単に似てるってだけだろうに
全てはここから変わった。
この間違いで、あんなにも運命が変わるなんて
彼の運命を『死』から変えるには
此処から正さなくちゃならないんだな。
俺達が 生きて無事に還る為には・・・
第六章 ヤバイ気持ち
橋姫神社で、無事源氏の軍と合流したのは良かったんだが
ソコで会った朔の知り合いの、九郎(呼び捨て!?)が
突然訳の分からない事を俺に言ってきた。
木曾義仲の妾、巴御前だろう・・・って。
ちょっと待て 妾って何だよ。
現代に暮らしてる普通の高校生が、どうやったら鎌倉時代の武将の妾になれんだよ!!
何て言っても捕まるだけだな。
「何も言い返さないという事は、肯定の意か?」
怒鳴り返したいのを我慢したへ、九郎がそう問いただす。
そう思いたいなら、勝手に思ってろよ。
どうでも良くなって来た感じの、隣から小声で竜が話しかけて来た。
「オマエ・・・妾になってたんか?」
「してるかアホ!竜、オマエ・・真面目に聞いてんの?」
突っ込み甲斐のある事を言いやがった竜。
はなるべく、勤めて小声で怒鳴り返し疲れた目で見た。
疲れた目で見たら 真剣な顔になり、竜は続けてこう言った。
違うんなら、否定しとけよヤバイ雰囲気だし――と。
それもそうだけど、何かコイツってさバカが付きそうな位
真面目そうじゃねぇ?絶対簡単には信じなさそう・・・
でも確かに、ヤバ気な感じだし一応否定しとくか。
「その巴御前って人は女だろ?俺の何処が女なんだ?」
「何だと?・・・うん?その格好は男物か?」
「どう見たらコレが女物に見えんのか教えて欲しいね。」
「・・・・・・まあいい、オマエの事は後回しだ。」
後回しかよ(怒)。
まあ、話題が逸れたからいいけどさ。
あんま根掘り葉掘り聞き出すような奴じゃなくて良かったぜ。
あの人は男の格好で戦場に出てるからな、とか言って
切り替えされずに済んだよ。
「その辺でいいんじゃないですか?九郎。」
朔も口を出せない程の、険悪ムード。
それを払うようにして現れたのは、黒衣のフードを被り
手には錫杖を持った(美)青年が現れた。
無事見つかったんですし、と言ってその目が朔を見る。
どうやら、この人も朔がいた隊の人らしい。
黒衣の衣に身を包んだ人物は、朔と望美を見て話を始め
九郎の注意も逸れた時、譲が俺に話しかけた。
「本当に似てるんですかね、巴御前に。」
「さあな、俺達が知ってる巴御前って和絵くらいだし。」
「ええ・・けど会うのは危険ですね。」
「「何でだよ」」
つい声が揃って、隣の竜と互いに顔を見合わせ
特に言葉は交わさずに、その視線を譲へ戻す。
「義仲は、父親を義平に殺されて木曾山中で育てられ
木曾次郎と呼ばれていたんです。
それから木曾義仲と改めて、名を挙げたりしたんですが
征夷大将軍に任じられから範頼の義経に破れ、近江栗津原で戦死」
視線を戻した達に、譲は長ったらしい説明をしてくれた。
俺が間違えられた巴御前の旦那の説明だ。
歴史の教科書があるんじゃないかって位、完璧な説明。
これに驚き、納得している達の声に
温和な声が鋭く割って入った。
「随分と詳しく知ってらっしゃるんですね。」
ギクッとして振り向くと、笑顔で俺達を見る黒衣の青年。
その顔は笑ってるんだけど、怖さも感じた。
あんまり現代の事を話すとマズイかもな。
間者とかに間違えられでもしたら、隼人達と再会以前の問題になる。
ニコニコと微笑む青年の隣で、相変わらず此方を睨み付けてる九郎。
そんなに似てるなら、こっちの人にも言われるだろうか?
女顔って事で片付けてくれりゃあいいのに。
疑われたと思った望美が、懸命に弁解してくれてる。
譲だけではなく、俺と竜の事も誤解だと言ってくれた。
黒衣の青年は、その望美に微笑み
大丈夫ですよ・と言うと、俺と竜へ向き直り言った。
「確かに似てますね・・・ちょっと失礼。」
「は?・・・えっ!?」
ふうむ、と考える仕草をした青年。
それから何かを決めたように頷くと、突然腕を引かれた。
拒む隙も与えられず、青年に抱きしめられてしまう。
この行動に、全員が言葉を飲み込んだ。
俺を抱きしめた青年は、しっかりと肩を抱き
腰にも手を回す。
こっ・・・これは何!?コイツ何してんの?セクハラ!?
中々離してくれない力の強さと、見られてる恥ずかしさで
頭がパニックになる。
吃驚してそれを見ていた竜は、こっちを向いてる青年と目が合った。
竜と目が合った青年は、ごく自然にニコッと微笑む。
それを見た竜の胸に怒りと、説明しづらい気持ちが沸き起こり
気づいた時には、青年の腕の中からを連れ戻していた。
「やめろよ、アンタ一体何のつもりだ。」
「り、竜・・?」
「別に?あんまり似ていたので、体格を測ってみたんです。」
「体格?」
「ええ、細身でしたがちゃんと青年ですね。」
「て・・てめぇ・・・!」
測っただとー!?ちとこっち来い!殴らせろ!!
