『ーー2人とも逃げて!』
驚く程切羽詰まった声で私は2人に叫んだ。
照と佐久間は吃驚していたが、私の形相から察し 急いで走り出し
走りながら振り向くと、プールサイドに走り込んだ女性の手には包丁が見えた。
多分、通り魔?分からないが兎に角怖かった
一気に意識が浮上し、やたらリアルな夢から覚める・・・見えた天井や室内に安堵する私。
良かった・・・夢か。
一安心し、隣の布団で眠る照を見た瞬間。
私の背筋は凍り付いた。
居たのだ、眠る照にぃの足元に。
誰かの脚が・・・あって、ね。
脛は見えないから多分お化けか・・・な?
え、マジで?マジなやつ?
知らせようにも何故か声が出ない。
喉が干上がったみたいに引き攣るだけ。
しかも女性の何某(お化けと言いたくない)は
移動し始め、照にぃの顔側へ向かって行く。
「!?」
ヤバい、それはヤバい。
照にぃ起きないかな、取り憑かれちゃう
それかあっち側?に連れていかれる!
それだけはダメだ、連れて行かせない
起きそうにないから私が守らなきゃ
何とか硬直してる体の感覚を取り戻そうと
手足に力を込め、気合いを入れる。
押さえ込もうとする力に抗うように振り払う
その瞬間、全身を抑え込む力がフッと消えた
「――照にぃ、照にぃ起きて!」
女性の何某がゆっくり近付く中
懸命に眠る照を揺さぶったり名前を呼ぶ。
が、微動だにしない・・・。
そうこうしてる間にも女性は近付き、
やがて照の真横に立った。
も恐怖でガチガチに震えたが、守ると決めたんだと女性を睨む。
髪が長く俯いてるが、顔は見えない。
しかしお化けには触れないのが生者。
どうしたら守れるのかなんて分からない。
截拳道の技を使っても無意味なのは分かる。
女性の何某がどんな動きをして来るのかが分からない中、必死には照を揺さぶり続けた。
そんな私を嘲笑うかのように
女性の何某は眠る照にぃへ手を伸ばしてくる
「――ダメっ!」
これにはパニックになった。
無駄だと分かってるが、夢中で照に被さる。
もう誰も失いたくないとは願った。
失ってから分かる親の大切さ。
何故人は失わないと気付けないんだろう。
親の大切さ、兄弟、姉妹、家族の大切さを。
には実弟が居るが、今は離れ離れだ。
しかも連絡は取れずにいる。
シェアハウスに来てからは兄が6人も出来た
唯一の身内、実弟と会えないもどかしさは全部この兄達が埋めてくれた。
そんな兄の1人、照にぃを奪おうとするのは
例え何某でも許せない。
(いやお化けって言えよ)
眠る照の首にしがみつき、ギュッと抱き締める。
恥ずかしさより守りたい気持ちが勝った
・・・・・・・・・?
どのくらいそうしてただろうか。
一向に女性が襲い来る気配はしなかった。
埋めてた照の首筋辺りから顔を上げ
辺りを見渡そうとした時、下から声がした。
「ん〜・・・?」
「照にぃ・・・良かった」
「なに?どした・・・?」
パッと見れば眠そうな照が目を覚ましている
何かされた風もなく寝惚けた姿に一気に安堵
忘れてた恐怖を思い出したら泣けて来た
一方の照は程よい重さと温もりに浸りながら目を覚ましたら、実際首に抱き着かれ
覆い被さるようにしてる末っ子を見つけ吃驚
今一状況が分からないがは泣き出している・・・自分が寝てる間に何かあったんだろか?
取り敢えずを落ち着かせようと背中を撫でてやった。
泣いてるには悪いが、すげぇ温かくてな
目は覚めたけどこのまま寝れそう
照が無事な姿に安堵しながら泣き、背中を撫でてくれる手の温もりにも安心した。
何となく照が起き上がる動きを察した。
「ちょっと起きるわ」
「うん・・・」
少し離れ、起き上がりやすくすると
掛け布団を捲りながら上体を起こした照。
枕元に置いてあるiPhoneを手に取り時間確認
表示された時刻は朝方の5時少し過ぎ。
今日の出発は10時、まだ5時間も先だ
しかしあの様子からしてワザと起こしたとかの可能性は皆無。
泣いてるしな・・・
兎に角事情を聞いてみないとな、と思い
自分の左側に座ってるを見やり
頭をポンとさせてから撫で、問い掛けた。
「んで、何かあったん?」
これに頷く、まあ無かったら泣かないだろう
・・・怖い夢でも見たとかかな。
「怖い夢、見た」
「んー・・・どんな夢か話せる?」
「・・・・・・うん」
まあ読みは当たった。
しかしそれにしてはかなりの怯え方で気になった。
聞かれた瞬間ビクッとはしたが
ゆっくりと布団の上に座り直した照へ話した
室内プールに照と佐久間とで遊びに来て
プールサイドで話していたら、通り魔的な
女性が入って来たから3人で逃げた。
逃げてる途中目が覚め、夢で良かったと安堵したら
実際夢に出て来た女性がなんと照の足元に立っていたらしい。
それを聞いた瞬間照もこわっ!と発する。
マジ笑えない、お化け屋敷撮影の夜に怪談話してその夜にの恐怖体験。
やば怖がすぎる
