White or Black



真夏の季節。
風物詩と言えば、花火とかお祭りと言うだろうが
もう一つ、絶対暑い日には避けて通れない自然現象がある。

雷だ。

あたしは大の苦手。
どうして嫌いになったのか、それは分からない。
物心ついた時には、嫌がるようになってた。

普段のあたしは、気が強くて口も悪くて
男友達とか、女友達とかとワイワイ騒いでるタイプ。

だから尚更、こんな失態を見せられない。
こんなあたしにも、最近彼氏が出来た。
信じられないようなレベルの相手。

普通に暮らしてて、よく出逢えたなぁと想うような。
勿体無いくらいの容姿。
けれど、性格に癖があるんだよ。
見かけだけ見てるからなのか分からないけど

天使みたいな顔してるのに、小悪魔的な部分もある。
意地悪が好きな奴。
本格的な意地悪じゃないけど、人を困らせるのが好きらしい。

でも嫌いになれない、それだけ好きって事か。

彼氏の名前は、上田竜也。
人気急上昇中のグループの一員だ。
出逢ったきっかけは、まあいいとしようよ。

今日はオフな竜也。
1人暮らしが定着し、来慣れた竜也の部屋にいる。
スッキリと片付けられた部屋、どっちかって言うと無機質?
でも、竜也らしいと言えばらしい。

クーラーの効いた涼しい部屋で、互いに読書。
付き合ってるなら、もっとイチャイチャすべきなんだろうが
本を読んでる時は別なようだ。

あたしとしては、してみたいけど
自分から言うのが恥ずかしい。
けれど自分からは言いたくないってゆうか・・
言わさせようとされてるみたいで。

チラッと竜也を見れば、洋書を片手に窓際に座ってる。
スゲー様になってるよ・・・。

あたしが読んでるのは、普通の文庫。
勿論持参したヤツ、竜也の部屋にあるのは大体洋書だから。
てゆうか何、読書につき合わされてるだけなの!?

会話も全くと言っていい程ないし。
流石に飽きてきて、外の景色に目をやった。

サンサンと太陽が空に輝いて、何処までも広がる青い空・・・

と思ったが、青空は広がってなかった。
空に広がってるのは、すっごく怪しげな雲。
これはもしかして、夕立ッスか!?

マズイ!失態を見せる前に帰らないと!

「ね、ねぇ竜也。」
「・・・ん?」
空の怪しさに、逸る鼓動を落ち着かせ
読書に耽ってる竜也を呼ぶ。
すると、集中してるかと思った竜也が案外早く反応した。

今はそれに驚いてる余裕もなく、遠慮がちに
その旨を竜也に話していく。

「あのさ、今日はそろそろ帰りたいんだけど・・・」
「飽きた?」
「いや、そうじゃなくて雲行き怪しいし洗濯物しまわないと。」
「・・が洗濯物?珍しい。」

妖しい視線が、上からあたしに注がれる。
色っぽいなぁ・・全く。
じゃなくて!マジで帰らせて欲しいんだけど!!

この目は間違いなく疑ってるだろう。
普段のあたしは、それこそ真面目に家事の手伝いはしない。
一応 それなりに料理くらい出来るけどさ。
雨が降りそうな日にも、気にはしてても口にしない子でして・・

それを知ってるからか、竜也の目は妖しく細められてる。
その目危険だけど、好きッス!!←バカ

「今日ウチに誰もいないから・・・」

と、口にした時 遠くの空がゴロゴロ鳴った。
嫌いだから敏感にその音を聞き取る。
その瞬間、口角が引きつった。

あたしの様子と、交互に竜也は外を見て
ゆっくり椅子から立つと、本をテーブルに置いた。
何をするのかと見ていたら、あたしの前に来て言った。

「まだ帰したくないんだけど」
「!?」

マジ赤面、殺し文句とはこうゆうのを言うのだろうか。
今の竜也は天使?それとも小悪魔??どっち??
反応にマジで困った。

あたしの答えを待ってる竜也。
余裕そうだ・・こっちは怖さとドキドキ感でパニくってんのに!

背後の空が、淀んだ色へと変わり
ゴロゴロが近くなるのを肌と耳で感じ取る。
妙な緊張感に、あたしは包まれた。

「そろそろ雨降ってくるし、ん家おばさんいるでしょ?」

どうして知ってんの!?あたしはそれが知りたい!!
喋りながら近づいて来て、顔の横に手を置かれた。
壁と竜也の間に、挟まれてしまったあたし。

竜也が指摘した通り、そうこうしてる間に
空は泣き出しそうな程、淀み始めてた。

この状況でドドーーン!!とか鳴ったらマズイ。
苦手なのが一発でバレるって。
それをネタに意地悪されそう・・・。

ああー外が気になる、雨なんか降ったら帰れないし
2人きりに今なると・・・どうしよう。

「もしかして、苦手?雷。」

ドッキーーン!

