強がり



立ち去ろうとしたが、俺達は工藤達に囲まれてしまう。
しかし、不安を感じたとは違い
ヤケに落ち着いた顔をした隼人。

工藤達のナイフを見ても、怯む様子は無い。
流石、3Dをまとめてるだけの事はある。

の手は、隼人に繋がれていたが それが一旦離れ
代わりに今度は竜に手を握られた。
吃驚して竜を見上げた時、公園に隼人の声が響く。

「フォーメーションBで」
「オッケー」
「「B?」」

学ランの襟を掴み直し、余裕の笑みで俺等に指示する。
つっちー達は分かってるらしく、頷き返したが
俺と竜にはサッパリ分からず、反応が遅れた。

「いっせーの!」

隼人の声を合図に、他四人は一斉に走り出し
少し遅れて、やっと逃げる事だと気づいた俺と竜も
工藤の仲間達にぶつかりながらも、走り出した。

これで上手く撒ければいいんだけど・・
多少の不安を感じながら、俺は竜に手を引かれて走っていた。
「逃げ切れたら電話掛けてくるだろうし、心配すんな。」
「え?・・ああ」
隼人達の事を心配してたのが分かったのか
少し前を走る竜が、俺にそう言った。

どれくらい走っただろうか、初めて聞かされたフォーメーション
適度が分からず、俺達は陸橋の辺りに来ると足を止めた。
それに、俺の方が走るの遅くて 竜は合わせて走ってくれてた。
だから・・追いつかれたら、俺のせいだと思ってた。

「もう、平気かな」
「ああ・・つーか、合わせさせちまってワリィ。」

ゆっくりと足を止めた竜、辺りを伺っている彼へ
は少しすまなさそうに言った。
言われた竜が顔を動かし、俺を見て呆れた顔で言う。
そんな事気にすんな・と。
分かりにくいけど伝わる優しさ、嬉しく思ってると
右に感じる心地よい温もり・・・

「あ」
「ん?」
「・・手」
「ああ、まだいいだろ。」

さっきまでは必死で、あまり気にしなかったが
落ち着いて 改めて見るとすっげぇ照れた。
まだ俺と竜の手は、硬く握られたまま。
俺が離そうかと思ったが、意外にも竜はそのままでいいって・・?

「え?・・それって・・・」
「シッ」

突然竜は、俺の口を手で塞いだ。
ちょっとパニックになりかけたが、それどころじゃないと気づく。
進んでいた方から、撒いたと思っていた工藤の仲間。
竜がもう一度俺の手を掴み直し、後ろへ下がろうとしたが
タイミング悪く、後ろからも奴の仲間が現れて・・八方塞。

竜がを庇うように前へ立つ。
だが、後ろから羽交い絞めにされ 気づいた竜が助けようとしたが
前の奴等に抑えられ、鳩尾を当てられてしまった。

「竜!!」
「ざまぁねぇーな、そら・・おまえも寝てろ・・!」
「ぐっ!?」

男だと思われてるも、強く鳩尾を当てられ意識を失った。

その頃――
無事逃げ切った隼人は、咄嗟の事での手を離してしまった事
それを心配しつつトンネルを走っていた。
作戦開始を自分で言う前に、竜がの手を掴んだのを見た。

だから大丈夫だと踏んでたが、俺とした事が・・忘れてたぜ。
竜が来なくなった間に考えたフォーメーションだったから
アイツも知らなかったって事・・。
竜もいるし、平気とは思うけど・・。

そんな時だ、内ポケットに入れておいたケータイが鳴ったのは。
折り畳みのケータイを開き、画面に映った『竜』の文字。
だから、俺は安心してケータイの通話ボタンを押した。

「もし?竜?どした?」
『ブーッ!残念ながら小田切じゃねぇよ』

が、聞こえてきたのは竜ではなく工藤。
何でコイツが、竜のケータイにでんだよ・・
アイツ、まさか捕まったのか!?
隼人の脳裏には、一緒にいただろうの姿が浮かぶ。

「てめぇ・・・竜とはどうした」
『二人仲良く石杖台の倉庫、早くしねぇとボコボコにしちゃうよ?』

ヒャハハッ!と電話越しにたけ笑う工藤の声。
その瞬間、隼人の表情もガラリと変わり
指定された倉庫へと全速力で走った。

竜も心配だが、もっと心配なのはの方。
走る隼人は、二人が無事である事を祈りながら急いだ。

所変わって工藤が指定した倉庫。
ボコボコにしちゃうよ?って言ってた工藤だが
もう既に、竜は抵抗も出来ずに殴られた。
本来なら俺だって殴られるはずだったのに
竜がそれを許さなくて、俺は最後のパンチをあの時と同じように庇って殴られただけで済んだ。

