Unforgettable 4
優しくしないで、その気にさせないで。
勘違いさせるような言葉とか、仕草なんかいらない。
誤解されたくないなら、最初から近づかないで。
そんな気持ちを味わうのは疲れたから
あたしは恋なんてしないって決めた。
なのに・・あたしの気持ちは、再び動き始めてる。
最近会社に入った、すんごい美青年のせいで。
名前は上田竜也。あたしより1つ下。
女の子みたいに綺麗な顔と、温かみのある声をしてて・・
あたしの心に揺さぶりをかけてくる。
人をドキドキさせまくるし、遊んでるっポイんだけど
安心感とか感じちゃうし、和みキャラにも見える。
友達が出来たみたいだけど、あんまつるんだりしてないし
1人でいるのが多い、けど目で追わずにはいられない。
それに、暇があるとあたしのトコに来る。
嬉しいけど複雑、だってパターンが今までのと酷似し過ぎ。
いいトコまで行ったら、その先に進まないのがいつもの事。
思わせぶりな態度が上手くて、騙されがちだった。
今回もそれになりそうで、つい態度も構えがちになる。
「底なし沼にでも堕ちてく気分だわ」
机にもたれてふと呟く言葉。
家の机に寄りかかり、今日一日を振り返る。
ついでに今までの事も振り返ってみる。
1つも進歩がなかったね。
ってゆうか、いいトコまでは行ったよ。
皆彼女がいるなら人の事構うなって感じ。
けれど当時は嬉しかったんだよね・・・
一番進展したのが弟の友達だったし。
部屋まで来たのは大きかったかな・・・
でも今はそれが逆に痛い。
彼女出来てからもウチには来るし、勿論同伴で。
1人で来る時とかあって、偶々部屋を覗いたらゲームしてて
弟は風呂入ってたから、出るまで一緒に過ごした。
未練がましいよね・・・
弟が出たから、戻ろうとしたんだけど止められて
ゲーム見てげってさ、何だよソレ。
いていいんか?聞いたら、寧ろいて欲しいだと。
止めろよだから期待させるの。
そんなに面白いか?
どうしてあんなに優しくしたのか、とかメルアド聞いたのとか
理由を聞きたいのに、弟は時効だから止めろ言うし。
この想いを消化出来ないまま抱えてげって言うのか?
忘れようにも、好きな人は出来なかった。
偶に会えるとまだ嬉しい自分がいる。
いい加減諦めればいいのに、あたしこそ何に期待してんの?
子供が出来たんだよ?可能性なんか1つもないのに。
「・・・バカみたい」
誰にも相談出来ない、こんな事話したのは今までで3人くらい。
相談はしても、真正直な気持ちを話せてはない。
親友のでさえ、その3人の中には入ってなかった。
悩みに悩んで、答えの出ぬまま朝を迎えた。
9月も下旬に差し掛かった秋の朝。
車を駐車場に停め、出勤カードを押しに行くと
其処に最近の、心の動揺を作る原因の背中を見つけた。
後姿も素敵・・・って、見惚れてる場合じゃないって。
朝から抱きつきたくなってしまった(動揺)。
妙にドキドキしながら、は後ろから声を掛ける。
名前を口にするだけなのに、噛みそうになってしまった。
挨拶くらいちゃんとしなきゃ!!
「竜也っ・・おは・・・おはよう!」
だはーーー噛んでるじゃん!!
ってゆうかどもってるっつーの!!
こんな挨拶、恥ずかしいって!!
他に人がいなくてよかったよ。
一方、変な挨拶をされた竜也は
カードを機械に通してからを振り返り、まず一笑。
朝から笑われてしまった・・・
「オハヨ、どしたの?そんなに赤い顔しちゃって。」
「え?赤い!?いや、何でもないよ」
「ふーん?ってゆうか、って可愛いね。」
は?
竜也の言葉に固まってると、あたしのカードを機械に通してくれた。
機械に通されたカードに、出勤時刻が刻まれる音を
あたしはただ呆然と聞いていた。
まだ固まったままなのを見て、クスッと笑った竜也が
ナデナデと、骨張った手であたしの頭に触れた。
『ねーさん可愛い』
竜也の言葉が、過去の記憶を呼び覚ます。
自分の部屋に来た彼が、今の竜也のように頭を撫でた。
ギュッと胸が締め付けられる。
歩く足が重くなった。
未だ 心に居座る、こんなに気になってたんだね。
呆然としているを見兼ねて、竜也は手を取って歩き始めた。
手を引いてるのに、何の反応も示さない。
いつもなら、一瞬で頬を赤らめ抗議の声を発してるのに。
「・・・」
「うーえだっ!!」
気になって仕方なくなって、やっと名前を口にした途端。
俺の声とすっごく聞き覚えのある声が被った。
のと同時に、ズンと肩が重くなる。
振り向かなくても分かるけど、取り敢えず退いて欲しくて顔を動かした。
そこには案の定、予想通りのヤツがいた。
「赤西・・オマエ何でココにいんの?」
「何でって、冷たいヤツだなぁ〜」
「いいから質問には答えろよ。」
俺の背中に抱きついて来たヤツ、それは俺と最近関わりのあるヤツで赤西仁ってゆう。
俺よりデカイから、余計に重いっつーの。
理由を聞いたら、はぐらかそうとしたから
口調を強くして聞き直した。
すると、俺から離れないまま唇をアヒルさんにして答えた赤西。
世の女の子達にとっては、堪らなく可愛いんだろう。
「途中経過を聞きに来たんだよ」
「ああその事か、でも今は待ってくれない?」
「はぁ?オマエ俺がいつから待ってたと・・」
アヒルさん状態の赤西に、目配せして言えない意味を示す。
すると剥れていた赤西もそれに気づいたのか、視線をずらしてハッとした顔になった。
その視線の先には、赤西の登場に目をパチクリさせてるの姿。
理解出来ない状況を必死に理解しようとしてるのか
何度も目を瞬きさせてる、すっごく可愛い。
「途中経過って?てゆうか、貴方は誰?」
なんか呆然としてるうちに、竜也は手ェ繋いでるし
しかもいきなり(竜也に負けず劣らず)カッコイイ人がいるし・・・
あ!背中に抱きついてる!!
