流転Ψ夢よりの使者Ψ
夢は、何かを告げる時もある。
時には故人からの言葉。
何かしら力があれば、何れ起きる出来事が見えたり・・・
ΨΨΨΨΨΨΨ
世は戦国と成りし頃、関東の最南端
安房の国では、欲の深い領主 山下定金とその妻 玉梓が
悪政を振りかざし、領民達は長い間飢えと貧困に悩まされていた。
そして、領民達は結城合戦の名将 里見義実を奉じて
山下に反旗を翻した。
ΨΨΨΨΨΨΨ
「一度言った言葉を違えるとは・・・この愚将めが!!」
夢を見てるはずなのに、ヤケにリアルに聞こえた怒声。
夢の中の自分は、ちゃんと部屋らしき所にいて
その声を聞き、立ち上がって廊下へと出て行く。
立ち上がる際に触れた畳や、柱。
足の裏にも、ちゃんと板の感触を感じる。
「姫、余り此方へ出ては駄目ですよ。」
女の怒声が聞こえた方へと向かう最中
前方から自分を止める声がした。
その人は、江戸かそこら辺りの姫の格好をしていて
自分の事を『姫』と呼んだ。
見ているこっちは、疑問符を浮かべたのに
言われた側の自分は、そう呼ばれる事が当たり前なのか
「姉上・・それはどうしてです?」
目の前の女性を、姉上と呼んだのだ。
これは・・本当に夢?
そうだとしてもリアル過ぎる。
姉の女性に、進むのを止められながら
夢の中の自分は、視力だけでその先を伺った。
その先にいたのは周りを護衛に囲まれて鎮座する一人の男。
それから、地面に直接立ち誰かに向けて怒鳴り返す男の姿。
どうしてか、自分はその人達が誰なのか知っていた。
自分にとっては、見る物全てが初めてで
会う人全てが、知らない人ばかりだった。
「父上、大輔殿?」
見る側の自分の疑問などお構いなしに
見られてる側の自分は、目に留めた2人の男の名を口にする。
更に奥を見れば、縄で体を縛られ
罪人のような扱いで砂利の上に座らされている一人の女。
彼女の目は、怒りと憎悪で爛々と輝いている。
さっきの怒鳴り声も、きっとあの人の物だろう。
さっきの言葉に、父も大輔も顔色を変え
女の前へと、大輔が剣を抜いて進むと
周りにいた兵達も刀を抜いて、立ち上がった。
「このまま殺せぇぇっ!私を殺したら呪ってやるぞ!」
近づこうとする大輔達を抑制するかの如く
呪ってやるぞと豪語する女。
自分には、何故女そう叫んでるのか分からない。
姉に聞こうにも、彼女も女の言葉に驚いて目を見開いている。
不思議とその時自分は、嫌な予感を覚えた。
夢の中だというのにだ。
「里見の家、子の代 孫の代まで畜生道に陥れ この世の煩悩の犬と変えてやるわ!!」
そう女が叫んだ途端、大輔の刀が女へと振り下ろされた。
ザン!という音と共に、女の胸から血飛沫が飛び散り
砂利の上を血に染め上げた。
そこからはスローモーションのように
ゆっくり倒れる女を、姉と共に見つめた。
砂利の上に倒れた女、真っ赤な唇が憎々しげに動き
父を恨みの篭った目で睨みつける。
「おのれぇ・・っ義実ぇえっ・・・」
残り僅かな力で顔を上げ、父を睨みつけていた女。
その目が、廊下の角で見つめていた姉を捉える。
自分はと言うと、姉に止められて影にいた為 女からは見えない位置にいた。
女と目が合った姉、罪人として処刑された様を
目を見開いて見ていたままの表情。
それを見て、女は何とも意味深な笑みを浮かべると果てた。
その瞬間それは起きた。
空に雷鳴が轟き、ピカッと光ると一筋の稲光が縦に落ち
息絶えた女を直撃した。
皆、その目映さに目を背ける。
だが、姉の影にいた自分からはよく見えた。
女の体が、焼けるでもなく消えてしまったのだ。
雷光は、光の残像を描きながら浮遊し
姉の影にいた自分の体を包み込み、其処で夢は終わった。
ΨΨΨΨΨΨ
――次第に意識が覚醒して来る。
ゆっくり目を開き、見慣れた自室の天井を視界に入れた途端
またあの夢か・・と感想が漏れる。
にしても、今回のはより鮮明で長かった。
自分は里見(23)。
千葉県の最南端、安房市に家族3人で暮らしている。
暮らしは他所の家庭と同じ、特に不満もなく皆仲良く暮らしていた。
今、自分には1つ常に考えてる事がある。
それは夢だ。ついさっきも見ていた――夢。
ここ最近、毎夜のように見る不思議な夢。
風景は昔の安房市で、其処には安房を治めている一族がいた。
何と自分の氏と同じ『里見』。
これには何か意味でもあるんだろうか?
不思議な事に、自分の視点から見てるらしく
どんな姿で歩いてるのかは、一切分からなかった。
さっきの夢は、1人の女を処刑しているトコ。
自分が姉と呼んだ人や、父と呼んだ人に大輔殿と呼んでいた人。
彼等はどうして処刑をしていた?
あの女性は、どうして自分を『姫』なんて呼んだの?
それに、女を消して自分までも包み込んだあの光。
確かに、自分の出生には謎が多い。
自分は母の腹から出て来たのではないのだ。
家の前で泣いてる所を、今の両親に拾われた。
親に捨てられたのだとは思う、別段それを恨んだりはしてない。
つまり、そうゆう感情がないんだ。
親に愛されていようがいまいが、どうと言うことでもないって事。
夢で見たあの義実って人が、自分の父であの女性が姉なら
会ってはみたい、あの夢を見る意味を知りたい。
まあこれが全ての始まりだったと言っても良いだろう。
それからだったんだ、自分の人生が変わってしまうのは――