今から語る物語は、科学の世界ではなく
魔法のみが発達した国が舞台。
法律などはなく、魔法規約が君臨し国をまとめ
人々は学問に代わり、魔法や魔術を学ぶ。

世界はアビジニンと呼ばれ、その全ての中枢はラシール国。
魔法に関わる事の全てが 此処に集められている。
そんな国で、魔法を学ぶ者とそうでない者が生活している。
アビジニンには、魔法を使える者とそうでない者が存在し
共に共存もしていた。

特にラシール国には、魔法使いが多く 他国を上回っている。
魔法を学ぶ者は才能や可能性、才覚ある者のみが集い
魔法中心の世界の未来を担っていく。

そんな魔法中心の世界には、使う者の心得が存在していた。
『魔法を私利私欲だけの為に使ってはならない』
もし己の野望などの為に魔法を使い、あまつには人を殺めた場合。
王国の役人により、隠密裏ではなく公開処刑される。

このような重い・簡単なようで難しい心得を胸に
魔法使い達はラシールで暮らしている。
魔法を使うには、精霊の力を借りたり魔法の理を理解する必要がある。
どんな魔法を使うにしろ、力を借りるからには許可がいるのだ。
知らない所で力を大半は制御されている。

どの配分だけ力を貸すか・・・決めているのは勿論属性の力を
管理する精霊だが、彼らよりもっと優れた者が実は関わっている。
その者こそ、全ての魔法の源。
属性ごとの精霊達を管理し、力の配分量を決めている。
この者がいなければ、魔法そのものが存在しなくなるだろう。
魔法の源を管理する者、『扉』や『鍵』とも呼ばれる者が
今再びラシール国に現れようとしていた。

その身に強大で清らかな、魔法の源を持つ者が。
そしてこの者が現れた学園には、その存在を守るべく力ある者が集い
『扉』を守りし5人のナイト・ガーディアンが組織される。



第一幕 運命の地



アビジニン 一の大国・ラシール。
魔法王国の中枢だけあって、大変な賑わいを見せる。
国民の大半が魔法使いの まさしく魔法王国そのものの国。

ラシール国を治める王族も、勿論皆魔法使い。
魔法を扱うのに長けた系統もあり、ラシールの国は
彼らに治められている。
国王には一人息子がいて、母親似の美しい青年。

顔立ちは母親似で美しく 国の女達や召使の心を占めている程。
髪の色や瞳の色・まっすぐな性格は 父親似。
自分のすべき事をきちんと理解し、国民を愛し国を愛す。

傍目には理想的な王子だ。
それが彼の本当の性格だったらの話。

ラシールでは今日も、重臣達と会議が行われていた。
会議の内容は、国情や外界の情勢。
それと、本日の会議には 一人息子の王子も参加している。

国王が王子を同伴させたのは、会議の内容に重要な物があったから。
冒頭でも紹介したように、この魔法世界には規約が存在する。
それと共に、魔法が存在する理と源。
魔法を使う者や、国が血眼になって探し求める存在。
その情報を交換し、新たに得る為 王子は此処に呼ばれた。

王子の名はカムイ・ラウリス・ノワール・ナイトレイ
ラウリスは彼自身の身分を指し、ノワールは祖父の名前。
ナイトレイはカムイが治める5諸国の総称である。

カムイは議会の席に座りながら、長い髪をかき上げた。
彼のトレードマークとも言える 美しい銀の髪。
月夜に映え、月そのものと思わせる神々しさと
血よりも紅く 銀の髪を際立たせている緋色の瞳。

その美しくも妖しい光を帯びた瞳は、参加している重臣達や
家臣達を見回し、議題を読み上げる者を映し
それから青く澄み切った空を見た。

自分の目とは、相反する色の空。
自由などなく 王族とゆうしがらみに囚われた自分。
嫌ではないが、堅苦しい規則と束縛をカムイは嫌っていた。

さて、会議の内容になど耳も貸さず 空を見る事しばし
そんなに気にも留めぬまま、重要←らしい会議は終わった。
さっさと席を立ち、胸に秘めた事を実行すべく
会議室を出かけたカムイを、重みのある声が止めた。

