運命の悪戯
気持ちよく一杯やって(オマエは学生)帰る途中。
は前方から来る人物を見て、一気に酔いが醒めるのを感じた。
「なっ・・・何で隼人と竜がいるんだよっ」
そう、隼人と竜は見知らぬ人を両脇に支え
ヨロヨロと歩いてくる。
何処かに隠れようと思ったが、生憎の見晴らし。
隠れられる所が全くの皆無。
ヤバイ、まだ仲直りするつもりないから会いたくねぇのに!
「わりぃなぁ・・兄ちゃん」
「何でこんな事になんだよ・・・」
「重いっ・・・家どっちッスか」
「あっち」
「・・どっちだよ(怒)」
どうすべきかオドオドし、取り敢えず陸橋の影に隠れてみる。
一方隼人と竜は、文句を垂れつつも
支えて歩く男に家の方角を尋ねる。
返って来た言葉は、特定の範囲ではなく広範囲を指し
それでも仕方なしに歩いて行くと、酔っ払いの男が何やら言い始めた。
「あ〜飲み過ぎちまった、こんなトコお嬢に見られたら怒られちまうよ」
「「・・・・お嬢?」」
「ウチの四代目だよ」
「四代目って・・」
「ヤバイ関係かも」
しかも、その内容は普通に考えても、ヤバイ関係を匂わす。
逸早く感じ取った竜が、男の言葉を復唱した隼人の顔を見て言う。
「ウチのお嬢は美人でよぉ、喧嘩はつぇし、頭はいいし・・何処に出しても恥ずかしくねぇ・・大江戸一家 自慢のお嬢だ」
「「大江戸一家?」」
酔っ払いの男は、非常にごきげんでそのお嬢と大江戸一家の事を2人に言う。
大仰な家名に、思わず2人は足を止めて男の顔を見つめた。
これはいよいよ危ない系かと思った時、男がよろけた。
一気に隼人側に重量が圧し掛かり、勿論支えきれない隼人がつられてよろける。
不運にも、よろけた先に隠れていたがいた。
「わわわー!!」
「えっ!?」
「隼人!」
体勢を変えようにも、重さに逆らえずよろけた隼人。
悲鳴に近い声を上げながらだったせいもあり、も気づいた。
隼人と何か凄く重そうな人が連なって、自分の方に倒れてくる。
その向こうで、慌てた様子の竜の声が聞こえた。
ドシーーーン!!
竜の声を最後に、視界は真っ暗になり
2人分の人間に押し潰された。
ぐぇえっ・・・ぐるじぃ・・・・・
余りの重さに、息が出来なくなる。
誰でもいいから、早くどいてくれ!!
「おいっ隼人!平気かっ?」
「ああ・・それが、あんま痛くなかっ・・・・・!?」
「――!!」
2人分の体重を、1人で受けたの意識が飛びかけた時
体を起こした隼人の下に、竜は見つけた。を。
思わず竜は、酔っ払いの男を突き飛ばし
隼人をも押し退けて、下敷きになっていたを抱え起こした。
竜に退かされた隼人も、意外な人物を下敷きにしていた事に驚く。
「ヤベッ!おい、!しっかりしろ!!」
「ううー」
慌てて竜に抱え起こされたに近づき、肩を揺する。
もうすっかり酔っ払いの事は無視していた。
女のが、男2人(1人はエライ太った人)の下敷きになってしまった。
は、2人絡みでよく巻き込まれる。
っつーか、俺変なトコ触ってねぇよな??
受身とったし、変なトコは触ってねぇよな・・・?
