流転 五十章Ψ寄り添ってΨ



現八から受けたプロポーズ、俺は・・いや・・・私は一生忘れない。
里見が平和になって、八犬士も揃った喜ばしい日に
私は現八の傍にずっといる事を赦された。

出逢って、看病されて。
離れ離れになった時もあったけど、ずっと胸に芽生えていた。
貴方が・・・・好きだって想いが。

口では冷たい感じがするけど、大事な所で現八は私を護ってくれたし支えになってくれた。
いつの間にか私も、現八の傍にいて護ってあげたいと思うようになっていた。

玉梓の呪いの種を埋められた時ハッキリ分かったんだ。
現八を失いたくないって・・。

無くしていた記憶も戻り、最初来た時予想した通りの三十路だった事が判明。
玉梓が処刑されたのは、およそ今から10数年前。
現八よりも年上だったかもしれないんだ。

私はあの日、呪いの余波を受けてこの世界から
異世界へ飛ばされて、赤子として生れ落ちてしまった。
そして何も知らずにあっちの両親に育てられて今のこの歳になった。

そして・・・現八達に出会った。

長かったね、此処に辿り着くまで。
時の流れの中で彷徨い、流転を繰り返して此処に戻って来れた。

愛する人、大切な仲間と家族を手に入れた今・・
私はずっとこの世界で生きていく。


ΨΨΨΨΨΨ


捕らえられた足利成氏と、定正は戦いを望まない義実の元
和議を約束し、定正は解放された。
成氏はと言うと、律儀な信乃が城へ連れて行き『村雨』を献上。

それが父親との約束だったと、信乃は成氏へ言った。
『村雨』を手に取り、信乃と向き合った事で成氏は漸く己を取り戻した感じだった。
現八と大角を奉公にと申し出たが、見事な現八と大角のハモリが共にそれを蹴る。

思わず面白くて頬が緩む、現八は私の傍にいてくれるって言ってくれたもの。
今更成氏公に仕えたりはしない。

成氏が帰る際、男装していない私と目が合ってやけに驚いていた。
戦いの時にでも私を何処かで見たのかも、男装して戦っていた姿を。

姫、今までの非礼・・赦してくれ」
「は?」
「まさか姫君だなんて知らなかった」
「道節 顔を上げてよ」
姫様、お召し物が汚れてしまいます。向こうで義実様も待ってますから」
「親兵衛?今更止めてよ」

姫扱いなんて望んでない、壁を感じるだけだ。
信乃と道節、親兵衛が頭を下げるのを私は寂しく感じた。
大角は何か顔を赤くして非礼だと詫びてるし。

そんな風に謝られるような事、されたっけ?
に覚えがないのも無理はない。
大角が恥ずかしく感じてる出来事は、が化け猫の爪を浴びせられ大怪我をしたあの日。

看病の為に2人きりになってしまった事とか、毛野の冗談を真に受け
が皆に大好きと言って回ったあの事も含まれてるんだろう。
大角・・・純粋だなぁ。

「待ちなよ、は姫扱いは望んでないんだ。アンタ達はを姫だからって理由で遠ざけるつもりかい?」

ふと戻っていた毛野が現れて、皆へそう言った。
心の内を読まれてるような感じだけど、その通りだから驚いた。

毛野にそう言われ、皆ハッとしたように私を見る。
ずっと共に旅して来た仲間、それを今更態度を変えるのは失礼だと
皆感じ取ってくれたようで・・・

「すまなかった、そうだな・・でも殿でも変わらない。」
「俺達に色々な事を教えてくれたのはオマエだものな」
「私は私だ、ずっと信乃達の仲間だ。」
「じゃあ皆で伏姫の墓参りに行こうじゃないか」
「そうですね、色々と報告したいですし」
「報告があるのは、大角よりも現八達じゃないのか?」

