強さへの拘り



何故か嫌いな筈の不良や男のいる学校に来る羽目になった
入ったクラスは不良の巣窟で、不良達を仕切るべきリーダーは二人存在し
互いにどっちがクラスと赤銅を仕切るかで張り合っていた。

関わりたくなかったが、世話になっている久美子が受け持つクラスであり
自身彼らと関わる事で少しだが見方が変わりつつあった。
当然嫌悪してたはずの自身の変化に戸惑い、中々受け入れ難い事だった為は考え方を変える事にした。
世話になっている久美子が受け持つ生徒達だからこんなにも気にし始めてるのだと。

それと多分・・風間に対して何故か懐かしさを感じるせい。
何故懐かしいなどと感じるのかは分からない・・・ただ彼の声は思い出の中のあの人と似ている。


『そんな処から飛べるんだろ?其処らの奴より度胸あんじゃん』


中学の屋上で私が飛ぼうとした時思い出の中の人がそう言った。
自殺を止めるでもなく、何をするでもなく・・ただ何気ない話をしながら気を紛らわせ
その上・・・当時の私の心をあの人は救ってくれた。

カラカラに乾いた砂漠のような心、ささくれしかない心に水を注ぐように。
その人にはお礼も言えないまま私は卒業し、父親の命令で進路も変え・・しかも引越しまでする事になった。
もう二度と会う事はないのだろうと覚悟していたある日、従兄に連れられ監獄を抜け出して隣町の久美子さんの家へ。
彼女が教鞭をとる学校 赤銅へ通わせて貰える事になり登校したクラスには、あの人と似た印象のある人がいた。

―ま、ある意味度胸があるって事か―

3年前その言葉をくれた人と同じ言い回しと似た声。
記憶の声より低くなった声が一層懐かしさを感じさせる。

確証はまだ薄い・・でも・・・んー・・分からないけど風間君は久美子さんの言葉を理解し始めてると思う。
風間君のみならずあの6人の生徒達は少しずつ変わり始めてる、そんな気もするんだ。
もう少しで6人全員に久美子の気持ちが届きそうな・・・

「タンマ!」
「――は?」

頭の中で様々な事を思い返しながら彷徨うように辺りを歩き回っていたの足は
不意に聞こえて来た彼らの声で止まる事に。
ハッと気付けば森林公園の中にはいて、聞こえた声の近さに思わず木の影へ。

何で私隠れてるんだろう?と内心で突っ込んでみる。
当然誰からの答えも返って来ない。

取り敢えず隠れた木から少しだけ顔を覗かせ二人の様子を伺う。
やはり向かい合って立つ姿から二人はタイマンで勝負を決しようとしていたようだ。
左手側の緒方は臨戦態勢、いつでも始められる状態。
一方の風間からはこれからケリつけようぜ という様子は感じられない。

数日前教室で決着つける気満々だった姿からは予想出来ない姿だ。
が近くの木の影にいるなどと知らない二人、冷静と言うか若干どうでもよさそうな雰囲気の風間。
対する緒方の纏う雰囲気が危うさを増して行くのが隠れてるにも伝わった。

「なあ、もうやめねぇか」
「何ふざけた事言ってんだよ」
「俺、別にお前が頭でも構わねぇから」
「それじゃ意味ねぇだろ、お前とマジでタイマン張って勝たなきゃトップって事になんねぇんだよ!」
「トップがどうとかよ、赤銅仕切るとか・・もう俺どうでもいいんだ」
「・・・どうでもよくねぇんだよ・・!」

見ただけでも雰囲気が変わり始めている風間の変化が見て取れる。
一方の緒方はまるで抜き身の剣、何処となく不安定な空気を纏っていた。

そしてついに緒方は動き、風間へと駆け出す。
まるで自分の価値を模索してるかのような・・存在価値を喧嘩に勝つ事で確認してるように感じた。
緒方の不器用でいて純粋な真っ直ぐさを感じた、自分の居場所や価値を見出そうとしてる様を自分自身と重ね・・・

殴り合いを始めてしまった二人を見つめ、このままじゃ駄目だという気持ちになった。
一歩踏み出したら変われそうなのにこのままでは其処から目を逸らしてしまうと。
前に緒方は”喧嘩でしか一番になれねェから”と久美子に答えた事を思い出す。
何が彼にそうさせてるのか・・・何となく気になる。

あの日と同じようにその理由を私は知りたいと思った。

木の影で久美子宛にメールを打ち、場所を添えて送信。
それから走り出るとの足は緒方と風間へ向かって動いた。

視界に映る二人の戦いは互角、拮抗する強さから伝わる気迫を肌で感じる。
殴りかかった緒方の拳を受けた風間が地面に倒れ込み、殴った側の緒方は掛かって来いと風間を煽った。
タイマンも頭も仕切る事も興味ないと話していた風間だったが、戦う気もなかった時に殴られ苛立ちを覚えてしまい
結果的に緒方の吹っ掛けた挑発に乗り、立ち上がり様に殴り返す。

