ゆらゆらと揺れる意識の中で
俺は夢を見ていた。
桜が舞い散る春の京・・
来たばかりなのに、何で俺は知ってたんだろう。
その京は夜で、何処かの邸にいて・・
どうしてか、1人の男と会話する望美を見てた。
そんな俺を、別の方から誰かが見ていたような・・?
夢の調べ
夢から覚めたは、褥の上に寝かされていた。
ボォーッと霞がかかったかのような頭で、状況を理解しようとする。
確か・・白龍と話をしていて、属性がどうとか話してたんだ。
俺と竜にも、他の八葉みたいに属性配分されているって。
『応龍の神子の力は、復活――』
あどけなさが残る白龍が、何の悪意もなく突きつけた言葉。
俺がそんな声を聞かなければ、隼人と竜達を巻き込まずに済んだ?
そう思って何度も自分を責める度、竜は否定した。
自分が応龍の神子なら、竜達はどうしてこの世界に?
やっぱ俺が巻き込んじまったのか・・?
考えてても答えが出る事はない、自分はこの世界に対して知識が少なすぎる。
「あの夢・・何だったんだろう・・・」
今朝見た夢、京を知らないはずなのに
夢の中の景色が、春の京だって自分には分かった。
そこで見た、望美と御簾の向こう側にいた男。
十六夜の君・・・と望美の事を呼んでいた。
夢の中の京は、確かに美しい十六夜の月が輝いていたっけ。
それと・・違う方から、誰かが俺を見ていたような・・・
誰だかは検討もつかないが、見られていた事は確か。
考えても埒があかない、そろそろ起きてみるか。
そう思ったが、褥から身を起こそうとした時・・
「君、起きていますか?」
襖の向こうから聞こえた声、これは弁慶だ。
妙な性別確認をしてきた奴だが、中々食えない策士。
まあ今は大丈夫だとは思うが・・・
「起きてますよ、どうぞ。」
声音からして、ふざけた話をしに来たのではないと思い
褥の上に上半身を起こしてから、その声に応えた。
じゃあ、入りますよ――という言葉と同時に襖が開き
床の橋(廊下)から、黒衣の衣を着た弁慶が現れる。
その後ろから、初めて見る男が顔を覗かせた。
・・・この時代にも、腹を出した服装があるんだな。
とある意味感心してしまうような服装の男。
弁慶とは違い、表情も普通で策士とは程遠い感じ。
髪の毛は短髪で、深緑のような色。
それに合わせたかのように、羽織ってる衣も深緑でまとめてある。
「突然押しかけてすみませんね、あ 彼は梶原景時。」
「梶原・・って、朔の?」
ちゃっかり室内へ入った弁慶と、謎の男。
雪原で気を失ったには、何がどうゆう理由でこの男を紹介するのかも
どうしてここで寝かされていたのか、ここが何処なのか
それさえも理解してないのに、何なんだ?
と思っていた時、弁慶が紹介したのは朔の・・・
「朔を知ってるの?へぇーそうなんだ、そう俺は朔の兄。」
「景時は優秀な陰陽師でしてね、訳あって呼んだんです。」
喋るとアホっぽい感じ、けれど優秀な陰陽師らしい。
人は見かけで判断しちゃいけないね。
だけどさ、訳あって呼んだんはいいけど・・何で俺のトコに?
挨拶なら理由は分かる、何かもっと別な理由がありそうで。
チラッと弁慶を伺い見れば、目が合った瞬間
俺に向かってウィンクをしやがった。
「景時も、望美さんを守る八葉の1人なんですよ」
――マジ?
いきなりのぶっちゃけ話を聞かされ、目が丸くなる。
朔の兄だというその男、ニコニコと笑みを浮かべて俺を見てる。
似てねぇ・・つーか寧ろ、朔の方が年上って感じ。
軽そうな奴だけど、陰陽師なんだって?
挨拶と自己紹介も終わり、弁慶が此処へ来た理由を話し始めた。
「あれから龍神とその神子について、色々と調べてみたんです。」
「・・・何か、分かったのか?」
「ええ、と言っても分かったのは少しだけですが。」
「それでもいい、何も分からないよりかマシだ。」
強い光を携えたの目に、少し考えた後
弁慶は口を開いて、その分かった事柄を話し始めた。
初めて聞く事ばかりで、混乱しそうになったけど・・・
「望美さんと朔殿が、龍神の神子だとは聞きましたよね?」
「――ああ、白龍と黒龍の神子だって。」
この京を、ずっと見守り続けていた龍神。
どうして望美や俺が、それに選ばれたのかは知らない。
それに、どうして異世界の人間なのか。
龍神は二匹で見守っていたのか?
