ヤバイ凌ぎ
隼人と竜、タケにつっちーと遊んだ翌日。
俺達は通い慣れたカフェに、浩介を呼んだ。
勿論ヤンクミも自分達も心配している、仕事の話をする為。
金回りがよくなったのは確かだ、財布には常に万札。
身に付ける貴金属の高さ、どれを見ても歴然。
俺もホストしてっけど、それは家賃を稼ぐ為だ。
浩介が何で夜の仕事をするようになったかは分かんない。
けれど、もし本当にヤバイ仕事だとしたら手を引かせないと。
浩介を待つ事数分、皆それぞれに飲み物を注文し
店の扉を気にしながら過ごす事数分。扉が開いて浩介が現れた。
「おっ、久しぶり 元気?」
「・・何やってんだ、オマエ。」
「何だよソレ」
紫のベルベットに、いつもの柄シャツに身を包んだ浩介。
思わず尋ねてしまう程、雰囲気からして浩介は変わっていた。
タケが示した銀のネックレス、鎖型のソレを触りながら
笑顔で話す浩介、だがタケは何とも神妙な顔つきで話を聞いていた。
それは皆同じで、笑っているのは浩介だけである。
「いやぁ、オーナーにさ・・高ぇモン付けねぇと人の値打ちもあがらねぇぞって言われてさ」
言ってタケの隣に座り、その視線を辺りに漂わせた。
は、目の前の浩介をジッと見やる。
ホストじゃなさそうだけど、確かに金回りがいいみたいだな。
着てる物も、高校生が買える代物じゃない物ばかりだし。
ベルベットなんて高くて無理だろ。
が、観察するように視線を泳がせる中 タケが再び話を切り出す。
「学校来ねぇからさ、ちょっと心配だったんだ」
「俺さ今ちょっと忙しいんだよね、ホラさああゆう夜の仕事って実力勝負じゃん?その気になったら店長にでもなれるし」
同じ夜の仕事をしてる身として、浩介が言うのも頷ける。
けど、浩介はそっちの世界で身を固めるつもりなのか?
金は稼げるけど、安定してねぇ仕事じゃん?
俺は其処まで真剣じゃねぇから、店長やオーナーに伸し上がる気はない。
食べて行けるだけ稼げればそれでいいしさ。
浩介を認めてくれた人ってのは、業界じゃ名が知れていて
知らない人がいないくらいならしい。
だからその人に認められた浩介は、張り切らない訳には行かないと。
浩介だけが口を開く中、背もたれから背中を起こした隼人が口を開く。
「危ない仕事じゃねぇんだな?」
「は?え?何、急にヤンクミみてぇな事言い出して」
「オマエが心配なだけだよ」
隼人の言葉を聞き、不思議そうに戸惑った顔をした浩介に
飲んでいた飲み物のコップを置き、竜も真剣にそう言った。
だが、皆が浩介を心配して言う中で
当の本人は、思わぬ言葉を皆へ言うのだった。
「自分の心配した方が、いいんじゃねぇのか?オマエ等まだ就職決まってねぇんだろ?」
浩介の言葉に、皆顔色を変えつっちーは怒りの余り浩介に掴みかかった。
まるで仕事が決まってない事を、バカにされたかのような気分。
「つっちー!」
「おい、止めろって」
胸倉を掴み、柱に押し当てるつっちーにタケが止めに入り
竜が静かに2人を止める。
いつも仲がいいから、その分擦れ違う姿がには辛かった。
竜の声で、胸倉を離したつっちー。
何食わぬ顔をして浩介は上着を直し、懐からお金を取り出すと
テーブルに叩きつけるように置き、俺が奢ってやるよと言い残すとカフェを出て行った。
「何なんだよ、マジムカつく・・・!」
浩介が出て行った後の店内には、腹立たしげに言ったつっちーの言葉だけが響いた。
ΨΨΨΨΨΨ
翌朝。
何とも出来ないまま、それぞれが朝を迎え
心に抱えたシコリを抱え、学校へ登校。
もその中の1人で、ずっと考えを巡らせながら教室へ向かっていた。
あんなに変わってしまうなんて、と多少ショックもある。
誰かに期待され、競争率の激しい世界に飛び込んだだけでこうも変わってしまうのか。
「オマエが気に病む必要はねぇだろ」
「けどさ、俺も・・・・って竜!?いつからいたんだよ」
うーんうーんと唸っていたら、横からそう言われ
つい受け応えしそうになり、ハッと隣りを見れば鞄を背に担いで歩く竜の姿が。
足音すらしなかったぞ?
ドキドキと脈打つ心臓を抑えた俺。
あぶねぇ・・・危うく言いそうになったよ。
俺も夜の仕事してるから、ちょっと考えちまって・・って。
「ついさっき、オマエ呼んでも気づいてねぇからさ」
あぁ、呼んでたんだ(汗)
竜の言葉に、そう内心相槌を入れ会話を立て直す。
どうやらずっと呼んでたみたいだ、それすら気づかないで思い耽ってた。
タケとかつっちーなら、近づいてくると分かるけど
竜だけはどうも分からん、気配消してんのか?(まさか)
あ、そうそう。
一昨日、竜と隼人は俺に謝ってくれたじゃん?
気持ちを押し付けてごめんって、だから俺ゆっくり考える事にしたんだ。
ちゃんと2人と向き合って、よく見て、それから答えを出すって。
さて、取り敢えず竜と教室に来た。
教室に入れば、やはり浩介の姿はなく他はいつも通りの風景が。
学校に来てないって事は、やっぱり住み込みなんだろうか?
