・・・」
低く呟いてから、の腕を掴んで引き寄せ
細い体をそっと・・優しく抱きしめた。
まるで、壊れ物を扱うかのように。
優しく抱きしめられ、緊張で体が硬くなる。
だが それと同時に、顔はどんどん高揚して行く。
耳元で聞こえる和也の声。
駄目でもいい、それでも答えが聞きたかった。
が、その前に誰か人の気配を感じ取る。
「あれー出口ってこっちだっけ?」
「確かそうだった!でもさ、今日のコンサートマジ良かったよね!」
「うんうん!皆カッコよかった♪」
パッと反射的に離れ、耳を欹てると聞こえたのは女の子の声。
まだ出ていないファンがいたようだ。
そっと覗いてみると、グッツの黒い袋にポスターなどを入れ
コンサートの話で盛り上がりながら歩いてくる姿が見える。
見つかると非常にマズイので、和也はの腕を引き物陰に隠れた。
「やっぱさ、あの仁君達のサプライズ感動した!」
「詩がサイコーによかったよね、たっちゃんの曲も合ってた。」
「詩に込められた気持ち、あたしよく分かるなぁ〜」
「DVDになって欲しいよね!仁君の妹さんなだけある!」
「KAT-TUNの歌でもっと出して欲しい!」
「もっと聴きたかったな〜仁君の妹さんだし、きっと美人なんだろうね♪」
物陰に、その噂話?の本人達が隠れてるとは露知らず。
興奮最高潮のファンは、静かな会場を出口へ歩きながら
思うままにコンサートの感想を話し合っている。
話題の中心は、の書いた詩にメンバーが曲を付け
兄の仁と幼馴染の和也が歌ったサプライズだ。
物陰で聞いていた二人も、思わず顔を見合わせてしまう。
「詩、あの子達も言っていたけど才能あるよは。」
「本当に?これからも皆といていいの?」
自分の作った詩を、ファンの子達も気に入ってくれた。
しかも、もっと聴きたかったと言ってくれた。
あたしは、これからも皆の傍にいれる?
そう聞けば、和也は当たり前じゃんと笑って頷いてくれた。
頷いた姿を見て、初めて心から安心出来た。
認めて貰えるのが、本当に嬉しい。
「有り難う、あたしにこうゆう機会をくれて。」
「・・・・これからも、ずっと俺達を支えてよ。」
切れ長な目が、を優しく見つめる。
傍にいていいって、和也が言ってくれた。
だから、いてもいいんだね。
ただの妹のくせに、なんて言われても挫けない。
ってゆうか、ファンの子達に認めて貰える様にならないとだね。
あたしの詩を認めてくれたあの子達のように、もっと認めて受け入れられるように。
「、いつもありがとな。すっごく励みになってる。」
「あたしもだよ」
ファンの子達の姿が消え、会場に静寂が戻った頃。
漸く自分の気持ちが言える雰囲気になり、和也はもう一度を抱きしめ
気づかないだけで、十分温まっていたへの気持ちを口にした。
「俺も・・が大好きだ、大切な奴だって気づいた。」
熱い想い、告げられての目頭が熱くなる。
あたし達の気持ちが繋がった。
優しく、それでいて強く抱きしめられ 通じ合った想いを実感。
それは、1つでもピースを間違えていれば合わさる事はなかったね。
あたしがお兄ちゃんの妹でなければ、幼馴染が和也じゃなければ
グループメンバーが、たっちゃん達でなくてもこんな嬉しい結末は迎えられなかっただろう。
ふと和也の手が、頬に触れ
どちらかと言う事もなく、最初は遠慮がちに唇が触れ合い
やがて激しく、想いをぶつけるかのように口づけ合った。
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