奪わないで
声を張り上げた。
その声は、悲しく怒りの含まれた物。
苛立った頭の青年、柴田はのシャツを破り
黙らせる為 その破ったシャツで口を塞ぐ。
「そう睨むなよ、気持ちよくさせてやるぜ?」
「!!」
涙で濡れた瞳、中性的な顔に浮かぶ怒りと憎しみ。
それを目の当たりにしても、柴田にはそれ全てが自身を高める要素。
興奮させる材料にしかならない。
楽しむ笑顔を浮かべながら、じっとりとした手つきで
眼下の体に手を伸ばす。
三年前から手に入れたかった物が、やっと手に入る。
その確かな喜びで、柴田の目はギラついていた。
ねっとりとした舌が、学ランを剥ぎ取られ
シャツも破り捨てられて晒された肌を這う。
ザラッとした舌の感触が、自分の肌を舐めまわし
「白いなぁ・・どう変わるのか楽しみだぜ・・・・」
「む・・んっ!?」
の鎖骨辺りに顎を当て、その位置で喋ると
狩野が付けた痕とは逆の胸に、自分の痕を付けやがった。
強く吸われる感覚に、気持ちとは反対に体が跳ねる。
俺の反応を楽しむように笑い、柴田の手は胸を隠すサラシを掴んだ。
これを奪われたら、もう今までの自分には戻れない。
柴田の手は忙しなく動き、俺の胸を力任せに掴む。
「うっ」
こっちの事なんかお構いなしの行為に、顔を歪める。
「徐々によくなるから我慢しろ」
よくなるからだと?ふざけんな!
そう叫んでるつもりでも、声を出す事は叶わない。
息の荒くなる柴田。
ずっしりと俺の上に乗りかかる重さ。
何に興奮してるのか、柴田の腰は揺れ動き
自身を必要に俺の下半身に押し当ててくる。
最低な奴だ、女を自分の欲望をぶつける為の道具にしか思ってない。
頭ではそう思っているのに、自分の体は素直に反応をし始める。
無様だ・・・反応したくなくても、勝手に揺れる体。
もう自分では、止められない。
頭では諦め 心は空疎。
と同じ目に遭わされ、そうすればの痛みも分かる?
そうすれば、の為に生きられる?
罪を背負い 報いる事も出来るかな・・
呆然としたまま、今の出来事を他人の事のように感じ始める。
遠い所で、自分のズボンが取り払われようとしているのを見た。
上半身は裸同然で、サラシは取れかけてて
露になった両肩は砂利に押し付けられて、出血してる。
ああ・・思い出した、今日で生理四日目だ。
校門前にいた時から大分経ってるし、もう漏れてそう。
「コイツ、目が虚ろだぜ?犯るなら今だな。」
「うわっ・・残念、見ろよ。」
「あーあ!挿れられねぇじゃん!生理だよコイツ!」
「仕方ねぇなぁ〜!!奉仕させればいいじゃん!」
ズボンをずらした青年が、嬉々とした青年に告げる。
が月経だと知らせた。
すると一気に抗議の声を上げ始める青年達。
そんな中、昂った自身を示しながら 提案する一人の青年。
これには全員同意して、寝かしたを見下ろす。
全員?・・・ふざけんなよ、10人はいるじゃん。
そんなにやったら疲れる と視線を逸らす。
「拒否権はねぇぜ?俺達全員 相手にしろよ」
目を逸らした俺に、恍惚した顔をした柴田が馬鹿な事を言ってくれる。
解けかけたサラシ 膝まで下ろされたズボン。
我ながら、情けない格好だな。
でも これでいいんだ、全員相手にすればケリは着く。
隼人達を巻き込まずに済むんだ・・・。
涙の浮かんだ目を一度瞑り、もう一度柴田を見たの目から
一筋の雫が零れ落ちた。
その顔を承諾と見なし、まず柴田から俺の前に来た。
興奮した様子で、自分のズボンに手を掛けた その時・・・
倉庫の入り口から、倉庫の扉を叩く音が聞こえ
その音に柴田達の目が、倉庫の扉に向いた瞬間。
ガターーン!!
