我が眼を疑うような出来事
そんな事を体験するとは・・・
ついでに言うなら、自分の耳で聞いた事すら疑いたい
この人は何て言った?
この人は何て名乗った?
全て夢であればいいと、そう思うのは甘いのか
第五章 夢と現
自分だけかと思ったこの場所に、何と竜もいて
危機一髪で骸骨の攻撃から、俺を助けてくれた。
この世界の服なのだろうか 和服がとても似合ってる。
同じ境遇で、この世界へ来てしまった者達にも会った。
一人は白龍の神子だとされる、春日望美。
俺にずっと聞こえてた声の主の、白龍の神子。
『私の神子』と言ってた声と、この子の声は同じだった。
望美の幼馴染で後輩の、有川譲。
俺と竜より、二つ年下。
の割には、しっかり者である。
向こう見ずな望美を心配し、常に傍にいる姿は
彼女を慕ってる証拠、でも望美は鈍そうだから・・頑張れ譲。
それにしても、俺達が来てしまったこの世界。
歴史の教科書に出てくる鎌倉時代にそっくりだ。
骸骨武者の着ていた鎧にしても、正にそのまんま。
あの女の子、梶原朔って言ったっけ?
名前は知らないけど、姓の方は聞いた事あったなぁ。
あってるかは分からない、竜に聞いてみよっと。
早速俺は、隣を歩く竜へ小声で尋ねた。
「なぁ竜、『梶原』って姓 聞いた事ねぇ?」
袖に通ってる方の腕を引っ張り、此方を向いた顔に問う。
その顔は、まずを見てから視線を漂わせる。
着物の袖をに掴まれたまま、竜は問われた事について考えた。
梶原って姓 聞いた事ねぇ?っていきなり聞かれても・・・
この時代が、源平の争ってた時代ならいそうだけどな。
歩く速度はそのままに、呆れた目でを見てからの思案。
この考えがあってるとは限らない。
まさに予想不可能だ、着てるモンとかはその時代っぽいけど。
「此処が源平の時代なら、いるぜ?」
「ホントか?」
「ああ」
「俺も聞いた事はあるんだけど、出てこねぇんだよ。」
何だったっけ?と竜の答えに頭を抱える。
どうでもいいが、コイツは自分の袖を離してくれない。
「アレじゃねぇ?戦奉行 梶原景時。」
「そうそう!それだよ!」
「分かったんだから腕 離してくれねぇ?」
は?腕ですかい?掴んでないはずだけど・・・を!?
「わりぃ!歩きにくかったよな」
「別に・・つか、オマエって女っぽい事するよな。」
竜の問いに、半信半疑で視線の先を見てみれば
呼んだ時に離してたと思ってた手は、未だ竜の腕を握ってた。
急に恥ずかしくなって、パッと離した俺に
真顔で竜がそんな事を口にした。
女っぽい事と指摘され、ドキッと心臓が波打つ。
だって俺、何を隠そうと女ですから。
・・・なんて今は言えねぇ。
「んな事してねぇよ!バカ言うな。」
バシッと竜の背中を平手で叩き、スタスタと早歩き。
力の篭った一撃に、吃驚して竜はを見た。
低い声、立ち去る姿。
パッと見は男だけど、さっきみてぇな仕草は女っぽかった。
顔立ちも何処となく女っぽいしな。
気になる視線が注がれる、アイツ鋭いから油断ならねぇ。
って分かってんのにさっきのアレはマズかった!
何だこう、手が勝手にさ!
竜って、嫌々そうに見えて優しいんだよな・・
さっきだって、俺の事庇ってくれたし。
でもさぁ、ああゆう事ってなかなか男同士じゃしなくねぇ?
掻っ攫うような助け方だぜ?必死だったとはいえ・・なぁ?
だからってわざわざ聞くのも変だし。
あんま迂闊にしてると、女って事バレそうだし止めとこう。
「あそこが橋姫神社よ」
雪の積もった道を、歩く事数十分。
ただの雪景色しかなかった空間に、神社の鳥居らしき物が現れた。
前方で、それを知らせる朔の声が届く。
その声で視線を上げると、確かに古い造りの鳥居が見える。
俺達が現世の京都から来てれば、この神社が在ったか知れただろう。
でも俺達は、此処ではない時空の東京から来た。
修学旅行でしか行った事のない京都の事は、詳しくない。
朔が言うには、この神社でなら仲間と合流出来ると言う。
朔の仲間がどんな人達なのか、それを知った時
俺は竜の予感が正しいと、思い知らされるんだ。
ここが、歴史の教科書に載ってる源平の時代だと言う事を。
「朔の仲間って、どんな人達なの?」
無邪気にそう聞いてるのは、俺達と同じく時空移動した望美。
問われた朔が、何と答えるか俺には怖く思えた。
この時代じゃない事を、肯定される・・認めてしまうのが
俺は凄く怖い・・・・
「源氏の人達よ、京を狙う木曾の者を退けに。」
「「源氏!?木曾!?」」
朔の言葉に、反応を示したのは譲と竜。
あの竜が声を荒上げるなんて、俺も望美もビクッと肩を震わせた。
望美は単に驚いただけだろうが、俺は恐れていた事が現になった事に怖さを感じて震えが走った。
思った通りになっちまった。
此処は、違う時空の京だけど時代は鎌倉時代と同じだ。
だから『梶原』の姓に聞き覚えがあったんだ!