鈍い音が静かな空気を震わせた。
二回目の拳は屈んで避けた様子の緒方にホッとする間もなく
今度は風間がその緒方の拳で殴りつけられる、それの繰り返しだ。息つく間もない。
何より、殴りあう彼らの姿が父親を連想させ駆け寄りながら無意識には震えていた。

誰かが殴る姿も殴られる姿も見たくない。
かつて自分を助けてくれたあの人と似た風間が殴られる姿も傷つく姿も
緒方を殴る風間の姿も、傷ついていく二人の姿をこれ以上見たくなかった。

緒方に後ろから羽交い絞めにされた風間、しかし首に回された緒方の腕を逆に引っ張って一本背負い。
地面に倒された緒方と一瞬だけ足元がよろめいた風間、其処へ辿り着いたのがで夢中で風間の腕にしがみ付いて制止。
くん、と引っ掛かる重みと温もりに動きを止められた風間が眼下のに気付くのと
体勢を立て直した緒方が再び風間へ殴り掛かるのは同時だった。

「――・・?何でお前・・・!?」
「っのやろ――・・・・!??」

風間を殴り返すはずだった緒方も、其処に別の人物がいる事に気付いたが
それは既に振りかぶった腕と拳を止められない距離だった。
緒方に背を向けてた訳じゃない、真横から止めてただったが此方に向けられた拳に気付くと体は無意識に風間の前へ。

がつっ!と一際鈍い音が静かな公園に響き、振るわれた拳を頬より上に受けてしまう。
当然男と女であり体格差も比例して、思い切り殴られたの体は少し斜め後ろへ浮いた。

地面へ頭から突っ込むように倒れるを間一髪で風間が受け止める形に。
斜めに倒れ込むの体を横から引き寄せるようにして受け止めながら倒れ込んだ風間。
受け止めたの体の軽さに驚くと共に、またも何か既視感を感じた。
前もこんな風に誰かを受け止めたような・・・・そんな既視感。

それからハッとなり、立ったまま驚きで目を開いている緒方を視界に捉え
激しい怒りを覚えた風間はそれをぶつけるかのように緒方へ怒鳴った。

「・・てめ・・・女にまで手ェ出してんじゃねぇよ!」
「――っ!こんなトコに来るからだろ」
「は!見損なったな、さっきの言葉取り消すわ・・お前になんか頭は務まんねぇ!」
「か・・・ざま、君」
 お前はこんな所に来んな・・・いいから少し離れてろ」

意識を飛ばしてるを後ろから支え、自ら下敷きになった風間は半身を何とか起こして怒鳴る。
怒鳴り合うやり取りで意識を浮上させた、ズキンと痛んだ位置を手で押さえつつ目を開けた際

丁度自分の上からを地面へ移動させた風間が立ち上がる所だった。
一瞬恥ずかしくなるも再び膝で立って風間を止めようとしたが、気配に振り向いた風間に止められてしまう。
少し困ったような戸惑いを見せた風間の声音が不思議と優しくて、気後れした時にはもう二人の決着が目の前で再開していた。

どうしよう、止めたいのに止められない。
寧ろ女の力で男の人を止めるのには無理がある。
せめて声が出ればいいのに・・そしたら制止を促す事だって出来たはず。
無力だ・・自分の持つ力はあまりにも小さい・・・

そう項垂れた時だ、此方へ近づく誰かの気配を感じた。
近づく足音すらさせずに距離を詰めたその人は、互いに落ちていた棒切れを手に振りかぶった二人の間へ割り込んだ。

「こんな所で遊んでんじゃねーよ!」

普段とは違う強い声でかち合わせた二人の棒切れに自身の手を逆手に沿わせ
巻き上げるような動きをさせたと思ったら、二人から棒切れを取り上げていた。
何かの返しをされたのか、向き合っていた二人が前転するようにして払われる。

突然現れた人物を睨みつけながら横に並んだ二人がその場に立ち上がる。
が漂わせた視線をこの場にいる全員へ向けた際見た光景は

近頃のガキは、と言いながら丁度久美子が取り上げた棒切れを横へ放る所だった。
ふと放った時久美子との視線が合わさり、一瞬で久美子の表情がハッと険しくなると同時に
座り込んだままのの前へ膝を付き、当人以上に青褪めた顔で慌てふためきながら言った。

「おい!その顔の痣はどうしたんだ??女の子が顔に痣なんて作ったら後々残るかも知れないんだぞ?!」
「あ・・・う・・ん」

それからキッと立ったままの二人へ視線を向け、動揺した口調で問い質す。

「どっちだ、の顔に痣なんて付けた不届き者は!」
「・・んな事今はどうでもいいだろ」
「どうでもいい訳ないだろ、女の子が顔に痣なんて一生の問題なんだぞっ お前らが嫁に行けなくなったら責任取れるのかっ??!」
「はぁ?」
「それには教え子から託された大事な客人なんだ、行き遅れになんてなったら親御さんに申し訳な―――」
「!!く、みこさ」
「わぁーったわぁーった!責任でもなんでもとってやらぁ!」

