生まれ始める絆
仲間にはトップもビリも上も下もない、そんな事何の関係もないんだ。
去って行く彼らに懸命に久美子は語りかけ続けた。
不安定な様子が頭から離れず、気になり続ける・・・・
今度ばかりは落ち込んでるように見える久美子の背中。
不良でもなんであっても態度を変える事なく真正面からぶつかって行く様が眩しい。
こんな風に親身になってくれる大人は今まで伯父と従兄くらいしかいなかっただけに衝撃だった。
まして久美子と彼らは赤の他人・・言い方は悪いが、適当に接し、能動的に過ごしていても教師と呼べる。
形だけの教師なんて誰でも出来るだろう。
しかし目の前にいる山口久美子という教師はそれをしようとしない。
常に本気で本音で彼らとぶつかり、彼らを理解しようと努めてる。
仕事だからではなく、純粋に彼らを知ろうとしてるのだ。
彼女の強さは何処から来るんだろう。
他人を知る行為は怖さだってあるかもしれないのに。
「仕方ない、折角だ風間の寄越したソレでちゃんと冷やしとくんだぞ?」
彼らの姿が見えなくなった頃、息を吐きながら久美子はを振り返り
地面に放られたハンドタオルを示した。
久美子や市村達もいる前で見せた不器用な風間の優しさ。
ああいった面も持ってる事に久美子は望みを見出していた。
他人を思いやり気遣える心があるなら、彼らは変わる事が出来る。
の一件は根底にあった風間の優しさや思いやりの面を引き出したのだろう。
風間だけでなく、緒方も少しながらを気遣う表情を見せた。
の存在はひょっとすると、彼らを繋ぐ架け橋になるかもしれない。
そうさせる何かをは持っている、と久美子は読んだ。
ならば今教師である自分が出るよりも、生徒同士であり性別も違うが
全く違った視点で奴らと接する方がいいかもしれないな。
と思った久美子、へ寄る所があるから先に帰れと促した。
「・・・・わた・・しも、少し・・・寄り道・・」
「おう くれぐれも無茶はしないように探すんだぞ」
「!?・・・うん」
自分が同行させずに帰れと促す事で、自身が自分の意思で行動し易い道を作った。
すると久美子の思惑通り、自らが寄り道すると口にしたのである。
これには嬉しくなって予め釘を刺しつつ歩き出した。
残ったがハッとするのを背中で感じつつ、久美子はある場所へと足を向けた。
*
久美子に自分の考えを読まれたは、頭で否定しつつも足は彼らを探して動いている。
どちらも様子が気になって探したい気持ちになった。
だが実際彼らがどう道を通って帰路に着くかなんて知らないし見当もつかない。
公園を出る際、ハンドタオルを水道の水で濡らした。
ぶっきらぼうなのにちゃんと他人を気遣える風間。
やっぱり似てる・・・あの人なのかな・・
モヤモヤした気持ちで暗くなり始めた街中を歩き続けた。
どっちでもいい、彼らのどちらかを見つけられないだろうかと不安になってくる。
彼らとてガラはよくないけども、一緒にいる時は怖くなかった。
夜の東京はかなり物騒だ・・女の子が一人こんな時間歩いていたら何らかの犯罪に巻き込まれかねない。
そんな事態になど遭遇したくない、もうこの辺りにはいないのだろうか。
歩道橋の上から暗い闇に包まれた景色を眺める。
その時僅かに聞き取った、左手にある階段の方からした声を。
「いつものファミレスに可愛い子入ったぞ、行こうぜぃ」
「・・・興味ねぇよ」
「せやな」
「――っとぁ」
「っ、誰だよ――・・!?」
懸命に明るく話す声は倉木で、突き放すように返す声は風間の物。
市村の声は聞こえないが、間違いなく彼らの声だ。
と認識してからのは早かった。
その場から駆け出して歩道橋の階段へと回ると、やはり其処には見知った風間達の歩く姿が。
疎んじていた男の彼らを見つけて安心してしまうなんておかしいと思う。
