雪解け



時は2019年5月某日。
滝沢歌舞伎2019を無事終えた
出演者として役目を終えた事で仕事は増え
結果、大きなターニングポイントを迎えた。

Snow Manが増員される話を聞いてはいたが
なんともそのメンバーに選ばれたのである
しかもその中には懐かしい顔もあった。

2017年の滝沢歌舞伎で互いに代役枠で知り合い
それをきっかけに親しくなった目黒蓮。
彼の名前も増員メンバーに書かれていた。

そして今日はSnow Manとして初のLIVE
ジャニーズIsLAND Festivalのレッスンだ。

👤「ちょっと邪魔」

セトリを見て居たら突然横に押される。
慌ててたたらを踏み顔を向けると
不機嫌そうな目をした少年、いや、青年?

🐇「あ、ごめん」

一応謝ったらなんか舌打ちされた。
視力が低い為、間近で見ないと見えないし
メモの為にセトリの前を占拠してしまうから

なるべく人が少ない時を見計らってメモに来てた、
それでもJrの子は見に来る人も居る。
近付く気配を察して場所を譲ったりはしてた

が、それでも気付けないと今みたいになる。
中々強めに押しやられた肩が痛んだ。

しかし気にしてる場合ではない。
自分の演目を確認してメモらねば、仕方なく押された位置からメモった。

👤「Snow Manに選ばれたからって調子に乗るなよな」
🐇「私はいつでも全力で臨んでるだけです」

ご忠告ありがとうございます、と言い
あからさまな敵意を向けて来た相手の横を去った。

女子初のジャニーズというだけでコレだ。
実力がものを言う世界、男だけの世界。
そこに初めて足を踏み入れた女子・・・

一部のJrは認めてくれたが今みたいにバカにした態度を取られ邪険にされたりする。
割合で言ったら後者の方が多い。
認められるには仕事で示す他無いんだ。

今日はIsLANDFestivalに向けたレッスン。
バックを務めるJrのみが集まり、行われる。
主演のSnow Manは1時間後に合流予定だ。

何故Snow Manに選ばれたのに早いのか
それはの身体的問題にある。

彼らが来るまでにJrだけでのレッスンがある
しかしこの頃は憂鬱でしか無かった。
視力が悪いので前の方に行くのだが・・・

👥「そこ俺の定位置なんだけど」
🐇「え、ああ・・・ごめんね」

いつも誰が何処というのは決まってないにも関わらず
邪険にされ、後方に追いやられ
それでも集中して音を聴いて練習に食らいつく。

だが正直辛かった。
振り付け師も気付かない程度のイジメ。

視力の事は自分の問題だから明日から度が強いタイプに買い換えるなり対策は出来る。
1番辛かったのはセトリを見る時と自主練時。

振付けがよく見えなかったりした時なんて
レッスン後に振り付け師にもう一度聞き、1人隅の方で練習に明け暮れるのだ。
鏡の前で練習も出来ず、資料を貰う際も地獄

👤「お前のこっちな」
🐇「えっ、もうあるから・・・」
👥「新しくなったんだよ親切心で貰ってやったんだから受け取れよ」
🐇「・・・そうなんだ、ありがとう」

なんて貰おうものなら既に貰ったやつと同じで、
違うのは縦書きになってるというヤツよ
私はこれだと酷く読むのが遅くなる。

アルビノ特有の障害だ。
視力の低さも皆アルビノが抱える障害。

テレビで見掛けたジャニーズはキラキラしてたのに、
生きる力をくれたジャニーズは中に入ってみるとこんな風なのかと失望もした。

でも2年前知り合った目黒君やSnow Manは違った
性別ではなく私個人を見てくれた。
彼らのような人達が居る限り私は逃げない。
決意を新たに私は読みにくい資料に目を通す

Snow Manの皆が合流するまで約30分
は何とかメモったセトリを使い自分が出る曲目に印をつけ
その曲目別に更にメモを分け 振付け等での注意点やら

拘りたい振付けを書き込み、脳に叩き込む。
後は曲を音や歌詞共に頭に叩き込むのだ。
こうしたやり方はが置かれた環境から考えた独自の練習法。

視力の悪さを理由に甘えたくないし
それを理由にイジメられたくなかった。
体格では負けてもスタミナや繊細さでは負けない自負がある。

それに、の最大の武器はカポエラにある
ある一定の域に達さないと名乗れない渾名持ちに相応しい体の柔らかさとバネ。
そこから繰り出されるアクロバットは群を抜いていた。

