パラグライダー昔話 / 消えてくカッシードンの巻き
鈴木ドン
面白えって、言ってくれる者がいっと、年寄りの昔話は、ま~た長くなるっぺえ。はあ、若え者に嫌われねえ程度に、手短にするつもりだけんどよ、話してえことがいっぺえあっからよお、ちょびっと我慢して聞いてくれや。
それじゃ、こないだの続きだあ。このときの風っこはよ、そんなに強くなかったてえ村人もいるようだなあ。そうかもしんね。今だったら、全然問題ねえ程度の風だったんじゃねえかな?でもよ、そのときのカッシ-どんや鈴どんにとっては、強風だったのよ。
カッシ-どんの乗ってた「こらあど」はよ、すんげえ気の良いやつでよお、言ってみりゃ、じゃじゃ馬の反対だな。乗りやすいんだわ。でもな、いいことばっかりはねえもんでよ、強い風には弱いやつだったんだわ。鈴木ドンも「えああぼう」は乗り始めたばっかでよ、
Airbow
須坂村もまだ、数えるほどしか飛んでなかったんだわな。いつもの須坂『ぶろう』も、まだ慣れてなかった、そんな頃の話だあ。下から「糸なし電話」で注意されてたのは、カッシ-どんじゃった。鈴木ドンの「えああぼう」は斜面をうまく乗り継いだんじゃが、「こらあど」はちびっと風下に流されちまった。
Corrado
左の尾根から、ふらっと風下に行くとなあ、『ていくおふ』の尾根と山頂に続く尾根の間にある、山のすきまに入っちまうんじゃ。昔の飛び村人はこれを「吹き抜け様」と呼んでなあ、たいそう、おっかながったものじゃ。
妙徳さんのてっぺんへあとちょっとのとこで、鈴木ドンは迷ったんじゃ。「おらが、こんなとこさいねえで前さ出れば、カッシ-どんもついてくっかなあ?」とな。だけんど、すぐ、諦めた。だってよう、カッシ-どんはもう吹き抜け様にがっちり捕まってたんだなあ。
両手を一杯にのばして、吹き抜け様に手を離してくれるよう、お祈りしてたんだけど、カッシ-どんの「こらあど」はどんどん後ろさ進んで行ったんだと。「こりゃ、今からじゃ、どうにもなんね」と、鈴木ドンは思ったんだな。「良いやつだったけどよ、カッシ-どんのことは忘れて、とりあえず、妙徳さんに御参りすんべえ」とな。カッシ-どんはもう、ほんとにどうにもなんねえ状態だ。自分でもわかったみてえでよ。糸なし電話で声かけてきただ。
「みなさん、さようなら~~~~」。
それが、カッシ-どんが妙徳やまの裏に消えていくときの言葉だあ。はあ、ナンマンダブナンマンダブ。惜しい人をなくしたもんだあ。
この話は、ま~だ続きがあるんだよお。また、近い内に、話せる機会もあんべえ。そんじゃあ、またなあ。あんまし夜更かししねえで、おてんとさまが、高いときはちゃんと飛ばねえと、立派な村人になれねえでなあ。あっはっはっは。