要注意クラス



彼らの言う用意とは、暴力の事。
すっかり久美子も黙ってしまった。
それをいい事に、好き勝手にからかいの言葉を放つ彼ら。
「びびってるびびってる〜」
「泣くぜ泣くぜ」
などと言いながら、俺も思わず久美子を振り向く。

「まあ安心しな、俺達女に手ェ出すような卑怯な真似はしねぇから」
クラス中が囃し立てるように騒ぐのを、扇子を持った青年が治め
口調穏やかに久美子へ言った。
まあ本当なのかは、今後の行動に現れるだろう。
そう思って、あたしも睨むのを止め視線を彼等から外す。
「てゆうかおまえ男だよな」
「・・・女に見えるんか?」
その動作に、扇子を持った青年が今更気づいたのか
扇子をヒラヒラさせて、俺へと近づいて来る。

品定めするような視線をかわし、皮肉っぽく答えてやる。
仕方ないだろ、見かけは男に出来ても骨格なんて変えられん。
俺の反応に、小さく笑う声がクラスに沸き起こった。
賑やいだ空間 そこへ静かな久美子の声が割って入った。

「こんな物用意して、十分卑怯だと思うけど?」

久美子の発した言葉は、賑やかな彼等を静まらせるのに
十分な効果を発した。
「何だとてめぇ!ふざけてんじゃねーぞ!」
「ふざけてなんかいないけど?」
この先生、自分が何言ったか分かってんのか?・・・
自分から喧嘩売っちゃってるし。
扇子を持った青年も、それを買ってを通り過ぎ久美子の前へ
その際、周りの生徒からつっちーというコールが入る。
彼のあだ名なんだろう。
喧嘩になるのかな・・それは厄介だな。
とか思っていると、互いに顔を見合わせた二人へ
中央に机を構え、もたれるように座っていた青年から声がかかった。
「つっちー!!」
張り上げるような声は、彼の動きを止めた。
呼ばれた彼は、つまらなさそうに止めた青年を振り向き
「隼人・・・」
呟くように言った青年は、仕方なさそうに元の席に戻る。
何事もなくて密かに安堵する
これじゃあ端のクラスに行かされるわな。
妙に納得している横で、久美子が小声で何か言った。
「あいつがこのクラスの頭か・・・」
そう呟く顔は、全然怖がってもいないし寧ろ堂々としてた。
益々変わってるなぁ・・・このセンコー。
「そうだ、自己紹介させてなかったな」
「いいよそんなの、俺 馴れ合うつもりないし。」

そう言って適当に空いてる席を探しに行く。
久美子はその背中を、やれやれといった顔で見送り
再び騒がしくなったクラスで、誰も聞いていない出席を取り始めた。
「ねえ、アンタ名前なんつーの?」
「男じゃねぇみてぇに顔結構綺麗だよな、何で此処来たの??」
席を探すに、さっき扇子の青年を静めた青年を皮切りに
質問が投げかけられる。
こうゆうのって俺嫌いなんだよね・・・
あいつ等思い出させるからさぁ・・・
「う・る・さ・い、他人の事何だからどうでもいいだろ」
ギロッと二人を睨みつけ、さっさと席を見つけて座る。
見つけた席は、誰も使ってない感じ。

「あ、そこ・・・」
「何?座っちゃマズイんか?」
荒々しい動作で座った俺に、ツンツン頭にカチューシャを
付けたようなスタイルの青年が声を発した。
不機嫌極まりない目で問いかければ、めげずに扇子青年が答える。
「いいじゃん、どうせもうこないんだしさ。」
「そうそう、こねぇ奴の事なんて気にする必要もねぇよ。」
明らかに其処の席を使ってた人の話題を避けるような反応。
これは何かありそうだ、と俺に思わせた。

「アンタ達の名前、教えろよ。」

ふと切り出した俺の台詞に、近くにいた四人の視線が集まる。
教卓では、めげずに出席を取り続けている久美子の姿。
敢えて聞く気になったのは、今の反応を後で使えそうだから。
そんなの考えも知らずに まず名乗ったのは扇子の青年。
「俺は土屋 光、皆はつっちーって呼んでるぜ。」
「おれおれ!俺はね!日向 浩介。」
「俺は武田啓太、宜しくね。じゃあおまえの名前は?」
次々と自分の名前を名乗った彼等。
なになに〜?扇子持ってるのが土屋って人で
ツンツン頭にカチューシャ君が、武田。
ごく普通の外見?の人が、日向か・・・それと
「じゃあ貴方は?俺は嘩柳院 。」
三人が名乗ったのに、一人だけ名乗らないのを見て
仕方なく自分が先に名乗ってから、隼人と呼ばれた青年へ問いかける。
続いて土屋達の視線が注がれ、めんどくさそうにこっちを見たが
「矢吹 隼人、おまえ変わってるな 何かいきなり態度デカイし
しかも来たクラスは此処で・・普通ならビビッて辞めてくぜ?」
「俺はいいんだ、こうゆうとこの方が似合ってる。」
少し俯き、机の上に組んだ指を見下ろす
その様子を隼人達はしげしげと見つめた。

