勇気
ほんの少しの勇気があれば、変えられる事なんて幾らでもある。
その事に気づけば、人は幾らでも変われるんだ。
落ちてしまった闇・・過去に囚われ続ける自分。
抜け出す事も出来ず、断ち切る事も出来ない弱い自分。
何時までこんな事を繰り返すのか。
俺は頬の痛みで目覚めるまで、ずっと魘された。
薄れる事なく繰り返されるあの日の記憶。
目覚める時は、何時も泣いて目覚めた。
終わる場面では の両親の罵声。
血に塗れた親友・・届かない自分の声・・・。
一人泣いて目覚めるはずの俺は、頬に柔らかい感触を覚えた。
そっと気遣いしそうに触れた手とゆうか、指。
痛む頬を労わるような動きで、その手は触れている。
「・・・ん・・・」
「?大丈夫か?」
「まだ痛むか?」
身じろぐ俺に掛けられる、聞き覚えのある声達。
意識はゆっくりと覚醒し 開いた視界に土屋の顔が映る。
真っ先に映った土屋の顔は、珍しく真剣。
その隣には日向がいて、武田と隼人もいる。
武田と隼人は黙っているが、まず土屋達の問いに答えた。
「まだ頭がぐらんぐらんしてるけど、平気だ。」
緩く笑うと、土屋が吃驚させんなよ・と扇子を出して広げる。
それからゆっくりベッドサイドに来た隼人と目が合う。
「ごめん・・止まんなかった。」
「いいよ、飛び出したのは俺だから。」
真面目に謝る隼人へ笑いかける。
自分でも、こんな自然に笑えるとは思えなかった。
「まさか気絶されるなんてさ、やっぱおまえ女みてぇ・・弱いくせに」
―無理すんな―小さく囁かれた言葉。
気絶される事が、隼人にショックを与えたのは確かで
俺も反省・・無謀過ぎたかもしれない、と。
「俺・・気絶してたの?」
言われて気づいたけど、誰が此処まで運んだんだ?
目が覚めた場所は、縁のない保健室。
先生はいなくて、いるのは自分と隼人達だけ。
「まあ当然だよ、隼人のをまともに喰らったんだし。」
「しっかしよく間に入る気になるなぁ〜おまえ。」
「無謀すぎ」
なんかしっかりとトドメを刺された気分。
あの時は必死だったんだ、男ってすぐ殴り合うからさ〜
って今俺も男として来てる訳だけど。
「どうやって此処来たんだ?」
「を支えたのは竜で、連れて来たのは隼人。」
「隼人が?」
問いかけに答えたのは武田。
アッサリ言ってくれたけど、バレてねぇよな・・・?
あの後、久美子が皆に水をぶっ掛けて力説したとか。
ちょっと聞いてみたかったかも。
「殴っちまったのは俺だし・・重くなかったぜ?」
「それは悪かったな・・って重さは聞いてねぇ!!」
男同士なんだから、重さなんか気にするな!
あまりに感情的になったせいか、殴られた頬が痛む。
「いてっ」
これはしばらく物噛めねぇな・・・。
「平気かよ〜授業行けるか?無理ならサボろーぜ♪」
まずは食べる事の心配をするに、陽気な土屋の言葉。
痛みに耐えながらは辛いかもしれんが・・・
「出るよ」
そう答えてベッドから起き、歩き出すへ駆け寄ってくる四人。
「喧嘩慣れしてねぇだろ、って。」
廊下に出ると、隣に肩を並べた隼人がそう言う。
当たり前だろ!今まで女として生活してたんだから!
何て言える訳がない、言ったら全てが終わりだ。
「まあな・・今まで縁がなかったんだよ。」
「あーねぇ〜女顔だしな」
ドカッ!
禁句のキーワードを口にした日向、その脛を蹴る。
蹴られた日向は、いってぇ!と叫ぶとしばらく悶絶。
その間はとても静かになった(笑)
教室に着くと、全員揃っていて皆の視線がへ向いた。
それから一斉にを危惧する言葉が掛けられ
「嘩柳院」
教壇に立っていた久美子が、神妙な顔で俺を呼び止める。
聞かれる事は分かっていたから、大人しく立ち止まり久美子を見た。
「頬・・平気なのか?」
「ああ、男っぽくなっただろ?」
「私が言ってるのはそうじゃなくて・・!」
「隼人にも釘刺された、少しは反省してるよ。」
久美子の心配ぶりに、も苦笑して答え席へ向かう。
その姿を見送り、久美子は何時も通りに出席を取り始めた。
最初は竜の席に座っていたも、自分用に用意された席にいる。
名前を呼ぶ声に、段々と応える声。
信じられない光景だ、最初とは雲泥の差。
そして、彼女が問題の名を口にする。
――が 返事はおろか、姿さえない。
「小田切は遅刻か」
決して来ないのか、とは言わない久美子へ投げられる嘲る言葉。
「もう来ねぇーんじゃねぇの?」
「昨日来たのはまぐれなんだよ」
「理事長と竜の親とで話も着いてるんだしさ」
口火を切ったのは、昨日竜を殴ろうとした隼人。
それに続いてまぐれだと言う土屋。
日向が言葉を切り、更に煽るクラスメイト達。
彼等の間に横たわる溝は、こんなにも深いのか。
俺も武田も、諦めかけた時 ガラッと乾いた音がして
その先に竜が現れた。
一斉に皆の視線が突き刺さる、そんな中武田が立ち上がり
「竜」
一声掛けて、此方を向いた竜に「おはよう」と挨拶。
その際俺とも目が合ったが、無言で逸らされる。
「小田切、三回遅刻したら欠席扱いだからからね。
あたしはおまえを特別扱いするつもりはないから そのつもりでね。」
逸らした先にいた久美子の言葉が、竜へ掛けられ
それを聞いてるのか聞いてないのか、スタスタと自分の席へと向かう。
座ろうとした竜の目が、後ろへ向けられた。
視線を辿ると、同じく竜を見て・・いや 睨んでいた隼人とかち合う。
一触即発か?とも思わせる感じだったが、ホームルームはクリアした。
とにかく来てくれてよかったじゃないか。
とても晴々とした気分で、は武田を見やる。
武田の顔も、少し満足げだった。
幼馴染が揃って、まだ不安もあるだろうが嬉しさの方が勝ってる。
そして一段落授業が済み、彼等の時間が始まった。
皆思い思いに教室で遊び始める。
隼人達も、壁に作ったダーツで遊んでる始末。
の姿も 当たり前のように在る。
「けどさ〜何で竜の奴、学校来るようになったんだ?」
何て言いながら投げた矢は、50点の場所に刺さり
大いに土屋は喜んでいる。
「「ヤンクミが説得したって話だけど?」」
土屋の問いに答えるべく発した言葉は、見事武田とハモった。
「「「ヤンクミ!?」」」
俺達のハモりに負けないくらい、隼人達も綺麗にハモる。
「随分馴れ馴れしい呼び方してんじゃん、よっ!」
俺らのハモり具合に、野次を飛ばしつつ投げた隼人の矢も50の場所。
「けどアイツが大人しくセンコーの言う事聞くか?」
まあ・・初めて会った時も、過剰に警戒してたしな。
何て言ったら、絶対隼人に怒られるな。
竜の姿は此処にない、気づいたら姿が消えてた。
折角来たんだから 話とかしてみたかったのにな〜
隼人の前で話したら、絶対話させてくれないだろうし。
アイツがよく行く場所って何処だろう。
やっぱり不良とくれば、屋上がいいんかなぁ。
とが考えてる今、正に其処に竜がいるとは思ってなかったのだった。