いきなり図星を付かれた!!
誤魔化せるか?自分。
顔に出てそうだが、シラを切る事にした。

別に・・と視線を逸らして言えば、近くで竜也が笑った気がしたが
確かめる前に、その綺麗な顔は傍から離れて行く。

竜也の左耳のピアスが、しゃらりと揺れた。
動作の一つ一つにさえ、意識してしまう。
見ずにはいられない人。

「ふーん、なら1人でも平気だよね?」
「・・・え?」

あたしから離れた竜也は微笑んでいて
サラリとそんな事を言ってのけた。
マジで言ってるのか、中々真意が分からない。
きっと今の竜也は、間違いなく小悪魔だ。

唖然として聞き返せば、彼はニコニコして言葉を続けた。
どうやら、1人でも平気なら留守番してろと言いたいらしい。

それでどうするのかと聞けば、読書の友にと
飲み物や食べ物を、調達しに一階に行くとか?
良かったような、寂しいとゆうか・・。

日は隠れて、雷鳴と光だけが支配する部屋。
そこで1人きり・・竜也がすぐ戻るとも限らないのに?

独りで待てる?

特に何も言わないのを肯定と見たのか
竜也がドアへと向かい始めた。
決断早すぎ!と思って、呼び止めようと袖を掴んだ時。

物凄い轟音が、大地を貫いた。
ピカッと眩しい光が、一瞬室内を明るく照らす。

「・・・っ!!」

すさましい音に、悲鳴を噛み殺して掴んだ袖に顔を寄せる。
袖を掴まれ、振り向いた竜也はそのまま顔を寄せられて
驚いた顔をした。

余韻の強い轟音、それが落ち着くまで
あたしは身動き出来なかった。
怖かったのもあるし、この反応でバレたかもしれないから。
続く沈黙中、竜也の匂いに落ち着きを取り戻した頃

本人の声があたしに降り注いだ。
真剣に気遣ってるような感じの声で。

「平気?」
「あ・・うん、平気平気!」
「怖いなら怖いって言えよ、別に恥ずかしくなんかないから。」

珍しく、ホントに心配してそう。
竜也の意表をついた言葉に、固まってしばらくその顔を見つめた。
すると、あたしの視線に気づいた竜也が 不意に腕を伸ばす。
その動きを、ただ眺めていたあたし。

細いけどよりは大きくて、骨張った手。
腕を動かした竜也は、必死に袖にしがみついてる
頭を優しく包んだ。

そのまま、引き寄せられて頬は竜也の鎖骨へ当てられる。
竜也の付けてる香水が、フワッと漂った。
急速に跳ね上がる心臓。
平然とあたしを抱き寄せた竜也、限りなく色っぽい声で言った。

が俺にいて欲しいなら、ずっといるけど?」

それはつまり、一緒にいてと言えって事ですかい?
うわーやっぱり小悪魔だ!!
策士なんだ!!こっぱずかしい台詞は他人に言わせたいんだ!

ここで素直に言ったら、絶対調子に乗る。
『いて欲しい』なんてあたしからは言ってやるもんか〜

さっきまでのムードは何処へやら、結局このパターン。
思い通りに動くのも癪だから、すぐ言うのは止めた。
その間も外は雷のオンパレード。
耳を塞ぎたい轟音が、鳴り響いている。

「無理しなくていいのに」
「無理なんかしてないよ」
「まったく・・頑固だなぁ、は。」

他人の性格どうこう言うより先に、その性格直してよ。
綺麗な顔の竜也へ、内心で毒を吐く。

きっとこの顔に騙されて、何人も泣かされたのかもしれない。
危うく騙されそうになった。
でも心底嫌いにはなれないんだよね。

かと言って、恥ずかしいから自分から甘えられない。
ならば何とか帰るっきゃない。

「何処行くんの?
「家に帰るの」
「鳴ってるのに?」
「そうよ?竜也がいなくても平気だもん。」

立ち塞がった竜也へ、勤めて怒った顔で答え
押し退けてでも帰ろうとしたが。
とっても強く抱きしめられて、それは叶わなかった。

ハッと見ると、後ろから竜也に抱きしめられてた。
いきなりの事に吃驚して体が熱をもつ。
しばらく困ってたら、背中から声が届く。

「ごめん、意地悪だった。何処も行くな。
にいなくなって欲しくないのは俺だから。」

手放せなくなったのは、俺なんだ。
大事だから、どうも意地悪してしまう。
愛しくて つい構いたくなる。

本当はいつも、傍にいて欲しい。
甘えたり 甘えられたりしたっていいし、したい。
の傍は、凄く居心地がいいから。
でも その心地よさに慣れてしまう自分を認め難くて・・

「俺の前では、ホントのでいいから。
そのままでもは可愛いし、大切なのはホントだから。」

何処へも行くな――

そう呟いて、もう一度強く 強く・・抱きしめられた。
直に伝わる熱と、吐息を吐くような艶めいた声。
信じられない、真意の分からない竜也が始めて口にした言葉。

「あたしだって、竜也の傍にずっといたいよ?」
「・・・それホント?」
「嘘言ってどうすんのよ、あたし自ら苛められる程Mじゃ・・・」
「良かった!それ聞いて安心した!」

自分の声と、雷鳴が重なって腕の中の
甲高い悲鳴を上げると、クルッと振り向いて俺に抱きついた。

そんな可愛らしいを、独り占め出来るのは俺だけ。
の口から、傍にいたいって聞けて
自分でも驚く程、嬉しく思う自分がいた。

「怖がってるトコも全部、俺は好きだよ。」
「!!!!」
「わぁ・・すっごく赤いよ?の顔。」
「竜也のせいでしょ!!」
「あはははっ」

無邪気に騒げるこの一瞬が、とても愛しい。
どうかこのまま、穏やかな時が続きますよう。
Sっ気が強い俺だけど、君の事は何よりも大事だから。