アクロバットに定評があるSnow ManやABCZ、TravisJapanに並び立つ実力を持つ
基礎がしっかりしている為、アクロバットに癖がないから吸収も素直で早い。

ダンスの実力も折り紙付きだ。
視力の低さを補うように優れた聴力を持ち
音をしっかり聴いて練習してるからか振付けで音を表現する事に長けている。

入所時よりイジメは減ってはいるが
こういう優れた部分にやっかむ者や
女だてらに、と思う界隈からはイジメは続いていた。

👥「もうSnow Manさん来るぞ」
👤「いつまで練習してんだよ邪魔お前」
🐇「――っ」
👤「けど女が入ったら『Man』じゃなくね?」
👥「確かに(笑)」

いや、私もSnow Man・・・なんだよ?
でもやっぱ私が選ばれるべきじゃなかったね

だが聞き捨てならない言葉を彼らは言った。

6人の頃からSnow Manを守って来た彼らに対する侮辱でしかない言葉であり
全てを賭けてSnow Manに入る事を選んだ3人の覚悟をも、彼らは侮辱した。

🐇「今の言葉、取り消しなさいよ」
👤「はあ?」
🐇「アンタらの今の言葉は8人の覚悟を侮辱したも同然なんだよ?」
👥「何熱くなってんのバカバカしい」
🐇「私の事は幾らでも嘲って構わないけど8人を嘲笑うのだけは許せない」
👤「ハイハイ、女はうるせぇな」
🐇「わっ――」

何人かのJr達が心配そうに見守る中
私は黙ってられずに口を開いていた。

しかし声を上げるを冷ややかに見た少年らは、面倒くさそうに聞いている。
が、一瞬だけ目を鋭くした少年の1人。

すぐその鋭さはなりを潜めたが
代わりに強めの力で突き飛ばされた
突然の事で足がもつれ、顔面から床に倒れる
事になり迫り来る痛みに私は目を瞑った。

💜「――っぶね!」
👥「!!」
🐇「わっぷ」

私が床に叩き付けられるより早く扉が開き
目の前に現れた手に、下から掬い上げられるように抱き留められた。

💜「大丈夫か?って、!」
🐇「ふ、っかさん・・ありがとうございます」
💙「おいおい何で吹っ飛んで来た?」
👤「お、おはようございます!」

キャッチしてくれたのはメンバーの深澤だと
頭の上から掛けられた声で分かる
なんだか一気に安心してしまい、声が震えた

次いで声を発したのは深澤の後ろに居た翔太
ゾロゾロと現れる6人時代のSnow Man達に
を突き飛ばした少年らの顔が青褪める。

私を立たせてるふっかさんを横目にした阿部ちゃんが
目が笑ってない笑みで冗談を言った。

💚「中々熱烈な出迎え方だね?」
💜「平気?ケガとかしてないか?」
💛「なんかあった?

立たせて貰ってから照の問いに対し
一瞬迷ったが、躓いただけだと話した
大事なレッスン日に騒ぎを起こすのは避けたかった。

レッスンはセトリに添わせて行われる。
広めの室内を分けて使い、合わせる際は全員が中央に集まる形に変わる。

🖤「おはようございます」
🧡「宜しくお願いします!」
🤍「皆さん今日は宜しくお願いします」
💜「来たな?よしSnow Man集合!」
⛄「はーい」
🐇「はい!」

少しだけ遅れて増員メンバーが顔を出した。
既に9人での顔合わせは済み、仕事もしているがを加えた顔合わせは初。

にとって初めて見る顔もある。
関西から引き抜かれた向井康二
少年忍者から引き抜かれた村上真都ラウール
彼らとは初めましてになる。

💜「今日からSnow Manとして合流する」
🐇「です、女という事に甘える事なく皆さんに食らいついて行きますので宜しくお願いします!」
💗「お~!宜しくちゃん」
❤「2年振りかな、宜しくねさん」