そんなに期待されてんの?
でもさ、どんなに期待してても浩介は高校生だぜ?
まるで・・・・・
考えに1つ、結論が出掛かった時
名簿と教科書、授業の道具を手にしたヤンクミが現れた。
なので、思考も途中でストップ。
やがてヤンクミは、生徒に挨拶をしてから出席を取り始める。
順調に読み上げる声は、日向浩介と呼んだ時に止まった。
少し寂しそうな顔で、今日も休みかと呟いた時 怒気を孕んだつっちーの声が教室に響く。
「ほっとけよ、あんな奴!心配する価値もねぇよ」
突き放すような言葉、理由を知る竜の顔がつっちーに向く。
浩介と仲の良かったつっちー、あんな風に言われたのが腹立たしいんだろう。
らしくない物言いが、クラスメイトとヤンクミの視線を集めた。
気になったヤンクミは、教壇を下りてつっちーに問いかける。
「何かあったのか?」
「ムカつくんだよ!」
「・・・一体、何があったんだ」
再度問うてもつっちーは何も言わず、ただ頭に来ている事だけは皆に分かった。
普段から仲の良かったのを見ているだけに、久美子は気になって近くに行った。
目の前に来た久美子に答えたのは、タケ。
ただ一言、昨日日向に会ったとだけ告げた。
「そしたらアイツ、もうオマエ等とは違うみたいな態度だったからつっちーが怒ってさ」
「就職決まったのがそんなに偉いんかよ」
「アイツがあんなんじゃなかったら、俺も素直に喜んでやったけど、何かそんな気になんねぇんだよね」
各々の言い分、あの態度は俺もショックだったけど
何か、このままじゃ駄目な気がする。
多分浩介は、道を踏み外しかけてんだ。
俺等が見過ごしたら駄目だと思う。
「だからもう、仲間じゃねぇって事か。」
が言いたい言葉は、やはりこの人が代わりに言ってくれた。
ポツリと呟かれた言葉が、むくれるつっちー達に届き始める。
「確かに日向は、ムカつく態度を取ったかもしれない。
だけど、将来の事が見えなくて自信がなくて 自分に出来る事
必死に探してるんじゃないのか?
そんな時、自分の事買ってくれる人が出てきたら そりゃ調子にだって乗るだろ。
でも、日向だって本当は、オマエ等と同じくらい不安なんじゃねぇのか?」
不安で不安で、誰かに止めて欲しくて、助けて欲しくて。
けれど、その一言が言えない。
ヤンクミの言葉を聞きながら、はかつての姿を浩介に重ねた。
正しいのかも分からず、ただ流されるままに進む。
自分で始めた事に、言い訳出来なくて戻れなくなってから気づく。
俺がそうだったかは分からないけど、事実を話せない時は不安でいっぱいだったから。
ヤンクミの言葉と、浩介の気持ち。
それはきっと、隼人達に届く。コイツ等は皆仲間なんだから。
ΨΨΨΨΨΨ
放課後、達はあのカフェに集まっていた。
今、隼人とつっちーがレトロなサッカーゲームをしていて
それを竜とタケ、俺が黙って見てるって状況。
あんな事もあり、ヤンクミの話もあってか
いつも以上に、店内は静まり返っている。
其処へ、ポツリと竜が言った。
「日向の奴、このまま学校こねぇのかな」
「確かにさ・・ヤンクミの言ってる事も分かるよな」
「ま、しょうがねっか。アイツ、すぐ周り見えなくなっちゃうしー」
「そうそう、チョー負けず嫌いだし?」
「そのくせすぐ色んな事忘れるんだよな」
竜の呟きを聞き、間を置かずにタケが言った。
自分達と同じように、浩介も不安で仕方ないって言葉。
将来に不安がない奴なんていない、そう思った事で浩介の態度も赦せた。
隼人もしょうがないと割り切り、聞き返したタケにそう答える。
これにはタケも、同意して浩介の性格を1つ挙げた。
一番腹を立てていたつっちーも、苦笑混じりに言ってすっかり場は和む。
「焦る必要なんてねぇんだ、心配しなくても浩介は1人で先になんか行かねぇよ。」
誤解も蟠りも解けた所で、は皆に言う。
つっちーは、置いて行かれた気がしてその不安を怒りで示してしまったんだと思う。
隣りを歩いていた浩介が、1人で先へ行くのが寂しくて。
まあ、そう言ったら絶対反対するだろうから言わないけど。
「・・・アイツまだ、見習い中って言ってたよな」
「うん」
「それなのに何か、金回りよくねぇか?」
の言葉の意味に気づき、竜は少し口許に笑みを作る。
つっちー達は分からずに眉を寄せたが、竜が再び話し始めたので意識が逸れる。
「夜だと時給たけぇんじゃねぇ?」
指摘した点が流石に鋭い、夜の仕事でも普通の仕事じゃないもんな。
俺と浩介がやってんのは。
浩介はホストじゃないとすると、何の仕事なんだ?
夜なのは確かだろうけど、同じ見習いの俺より羽振りがよさそうだし。
やっぱ・・・・・マジでヤバイ系だったりして。
「・・・・どしたの」
「いや、何かさ話が上手過ぎる気がして」
と同じ事を、どうやら竜も感じ取っていたらしい。
その全貌は、思わぬ形で分かる。
因みにはこれから例のホストの仕事が入っていた。