夜の邂逅
ゲーセンで、決意した。
これはもう自分が説得しに行くしかない、と。
何故か隼人達も同行する事になって 今皆で移動中。
心配してついて来てくれるのは、正直嬉しいんだけど
こんな大人数で行っても、宮崎さんは怖がると思うぞ?
言っちゃ悪いが、隼人達の見てくれは不良その物。
浩介なんて、一番不良っぽいんじゃない?
目つきが特に・・・
タケはね、怖いっつーよりも可愛いから
そんなに不良っぽくは見えない。
隼人は・・見かけからしても、平気だろう。
それに、ケンカを売られなければ大人しくしてる。
隼人もケンカっぱやいけど、女の子とかには優しいし。
竜はねぇ・・心配するには値しないかも。
服装は皆だらしない(自分もだ)けど
言ってる事も、誰よりも大人だし
こうゆう場には一番適してるだろうなぁ。
通ってた塾を探して、俺達は夜の街を歩き回る。
ケータイの時計を見れば、19時55分。
後5分もすれば、塾の時間は終わる。
それまでに、通ってた塾を見つけなければ
皆を付き合せてまで来た意味がない。
ちょっと気持ち的に焦りが俺の中に芽生えた。
そんな時だ、探してた宮崎さんの姿を見つけたのは。
駆け出して来た建物は、昔通ってた塾。
そっか、この通りに在ったんだ。
なんて懐かしんでると、また人が飛び出して来た。
宮崎さんは、その人物から逃げてる感じ。
まさか、また不良に絡まれてるんじゃ・・!!
そう思って駆け出そうとした俺の腕を、誰かが掴んで止める。
引き戻され、視線を向けると無表情の竜。
手元に目をやれば、ギュッと握ってる手を発見。
何で止めるんだ、と睨みつければ顎だけで前を見ろと示された。
誰かいんのかよ ってな感じで前を見て吃驚。
駆け出した宮崎さんに必死に叫んでるのは
担任の教師であるヤンクミだったのだ。
声が枯れそうな程 彼女は必死に叫んでいる。
「お願い、土屋を助けたいの!話を聞かせて!
このまま土屋を放り出す訳には行かないの、待って!!」
宮崎さんは、そんなヤンクミを振り切って
振り向かずに前へ向かって走って行ってしまった。
心が締め付けられた。
ここまでしてくれるヤンクミの姿に、目が潤む。
ヤンクミがここまでしてくれてる。
俺達の信じてなかったセンコーが、生徒の為に駆け回ってる。
明日には、理事長が処分を決めちまう。
「皆にお願いがある」
息を切らせて、宮崎さんの背を見て佇んでいたヤンクミ。
その姿を見ていた隼人達に、何時になく真剣な声音が届く。
何かを決意した声、視線を向けると前を見たままのがいた。
これはまた、何か考えてる顔。
「なんだよ」
「こっから先は、俺に任せてくれない?」
「なんでだよ」
「俺らだって、一緒に行く。」
「俺達がいたら、出来ねぇ事なんか?」
はい、ご指摘の通りです。
流石に鋭い竜、俺も隠す事なく頷いた。
君達がいたら絶対今後からかわれる。
「オマエ一人で大丈夫なんかよ」
「危ねぇ事じゃねぇんだな?」
からかわれてる様子を想像してた俺に
隼人と竜が、疑いの目で問いかけた。
これは確信を持って言える、この事は俺にしか無理。
まあきっと・・隼人と竜とタケなら似合いそうだけど(笑)
これはちっとも危なくない(と思う)。
何も言わずに、俺達のやり取りを聞いてるタケと浩介。
俺は皆を見つめ、大丈夫だと頷いた。
自信ありげに頷くを、しばらく見つめる竜と隼人。
勿論 タケも浩介も、心配そうな目で見ている。
そんなに信用ねぇの?