深澤に促され、改めて皆の前で自己紹介。
2017年に関わりがある6人からは久しぶりだね、と迎えて貰えた。

そしてもう1人からも同じ言葉を掛けられる

🖤「久しぶりじゃん」
🐇「蓮は驚かないんだね」
🖤「ま、お前の実力なら当然だしな(笑)」

勿論それは目黒蓮その人である。
彼だけは驚かない理由をハッキリ口にした。

思えば2年前から私を認め、同じジャニーズとして接してくれたのは彼や6人だけだった
そんな彼らと同じグループになれるとは・・・

同じグループになるにあたり、私は正直に9人へ自分の抱える障害を明かした。

アルビノという色素異常の病いを抱え
健常者と違い、視力が弱く特別なコンタクトを使用している事。

それでも見えにくい為メガネも欠かせない。
コンタクトは高いのでLIVE時のみ使用。
直射日光にも弱く、陽にあたり続けると皮膚が火傷のように爛れてしまう事等。

🐇「でもこれは私の個性だから、言い訳にしたりしないよう全力で取り組みます」

皆には迷惑掛けたりしません、と挨拶した。
この自己紹介は他のJrらも眺めていた。
暫く雪達もを見ていたがすぐに声が

🧡「障害とか関係ないよちゃんが凄いのは関西でも有名やし、ちゃん真っ白で可愛いなあ」
🐇「有名だなんて何か嬉しいです」
🤍「うさぎさんみたいだねちゃん」
🖤「お前の根性と凄さは俺が1番知ってるから」
💜「おう何だ目黒、いきなりマウントか?」

第一声を発したのは向井康二だ。
関西人特有の人懐っこさを発揮し明るく私を迎え入れてくれた。

それから声を発したのは最年少のラウール。
彼はベネズエラと日本のハーフで
ダンスに関しての上手さが群を抜いており
振り付け師が見本にしろとJrに言う程である

そんなラウールはまだあどけなさの残る15歳
(誕生日前なので15歳です)
彼からの言葉は真っ直ぐで嘘が無い。

それに歳の離れた弟みたいで可愛い。
彼らは全てを賭けてSnow Manに入る事を選んだ
前グループ等が無い私よりずっと重い決断を下して今此処に居る。

彼らの事を思えば尚更、さっきの少年らの言葉が許せない。

自己紹介を終えてからSnow Manだけでの通し稽古を簡単に行った。
セトリ順にやったりバラバラにやったりと
何とかもメモのお陰で付いていけている

それでも曖昧な部分はメンバーに聞いた。
恥ずかしいけどミスなくやるには仕方ない。
は照に聞いた部分をメモに書き留めた。

メモを取る様子を感心しながら見ていた照。
ふと書き留めてるメモが凄く正確な事に気付いて思わずに聞いていた。

💛「なあコレ、が自分で?」
🐇「はい私視力が弱いから・・・」
💛「にしてもこれ分かりやすいな」
🧡「なになに俺も見たい~」

覗き込んだメモには、曲毎の振付け内容と
自身が気を付けて踊りたい点や
表現したい事、注意して聴く音の部分がメモされていた。

これは良く要点を捉えていて、振付けも担当する照はかなり感心していた。
近くを通った康二も足を止め覗いて来ると

🧡「凄いなあちゃん!アカン俺このメモ参考にしとうなってきた」

滝沢歌舞伎で東京のやり方に苦戦していた康二がのメモを大絶賛。
振り覚えの良い照ですらこれには賛同。

対するも素直な賛辞をくれる2人に照れ
良かったら他にもあるから見て貰える?
と何枚かのメモを康二と照に差し出した。

👤「、ちょっと呼ばれてるぞ」
🐇「・・・分かった」
💛「?1人で平気か?」
👥「大丈夫です、俺らも一緒に呼ばれたんで」
💛「なら大丈夫か」
🐇「メモは私の荷物に戻しといて下さいね、では行ってきます」

ふと呼び出しを受けた
ニッコリと笑顔で照と康二に言い残すと
呼びに来たJr3人と共にレッスン室を出て行った。

その姿を何となく気にしながら見送った。
嬉しそうにメモを眺め、感心している康二。
彼も少し心配そうな目をしていた。

呼び出しを受けたは3人のJrらと共に
事務所内にある倉庫を目指していた。
何故そこに行くのか聞いた所、レッスンに必要なものが倉庫にあるからとの事。

は初めて来る地下。
日中にも関わらず薄暗さを感じる廊下を抜け
1番奥に在る倉庫と書かれた扉の前に到着した

🐇「何を運ぶの?」
👥「アクロバット用のマットと・・・」
👤「後は何だったかな」
🐇「マットは正面の奥にあるね」
👤「だな、後は何だったか聞いて来いよ」
👥「分かったよ、マットは任すわ」
👤「と運んどく」

到着し、扉を開けて最初に目に入ったのは
3段に積まれたマットらしき物。

アクロバットに慣れたSnow Manがマットを使ったりするんだろうか?
もしかすると増員メンバーの3人が使うのかも?