「矢吹君!矢吹くん!矢吹隼人君!」
に話しかけようとした時、隼人の姓だけ連呼した久美子の声。
あまりにしつこくて、背を向けてトランプを配ろうとしてた手を止め
「何回も呼ばないでくだパイ!」
と言い返し、再び隼人は首を戻し気を取り直してトランプを配る。
その向こうで久美子が「何回も呼ばせないで下さい」と
ぼやいたのを誰も知らない。
諦めたのか出席を取り終えたのか、久美子は一旦静かになる。
「えー、今日は臨時授業として 皆に作文を書いてもらいます。」
が それも一瞬で、張り切った感じで作文用紙を抱え
配って回り始めた。
またどうしてそんなメンドイ事を・・・
「何でまたそんな眠い事を」
俺の気持ちを代弁するかのように、笑いながら言う浩介。
しかしそれでもめげない久美子は、皆の事を知りたいしと言う。

「別に知ってもらう必要なんてないけど」
「嘩柳院、そんな事言うな。テーマは学校生活の思い出!」
「そんなもんねーよ」
「あるだろう?文化祭とか修学旅行とか」
「ないっつーの」
そこまで言われてもめげない久美子、質問を変える。
「それじゃあ、将来の夢!これならどうだ?」
そう久美子が言った途端、啓太の一言を始め
またしてもクラス中が大騒ぎ、結局授業はそのまま終わり
休み時間となった。

このクラス・・不良ばかりだけど、あいつ等とは違う感じ。
クラス一帯でちゃんと団結してるとゆうか・・・って
気を許しちゃ駄目だ、俺にはそんな事許されないんだから。
チラッと隼人達を見ると、今度はダーツゲームをして盛り上がってる。
何か、特に悩みなんてなさそう。
さっきも嫌な事は、すぐ忘れるからって誰か言ってたしね。
「なあ、。おまえもやんね?」
ホケーッと隼人達を見てたら、その本人と目が合ってゲームに誘われた。
もしかして、やりたそうに見えたのか?
「いいよ、俺は。」
これ以上関わってはいけないと思ったから、目を背けて断る。
「そんな事言って、本当は自信ないんじゃねー?」
「うん?」
手早く断ると、俺と隼人の間に土屋が入ってきてそう言う。
ダーツゲームくらい!やった事ないけどさ。
「気分が乗らないからやらない」
「またまた〜じゃあ本気になればいいんだ?」
「?」

何とか我慢して突っぱねると、下から覗き込むように
隼人の顔が現れ、呟く口許には笑み。
何か企んでるのか?
「俺が負けたら、ゲーセン代奢ってやる。」
ゲーセン代かよ・・・まあいいけどさ。
不服そうに見えたのか、隼人は何がいいんだよ・と聞いてくる。
「隼人が負けたら、お昼のパンくらい奢って。」
「パン?そんなもんでいいの?」
ゲーセン代よりも安いパン、欲のない答えに隼人達の目が驚く。
構わないと頷く俺に隼人は言葉を続けた。

「じゃあおまえが負けたら・・・俺等に付き合ってもらうぜ?」
「付き合う?ってどうゆう意味だよ?」
「俺達 ゲーセン行くのが当たり前だから、それに付き合えって事。」
こっちも欲がないなぁ〜。
あまり不良らしく見えない隼人達に、すっかり俺の棘も消され
「分かった、パン代を賭けて勝負!」
「おっし!じゃあ先に投げろよ。」
気がつけば隼人にそう言ってて、ダーツを手渡されてた。
啓太達は、どっちが勝つかとかを賭けてる。
そして、第一刀をが投げ放つ。
男らしからぬ細い指から投げられたダーツの矢は、綺麗な放物線を描き
吸い込まれるように中心の近くに刺さった。
「やった!」
「おおーっ!」
見事なフォームに見惚れていた四人。
ハッと我に返った土屋が、一人先に歓声を上げる。
パン代で此処まで本気になれるとは・・・と隼人は内心思う。
センコーさえもビビッて近寄らない自分達と、対等に接しられる転校生。
初日でこれだけ馴染めるのは、大分驚き。

おもしれーじゃん?

「どう?もしかしら勝っちゃうかもよ?」
口許に笑みを作り、的とを見比べてる自分に言ってくるソイツ。
「ふーん・・・結構やるじゃん?」
自分も笑い返し、一刀目の矢を手に立ち上がる。
隼人と入れ違いに俺は啓太の隣の机に寄りかかって立つ。
真剣な眼差しで的を見据える隼人。
皆の視線が集中する中、負けじと見事なフォームで隼人が矢を投げる。
俺と隼人の攻防は互いに譲らぬまま、結構続いた。
しかし結果は、僅かな差で俺の負け。
「約束、覚えてるよな?」
「・・・ちぇっ、仕方ない 負けは負けだもんな。」
付き合ってやるよ・と言い捨てた
ゲームを見守ってた土屋達からも、僅かな歓声が。
それと同時に、また隼人の勝ちかよ・と賭けていた小銭を彼の手の上に乗せる。
このままじゃ悔しい、とやる気満々な土屋。
矢を持って的の前に立つ、その彼を茶化すように隼人が
「もう止めといた方がいいんじゃないの?土屋君」と一言。
隼人に日向が同意し、啓太は土屋に同意してる。
俺はその光景を見て、少しだけ口許が緩む。
一緒にいて楽しい奴等に会えた。
「!」

でもやがて気づかされる、何やってるんだ自分。と
こんなんじゃ駄目なのに、約束をもう違えないようにしてたのに。
盛り上がる彼等の隣で、あたしは言い知れぬ思いに駆られてた。
決心が揺らいでしまう事に・・