それでも孤独な闇の中に彼らがいてくれて安心したのは本当だった。
パタパタと駆け出して前を歩く彼ら3人を引き止める為、風間と市村の腕を引いて止めた。
ちょっと抜けた声を出して引き戻された市村。
一方の風間は変わらず冷たい声で不機嫌そうに掴まれた腕を手前に引く。
逆に引っ張られたは踏ん張れずに前へ引き出されてしまった。
振り払われるのではなく引っ張り出されてしまった。
悲鳴は出るよりも喉が引きつって微かにすら出なかった。
危うく引っ張る勢いのまま放りそうになった風間もそれがと気付くや
慌てて引き戻し、何とかその場に立たせた。
「おま――」
「ちゃんやん!こんな時間までどないしたん?」
「せやせや、ここらとか物騒やしはよ帰らんと」
「お前らちょっとだぁーってろ、つか・・お前帰れって言っただろ何かあったらどうすんだよ」
帰れと言ったはずのが夜の街をまだ歩いていた事に視線鋭くなった風間。
しかし怒鳴る前に横から倉木と市村の言葉が先を越す。
軽くイラッとさせられたが、二人を押し退けるようにへ言った。
言葉は冷たい、確かに怒ってる。
でも不思議と怖くなかった、不良なのにクラスの頭なのに転入してきたばかりの私なんかを気遣って怒ってる。
誰かから気に掛けて貰えるのっていい物だな・・・・なんて思ってる場合じゃないわね。
風間君は本当に心配してくれてるかもしれないんだし。
なのでもきちんと風間の言葉を受け止め、ごめんなさい、と頭を下げた。
そんな風に素直な反応をされると思わなかったのか、若干面食らう風間と展開が分からない市村達の視線が注がれる。
「そ、そういやあさ 何でちゃん怪我しとんねん?」
「・・・俺達を止めようとして、緒方の奴くらったんだよ」
「は?!何でそんな危ない事したんや?」
「ふた・・り、の・・・傷つけ合う姿・・見たく・・・なかっ・・た」
大切な物、守れる強さを持ってる二人に他人を傷つけるような行為をして欲しくなかった。
あの家にいた悪魔みたいに暴力を振りかざす事を強いと勘違いして欲しくなかったから。
彼らの問い掛けにまだスラスラと言葉が紡ぎ出せない自分に苛立つ。
すんなりと言葉が出ない事で彼らが痺れを切らしてしまわないかが不安になり
向かい合ってる彼らをおっかなびっくり見上げてみた。
「んな事の為に殴られてんなよ・・・痕残ったら嫁に行けなくなるぞ?」
「殴られ・・るの、慣れてる・・・から・・平気」
「は――」
「何やその嫁に行けなくなるとかどうとかって」
「つーか痣くらい気にせえへんけどな〜」
「せやな!痣云々気にしてるようなちっちゃい男と俺らはちゃうもんな!」
「だからお前らは俺と被って話すんじゃねぇよ」
言葉の遅さをイラついてるのかと思えば、全く違う顔をしていた。
真剣に此方の言葉を待ってるような目をしてての方が今度は面食らう。
そればかりか、短く息を吐いた風間に改めて痣の事を心配される始末。
だからもう心配しなくていいとこの話を切り上げるかのように慣れてるから平気だと答えた。
そう答えたら何故かムッとした顔になって、何か言いかけた風間の言葉に被せるように市村達の言葉が差し込まれる。
あっけらかんと笑って口にした市村達の言葉。
見てくれだけじゃなく、一個人の内面を見てくれてるのだと思わせる物だった。
ならば自分が彼らの外見だけで判断しそうになっていた事は、彼らに対し、失礼だったんじゃないかと感じる。
だって彼らは来たばかりの私なんかを気に掛け、今もこうして案じる心を持っていたんだから。
自然と嬉しい感情が湧き出し、遠慮がちだがゆっくりと市村と倉木の手を引き
実はまだ掴まれたままだった風間の手と自分との手を繋ぎ合わさせ
吃驚した顔の3人へ向け、ぎこちなくでもなく心が感じたままの感情を彼らに向けて伝えた。