色々想像しながら倉庫に入り
奥に積まれたマットに近寄る

🐇「マットは何枚だろう」
👤「分かんないから3枚運ぶか」
🐇「おっけい」

後から青年も中に入り、扉に背を向け
積まれたマットを抱えるとゆっくり後退。

後ろ向きで倉庫から出て行く青年に倣い
も5キロはあるマットを抱えた。
しかし、先に出ようとした青年が途中脇に置かれた棚にぶつかりながら出た。

👤「あ、やべっ」
🐇「え?」

その際に生じた乾いた音と青年の声。
どうかしたのかと足を止め、一時的にマットを下に下ろし振り向いたその眼前に

揺らいだ棚がけたたましい音をたてて転倒。
外開きの扉との間を塞ぐようにしていた

🐇「きゃっ」
👤「思ったより音出たなぁ」
🐇「・・・?そっちは大丈夫みたいね」
👤「音はデカいけど上手く倒れたわ」

咄嗟に飛び退いたは、棚越しに外に出た青年の無事を確認。
同時にやけに落ち着いてる姿に違和感を得た

慌てるでもなければ心配する風もない。
まさかとは思うが・・・マットなんて要らなかったんじゃない?
は嫌な予感を感じつつ、外に立つ青年に外から倒れた棚を起こせないかを訊ねるが

🐇「何とか起こせる?」
👤「無理、てかお前バカだな~・・・」
🐇「え・・・?ああ、やっぱ嘘だったんだね」
👤「なに分かってたん?」
🐇「今の君の反応見るまでは信じてたよ」
👤「ふーん・・・バカなヤツ」

まあ予想通りの反応を青年は見せた。
呼ばれてるのも倉庫に用があるとかも嘘で
私をここに閉じ込める事が目的だったのだと

🐇「バカで結構よ、で?どうする気?」
👤「いつまで冷静で居られるか見物だな」

青年はの問いには答えず、吐き捨てるように呟くと唯一の出口である扉を閉めた。
こうなると倉庫から出る手段は無くなる。

出して下さいお願いします、って言ったら助けてやるよと笑う青年の声だけ聞こえる。
まるで負けを認めさせたいようなセリフね・・・

🐇「絶対的有利な立ち位置から無理矢理"参りました"みたいな事言わせたら満足しちゃうんだ?」
👤「なんだと?」
🐇「出られるなら簡単に言えるよ」
👤「ふーん、その程度なんだな」
🐇「けどね、そんな状況で負けを認めさせても虚しいだけだと思う
  それに私はまだ心まで屈服した訳じゃないから」

だから絶対言ってやらない。

静かな眼差しに強い意思を込め、は扉の先に居るであろう青年を見据えた。
真っ直ぐ見据えられた青年はただ苛立った。

怯えるどころか噛み付く勢いの佇まい。
光が少ない地下だというのに、微かにの周りだけが輝いてるように見えた。
薄暗い倉庫の中にぼんやり輝く白銀の髪。

赤紫の目に見据えられたまま向き合う事に耐えられなくなると、
なら勝手にしろと吐き捨て足早に倉庫に前から青年は立ち去った。

🐇「・・・さて、どうしようか」

青年が見えなくなってから息を吐くように
は誰も居ない空間に呟いた。

iPhoneは荷物の中だ、助けは呼べない。
皆が気付く保証も無い・・・最大のピンチだね?

取り敢えず周りを見渡すの視界に入る物
通常より高い位置にある窓が1つだけ。
うーん・・・届かない訳では無いが、台が欲しいな。
軽く185くらいの高さにあるからさ

でも地下で良かった。
薄暗いけど陽射しは入らないしね。
しかし長くは居たくない場所に変わりはなかった。