動き出した歯車

坂を転がり落ちる小石も やがては岩になるように

動き始めた物は 簡単には止まらない。

周りを飲み込み、引き寄せ 破壊し

それこそ己をも破壊し兼ねる勢いで・・・

一度動いた歯車は、止まる事を拒む。

小さな渦が、やがては大きな渦になる。

こうして小さき生き物は、そのさだめから逃れられない。


何れ迎える 死とゆう結末から。





第二幕 月と太陽



親切なおばさんから、行くべき学園が男子校だと聞かされた。
が、ラナムを出た自分に 行くべき所は学園しかない。
体一つで来たって奴さ・・・・

まあ 実際、体の他に荷物はあるけど。
何て考えながら、は自分の身なりを見る。
如何にも田舎から来ましたって感じの服装。
首都として名を馳せるラシールの地では、逆に浮いた存在。

「まずは到着した事を学園長に知らせよう。」

学園自体には着いてないけど、電話すれば教えてくれるだろうし。
そんな気持ちで、は父から預かった番号のメモを取り出す。
魔法を使えないは、今で言う携帯電話を取り出した。

魔法使いなら、電話なんて使わずに直接自分の姿を相手に送って
顔を合わせた状態で会話をするから。
メモは封筒に入っていて、面倒だが封筒から取り出す事にした。
何たってたかがメモをお父さんは封筒に入れたんだろう・・

今となっては、直接聞く事も出来ない。
腑に落ちない表情で、封筒から出した途端 異変が起きた。
いや それはにとっての事で、ラシール国の人にとっては
この現象も 日常茶飯事な事かもしれない。

「わぁっ」

突然メモが光り、何もしてないのに二つ折りが開かれ
驚いてるの眼下にフワリと落ちると、其処から男の人が現れた。
体は透けていて、影を送っているんだろう。
そして現れた男は、を見つけニコッと微笑んだ。

『やあこれは素敵なお嬢さんだ、君が君だね?』

吃驚して何も言えないに、男は丁寧に挨拶した。
聞いて更に吃驚、その男はこれから行くべき学園の学園長だったのだ。
直接会ってないけど、こうして会話している今はあの事を聞いた。

「あの・・学園長、レイディア学園って男子校と聞いたんですが・・」

おばさんを疑う訳じゃないけど、学園をまとめる長に直接聞きたかった。
聞かれた学園長は、隠す事なくサラリと言ってのける。

『これは情報が早いですね、その通り我が校は男子校です。』

はぁ・・・やっぱりおばさんの言葉は本当だったのね・・・
聞いて更に落ち込む、女子一人でやって行けるんだろうか。
目の前で落ち込まれた学園長は、にこう言った。

『安心しなさい、決して嫌な目には遭わないと約束しますよ。
たった一人の女生徒を失う訳には行きませんからね。』

一体どうゆう意味なのか、しばらくはその場で考える。
が答えを出す前に 学園長自身が意味を告げた。

『我が校には、もしもの為に学園を守る謂わば規律の象徴とも言える
素晴らしい生徒達がいるんです。
彼等は魔法の力に長けていて、普段は生徒会を勤めていましてね』

もしもし・・・学園長、私には話がサッパリ分かりません。

『彼等に 貴女を護衛するように言ってあります。
他の生徒と違い、彼等は特別ですから安心して任せていいですよ。』

話について行けないをそのままに、学園長は得意気にそう言った。
学園長の話を整理すると、たった一人の女生徒である私を
学園の生徒達の上に立つ生徒会の人達が、守ってくれるって事?
チラッと学園長を見れば 考えてる事が分かってるのか
満足そうに頷くのであった。

それから学園長は、学園の場所をに伝え
着いたら学園長室に来るようにと言うと、送られていた影は消えた。
・・・ってゆうかさ、これってメモの意味ないじゃん。

「学園の規律を守り 更に強者揃いで、その上私を守ってくれる・・」

何か・・とっても美味しい展開なんじゃあ・・・・
はっ!でも、実際会ってみたら凄く不細工だったりして!?
そんなんだったら守ってもらっても嬉しくないかも・・・。
期待と不安に胸を高鳴らせ、は教えられた通り
これから自分が通う事となる学園へと向かうのだった。

■■■■■


学園長の話では、遠い所から来る者専用に寮があるとか?
此処での棲家を決めてなかったとしては、凄く助かる。
あ!でも、そうすると男子だらけの寮で暮らす事に!?