何故久美子が動揺してるんだろう?
と言う疑問は敢えて口にせず、久美子達を視線で追うだけにした。

・・・いや待て、話が飛躍しすぎてる気が。

しかもサラッと余計な事まで口にしたよね?
慌てて遮らせようにも声が思うように出ない為、制止させるには至らず。
だがの声に被さるように発せられた緒方の言葉が久美子を制止させる形となった。

え 責任とるって・・・・?
思わぬ緒方の発言に横にいた風間も向かい合ってた久美子も目を丸くする。
勿論口論の対象になっているも同じ反応で固まっていた。
半ばヤケのような感じでの発言だったが、吐き捨てるように言った時の緒方の表情は少し気まずそうだ。

その様子から、を殴ってしまった事への後ろめたさのような物を読み取った久美子。
改めて二人を見てから静かな口調で再び口を開く。

「人を殴れば自分の拳だって痛いだろう?その痛みを知りゃあ無意味に人を殴るなんて事はしないはずだ。」
「・・・能書きたれてんじゃねぇよ、ケンカってのはな相手に勝つ為にやりゃあいいんだよ!」
「そうじゃねぇよ」

まただ、強さを示すような事を言う度に 緒方の表情からは孤独さを感じる。
何故こんなにも孤独さを感じるのだろう。

口調を荒上げる緒方とは反して静かな湖面のような久美子。
火と水のようなやり取りが生む沈黙、其処へ再び此方に駆けつける足音が聞こえた。
緒方と風間の名を呼びながら駆けつけるのは教室にいたはずの市村達4人。

4人はこの場に久美子とがいる事に何よりも驚いた。
確かに捜しに出た久美子達だが、此処でタイマンを開始する話は誰にも言っていない。
それでも久美子とは二人を見つけ出し、向かい合わせて話をしてるのだ。
しかも座り込むの顔には真新しい痣まである。

「いいか、よく聞け。人は一人じゃ生きられない・・生きる為には仲間が必要なんだよ。
本物の仲間っていうのは、一番苦しい時に一緒にいてくれたり 弱音吐いたり素直に涙見せれるモンなんだよ。」

うん・・私も久美子さんの言葉に同感だ。
きっと人は支え合わなきゃ生き抜いて行く事は出来ないと思う。
それでも私はこのまま独りで戦い抜かなきゃならない。

今までもずっとそうしてきた・・・
卒業まで久美子の家にいられるとして、その後は迷惑なんて掛けられない。
煉(れん)を守る為にも私がしっかりしなきゃならないんだから。
久美子の言うそんな仲間が・・欲しかった。

「気付いたら、いつの間にか傍にいてくれるモンなんだよ
ケンカってのはそんな仲間や本当に大切な物を守る為にやるモンなんだよ
自分の為だけにケンカするなんて意味ねぇんだよ」

諭すような静かな語り口に、駆けつけた4人も緒方と風間も揺らぐ目で聞き
久美子の言葉を聞き入れそうになった緒方は、抗うかのように視線を外して何処か辛そうな声で吐き捨てた。

「綺麗事言ってんじゃねぇよ、お前ら先公の言う事なんか聞いてられっかよ!」

叫びのようだとは感じた。
吐き捨てた後緒方は踵を返しその場から去るそぶりを見せる。
踵を返す際、一瞬だけと視線を合わせ何か言いかけたが

迷いの表情を見せた後、そのまま背を向けて歩き去った。
本城や神谷もへ視線を向け、それから緒方を追うように歩き去って行った。

緒方と目が合った時、何故か自然と立ち上がる動作を取った
追うように動きかけた足は左側からの声に止められた。

「もうあんな事すんなよ・・・ちゃんと冷やしとけ、無鉄砲女」
「廉?」
「兎に角冷やしとくんやで?ちゃん」
「・・あ・・・」

視線を向ければ不機嫌そうな目をした風間と視線が合う。
冷やしとけ、と言った後無造作にポケットから何かを出し 此方に放った風間。
直ぐに踵を返すと緒方とは逆の方向へと歩き去って行った。

残されたのはタオル生地のハンドタオル。
オーソドックスな色でシンプルなデザインのそれ、眺めるへ市村が念を押すように言葉を添えると
視線を合わす前に市村も其処から立ち去っていた。

残された久美子の言葉が、立ち去る彼らに届いてる事をは切に願った。





時間掛かったけど書き終えました(*`д´)b
集中しないと手が進みません←
ぶっきらぼうだけど優しい廉が素敵やわ)`ν°)・;'.、勿論大和君もww
責任取ると言ったらアレしかないですね、ええ(ニヤ
早く心の距離を埋めて彼らと仲間になりたいですねえ(*´∀`)文才はないですが頑張りますb