声にならない罵声、勢いづいた俺を竜が背後から止める。
竜がどうして止めてくれたのかは、分かんないけど助かった。
サラシ巻いてたから良かったけどさ・・あのままだったらマズかったよ。
確かめ方はムカついたが、こっちの青年が別人だと言った為
渋々ではあるが、九郎はそれ以上追求せず
平等院へと行く事を許可してくれた。
その平等院は、源氏が陣を構えてる場所だとか。
歩きながら朔が教えてくれた。
「九郎、僕達は凄い人達に出会いましたね。」
「うん?凄い人達だと?」
「凄い事ですよ、陰と陽の神子にそれらが合わさった応龍の神子」
「そうだな・・あの男、本当に別人なのか?」
恍惚とした顔で、望美達を盗み見る青年。
そんな青年の顔を真面目な面持ちで見返し、聞きなおす九郎。
あの確認では、納得が行かない様子。
疑いの念を拭い去れない九郎へ、クスッと笑うと
そのうち分かるんじゃないんですか、と暢気な発言をした。
「そうそう、申し遅れました僕は武蔵坊弁慶・・こっちは」
「源九郎義経だ。」
「「武蔵坊弁慶に、源義経!?」」
「譲君と君は知ってるの?」
「知ってるも何も、あの有名な弁慶と義経だよ?」
2人の名前に反応したのは、俺と譲。
歴史に詳しくない望美が、過敏な反応をした俺達を見る。
その中には、竜の姿もあった。
俺達の反応に、名乗った側も驚いている。
譲が望美に説明した時、頼朝の弟ですよと言ったら
九郎が怒ってた 朔も頼朝の事を鎌倉殿と呼んでた。
確か、鎌倉に居を構えてたからだったっけ?
「よく知ってんな、。」
「よく知ってんなって、竜は知らないんか?」
突っ込みも人の心を読んだりするのも鋭いから
ってゆうか、落ち着いてるから詳しそうに見えたけど
俺にしたら、竜がそうゆうのを知らない事の方が驚いた。
聞いてみれば 興味ねぇし、とゆう返事が返ってくる。
そういやぁ、タケが言ってたっけ?
アレ?センコーだったっけな、竜は中学の時から悪だったって。
サルワタリの言った事なんか、信じたくねぇけど。
その通りだったら、竜が歴史の勉強を真面目に受けてないって事だし
あんま詳しくないのも、頷ける。
「つーかさ、オマエあいつには気をつけた方がいい。」
「アイツ?あぁ・・弁慶さんな、確かに身の危険を感じたよ。」
「身の危険?そっちのケがあんならな。」
「ケ?何の事だ?」
「・・・別に」
アブね・・・竜は、鋭そうな弁慶さんに気をつけろって事で。
女だから気をつけろって意味じゃなかった。
違う風に受け取ったみたいだから良かったぜ。
それとそっちのケって何の事だ?
聞こうにも、別の方をしげしげと観察し始めた竜。
今はいいか、と九郎達の話に聞き入ったを見てふと竜は思った。
どうしてあの時、あんなに怒りのような感情が沸いたのか。
アイツは同じ男だ、別に体格を測るくらいなら何とも思わないはず。
何でだ?あの男と目が合った時、体が熱くなった。
そっちのケがあるのって、俺の方か?
自嘲気味の笑み、そう気づいても気持ち悪い気は起きない。
女と間違えられた、肩幅が小さいのは自分も気づいた。
教室で抱きとめた時も、雪原で助けた時も・・・
それに気づいたからか?あんな風にされてんのを
嫌だと思っちまったのは。
とにかく、理由はどうであれを守れるのは俺だけ。
隼人達はいない、アイツ等に会えるまでは俺が・・
を 守る。
九郎は敵情報を伝えられ、一人戦場へ向かった。
達と平等院で再会する事を約束して。
弁慶さんが言うには、源氏の敵は平家で
京を支配?しようとしてる。
木曾も京を狙っていて、九郎はその防備にあたってるのだとか。
極めつけは、俺達が知ってる源平の戦いとは違った話。
平家は源氏との戦いに勝つ為に、怨霊を軍として使役してるらしく
この辺にも、その手が伸びて都の外は怨霊だらけらしい。
さっき倒した骸骨がソレ。
とんでもない世界に来てしまった。
望美はその怨霊を、封印出来る唯一の存在。
源氏の為に、民の為に力を貸して欲しいと弁慶さんは頭を下げた。
優しい望美は、譲が反対するにも関わらず了承し
源氏と共に行動する事を口にした。
何処も行く宛てのない俺達も、源氏と行動するハメとなる。
一体どうなっちまうんだろう・・・生き抜けるか?
学校で感じた不安、それはこうして現実の物となった。
神妙な顔で黙った俺に、隣から竜が俺に言った。
ちょっとドキッとするような言葉を。
「アイツ等に会うまでは、俺がを守るから
戦いの時とか、なるべく俺の傍にいろよ。」
なあ 竜・・・それは、俺が女って気づいたからか?
声に出される事のない言葉は、雪原に吸い込まれた。