を心配する傍ら、倒れる際変なトコを触ってないかが気になった隼人。
記憶を振り返って確認、自分に自問自答して念を押し
触ったりしていないと気づいてホッと息を吐く。
それから気になった、バイトの帰りにしちゃ遅くねぇかって。
ケータイの画面の時刻は、夜の22時半。
営業時間が遅くなってきているとしても、遅い時間だ。
「、平気か?」
「あ・・ああ・・・」
声を掛ける事数分、うっすら目を開けてから
ハッと大きく目を開けた。
あんな事を言ったばかりでこの対面、実に気まずい。
けれど竜は、そんな事関係なしに自分の事を心配して声を掛けてる。
無視するのは人としてどうかと思い、は曖昧に頷いた。
ΨΨΨΨΨΨ
この日ヤンクミは、白鳥先生の付き合いで
馬場先生や、九条先生らと遅くまで飲んでいた。
それは、白鳥先生の運命の人についての話。
相談役としてついて来たヤンクミだったが、九条先生に熱を上げてるヤンクミを慕ってついて来ていた舎弟。
テツ(白鳥先生の運命の人)と鉢合わせ、適当に嘘を言って変える途中だった。
「私が大江戸一家の孫娘だって知られたら、私は学校にいられなくなるんだぞ?」
「本当に申し訳ないっす!」
慕っている久美子の機嫌を損ねてしまい、かなり慌てているテツ。
彼が頭を下げたタイミングで、ヤンクミの前を
スーツに身を包んだ浩介が通り過ぎて行った。
浩介と一緒に男が歩いていたが、それには構わず浩介を呼び止めた。
「日向?」
「ヤンクミ!」
歩き出そうとした体勢で呼び止めれば、先に進もうとしていた浩介がすぐ振り向き
ヤンクミの方へ近寄ってきた。
すると、一緒に歩いていた男も戻って来たので、不思議そうに視線を向けると
その視線に気づいた浩介が、ヤンクミへ嬉しそうに男を紹介した。
「あ・・この人が、俺が世話になってる店の辰巳さん。」
「初めまして、辰巳です。」
「どうも初めまして、日向の担任の山口と申します。コイツの事、宜しくお願いします。」
「若くて可愛い先生じゃないか」
「いやぁ・・」
「そんなぁ、可愛いだなんて」
黒のスーツに赤いネクタイ姿の浩介、彼に紹介された辰巳という男。
ヤンクミの目には、口は上手いが中々信用出来そうな人に映った。
先に歩き出した辰巳を追い、ヤンクミにじゃあなと告げ立ち去った浩介。
舗装された橋を歩く2人、道行く人は何故か辰巳という男に挨拶をしている。
それから辰巳は、連れている浩介をその人達に紹介していた。
ヤンクミの耳には『次はパピヨンを案内してやる』という言葉までが聞こえた。
「中々良さそうな人じゃないか」
「あの男・・ちーと、ヤバそうな雰囲気の男ッスね。」
「・・・オマエが言うなよ」
颯爽と歩く実業者ッポイ姿に、感心して言えば
ヤンクミから離れ、他人のフリをしていたテツが傍に来て言った一言。
辰巳という男より、危なそうな雰囲気のテツが言った為思わず突っ込みを久美子は入れた。
ΨΨΨΨΨΨ
不運にも、隠れた先で男2人に下敷きにされた俺。
そのまま帰る訳に行かず、隼人と竜に付き添う事となった。
俺も間が悪いけど、隼人と竜は何で酔っ払いと一緒に?
理由が気になって後ろから2人の背中を見る。
酔っ払いの男は、2人よりも体格が遥かに良く
足取りも千鳥足で、とても心許ない。
道中、隼人と竜が酔っ払いに行き先を聞く以外
会話は一切なく、妙な沈黙だけが周りを包み込んだ。
倒れられる前、僅かに聞こえた会話。
―ウチのお嬢は美人で、喧嘩もつぇし、頭もいいし・・何処に出しても恥ずかしくない大江戸一家自慢のお嬢だ―
すぐ考えつくのは、ヤバイ関係に足を突っ込んでんじゃないかという事。
つたない男の案内で、見えてきた大きな門構え。
その門を、が押し開けて先に潜らせる。
そうして見つけた表札(!?)には、言葉通りに『大江戸一家』と書かれていた。
一斉に冷や汗が流れる3人。
そんな心を知らない酔っ払いは、上機嫌で玄関を開け中に入るとゴロンと床にねっころがった。
「ただいま〜〜!」
大の字で眠りこけた酔っ払い、その姿を見て家を見渡す竜と隼人。
は心配で仕方がなかった。
名前からしてヤバ気な雰囲気だし、厳つい人達が出てきでもしたら
幾ら隼人と竜が喧嘩強くても、不利だろうし・・・どうしよう。
同じく黙ったままの隼人と竜。
此方も何て声を掛けていいかで、迷っていた。
考える事は同じ、もしヤバ気な奴等がズラッと出て来たら2人だけでを守れるか。
それが心配で仕方がない。
さぁ・・・吉が出るか、凶が出るか。
ある意味覚悟を決めた3人の方へ、慌しく掛けてくる足音が聞こえてきた。