その後工藤達は、倒れ込んだ竜の上着から
何かを取り出すと 何もせずに倉庫を立ち去った。

一体何を企んでやがる?
あんなパンチ、隼人のよりも痛くなかった。
拳に込められた気持ちは、隼人の方が勝ってる。

「おい・・ てめぇ何また俺庇ってんだよ」
「竜!気がついたか?庇うのは当たり前だ。
おまえだって、俺の事庇ってこんなに殴られやがって・・・」

は上着からハンカチを出し、そっと竜の口許の血を拭う。
乾いたハンカチの感触に、傷が痛んだのか僅かに竜が顔を歪めた。
あまりに痛々しい姿に、申し訳なくて俺は俯く。
だって、コイツも俺が喧嘩できねぇの知ってるから庇ってくれて
俺だって殴られて当然なのに、怪我までさせちまったし。

「俺、さっきからオマエに助けられてばかりだ。」

流石に情けなくて、俯いたままはそう呟いた。
落ち込んでしまったを見つめ、竜はそっとの頬へ手を伸ばす。
温かい手の温もりに、ハッと顔を上げると
其処には真剣な顔をした竜。

「あんま気にすんな、俺はそうしたかったからしただけだし。」
「でも・・」
「気にし過ぎ、オマエだって本当は怖かったんじゃねぇ?」
「な・・何でだよ」
「だって喧嘩した事ねぇんだろ?強がるのも大概にしとけ。」

ズバズバと核心を突かれ、パクパクと口を動かしたまま
何も言えずにいるに フッと優しい声で竜が言った。

「いい加減、俺等を頼ったら?」

そのセリフと誰かが駆けつける足音が被る。
誰もいない空間に、足音が反響した。
条件反射で、竜は自分の前に屈んでいたを引き寄せ背に庇う。
は、竜の背中越しに 現れる人物を待った。

「竜!!!!」
「隼人・・?」

意外にも、自分達の名を叫びながら現れたのは隼人だった。
どうやらつっちー達とは一緒ではないらしい。
倉庫の奥にいる達には、まだ気づいていない。
駆けつけた隼人の目に、うっすらと人影が映った。

「竜、!!大丈夫か!?」
「ああ、俺よりも竜が・・」
「何とか・・平気だ」

俺は駆けつけた隼人を見て、竜の後ろから走り出し
駆け寄って来た隼人に、飛びつくような感じで言う。
隼人は、そんなをしっかり抱きとめ 視線を竜へ向ける。

に言われ、見た竜は明らかによりもケガが多い。
それを見れば、竜がを庇って殴られた事は容易。
屈んで話しかければ、ぐったりとガラクタに寄り掛かって笑ってみせる。
隼人に言わせれば、全然平気なようには見えなかった。

それでも、を庇ってくれた事を素直に感謝した。
一緒にいれなかった自分の代わりに、体を張ってくれた竜。
コイツ・・やっぱいい奴だなぁ。

「工藤達何処行った」
「わかんねぇ・・・」
「竜の学ランから何か取り出して、倉庫を出て行った。」

しゃがんで竜に話を聞いている隼人に
俺は自分が見ていた事を報告。

からの情報に、隼人が眉を顰めた時
さっき通って来た倉庫のシャッターが、閉まりだす音が響く。
「竜、立てるか?」
「ああ・・」
咄嗟に隼人は、竜の体を助け起こす。

その事で、もシャッターが閉まり始めたのに気づき
竜を支えて走る隼人を手伝い、反対側を支えて走った。

しかし、努力も虚しくシャッターは目の前で閉じた。
あともう一息だっただけに、悔しさは半端ない。
「開けろー!!」
閉じたシャッターの前で、隼人が叫ぶが反応はない。

どうせ、遠隔操作か何かで閉めたんだろう。
に支えられたまま、竜はシャッターに寄り掛かり
「マジあいつ等、何考えてんだよ・・」
傷のせいなのか、顔を歪めて言った。
俺もその隣に寄り掛かり、ケータイを開いてまた閉じた隼人を見る。

「仕方ねぇ・・・此処で待つしかねぇな」

視線の先で、憎々しげに呟いた隼人。
こんな寒い場所で一晩過ごす事となるとは・・・
まあ、心配する親もいねぇし・・どうでもいいけどな。

も諦め、比較的温かそうな場所を探し
歩くのもやっとな竜を隼人と支え、倉庫の中央へ戻るのだった。