羨ましいー!あたしもやりたいのに!!
男同士って軽く出来ていいなぁ・・・
「な、なんか俺・・いきなり初対面で敵意持たれてない?」
「怪しい人に見えるからだろ」
「うわ、ソレひどっ!俺はね、上田の友達で赤西仁っていいます!」
「・・・どうも、あたしは同じ仕事場の です。」
途中経過とかかなり気になるけど、先ずは自己紹介。
その赤西仁って人は、竜也の友達らしい。
怪しいけど、竜也が否定してないからそうなんだろう。
美形の友達は、やっぱり美形なんだろうか。
赤西仁って人も、顔の造りは整ってるし声もいい。
2人とも一般人なのか??
原宿とか歩いてたら絶対スカウトされるって。
「その友達が、何でこんな朝に?」
の問いかけはごもっとも。
行き当たりばったりな赤西は、かなり慌ててる。
言葉を返せずに、縋るような目を俺に向けた。
よく見てから出て来ればいいのに、アホなヤツ・・・
思い切り私服だし、ここだと目立つなぁ。
まあ歳は俺より下だから・・・学生で通用するだろ。
「同じ大学の後輩で、後期試験のヤマ教える約束してたんだ。」
「へぇ〜竜也と同じ大学のね、朝から来るほど熱心なんだ」
「あ、ああ!そうなんだよ、昨日から教わってんの。」
「で通ってる時の途中経過とか、どう過ごしてたかとか知りたがってんだよ。」
へぇ〜〜と声を漏らして、俺と赤西を眺める。
納得したかは分からないけど、誤魔化せたようだ。
全く・・・冷や冷やさせやがって。
が曖昧に納得した影で、竜也はチラッと仁を睨みつけた。
視線を感じた仁が、片手を顔の前に立てて小声で謝る。
「、ちょっと先に行っててくれる?コイツと話してから行くから」
「分かった、遅れないようにね。」
「ああ」
赤西の用を済ませようと思った俺は、の手を解いて言った。
先に行っててと言われたは、少し笑顔を見せて頷くと
俺に手を振り、赤西にお辞儀してから工場へと向かって行った。
しばらく2人でその背を見送っていたが、見えなくなると同時に口を開く。
「はぁ・・赤西、あんま冷や冷やさせるなよ。」
「わりぃ・・・長く待ち過ぎてさ、やっとオマエ見えて思わず。」
思わずって・・何可愛い事言ってんだ。
子犬みたいなヤツだな、赤西って。
まあそれはともかく、早く用を聞かないと。
完璧主義者な俺としては、遅刻は許されないからね。
それに、本音を言えば早くのトコに行きたいの。
「途中経過は上々、会社にも馴染んだし。」
「ふーん、じゃあさっきの子は?」
「なんでそんな事聞くんだよ」
「結構いい雰囲気だったからさ、手だって繋いでたし♪」
オマエが本当に聞きたいのはそっちだろうな。
この赤西の言葉で、俺の脳裏に複雑な顔になったが甦った。
最初逢った時にも『可愛い』とは言ったけど。
けど、今日みたいに抜け殻のようにはならなかった。
ああなったのは、俺が言葉と一緒に手を頭に乗せたから。
「上田?オーイ、何固まってんの?」
「別に・・用はそれだけ?ならもう行くけど。」
顔の前で手をヒラヒラさせてた赤西の手を払い除け
工場へ歩きかけた俺を、赤西の声が呼び止める。
まだ用があんの?と言いかけたのを遮るように、赤西は言った。
「上田、あの子の事気になってんだ。」
ニヤニヤと楽しげに聞くから、俺も開き直って言い返してやった。
逢った時から芽生えていた感情を。
「気になってるよ、の事しか考えられない程にね。」
とにかく今は、あの表情の訳が気になって仕方ない。
あんな顔をさせてしまった原因は、さっきのやり取りにあると思う。
ああゆう笑顔で笑えるのに、それを隠そうとする理由。
俺の言葉に対し、ヒュウと口笛を吹いた赤西を置いて
ただ工場を目指して、早足で歩いた。