彼女の嘘



「隼人さ、俺に言ったよな 好きだって。」
「ああ、言ったけど?」

突然切り出された言葉。
俺は勿論返事が貰える物だと思い、返事と一緒に視線も向けた。
視界に映ったは、特に変化のない普通の顔。
困ったり、赤くなったりはしていない。
何か・・あんまいい返事は期待出来そうにねぇな・・・
直感的に思った事、それでも直接本人から聞きたいと思い
俺は辛抱強く が喋るのを待った。

「あのさ、俺 好きな奴がいるんだよね。」
「・・・それは、俺以外の奴か?」
「うん」
「即答かよ・・・」
「誤魔化して欲しかったの?変に期待させられてるのもヤだろ?」

何だこの開き直り具合。
てゆうか、言い方がそっけねぇっつーか?

完璧に寄せ付けない返事を返され、俺は肩透かしを受けた気分。

「じゃあ、誰が好きなんだよ。」
「言わなきゃ駄目か?」
「・・聞けば諦めがつくかもしんねぇし。」(諦める気なんてねぇけど)
「うーん」
「分かった、竜だろ。」
「ううん」
「じゃ・・タケ?」
「いんや」
「つっちー??」
「違う」
「じゃあ・・日向か?」

諦める気なんて、毛頭ないが本命聞きたさに口実を作る。
そうしてから問いただすが、全ての名前には首を振った。
おいおい、他に該当する奴なんているか?
主な仲間以外に思いつかず、質問に行き詰っている俺に
爽やかな笑顔を向け、が正解者の名を挙げた。

「ぶっぶー!正解は・・狩野でした。」
「はぁ!?」

唇を尖らせ、可愛らしく言った
彼女が出した名に、思い切り吃驚して俺は叫んだ。
狩野は隣のクラスの奴で、最初は自分の妹の為に
竜神学園の奴等の言いなりになって、を襲った奴。

一体何処でそんな気持ちが芽生えたんだ??

「何で狩野?アイツ、の事何とも思ってないかもしんないじゃん」
「それでもいいだろ〜好きになるのは自由だし。」

俺が勝手に想ってるだけだしな、そう言った顔は悔しいくらいの笑顔で
にこんな柔らかい顔をさせてるのが自分ではなく
狩野だと言う事に、俺の心が軋む。

「ふーん・・じゃあ俺がの事想ってるのも自由だよな。」
「・・・は?」
「は?じゃねぇーよ!前にも言っただろ、俺はが好きだって。
その気持ちはかわんねぇから。」

吃驚した、隼人って結構一途なんだな・・。
カマ掛けてみたけど、ストレートにまた言いやがる。

色気のある目に見つめられ、心の隅でそんな事を思う
幸せだな、俺って・・隼人に此処まで想われてるなんてさ。
でもまだ応える事は出来ない。
そうする事で、何かが変わってしまいそう。
そんな気がして 踏み切れずにいる。

「でも俺・・」
「わぁってるけど、はどうして狩野がいいんだよ」
「それは・・・」
「あんな事されたからか?そうさせちまったからか?」
「隼人・・」

が、あんな事されても それでも好きになったんなら
俺も潔く諦める、けどな半端な気持ちとか
単なる同情で思ってるなら、俺は納得できねぇ・・・!
を大切に思う気持ちは、俺の方が絶対勝ってる。

「そんな事での気持ちが手に入るなら、俺だってやるよ。」

真剣な目・・隼人ならやりかねない。
隼人が本気になれば、俺なんか抵抗なんて出来ないだろう。
本気で拒む事だって出来なさそうだ。

「ちが・・っ」
「どう違うんだよ、どうすればいいんだよ!」

頭がむしゃくしゃする!これじゃあただの嫉妬だ。
そうだ、俺は狩野に嫉妬してるんだ。
いきなり現れて、の同情を手に入れて
何にもしないでの心を持って行きやがった狩野に。

目を瞑って叫ぶ隼人、彼は本気で言ってる。
本気で俺の事想ってくれて、本気で悩んでくれてる。
これ以上続けるのは俺も辛いな。

「オマエが答えられねぇなら、狩野に聞いてやるよ。」
「ええっ!?隼人!マジタンマ!違うんだって!」
「何がどう違うんだよ!」
「あ゛〜もう!だから!」

本当の事を言おうとしたのに、頭に血が昇ってる隼人は
悩むよりも相手に話しを着けに行こうとし
教室を飛び出そうとしてた。
ギリギリでそれに気づき、慌てて隼人に後ろから抱きついて止める。
思い切り抱きついて止めるへ、カッカした隼人が問い返す。

「今は何月か言ってみろ!」

暴走気味の隼人へ、俺も口調荒く言った。
問われた隼人は、ピタッと止まって考える。

今?何月だっけ?
拒否出来ない問いかけに、俺はケータイを開き
画面に表示されてる月を見た。
・・・四月五日。画面にはそう表示されていた。

「四月五日?」
「そう、そんで今月はエイプリルフールがある月。」
「は?だってそれは一日じゃん、今日五日だぜ?」

とっくに過ぎてじゃん、と言われ俺はムッとする。
そんなの言われなくたって知ってるわ!

「いいだろ、不意打ちみたいで吃驚しただろ〜隼人♪」
「ほぉ?じゃあ何、狩野が好きな人ってのは嘘?」
「当然、全く隼人ってばマジに怒るから焦ったよ。」
「(人の気もしらねぇでコイツ・・!)」

ケラケラと軽快に笑う、その姿に安堵したが
上手く騙された事への腹立たしさも沸き起こる。
これは何か仕返ししなきゃ、気がすまねぇな。

抱きついたままのを、逃げられないように抱きしめ
線の細い顎に指を宛がい、クイッと上を向かせる。
急に上に向かされた目線 その先に不敵な笑みを浮かべた隼人。
さっきよりも近づけられた距離に、今度こそ頬が高揚した。

「なら聞くけど、の好きな奴って誰だよ」

低くて甘く掠れた艶やかな声。
それで聞かれると、俺って弱いんだよっ!
絡め取られて身動き出来ねぇ〜って感じ。
隼人なら、声だけで人を魅了出来そうじゃねぇ?

「う〜〜〜〜〜〜内緒!」
「内緒?あっコラ!逃げんな!」

何とかそれだけ言うので精一杯。
間の抜けた顔をした隼人の隙を突いて、俺は猛ダッシュ!
後ろの方で、隼人が怒鳴ってたけどそれどころじゃない。

今は勘弁して、気持ちが決まったら必ず言うから。
それまでは、俺の事見守ってて。
呆れずに 俺の傍にいて?

きっと 隼人には一番に教えるから・・・。