驚きに固まってしまった柴田達の前で、堅牢な扉は開かれ
外の光を背後に引きつれ、二つの人影が現れた。
部外者の登場に、柴田と俺の前にズラリと青年達が立つ。
座り込んでいた俺の目からは、歩いてくる姿は見えない。
ただその人影に向かって、問いかけてる不良達の声しか聞こえない。
此方に向かって歩く影、その正体は駆けつけた隼人と竜。
二人の顔には、明らかに燃え滾る怒りの色。
着いたばかりの自分達に届いた、の叫び声。
聞いただけで、胸が張り裂けるかと思った。
あの声に、の苦しさと悲しみが織り込まれていて
心に直接響いた。
そのは、姿が見えないが此処にいるのは明らか。
「てめぇら誰だ!」
「俺の顔しらねぇの?黒銀3Dの矢吹隼人ってーんだけど。
俺達の仲間返してくんねぇ?」
「俺も3Dの小田切竜、俺等の仲間を迎えに来た。」
さっさと帰してくんない?何とも挑戦的な目を竜は向けた。
黒銀と3D・矢吹に小田切の名を聞き、数人が顔色を変えた。
ここいら辺では悪名高い高校で、そこをまとめている頭。
知らない奴はいない、その二人の強さは知れ渡っている。
本人達をまともに目にした柴田の手下達。
俺は うっすらとした意識で、その聞きたかった声を聞き
少し体を起こし、痛む腹部を庇いながら前を見た。
「隼人っ・・竜!」
ずっと待ち焦がれていた二人の存在、認めた瞬間
乾いたと思ってた涙が、また頬を伝った。
視界が涙で滲んで、二人の姿が霞む。
今まで聞こえなかった掠れたの声、それはしっかり聞こえ
隼人と竜は、その姿を探した。
頭らしい青年の声で、人垣が動き 隠れていた後方が見え・・・
中央に はいた、目を覆いたくなるくらい痛々しい姿で。
学ランは着ておらず、血が滲んだ肩に緩んだサラシ。
一番驚いたのは、が慌てて隠した胸元。
そこには、二つの痕が付けられていた。
瞳は涙に濡れ、下半身は・・・・
「てめぇら・・・!」
「落ち着け隼人、が人質になってる。」
痛々しさに目を細めて見た姿、先を見るまでもなく
どんな目に遭わされていたかを悟った隼人。
煮え滾る怒り、しかしぶつける前に冷静に状況を見た竜に止められる。
こっちは二人、しかも相手側には。
簡単に手は出せない状況。
「黒銀の矢吹と小田切か、コイツの為にわざわざ来るなんてな。」
「ざけんなよてめぇ・・・」
「ソイツは俺等の仲間だ、帰してくれればそれでいい。」
喧嘩腰の隼人に対し、あくまで冷静に柴田へ答える竜。
大人しくを帰すとは思えねぇけどな。
そう覚悟して、竜は柴田を見据えた。
竜の言葉を聞き、柴田達の口許に失笑が浮かぶ。
「お前等が代わりにボコられるなら、考えてやっていいけど?」
ニヤリと笑って言う柴田、絶対嘘だと俺は思った。
こんな奴が、そんな簡単な条件で諦めるとは思えない。
この場に乗じて、隼人と竜を潰す気だ!
俺のせいで・・・俺何かのせいで、二人が傷つくのは嫌だ!
「来んな!俺何かの為に殴られる事なんてないよ!」
お願いだから、俺の為に傷つかないで。
俺何かの為に 殴られる事なんてない!
もう誰も、失くしたくない!
「やだね・・もう決めたんだよ、今度は俺達が守るって。」
「一人で抱えすぎ、偶には俺等にも一緒に背おわせろ。」
下ろされて露になった下半身を隠す事なく叫んだ。
ズボンから覗くのは、スパッツ。
剥き出しの太ももに伝う 鮮血・・・。
隼人と竜は、目を逸らす事なく 真っ直ぐを見て言った。
戻るつもりはない、今度は自分達が守ると啖呵を切って。
「へぇ〜いい度胸じゃん、コイツが女って知ってるんだ?」
「結構前からそんな気してたし、俺に惚れてるから?」
「やっぱりな、態度に出てる。」
「マジ?バレバレ?」
「かもな」
「まあいっか、バレたんだし本気で行かないとねぇ」
「俺も確信してたし・・知らないフリも疲れたしな。」
柴田に聞かれた二人は、緊迫した状況だってのに
ポンポンと言葉のやり取りをしてる。
さり気なくまた凄い事を、隼人はサラリと言ってるし。
ホント、肝が据わってるのか 抜けてんのか・・・
これには柴田達も呆れ、言葉を失っている。
二人にはバレてた、こうゆう事にはカンが鋭い隼人。
何時も冷静なだけに、鋭く見抜いた竜。
「お喋りはそこまでだ・・・覚悟すんだな!」
痺れを切らせた柴田が、手下に指示を下す。
すると一斉に手下達が隼人達へと、走り出した。
この人数・・幾ら二人が強くても 多勢に無勢・・・
俺がいなければ、二人は負けないのに。
俺が足手まといに人質になんかなってるから・・・
何も出来ないのは嫌だ・・二人を助けたい。
二人が俺を守るって決めたように、俺も守りたい。
もうこれ以上、俺は仲間を失くしたくない!
行動を起こそうとした俺の目に、死角からナイフの光。
ハッとしてよく見れば、優勢な位置にいるくせに
汚い手を使おうとしている青年の姿。
ナイフは、懸命に戦う隼人の背に向けられた。
いやだ!もう俺から大切な人を奪わないで・・・
もう何も出来ずに失うのはイヤ。
「やめろぉおおおっ!!!」
ナイフの閃きと同時に、は駆け出した。
大切な人を、二度と失わない為に。