「ありが、とう」
「「「!?」」」
「べ、別に礼なんか言われるような事 してねぇよ」
「せやせや、俺らしたい事しかしとらんし」
「うんうん」
初めて見せられたの笑顔に、分かり易いほど動揺した3人。
花が綻ぶような・・ってこういうのを言うんかな、と市村は感じてしまいハッと慌て風間に続く言葉を口にして誤魔化す。
殴られた事を慣れてると言った時の陰りが風間は気になっていたが
今見せた隙だらけの笑顔を見ると、気のせいだったのかもしれないと思えた。
倉木は何となくを眺め、それから少し風間の纏う雰囲気が柔らかくなっている事に気付く。
さっきまであんなにもピリピリしていたのに、が現れた途端そのピリピリ感はなりを潜めた様子。
雰囲気が変わった所で再び歩き始める4人に増えた影。
「そんじゃちゃんも交えてカラオケでも行って俺の歌――」
「おい、あれ大和らちゃうん?」
「――は?」
その時だ、歩き出しながら左手を見た市村の緊張した声が3人の足を止める。
も足を止め、風間の傍から市村の横へと移動。
怪訝そうな声を洩らした風間も倉木も市村の方へ。
そんな4人の目に映った光景。
全員が服の何処かに必ず黄色の物を取り入れた服装の集団に、緒方ら3人が殴る蹴るの暴行を受けている姿だった。
フェンスに叩き付けられた緒方が、相手へ向かおうとするも圧倒的人数の不利により
それすらする事叶わず囲まれてしまっている。
神谷と本城も同じ状況で、ただ理不尽な暴力を受けているのだ。
悪魔の住む家での出来事と目の前の光景が重なる。
下手したら声すら聞こえて来そうな臨場感だ。
―お前は俺の為に生きればいいんだよ、逃げても無駄だぞ?お前が壊れれば煉が同じ目に遭うだけだからな―
心を蝕む悪魔の声が恐れるへ聞こえて来る。
幻聴だと分かっていても、心に刻まれた恐怖が本能を揺り起こし
声が聞こえて来てるのだと脳に錯覚させてるのだろう。
思わず頭を押さえ、苦悶の表情になったの様子に風間の目が向く。
さっきまで無防備に笑っていたのに、今はまた青褪めた顔をして脂汗までかいている。
何だ・・?様子が変だな、気になって顔を覗き込む。その時
「あれはなんぼ大和でもあんな大人数勝たれへんやろ」
隣の隣から聞こえる倉木の言葉でハッとの周りに音が戻った。
我に返った様子の、今度は危うく駆け出しそうになった為咄嗟に風間が引き戻して怒鳴る。
「ばか!お前が行ってどうすんだよ、震えてるくせに無茶すんな」
「で、も・・!」
「これさ察呼んだ方がよくない?」
「アカン!察はヤバイやろ!」
「じゃあどうすんねん!」
「・・・・・っ」
ぐいっと力強く引き戻され、荒々しかったせいで戻された体は風間の胸元に。
間近で見上げた表情はとても真剣で、迷いも見えた。
間違いなく今彼は迷ってる・・・久美子さんの言葉は届いてると思いたい・・
もし届いてくれてるなら、きっと動いてくれるはず。
迷いが残る風間の背を押してあげられたらいいのに・・。
自分にも出来る事をしたいと思ったは自然と動き
傍に立つ風間の腕をそっと握った。
息を飲むのが分かるくらい近くに感じる男の子の体温と存在。
こんなにも安心出来ると思える事にも驚いた。
今までは怖いだけだったのにね。
仲間になれる機会を風間に失くして欲しくないと、握る手に思いを籠めた。
交わして絡んだ風間との視線、その数秒後風間は緒方達の方へ走り出していた。
風間君がエセっぽいけど其処は仕様で)`ν°)・;'.、
まだお相手は決まらないままヒロインと同じく迷いがちです申し訳ない(´-ω-`)選べねwwwww
テンポよく進めたいけど中身がない話にはしたくないからなあ・・・文才ないですけどn
更新に偏りが出てしまってますが完結目指して頑張りたいと思います(。・ρ・)