そう問うてみると、皆は渋々了承した。
気をつけろよ、と手を振って浩介が歩き出し
タケも明日学校でな〜と可愛くジャンプして歩き出す。
「何かあったら呼べよ?」
「サンキュ」
「無茶する前に連絡しろよ?すぐに駆けつける。」
「お、おう。」
竜の言葉に、隼人がギロッと目線を向ける。
当の本人はサラッと視線を受け流し、歩き出した。
余裕ある態度、つーか・・2人とも過保護だよな・・。
それぞれ歩き出した面々を見送り、苦笑。
頼もしい仲間と別れ、早速俺は家へ走った。
速攻でマンションに駆け入り、鞄と学ランを脱ぎ捨て
向こうの自宅から持ってきた服が詰まってる
洋服箪笥へ走った。
「えっと、何処だ〜多分持って来たと思うんだよ」
とかブツブツ言って探してるのは、制服。
実は、中学時代の制服を探してんのよ。
一緒に通った事はないけど、卒業生だって言えば騙せる!
じゃあ制服なんて、必要ねぇんじゃねぇの?
・・竜の突っ込みが来そう。
確かにいらないけどさ、念の為さ。
流石に、現役です!てのは厳しい・・よな。
まあいいや、とにかく急ごう!
期限が明日に迫った今、行動出来るのは今しかない。
久しぶりのスカート、足がスースーして変な感じ。
本来俺って女なのにさ・・今更スカートはくと違和感。
急いでるからって走ると、裾が揺れて危険!
だからって、歩く訳には行かない。
宮崎さんを説得出来るって自信はないけど
自分に出来る事は、コレしかないんだ。
宮崎さんの住所は何とか調べた。
あんまいい思い出のない中学時代。
それでも仲間の為、宮崎さんの為・・・
一生懸命駆け回ってくれてたヤンクミの為に
この役目は俺が引き受けるんだ!
夜の町を駆け抜け、調べた住所を辿り
目的の自宅に着いたのは午後20時30分。
この時間なら、まだ起きてるよな?
おばさんが入れてくれるといいんだけど・・うん?
俺は門の前にさっき街で見た者の姿を見つけた。
「ヤンクミ・・こんなトコまで来てたんだな」
寒さに震えて待っている久美子。
何だかいたたまれなくなった。
やっぱり、胸が苦しくなった。
だってさ・・ここまで心配してくれるセンコーって
今までいなかったし、こんな事させてるのが申し訳ない。
元はと言えば、俺が悪いのに。
つっちーも、ヤンクミも・・アイツ等にも心配掛けた。
もういいよヤンクミ、後は俺が引き受けるから。
は茂みから出て、門の前にいる久美子へ近づいた。
その際、二階の窓から外を覗いている宮崎さんを見つけた。
「もう帰れよ、後は俺がやる。」
肩を叩かれた久美子、声の主にだと分かったが
振り向いて仰天。
目を開いたり瞬きしたりした後、全身をくまなく見てから・・
「嘩柳院・・オマエ可愛いな、これなら矢吹と小田切も落とせるぞ」
「ちょっと待て!着目すんのはソコなのか!?」
「私は本当の事を言ったまでだ、元が女だから似合うぞ。」
「どうゆう意味だよ」
「まあとにかく、その格好どうしたんだ?」
チッ・・上手くはぐらかしたな。
まあいいか、今はモメてる場合じゃないし。
「普通に来ただけじゃ、断られるだろ?
俺も一応、あそこの卒業生だし 知ってるだろうから」
「ああ、確かに・・その知ってるだろうからって?」
「・・・俺んち、どんなんだか知ってるだろ?」
と、俺が言った途端 久美子はハッとして黙った。
嘩柳院家と聞けば、知らない人もいない華道家。
世田谷に居を構えた豪邸で知られてる。
俺は気づいてないけど、小田切家とも接点があるとか。
ヤンクミは、曖昧に笑って見せ そうだったなと言った。
「いいのか?オマエ、そうゆうの嫌いだろ?」
「つっちーが大変な時に、そんな事言ってられねぇよ」
「・・・本当、似たモン同士が集まってるよ」
「何か言ったか?」
「別に〜?ほら、行って来い。後は頼んだぞ」
俺の事を気にかけた言葉、短い時間しかいないのに
ヤンクミは一人一人の事を分かってくれる。
あんな石川よりも、生徒の事見てくれてる。
そんなヤンクミの為にも、俺は頑張るよ。
俺にしか出来ない事を・・