「・・・犬坂」

誰よりも鋭い毛野さんは、私と現八の変化に気づいた感じだった。
意味深な言い回しに、ギロッと現八が毛野を睨む。
が その視線を避けて、毛野は墓参りだと言って皆を外へ誘い出した。

まあ・・当たってるけど、姉上に報告したいのはプロポーズの事だから私も外へ向う。
不機嫌そうな溜息を吐いてから、現八も着いて来た。
鬱蒼と茂る森や林を歩いて、八人の兄弟と私は歩いて行く。

平和な空、こんな日が来るのを里見の民達は待っていた。
空には太陽が輝き、黄金色をした大地を照らす。

「姉上、見えていますか?貴女が望み、待ち望んでいた今の里見が」
「・・・」
「私は沢山の人達に見守られて、この日を迎えられました。」

風が吹き、私達を包んでから消えて行く。

「そして私は・・・里見を永久に護る道を選びます。」
「・・・・

隣を歩く現八が私を呼び、穏やかなそれでいて強い目で見つめ
誰にも気づかれないようにそっと手を握った。
温かな温もりが嬉しくて、くすぐったくて笑みが零れる。

この人と共に、里見を永久に護る――


皆で姉上の墓前に挨拶をした時、役目を終えたように玉の字も
彼等を繋いでいた痣も、跡形もなく消えてしまった。

何だか寂しさを覚えた。
痣がなくなって、字もなくなってしまったら彼等を結ぶ物は何も無くなってしまう。
けれど、現八を始め 皆は言った。

「痣と字が無くなっても、ワシ等が結んだ絆は変わらぬ。」
「ああ、何も形になくても俺達は兄弟なんだからな」

そうだね・・・何も心配する事なんかなかった。
私達には、何よりも強い絆がある。
珠と言う形ではないけれど、見えないだけで絆は強く結ばれてるんだ。

安心して笑った私に、皆も振り向いて笑いかけてくれた。
その後、信乃と浜路。
私と現八の婚儀が行われた。

同時に行われた式、父である義実様もいたく感激してらした。
大事に育てた姫、どちらも途中で手元を離れてしまっていたから
幸せな姿と幸せな日を迎えられて、嬉しいんだろう。

勿論 私も嬉しい、父上にこの姿を見せられたのだから。


ΨΨΨΨΨΨ


式の後、八人の兄弟達は結んだ絆を胸に
それぞれの道へ旅立って行った。

いつでも会えるって訳じゃないけど、生きているならまた会える。
私達は仲間で、強い絆で結ばれた兄弟なのだから。



滝田城の最上階から景色を見ている背に、低くて色気のある声が掛かる。
他の誰でもない、私の愛した人・・現八の声だ。

隣に立って共に平和になった安房の姿を眺める。
これからは、姿も偽らずに在りのままの姿で傍にいられる。
いつでも傍に温もりがある事が、私に喜びを与えた。

これから私達が護っていく国。
私は大丈夫、傍に現八がいてくれるなら。
平和を取り戻す為に亡くなった人の分まで、私は生きて平和を護っていく。

「2人で護っていこうな?寄り添って、生ある限りずっと。」
「当たり前じゃ、ワシ等で保つんだ。後の世の為にな。」
「うん」

ずっと・・・命ある限り、貴方の傍で。
自分の運命を感謝している、玉梓にも姉上にも。

玉梓の余波を受けたのが始まりで、八犬士達を導く役目を貰い
皆に出会って、現八に出逢えた。

数々の運命に翻弄されたりもしたけど、辛くはなかった。
いつも傍に現八や皆がいてくれたから。
旅の中で培った絆と、覚えて取り戻した感情を胸に頑張らなくちゃ。

穏やかな日々と、現八・・彼がくれる温もり。
もう・・二度と失くさない様に。

私を育ててくれたお父さん、お母さん。
遠い世界だけれど、私は幸せになったよ。
二度と会えないけど・・・・空は繋がってるから。

私は此処から、そっちの世界の平和と2人の幸せを祈っていく。

有り難う。
ずっと忘れないからね。