流転 十三章Ψ呼び合う絆Ψ
「現八!!」
何の導きかは分からないが、再びこうしてまた逢えた二人。
は、嬉しさのあまり 涙を一筋流した後
駆け出して柱に寄りかかって座っていた現八へ抱きついた。
駆けてくるのを見た後直ぐに、ガバッと飛び込んで来た。
ふわっと香った芳しい香り。
最初逢った時から思っていた通りの、小さい肩。
小文吾達は、突然の出来事に吃驚して固まっている。
の背を撫で、たった一日しか顔を見なかっただけなのに
の元気そうな姿を見て、安堵しているのを現八は感じていた。
あの後、莫迦殿がワシの家に兵を差し向けやがったから
捕まってしまったと思っていた。
全身打撲で動けない状態じゃったから・・・
「お主、怪我は・・・?」
「ああ・・えっと、これは俺だけじゃ理解して貰えネェだろうから」
恥ずかしげもなく、正面から抱きついた。
現八も左程驚く事もない、普通にへ問いかけた。
何か雰囲気が作られてる二人を見て、中々声を掛けられない外野。
現八に聞かれ、直ぐに答える訳にも行かず
思わずそのままの体勢で考え込んだ。
今の体勢は、両膝を立てた現八の足の間に
両手を現八の肩に乗せ、膝を付いてる。
「な、なぁ・・その顔のいい人も描かれてるぞ?手配之書に」
傍目からは男同士が抱き合ってるように見える訳で
言い出し難そうに言った小文吾の言葉で、漸くが離れ
心外そうな目を、小文吾の持つ紙へ向けた。
此方を向いた事で、信乃にも現八に抱きついた青年の顔が見えた。
確かに、凛とした雰囲気の漂う顔をしていて・・・
此処で信乃は、ある事に気づき声を荒上げる。
「何処かで会ってないか?」
「え?俺?」
とか言ってみたけど、会ってるに決まってるじゃん。
バッチリ顔も見たし話もしたよ。
あの時女の格好で会ってて良かった。
紳士的な雰囲気のする青年には、どうして?と問い返してみた。
夢で会った時は、何も答えないで保留にしといたから
本当は話してしまおうかとも思ったんだけど。
「それより、怪我は平気なのか?あんなに酷かったじゃろ?」
「あ、ああそれは・・・」
「ハッキリせんのう、言えん事でもあるのか?」
信乃と話してるに、抱きつかれた時の位置のまま現八は質問を投げる。
自分の疑問が無視されてるのと、何か知らんが気分が苛立った。
此方に注意を向けさせ、ジッと見ながら待つと
それでもは返事に困ったように濁した。
理由が分からない為、下から見上げるように畳み掛ける。
だーーーー!そんな目で見るな!!
何かわかんねぇけど、そうやって見られると動機がするっ!!
つーか信じられると思うか?
夢の中に此処での姉が出て来て、触れただけで治してくれた。
何て夢みたいな話!
俺が現八側だったら絶対信じらんねぇもん!
そんなこんなで迷っている。
周りは現八とのやり取りが、凄く気になっていた。
信乃だけは、と呼ばれた青年の腰に在る刀が気になっている。
村雨丸に負けないくらい、立派に見える刀。
黒塗りの鞘の刀が二本。
何処かで、見聞きした事があるかないか・・信乃は1人考えた。
「その理由は後で言う、それより何を話してたんだ?」
「話を変えやがったな・・・まあいい、コレの事じゃ」
重い沈黙が続き、耐えられなくなったは
凄い無理矢理話しの軸を変え、自分が来る前に交わされていた事を聞いた。
さっきあの大きい人が、俺が手配されてるって言ってたのも気になるしさ。
ジロッと自分を睨んでる現八はこの際、見ないフリを決め込む。
その現八が質問の答えに指したのは、自分の頬にある痣。
自身の鎖骨にもある、あの痣だ。
その事を話していたって事は・・・・
此処にいる二人にも痣が?