どうして、応龍という完全体から分かれてしまったのか。
にとっては、分からない事だらけ。
「しかし驚いたね〜朔と望美ちゃんを含めて、君まで神子だなんてさ。俺もつくづく龍神に縁があるよ。」
「――話したのか?」
黙って話を聞いていた景時までもが、自分の役割を知っていたので
咄嗟には、弁慶の方を睨み見た。
鋭い目で睨まれたのに、平然そうな顔をした弁慶が
これみよがしにこう言い返した。
「ええ、僕等の仲間には隠し事など 無用でしょう?」
アンタにとってはそうでも、俺にとっては違うってーの。
俺は仲間だとしても、大事だと思った事はペラペラ話さない。
口・・・軽いのか?コイツ。
ってゆうか、竜は何処に行ったんだ?
人の事、守るとか言っときながら。
その後弁慶と景時から、応龍の神子の何たるかを説かれ
『復活』の力とは別に、まだ力が隠されているという可能性も聞かされた。
☆
――福原
雪の福原で、源氏の間者と間違われた隼人達。
危ぶまれた身も、1人の男のおかげで助かった。
その男といた兵士達も、男のおかげで引き下がり
福原とやらへ向かう道中は、無事に通り過ぎた。
問題は、何で映画村を知ってたかだ。
今、福原に着いた俺達は 立派な邸へ招かれ
棟梁とかゆうガキ・・いや、奴にも挨拶を済ませて
俺達を助けてくれた、将臣と一緒にいる。
源氏・・これを聞いて、幾らバカな頭でも嫌な事に気づいた。
確かさ、1000年以上前くらいに日本の京都にいたよな?
竜とがいりゃあ、もっとよく分かっただけうけど。
今はいねぇし・・・俺が考えるしかねぇじゃん。
あの兵士が、源氏を嫌そうに言ってたから・・
「なぁ、ひょっとして此処は平家の陣か?」
「――ひょっとしなくてもそうだ、よく分かったな。」
自分なりに考えて出た答えを、将臣に問えば
奴は隠す事なく、俺の質問を肯定しやがった。
やべぇな・・竜達が源氏にいねぇ事を祈るっきゃねぇな。
つーか、将臣。よく分かったなって言い方、すげぇバカにしてねぇ?
そう顔に出てたのか、隼人を見ていた将臣の口許が緩む。
コロコロ変わる表情に、逸れてしまった幼馴染を重ねていた。
「将臣さんは、何で俺等が異世界から来たって分かったんだ?」
解れた笑みを見た浩介が、隼人が聞きたかった疑問を
何の迷いもなく口にした。
問われた将臣、少し目を泳がせた後 口を開いた。
「俺も・・3年前にココに飛ばされちまったからだよ。」
「マジ!?」
「ああ、状況は幼馴染と弟も一緒。」
「俺達みてぇな感じで飛ばされたんだな!」
「じゃあ、変な声とか聞いたん?」
矢次に聞かれた将臣、興奮して近づいて来た隼人達の前に
両手を突き出して落ち着かせる。
目の前に出された手に、渋々下がって待つ隼人達。
それを見て苦笑を浮かべた将臣。
彼等と同い年ぐらいの幼馴染と、まだ16歳の弟の事を考えた。
あいつら、無事だったんだろうか・・・
此処の時代にいなくてもいい、無事に過ごせてるなら。
「俺は聞いてねぇが、幼馴染が聞いたな。」
「そっか・・俺等の場合も、仲間が聞いた。」
「そうそう、何か苦しそうだったし。」
「うん、変な子供の声がしたとか?」
「――子供だと?」
此処に来た事情を話し合い、浩介がを呼んだ子供の事を言うと
笑顔で聞いていた将臣の表情が変わり、怖い程声を荒上げた。
これには、黒銀で恐れられてる隼人達も固まる。
驚いてる隼人達を他所に、1人将臣は共通点を探り出していた。
自分達と全く同じ子供と接触し、此処へ飛ばされた彼等。
これは・・偶然とは思えねぇな。
「・・・龍神と、関係がありそうだな・・兄上。」
考えが確信まで行く時に、襖の外から声がした。
その声は、人を嘲るような・・・何処か退廃的な響きの低音。
男の名は『平知盛』、傍らに大人びた女性を連れていた。