「少し待ちなさい カムイ。」

その声にピタリと足を止める、顔を見なくても誰だかは分かっている。
王子である自分に、傲慢そうな声を掛けられる者などただ一人・・・

「私に何か御用ですか?父上。」

そう・・カムイの父、ミラー国王その人だった。
王族らしく、規律の取れた動作で踵を返し 笑みを作る。
振り向いたカムイへ近づくと、眉を寄せた顔で父は口を開く。

「お前が前から決めていた事を起こすのは、今日だったな。」
「ええ」

父の問いに、カムイは短く答える。
正面を向き合っていても、目は合わさっていない。
ずっと視線は廊下に向けたまま、カムイは父親と向き合っている。

「お前が我が国の為にやりたいと望むのは分かるが
わざわざお前自身が出向く必要があるのか?民に混じってまで。」

視線も合わさない息子に対し、特に触れる事もなく父は問いかけた。
−愚問だ・・−
今更分かりきった事、そもそもこの気持ちが分かるなら
少しは素直に賛成してくれてもいいんじゃないのか?
逸らした視線の先に、カムイは苛立ちを見る。

「お言葉を返すようですが、こうでもしなければ探し出せません。
何もしないで ただ結果を待つ事など私には出来ない。
それと、人の上に立つ者も時に自分の足で動く必要があるのでは?」

紅い双眸で父親を見つめたカムイ。
美しいはずの瞳には、剣呑な・何処か冷たい色が浮かんでいた。
カムイの言葉と、的を突いた言葉に父はハッとしたが
再び向けた先に、息子の姿はなく 声を掛け損ねてしまった。

父と別れ、自分の部屋へと向かう途中 苛立ちが押さえきれず
カムイは耳飾や、数々の装飾などを荒々しく取り去り
怒りをぶつけるかのように、廊下へ叩きつけた。

息を吐き出し、最後に頭に被っていた布飾りを捨てる。
脱力してから 空疎な視線を空へ向けた。
空は変わる事なく、上から自分を見ている。
どうしてこう、理解してもらえないのか。

「殿下」
「・・・ヒノエか」

横から声を掛けられ、誰だか確認するとカムイは盛大な溜息をつく。
カムイに呼ばれたのは男で、年齢はカムイより少し上くらい。
物心ついた時から、自分に仕え身の回りを世話してくれた者。
誰よりもカムイの葛藤を気遣い、支えてくれる者。
そのヒノエを、カムイは召使いとしてではなく 気心知れた友と見ていた。

「父上は何故一々俺のやる事成す事口を出して来て、苛々する。」
少しは息子を信用しろってーんだよ。

ヒノエを前に、カムイの口調は一転し砕ける。
飾った所など微塵もない言葉遣い、これが本来のカムイである。
自分の前でしか、本来の自分を出せない王子。

傍目には育ちの良い、王族で親の言葉に逆らわず
民の声をよく聞き、よく働く王子・・と映り
実際は意見の通らなささと、父親の非協力的な態度に
本来の自分すら出せない 窮屈な生活をしている。
苛立ち任せに投げ捨てた物を、ヒノエは無言で拾い 言う。

「あまり気に病まないで下さい、貴方は貴方の成すべき事を
思うままにやり遂げて下さい。王もきっと分かって下さります。」

こんな言葉では、繊細な王子の不満は取り除けないだろうが
ヒノエには、こんな言葉しか口に出来なかった。
仕えている者の事を、あまり悪くも言えず大した力にもなれず

「お前こそ・・俺の為に気に病む事はない。」

カムイは目線を下げたヒノエの肩を、軽く叩いた。
サラサラの短髪が風に揺れ、ヒノエの頬を撫でる。
その感触に、ゆっくりとヒノエは顔を上げた。
眼鏡の奥の目が、済まなさそうに微笑む。

「殿下、国内とはいえ民は殿下のお顔を知りません。
どうかくれぐれもお気をつけ下さい。」
「有り難う、大丈夫だ俺の幼馴染も手伝ってくれる。」

心配性な友に、カムイは笑いかけた。
会議室を後にしかけ、父親に呼び止められた時向けた笑顔と違い
それは心からの笑顔だった。
カムイの言う幼馴染とは、城のすぐ隣に家を構え この城にも度々呼ばれている者。

大きな力を使う時、王国付きの魔術師達が魔術の間に集まる。
幼馴染の両親がまさにその魔術師で、両親に連れられて来た時
偶々王宮を散策していたカムイと出会い、歳が同じだった為
すぐに打ち解け、家族ぐるみの付き合いをするようになった。

両親の血を受け継ぎ、幼馴染の魔法の腕は高く
じき 両親に並ぶ魔術師になるだろうと、早くも期待されている。

「エリック殿も行かれるのですか・・」

幼馴染の名は、エリック・リーシャ・ラナム。
言ってなかったが、カムイとエリックは17歳になる。
それと、ヒノエはちょっと曇った顔をしたのにも訳がある。

エリックは、カムイに負けず劣らず これまた美青年。
それだけならいいのだが、問題は彼の性格にあった。

カムイの瞳のように、紅い髪をして紅を妖しく見えさせる碧の瞳。
只ならぬ色気を纏い 身近な女性を数多く落として来た。
そんなのが魔術に長け、王子の幼馴染とは・・・!