何故だ?何故こんな時代に?
こんな事になるなんて、隼人達は無事なのか??
俺があの子の声を聞かなければ、此処に来る事もなかった。
隼人や竜達を、巻き込む事もなかった。
全部・・・俺がいたから?俺のせい・・・
「?顔色悪いぞ?具合でも悪いんか?」
「・・・竜、俺のせいだ。」
「は?何でだよ」
「だって、俺といなければ俺があの声聞かなければ・・・」
オマエ達を巻き込まなくて済んだ・・・―
と続く言葉は、竜が言わせてくれなかった。
俺の声を遮る声音で、俺に言った。
「起きちまった事を、今更言ってもどうにもなんねぇだろ。
それに、此処に来たのがのせいなんて思ってねぇよ。」
自分を責める、その肩に手を乗せて竜は言った。
真っ直ぐに俺を見つめる目。
不安で波打つ心を落ち着かせてくれるのは、竜の手の温もり。
「うん・・そうだよな、まずは隼人達と再会しねぇと」
「そう、今はそれだけ考えてろ。」
少し不安気な顔から、笑顔を見せた。
その肩に置いた手でポンと叩き、背中を押す竜。
おう、と元気よく答えて自分の足で歩き出した。
竜のぶっきらぼうな励まし、それが素直に嬉しく思えた。
譲も歴史に詳しいらしく、色々と説明してくれた。
聞けば聞くほど、教科書通りの世界だと実感。
更に俺達は、その教科書に出ている者達と会う事になる。
この時代に確かに生きていた、彼等に・・・―
しばらくこの場で、彼等の迎えを待っていた時
此方に近づいて来る足音と、気配を悟った。
「お前達何者だ!其処で何をしている!」
威厳を感じられる声、朔は誰なのか知ってるらしく
声の迫力に驚いてはいるが、逃げようとはしていない。
きっとその声の持ち主が、朔の仲間達なのだろう。
俺達のいる所に現れたのは、茶髪のロンゲ。
強い意志の宿った瞳、でも着物の文様を見て目が変わる。
パッと竜を見れば、向こうも俺を見ていた。
俺より頭のよさそうな竜、きっと気づいたに違いない。
あの着物の文様は、源氏の印である葵の御紋。
本当に・・来てしまったんだな。
源平の時代に・・・・。
「九郎殿・・」
「景時の妹御か、このような所にいたのか」
とか言い出したら九郎という人は、朔を責め始めた。
女なのは分かってるが、隊を離れられては迷惑だーとか
貴女に何かあれば、自分がアニキに怒鳴られるって。
すっごい腹立ったんですけど(怒)。
女って分かってんなら、少しは考えてやりゃあいいだろ!!
の中で、何かがプツッと切れた。
「いい加減にしろ!朔のせいにばっかして手前が可愛いだけか!」
「それ以上朔を責めないで!それならどうして連れてきたのよ!」
「心配してるように聞こえるけど、朔を守れてねぇじゃんか!」
「そうよそうよ!責める前にもっと気をつけてあげて!」
プツンと切れたのは俺だけじゃなく、望美も怒鳴ってた。
女だと非難され、馬鹿にされてるみたいに感じたのと
彼女の話を聞かず一方的に怒鳴りつける姿。
そこに、は昔の自分と嫌いな大人と教師の姿を重ねた。
望美はきっと純粋に、朔を心配したんだと思う。
突然怒り出した俺と望美に、一同驚いたように黙る。
声を荒上げるのが、意外だったんかな。
怒るタイミング、俺自身もそこには驚いた。
九郎と呼ばれた青年、余程驚いたのか?
しばらく俺の顔を見たまま、険しい顔をしてる。
望美の言葉と俺の言葉に対し、潔く間違いを謝った後の事だ。
何で見てるんだ?と不審に思った。
竜も気になったのか、俺の隣に来た。
そんな俺達に目線も鋭くなった九郎。
俺も含めた望美達も見ていたが、どうしてか俺を見る目だけ厳しい。
「お前達・・木曾の者か?特にオマエ。」
「は?木曾!?あの義経に追われた?あの?」
「バカ言うな、どうしてそうなるんだよ。」
「特にオマエって・・・俺?何でだよ。」
九郎が示したのは俺達だけど、その中でも特にって示したのは俺。
何で俺だけなんだ?俺目立つ?女に見えなかった?
って事は、別にやましい事ないじゃん。
そう思って九郎を睨み付けた。
竜もヤバイ雰囲気を悟ったらしく、片腕を俺の前に出す。
「オマエ・・・木曾の者だな?義仲の妾『巴御前』だろう?」
俺を庇ってくれた竜越しに、警戒心を露にした九郎。
ビシッと指差して、とんでもない事を言ってくれた。
一瞬でこの場の空気が、張り詰めた物へと変わった。