強さって?
バイトと学校、道場をこなす日々。
そんなある日のバイト。
放課後は、喫茶店のバイトに通ってる。
同じ頃このバイトに来る、女の子がいて
今日は同じ時間からのスタートになった。
来たばかりの時は、結構お客が来てたけど
七時近くともなれば、夕食時な為人も少なくなる。
店長が、先輩バイトとして付けてくれた真希ちゃんは
今も俺の隣で、空になった食器を洗ってる。
同性から見ても、可愛い顔をした子。
きっとモテてるだろうねぇ〜
自分も食器を洗いながら、ふと思う。
可愛いってゆうより、凛とした感じだな。
背筋がピンとしてるっつーか・・・
そこまで考えた時、逆に隣からの視線を感じた。
「名前、ってゆうんだっけ?」
「ああ、そうだけど?」
自分が視線を向けたタイミングで、向こうが問いかけてきた。
店長が紹介したと思ったけど、聞いてなかったんかな。
その辺は深く考えず、真希に視線を合わせる。
身長は自分の方が僅かに高いくらいだから
食器を洗いながらでも、目線は同じくらいだ。
「もうすぐバレンタインデーだけど、はモテそうだね。」
「は?そんな事ないって、興味ないし。」
「ふーん・・じゃあ質問、強い男って同性からも憧れる?」
ど・・同性からって、俺 女なんだけど。
まあ質問は質問だ、打ち解けたいし答えとこう。
「ただ強いんじゃなくて、内面も強い奴なら憧れよりも尊敬するな」
「憧れじゃなくて、尊敬なの?」
「ああ、喧嘩とかだけに強くてメンタル(精神)面が弱い奴って それだけで男じゃねぇよ。」
食器をあらかた洗い終えたは、カップ洗いに移る。
その目線の先には、泡に塗れたカップのみ。
洗う事に集中している横顔を、ジッと見て聞き入る真希。
強さについて話すの顔が、少し真剣な事に気づいたようだ。
自分の突拍子な問いかけに、真面目に答えてくれる姿勢。
ただ顔がいいだけの男とは違う、の姿勢は真希にそう感じさせた。
「そうだね、顔だけじゃ駄目だもん。」
「でもさ、何でそんな事聞くの?」
「んー?あたしも色々あったの!付き合ってみたら駄目男だった失敗。」
「あーなるほどねぇ・・ヘタレは勘弁だよな。」
「でしょ!?」
どうやら、やたら男の強さを気にするのは
過去に付き合った駄目男の事があってらしい。
真希ちゃんと付き合う世の男子は、強くないと駄目だと。
俺?それは在り得ねぇだろ、女同士なんだから。
でもさ、何となくだけど真希ちゃんの言う強いの意味と
俺が思う強さの意味は、少し違う気がする。
強さの形を、喧嘩に勝つ=相手を倒す事。
そんな方程式が、真希ちゃんにはあるような気がさ。
俺はそうは思わない、強さには色んな形がある。
勝つ事だけが強さじゃない。
昔の俺なら、きっと真希ちゃんと同じ考えだった。
でも、此処に来て ヤンクミに会って 隼人達に会って・・
固執した方程式は、新しく変わった。
勝つ事だけが強さじゃなくて、何事にも屈しないのも強さ。
「俺は強さには、色々あると思うけど?」
「色々?」
カップも洗い終えて、手を洗いながらは真希へ言う。
同じく、全部洗い終えた真希も 視線を上げて
タオルで手を拭くを、横から見つめた。
は横からの視線を受けてから、頷いて口を開いた。
直ぐに理解して貰うのは、虫が良すぎるから少しずつ。
「そう、ただ憂さ晴らしの為の喧嘩じゃなくて
大切な何かを守る為にも、強さは必要じゃん?
例え負けても、挫けずに立ち向かうのも強さ。
どんなに困難な状況でも、逃げずに・・・」
真希に話してるはずのの頭には、過去の自分と
何よりも大切な親友、の姿が浮かんだ。
あの時の俺は、立ち向かえてなかった。
押さえ込まれてた感情は、ヤンクミが起こしてくれた。
仲間を守る為に、一人で相手校に乗り込んだ隼人の強さが
俺の中にあった逃げない事の強さ、立ち向かう強さを
呼び起こしてくれたんだ。
「も色々あったんだ」
「まあな、そろそろ上がるか。」
「うん、ウチどの辺?」
真希が手を拭き終えたタイミングで、バイトを切り上げる。
更衣室に行く手前の廊下で、真希がを呼び止めた。
「で・・・いや、世田谷。」
「近いね、途中まで一緒に帰ろっ」
「下心じゃなく、送ってく。」
「あははっ、じゃ宜しく!」
一瞬 田園調布と言いかけて、は慌てて世田谷区と言い換えた。
真希は、不思議がる事なく更衣室へと入って行く。
も密かに胸を撫で下ろした。
あの親父、わざわざ田園調布になんかマンション建てやがって・・
縁切る騒ぎの前だったから、其処に行かされたんだよなぁ。
あ!縁切ったんだからあそこ出てもいいんだよな?
