綺麗な顔をした男の人、風間さんと言う方と別れ
先に行ったであろう千鶴さんを追うようにして座敷に戻る。

襖を開けて中に入れば変わらず賑わっている座敷内。
ざっと見渡し、ふと気付いた。
先に戻ったはずの千鶴さんがいない・・・・

座敷からあの場所までは一直線、迷いようがない。
となると過るのは嫌な予感。

性質の悪いお客に個室に連れ込まれたかもしくは・・・・・・
浮かぶ不安を打ち消すように首を振り、この場を他の花魁に任せて退室。

けど、私は知らないだけだった。
同時刻に千鶴さんは別室で文を書いていた事を。
そして、別室を出た処で危機に見舞われた事も・・・


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「千鶴さーーん」

はしたないと怒られても構わないと言う気持ちで
私は葵屋中を探す勢いで歩きまわっていた。

言い様のない不安に襲われてしまう・・
私が守ると言い切っただけに責任もある。

「どうした?」

気付けば葵屋の裏口付近に来ていた。
一度戻り、改めて探そうと思った時かけられた声

振り向くと1人の青年の姿が闇に溶け込むように在った。
思わずビクッと肩が揺れてしまう。
そんな私に鋭い相貌が此方に向けられている・・・

けれど不思議と怖さはなかった。
私が人を探しているから気になって座敷から来てくれた人かもしれない。

「騒がせてすんまへん」
「いや、それより誰か探しているのか?・・その・・・千鶴とか言う女子を」
「・・・?へえ、そうどす、座敷に初めて来はった子で・・迷ってしまったみたいで」
「そうか、それならば俺も探そう。」
「けどお客はんにそないな事させられまへん」
「気にしなくていい、2人で探した方が早いだろう」
「えろうすんまへん。あしは奥を見てきます」

そのお侍さんは、風間さんのように整った顔をしていた。
濃紺の髪に鋭い瞳。
スッと伸びた背筋・・・・一片の隙もない。

相当の剣の腕なんだろうなと思わせた。
剣の事はからきしだけど、そう肌で感じたのかもしれない。
お侍さんと別れ、奥に続く個室のみの座敷を回る。

シーンと静まった廊下を1人歩くのは結構心細い・・
けれど千鶴さんを見つけるまでは・・・・

八つある部屋を全て見て回るが、人のいる気配すらない。
此処にはいないのだろうか・・・?
もうあの座敷に戻っているかもしれない、そう思う事にして明るい廊下へ向かおうとしたその時

「あれー?こんな処にいたの?太夫さん」
「え?・・・・あ、お座敷のお客はん?」
「駄目だよ抜け出してウロウロして〜」
「すんまへん、ちょっと」
「誰か探してたのかい?」

物陰に近い死角から現れた三人の男。
酒に酔っているのか、呂律が回っていない。

慣れ慣れしく肩に手を回し、顔を近づけたりしてくる。
1人は腰に手を回したりと酔いが手伝って行動が苛烈になって来ていた。

歩きまわっていたのを気に掛け、誰か探してるのかと聞く言葉は優しい。
それでも私は何処かで危機感を覚えていた。
だから何とか自然に腕から逃れて歩調を速める。

相手は三人、自分は女で相手は男。
着物の裾は長く動きに支障をきたしてしまい、距離はとれなかった。

早足になったのを不思議がる所か、追いかけっこでもしているかのように
楽しげに追いかけて来る始末・・・・
より一層増してくる危機感。

どうして追いかけてくるのか分からず、行き場は減って来る。
着物で自由が利かず、疲れていたせいか足がもつれ
襖を閉め忘れた個室の畳へ倒れ込んでしまった。

「きゃっ・・!」
「ほらほらそんなに慌てるからだよ太夫」
「鬼さん捕まえた、太夫の負けだね」
「にしても暗いなあ〜・・・・・」
「・・・・?」

倒れ込んだ私を案ずる三人の男の人。
帯刀こそしてないが、立派な侍。

相変わらず鬼ごっこの気でいるらしい・・・
だが、ある1人の目の色が変化していた。

突然言葉を切った1人の侍、その目が私を捉え
全身を隈なく眺めて行くのを見て、私は本能的に後ずさった。
この目を私は知っている、理性が保てなくなった客に多い・・

当たり障りなく立ち去ろうと思ったけれど時既に遅く
1人の侍の手が、慣れた動きで私を組み敷いていた――――

「なっ――」
「そうだ太夫、どうせなら此処で俺達と遊ぼうか」
「いいねいいね〜丁度暗いし雰囲気もいいしね」
「俺も最初から太夫と遊びたいと思ってたんだよ」
「お客はん、ちょっ・・・と落ち着いて下さいな・・っ」
「今更待ったはなしだろ太夫さん・・・・」
「そうだよ太夫さん、自分からこんな暗い個室で鬼ごっこして」
「今だってそんな恰好して誘ってるんだろ?」

言われて自分の格好を見た。
転んだせいで裾が乱れ、右足の太股が月光に曝されている。
慌てて隠そうとした手を掴まれ、頭の上に固定された。

こんなの違う!
こんなのただの強姦だ・・・っ

分かってはいても女の力では叶わず、着物の帯を解かれ
脚を開かれ、1人が間に入り脚を閉じられなくさせられる。

今更体を開かれても痛みすらない、それと同時に快楽もない。
こんな風にされては演技すら出来ない。
さっき別の方を探しに行ってくれたお侍さんが気付いてくれないだろうか

淡い期待をしてみるが部屋は一番奥で滅多に人も来ない。
どうしてか恐怖を煽られ、目に涙が浮かんだ。
その涙は暗闇で気付かれる事なく、男達は行為を進めて行く。

何処か遠い出来事のように思いつつ、演技せねばとも思い始めていた。