小さな恋の始まり
最初は、ほんの興味本位だった。
今結構人気のある俺達を知らない奴がいるんだな・・って。
それが今では、コンサートの度に客席を見るようになってた。
アイツがいるんじゃないかって。
そんな奴と出逢ったのは、寒い冬の朝。
誰もいない入り口の前に アイツは座ってた。
寒さに震え、曲げた膝にずっと額を寄せて・・・
☆☆
2005年1月
とっても寒い時期に、あるグループのコンサートが行われた。
あたしは正直、全く興味はない。
それでも行かなくてはならない。
理由は、その会場にあたしの家が近いから。
コンサートに行きたがってるのは、友達。
そのコがそのグループのファン。
チケットは取れたけど、会場に入るのも一番がいい!
とか抜かしやがって・・・番取る身にもなれってーのよ。
断ればいいのに断らないのは、そのコといるのが楽しいから。
それに、どんなグループなのか見てやろうって思って。
ミーハーなあのコが夢中になるんだ、顔はいいんだろう。
因みに今の時刻は、朝の6時。
会場に入れるのは、午前9時。
開演するのは、午前11時。
おいおい・・あたし凍え死ぬんじゃない?
防寒着は着てきたけど、年末の寒さは半端ない。
吐く息も白く、空気は凍てつく程冷たい。
流石に早く来すぎた事を、あたしは後悔した。
☆☆
一方、此方も早く会場入りしたグループのメンバー。
ファンのコ達がこっちに向かってる頃
その主役達は、リハーサルが待ち受けている。
朝早いとか文句を言ってる場合じゃない。
「うひょー!水がつめてぇ!!顔凍りそう!」
「つーか、こんな日にファンのコは来てくれるんだよ〜」
「うんうん!感謝しなきゃだよね、それと聖は煩い!」
会場に造られた楽屋。
ドアに貼られてるグループ名は『KAT−TUN』。
そう、今日は彼等のコンサート。
これを見る為に沢山の女の子達がやって来る。
人知れず外の玄関で待ってる少女もその一人。
用意された楽屋の洗面台で、顔を洗い終え
水の冷たさを喚いてるのが 田中 聖。
感慨深く感心してるのは、中丸 雄一。
中丸に同感してから、聖に突っ込みを入れたのは 田口淳之介。
「それよりリハーサル始めようぜ〜」
「そうそう、俺達に会いに来てくれるコ達の為にさ☆」
本番前から騒がしいメンバー、ドアが開き
その騒ぎを聞きつけて現れた 亀梨と赤西。
普段おちゃらけてる亀梨だが、コンサートの事になると熱い。
赤西も真面目な風には見えないが、結構真剣に考えてる。
その証拠に、二人はとっくに支度が済んでいる。
「燃えてるね〜二人共!あれ?上田は?」
「アイツの方が俺等より燃えてるって」
「ホント、とっくにステージで待ってるよ。」
「「「マジで!?」」」
茶化す中丸の言葉、それを涼しく受け流し先に亀梨が答え
後に続き、ステージの方を親指で示しながら言った。
それを聞いた三人の声が、見事にハモる。
これぞチームプレー(笑)。
これを聞いた他メンバーも、急いで支度し楽屋を出た。
そして、運命の女神は6人の中の一人に
突然の出逢いを用意していた。
リハーサルが終わったのは、午前7時30分。
もう外も気温は上がり始める頃。
だとしても、今は1月・・冬真っ盛りの正月。
気温が上がって来てはいても、寒い事に変わりは無い。
偶々赤西と亀梨は、リハーサル室から出て
外を回りながら戻ろうとしていた。
提案したのはやんちゃな亀梨。
コンサート前で気分が高まってる赤西も、その提案を呑み
外を確認してからドアを出た。
「うわー外白い!雪残ってんじゃん」
雪を見て興奮する亀梨へ、1月なんだから当たり前じゃん!と
赤西は突っ込みを入れながら、広いロビーを気ままに歩く。
誰もいないロビーは、シンと静まっていて寂しさを覚える。
でも これが後1時間30経てば、ファンのコ達で溢れんだ。
皆 遠い所から、近い所からファンのコは来てくれる。
俺達に会う為に、俺達に勇気と力をくれる。
でも俺達は、一人一人に応えてあげられない。
平等に全員に応えてあげなくちゃならない。
だから、誰か一人を大切に想うようになるなんて・・。
「なあ仁、誰か外にいるぜ?」
ふと そんな亀梨の声で、赤西の意識が入り口へ向く。
身長の高い赤西は、すぐに亀梨の指摘した人物を見つけた。
どう見ても、外にはその人物の姿しかない。
それに、今の気温は二桁も行ってない。
「マジで?」
「マジだって、あのコ何時からいるんだろう。」
聞き返すと、すぐに亀梨はムッとして言い返してきた。
手にはいつの間にか紙コップ。
素早い行動・・何時買ったんだよ・・・。
呆れ顔で、赤西はその辺を見回すと自販機を発見。
その中にあるのは、ホットコーヒーに紅茶。
自販機と外の人影を交互に見る。
何度か見ていた為 人影は女の子だと分かった。
一人きりで、この寒空の下 健気に開場を待っている。
物憂げな視線が、膝から上がり 景色を見渡したりしてる。
気づくと赤西は その姿を目で追ってた。
「おい仁?」
しばらく隣にいたはずの赤西、外から目を移し
もう一度視線を合わせようとした亀梨。
しかし、見た先に赤西はいなく キョロキョロと視線を漂わせ
見つけた先には、自販機でホットコーヒーを買っている赤西。
だが、そのまま飲まず 何と玄関へ向けて歩き出した。
これには吃驚して、亀梨も赤西へと駆け寄る。
「おい、何する気だよ?マズくねぇ??」
「平気だろ?あのコしかいないし、風邪引いちゃうじゃん?」
「そうだけどさ・・って、コーヒー好きかもわかんねぇのに」
「いいの!体があったまればいいじゃん!」
などと言ったやり取りをしながら、二人は玄関へ向かう。
亀梨も、足が止まらず一緒に玄関へ行く事となった。
☆☆
一方外・・・時計を見れば、まだ7時30過ぎ。
開場までは、嫌になるくらい時間がある。
暇つぶしになる物持ってくれば良かった・・・って
確かあるわ・・・歌も知らないでコンサートは行けないでしょ!
って友達に持たされたMD。
適当にディスクをセット、イヤホンを耳に入れ
再生ボタンを押した。
頭出しまで数秒かかり、曲の前奏が耳朶に響き始めた。
曲調は別に嫌じゃなくて、寧ろ自然に好みの奴。
そして、その唄を歌う声がイヤホン越しに聞こえ始めた。
「うわっ!?・・何、このエロイ声!てか、声いい?」
聞こえたのは、何とも色っぽい声。
声の掠れ具合も、どうしてか艶っぽい。
この声しか聞こえないって事は、ソロ?
コンコン☆
唄に気を取られていた為、突然目の前から音が聞こえ
かなり吃驚して 勢いよく顔を上げてしまった。
しかも、目が合った顔は 凄い美青年。
一人ではなくて、二人いる。
それに・・・コスプレみたいな派手な服を着てる。
スタッフさんじゃない・・よなぁ。
そりゃそうだろ!という突っ込みは来ないまま
間にあったドアが開き、ハットを被った青年が口を開いた。
それを聞いて、あたしは驚くしかなかった、
「おはようございます、寒くない?って寒いよね」
その声は、正しくさっき聞いたばかりの色気のある声。
張本人があたしの目の前にいた。
これが、あたしと彼との出逢いでした。
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