・・・だからって、すぐに新しいトコ見つかる訳でもないし。
ヤだけど、しばらくあそこにいるか。
住み心地は(田園調布だけあって)悪くねぇし。
はしばらく廊下であれこれ考えてから
誰もいないのを確認して、向かい側の男子更衣室へと入った。
脱げば女ですから・・新しいサラシも巻いてるけどな?
―さて、着替えも終わって再び更衣室前の廊下に待ち合い
まだ寒々しい外へと向かう。
途中で店長に、挨拶をしてから裏口から出た。
「寒いね〜コンビニ寄って何か買う?」
「まだ2月だもんな、コンビニはいいや金ねぇから。」
「マジ?バイトの身だったよね、あたしら。」
「そっ、分かってるねぇ」
寒さから守ろうと、互いに両手で体を抱きしめて歩く達。
真希がコンビニを提案したが、お金がないので廃案。
それでも、話が合ってか帰路も賑やかに帰れた。
帰れた・・なら良かったんだが、問題は簡単に起こる。
真希ちゃんは、同性から見ても可愛い。
それに、俺の顔は(元が女なせいか)女顔。
パッと見れば、カワイ子ちゃんと優男。
ガラの悪い奴等の、標的にならない訳がない。
ってな訳で、早速向かう先に何処ぞの不良を発見。
避けて通ろうとしたが、そうゆうのは悟られるモノ。
やっぱり声を掛けてきた。
真希ちゃん側に回り、不良5人組は馴れ馴れしく彼女に触る。
ガラの悪い奴は好かないらしく、思い切り嫌な顔な真希ちゃん。
俺も同じ気持ちだから、早速行動を開始。
真希ちゃんの肩に手を乗せていた不良の手を
軽く押して払う。
「手ェ離せよ」
「何だと?女顔な兄ちゃん、やる気か?」
気が短い不良は、ギロッとを睨みつけガンを飛ばす。
大体の不良がやる威嚇かな?
空手を始めたせいか、気持ちも大分落ち着いてる。
(取り敢えず)穏便にすまそうと、丁重にその気はないと言う。
けれど、不良というのは冷静な態度にこそ苛立つ生き物。
挑発されたと勘違いした不良達は、グッと横から手を伸ばし
の胸倉を掴む。
この時、真希の短い悲鳴が聞こえる。
間にいて、いきなりの事なせいか驚いたんだろう。
は胸倉を掴まれても、間の真希を庇うのを忘れない。
今の自分は男だから、女の子は守らないと。
「ちょっと顔がいいからって調子に乗ってんなよ?」
「別に調子になんか乗ってねぇよ」
「その態度が乗ってるってーんだよ!」
別の男が反対側から、の肩を押しやる。
前後左右を囲まれる前に、は上手く真希を逃がした。
にしても、こんな簡単に囲むとは俺の事しらねぇな?
無事に真希が逃げたのを確認し、ふと思う。
取り敢えず、真希ちゃんには後で言うって事で
一応聞いて見るかな。
「なぁ、聞くけど俺の事しらねぇの?」
「は?てめぇの事だと?」
「・・・もしかして、てめぇ黒銀か?」
一人の男は怪訝そうな顔をしたが、別の男はジッとを見ると
考えるそぶりをし、その数分後を指差して言った。
その発言に、他の不良達が少しざわめく。
何人か知ってるのがいるらしい。
そりゃあそうだ、この辺で黒銀を知らないヤツはいない。
喧嘩で強い、ツートップの隼人と竜が筆頭。
その脇を固めるタケとつっちーに浩介。
彼らを知ってれば、最近加わったの事も知ってはいるだろう。
そして、彼ら不良達の顔つきが多少変わった。
狂気を帯びた、そんな目に。
これがきっかけで、事態はヤバイ方へ傾いた。