んでが言うには、その女性は俺の顔側に進んで来て手を伸ばしたらしい。
だから俺にしがみついてたんかな
コイツなりに俺を守ろうとしてたのかも。
にしてもいい匂いしたなぁ〜
風呂入ったからかもしれんけどさ(笑)
「なるほどな」
「・・・何か起こしちゃってごめん」
「俺の事守ろうとしてくれたんだろ?」
「無駄かもしれなかったけどね・・・」
「んな事ねぇよ、ありがとな」
「・・・めっちゃ怖かった」
「だろな・・・聞いてるだけでやば怖モン」
ちょこんと正座してるが可愛らしい。
怖かっただろうに俺を守ろうとしてくれたのが素直に嬉しかった。
話し終えたらまた泣き出してしまった。
確かにアレは怖すぎる・・・
体験したのが俺だったらみたいにやれたか分からん(笑)
嗚咽は我慢して涙だけ流すを苦笑して眺め、抱き寄せて再度頭を撫でてやった。
時刻は5時半、寝ようと思えば寝直せたが
この状態のを独りには出来ず
どうせならこの際起きる事にした照。
を抱き寄せたまま立ち上がり、電気を付ける。
「顔洗って来るか?」
「うん・・・」
「・・・一緒に行く?」
「行く!」
朝食までもまだ余裕がある為、テレビでも付けるかなと考えた照は
その前にへ顔でも洗うか?と聞いてみた
すると頷いた、しかしすぐには歩き出さない。
しかも視線は照に向けられている。
言わずもがな怖いんだろな、と察したので
一緒に行こうかと言ってみれば
分かりやすいくらい嬉しそうには頷いた
こうも嬉しそうに頷かれたら悪い気はしない末っ子パワー恐るべし。
歩き出せばその後ろを付いてくる。
カルガモの親子みたいで微笑ましい(笑)
洗面所に着き、顔を洗うを待ち
照もついでに顔を洗い、布団の方へ戻る。
布団がある和室は約8畳で中々広い。
そこから襖1枚で区切られ、茶の間がある。
テレビは茶の間に置かれていた。
目も冴えてしまったし、テレビでも見るか〜
と照は襖を開け、テレビの前まで歩いて行く
老舗旅館なせいか、テレビは年季が入り
昭和レトロなダイヤル式のテレビだ。
小銭を入れて見たいチャンネルにダイヤルを合わせ、視聴する感じ。
祖父母の家にあるか無いかの古さである。
「――っ!?」
だが照がテレビに近付いた時、異変が。
何故か分からないが前触れなく悪寒がした。
ゾクリと背筋を這うようなヤツ・・・・・・
の体験話を聞いたせいか分からないが
兎に角その一帯だけ寒々しい気配を感じた。
・・・こりゃあホントに出たのかもな
帰る時にアレ撒いとこう。
今やSnow Man全員が持参しているアレだ。
お清めスプレー、のも用意してやるか〜
と思いながら荷物の方に移動する照。
に気付かれないようにこっそり取りに行き
カバンの中からお清めスプレーを取り数回だけスプレーを吹き掛けお清め完了。
するとそこにが戻り、遠慮がちに来ると
視線は彷徨わせながら切り出した。
「照にぃ」
「ん?」
「朝食行くまで横に居て良い?」
「・・・さてはまだ怖いな?」
「だっ――あぁ、くぁっ!・・・・・・うん」
「ぶはっ、何そのリアクション(笑)」
なんか普通に可愛いなと思ってしまった照。
照自身もお化け系は得意ではない。
が、自分より怯えるを見ていると
怖がってられないな、と
兄貴として末っ子を守ってやりたい気持ち?
そんな気持ちが芽生えてたと思う。
「良いよ、隣来るか?」
「ありがとう照にぃ」
クスクス笑いながらだが快諾した照。
それを見たの顔がパッと華やいだ。
実に感情表現が豊かな。
素直に横に来ると、テレビを見る為座った照の隣に座り込みピタッと密着。
そうされても全く不快に感じさせない。
他人とのスキンシップが不得意な照や深澤ら
この2人すらの前では許している。
懐深く入り込むのが上手いのかもしれない。
それもまあ良いか、と照は思い笑った。
暫くテレビを見ていたが
次第にウトウトし始めたは軽く2度寝。
朝食までは残り30分程だが起こさず置いた。
「戦士の休息、だな」
スヤスヤ眠るを優しく眺め
小さくそんな事を照は呟いた。
Fin.
オマケ
スヤスヤ眠るを寄り掛からせたまま数分
扉がノックされ、応えた照。
しかし鍵は掛けてるので開かない。
開けに行けば済む話だが、動きたくない
・・・何か電話掛かってきた。
画面に出た名前は阿部亮平。
奴か、仕方ないから出ると不機嫌な声が・・・
『起きてるなら開けようよ鍵』
「んー、ただ寝てるからさ」
『でもそろそろ朝食だし起こそう?』
「気持ち良さそうに寝てるんだよね今」
『・・・ふぅん?起し難いなら俺起こすよ』
「良いけど俺動きたくないんだよね」
『なんでよ』
「俺に寄り掛って寝てるかr――」
『マスターキー貰って来る』
ブチッ、と通話は切れた。
よく分からんが最高に面白い反応だったな
でも結局最後まで何故阿部がマジトーンだったのかは分からず仕舞い。
この日最大の謎は残ったままだった。