の視界に、大きい人と綺麗な青年が映る。
大きい人の隣にいる子は、自然と関係者でないと除外。
「こちらさんに話しちまっていいのか?」
「問題はない、コイツにも同じ痣があるしの」
「それは本当か?犬飼。」
同じ痣がある、そう現八が言うや否
すぐさま反応したのは美青年な男の子。
隣にいる大きな人も、その言葉に反応してこっちを見た。
この反応からして、2人とも痣について知ってるみたいだな。
信乃の問いかけに対し、現八は頷いて返す。
現八が頷いた事で、信乃と小文吾の目も真剣さを増した。
その場にいる全員から視線を向けられ
痣を見せざるを得なくなった。
「ふぅ・・、ホラこの通り俺にも痣はあるが玉はない。」
「確かに、俺達と同じ牡丹の痣だ。」
サラシまで見えないよう気をつけながら痣を見せる。
捲られた隙間から、小文吾と信乃は痣を見つけて頷く。
皆が納得する横では不思議に思った。
見せた覚えがないのに、どうして俺に痣があるって断定出来たんだ?
手当てしてもらった時も俺は背中しか向けてねぇし。
まさか抱きとめられた時か?
急いで隠したから見えてねぇと思ったんだけどなぁ。
腑に落ちなさそうに首を傾げるを見て
小さく笑う現八、表情がよく変わって見ていて飽きない奴。
それでいて、多くの感情を表には出さない奴。
ハッキリ感情として見えたのは、不安げな顔とさっきの嬉しそうな顔だけ。
涙を流したのには驚いたが、アレは感情がついて行ってはおらん。
無意識に流れたというだけ・・・。
感情1つ1つは理解していない未発達の子供のようじゃ。
「玉・・、それなら某も聞いた事がある。痣は此処だ。」
不意に小文吾が立ち上がり、着物の裾を捲り上げ
右尻にある痣を見せた。
何とも微妙な位置にあるなぁ・・・
とかが内心思っていると、妹のぬいが痣が出来た理由を
子供の頃猪と相撲を取っていて出来たのだと、話している。
てゆうか猪と相撲なんか取るか?普通。
隠す事なく話す妹を恨めしげに見て、名前を呼んだ小文吾。
ふと、その懐が青く輝いた。
「うん?」
光に気づいた小文吾が、着物の懐に手を入れ
掴んだ物を手を開いて見せた所には・・・
光り輝く1つの玉、其処には青く輝く字が現れていた。
小文吾が取り出した玉を見て、驚きを素直に出した信乃が
呟くように浮き出た字を読む。
「悌の玉・・コレを何処で?」
「ガキの頃、飯の茶碗から見つけた。」
一方、柱に寄り掛かる様にして話を聞いていた現八が
突如反応すると、顔を信乃達の方へ向けた。
目を向けた先、現八は小文吾が手に乗せている玉を見ると
すぐに立ち上がって二人の所へ近づいた。
それから探るようにして、懐を探すと・・・・
「――信の玉・・」
「子供の頃、抜けた歯を土に埋めようとして見つけた。」
信乃も取り出した事で、同じ玉が三つ目の前に集まった。
集ったのは、信・孝・悌の三つ。
八犬士なんだし、後五つ探し出せば全員揃う。
その玉は、儒教での教えで『人道八行』と言い
人としてやるべき事を表しているそうな。
「同じ玉が三つあるなんて・・・何て偶然」
光景を見守っていたぬいが、呆然と呟くように言う。
それを遮るように、強い口調で信乃が言った。
「いや・・これは偶然ではない、玉が この玉が俺達を呼び合ったんだ。」
確信を得た信乃の言葉に、その場の皆が黙り込む。
姉上の御子達、ここに3人揃ったんだ。
命をかけて姉上がこの世に生み落とした子供達。
本当に、姉上が導いてくれたんだ。
姉上は俺に、子供達を導いて欲しいと言っていた。
どうすればいいかは分からないけど、俺が出来るなら・・・
大輔を助けながら、いい方向へ導けたら。
「失礼」
沈黙が支配していた部屋に、大輔の声が入ると
閉まっていた障子が開き、客室で待っていた大輔が入って来た。
大輔が来た事で、彼等に姉上の事が話される。