「性質に難ありだが、エリックの魔術の腕は本物だ。信用出来る。」

ヒノエの心を見透かしたように、カムイはそう答えた。
まあ殿下が信じてらっしゃるのでしたら・・・と渋々ヒノエは言う。

「しばらく俺は此処を離れる、その間留守を頼むぞ。」
「ええ勿論です、お任せ下さい。」

ヒノエを真っ直ぐ見つめ、真剣な口調でカムイは言い
ヒノエもまた、真剣な目で主の意に応えた。

こうしてラシール国の王子・カムイは城を出立した。


■■■■■

王国でそんなやり取りがあった頃、一人の少女がラシール国へ来た。
母国を出て、見知らぬ国に一人で来た。
細身の体を包むのは、体の線を隠すようなダボダボの服。

だが 彼女の姿は人目を惹いた。
長い髪は空の青で、双眸は左右色の違う瞳。
左は黄緑で、右は金とゆうオッドアイ。

身長も高すぎず、低すぎずの高さで顔も綺麗な部類に入る。
これだったらもう、放っておく者はいないだろう。

「全く・・・お父さんってば、いきなりラシールに行けだなんて」

横暴だ!とブツブツ言いながら歩く美少女に、街の男達は
声の掛けづらさを感じ、傍観に徹している。

少女の名は、・レイ・ルシア。
元々は首都ラシールから離れた町、サリムに住んでいた。

ごく普通の学生として暮らしていたある日
父親にラシール国に行けと言われた。

詳しい事は分からないけど、其処のレイディア学園に
自分を待ち受ける運命があると・・それだけ父は言った。
どんな運命なのかも分からぬまま、言われるままに此処へ来た。

「行かなきゃならないのは分かったけど、レイディア学園って何処?」

肝心な事に、行くべき学園が何処だか分からない。
これは困った・・・凄く困った。
これでは何しにこんな都会まで来たのか・・・

悩みながら歩く度に、の手首の腕輪が金属音を出し
日の光を受けた指輪の石が光る。
自分の意思で付けてるのではない、気になった時には身に着けてた。

「可愛いお嬢さん、何を探してるんだい?」

キョロキョロと辺りを見回しながら歩く姿が目に付いたのか
背後から声を掛けられた。

ハッとして振り向くと、其処には優しげな眼差しのおばさんがいた。
ちょっとホッとする自分がいる。
だってさ、柄の悪い人とかナンパとかじゃ 厄介でやじゃん?
まあ そんな事はないと思うけど。

の知らない所で、ガクッと肩を落とした奴がいる事を忘れてはならない。
彼等はが思った通りの事をしようと、来たが先を越されたのだ。

「ご親切に有り難う、実はレイディア学園を探してるんです。」

そんな事とは露知らず、人の良さそうなおばさんに
は早速質問を向けた。

「あんた、レイディア学園に行くのかい?またどうして」
「え?父に言われて転校して来たんです。」

驚かれては不安になった。
そんなに行ってはマズイ学園なのか?と。
しかし、不安そうなにおばさんは意外な事を教えた。

「やばくはないけど、あそこは男子校だよ?」

チーン と頭の中で鐘が鳴る。
ちょっと待ってよ!何があるか知らないけどお父さん!
どうしてわざわざ男子校に転校させる必要があったのさ!
おばさんには聞こえない心の声で、は父に抗議した。

「うーん・・傍目にはしっかりしてそうなトコだから
問題はないだろうけど、あんた可愛いからねぇ・・・気をつけないと」

おばさん!そして貴女はさっきから何をそんなに心配してるの!?
はっ!もしかして・・・私、すっごく危険な所に行こうとしてる?

「不憫だねぇ・・とゆうか可哀相に、あんた魔法とか使えるのかい?」

あまりの落ち込みように、見かねたおばさんがそう聞いてくる。
サリムにいた頃の自分にとって、魔法なんて縁のない言葉。

「必要なんですか?」
「その様子じゃ、使えないようだね・・・」

今度ばかりは、おばさんも重い溜息を吐いた。
どうしよう・・・まさか男子校だったなんて・・・・

「有り難う、取り敢えず行ってみます。」
「そうかい?頑張るんだよ」

優しいおばさんに励まされ、思い切っては行く事にした。
行って見なければ分からない事もある、まずは自分の目で見てみよう。

こうして魔法界の『扉』または『鍵』を秘めし少女は
運命の地へと、足を向けたのである。