「うぅ〜何か学園より危険な気がする。」

とか何とか考えてるうちに、大きな建物が見えてきた。
校門らしき物も確認出来る・・・ってゆうかさ。

「でかいって・・この学園!」

人目も気にせず、は叫んだ。
敷地なんて、何処かの豪邸か!?って程広いし
校舎も一つとか二つなんて数じゃない!!
此処からでも見えるくらい、立派な建物がズラリ・・・
あれってカフェ!?あそこは公園か!?

「慣れる前に迷いそう・・・」

その姿を見る度に、やって行けなさそうになる。
兎に角学園長に相談しよう、と外壁沿いに歩いていると

「ねぇねぇ彼女〜可愛いね!今一人?」
「俺達と遊ばない?」
陽気な声が、のいく手を阻んだ。

顔を上げれば 学生服のような物に身を包んだ男達の姿。
人数は三人で、すっかり自分は囲まれている。
はどれ程自分の容姿が、人目を惹くとは気づいていない。

「あの・・私今急いでるんです。」

今は早く学園長に会って、寮の事とか聞きたいのよ〜!!
心の叫びは聞き届けられる事もなく、空しさが残る。

「いいじゃん、そんな事より楽しい事しようよ。」
「いや、本当に急いでるんです。」
何とか前にだけは進めるみたいで、懸命に校門を目指す。
それでも諦めない男達は、何とか気を惹こうと着いてくる。

ああーもうどうすればいいの〜!!
何とも出来ないまま歩く事しばし、突然の足が動かなくなった。

「わっ!?」

突然の事態に体が対応出来ず、前につんのめるが
前に来ていた男子生徒が、タイミング良く受け止めた。

「離してくれませんか!?」
「嫌だね、俺達と遊んでくれたら離してやるよ。」
男達のその表情に、は身震いした。

これは学園に入る前に どうにかなってしまう。
もうどうしたらいいか分からないよ!怖い、誰か助けて!
は気づいていないが、目の前は既に校門で
指輪の石が光り、腕輪が連鎖して光っているのに気づかない。

「おい・・何だこの光り・・・」

の様子がおかしいのと、突然滲み出て来た光に
男子生徒が気づいたのと の全身が光るのは同時だった。

「「「うわっ!?」」」

目映い光と共に、三人の男子生徒は弾かれた。
互いに尻餅を着き、理解出来ない状況にうろたえる。
それはも同じだった。
何故自分は光ってるのか、どうすれば止まるのかが今度は分からない。
しかも 何故こんな事になったのかも分からない。

「いやだっ・・・止まらないよ〜」

どうすればいいのか分からなくて、ただ涙だけが零れる。
今まで魔法なんて知らなかったのに、恐らく男子生徒が掛けた魔法。
自分の動きを止めた魔法を、滲み出た光は簡単に解いた。

それだけは分かったけど、このまま光ってるのは困る!
男子生徒達も、何が何だか分からずただその光景を見ているだけ。
の不安が頂点に達した時、ふと柔らかい物が自分を抱きしめた。

「落ち着け、もうオマエを傷つける者はいない。」

安心して・・深呼吸するんだ。と上から声が降りて来た。
その声は不思議な作用でもあるのか、その者の声と感触
存在を感じ取った時、自分から発せられていた光が戻るのを感じた。

光が・・・消える―――――。

途端に力が抜けて、膝がガクッと折れた。
座り込みそうになったのを、自分を包んでくれた腕が支える。

「暴走だけは防げたみたいだな」

妙に落ち着いた声で、を支えた者は言う。
見れば あの男子生徒達は、何故だかとても慌てている。
どうしてそんなに?何に対して慌ててるんだろう。
の疑問は、やがて告げられる言葉で消えた。

自分の腹部に回された腕、とても力強くて自分の腕とは違う物。
其処から視線は上へ向かい、広い胸が目に入る。
そうすると更に意識した、これは男の人だ。

男子校だから当然だけど・・とっても安心してしまう心地よい胸。
厚みがあって、の不安をも包み込んでくれそう。

「お前ら・・・今日だけは見逃すけど、次はないと思え。」

上から聞こえる低い声、徐々に男の容姿が見えてきた。
形のいい唇と、外人かと思わせる程整った顔。

「そうそう・・僕達の大事な主をこんな目に遭わせたんだから」

今自分を支えてくれてる人とは違う所からも、声がした。
よく聞かなくても分かる、全く同じ声。
もしかしなくても・・・双子?

パッと顔を向ければ、予想通りの双子さんがさっきの男子生徒と対峙。
それに・・・どうしてこんなにカッコイイ双子さんなの!?
を助けた双子は、見目麗しい美形。
後から現れた方は、金髪に青い瞳で 自分を支えてるのは銀髪。
うわ〜これ、私じゃなくても惚れちゃうよ?

同じ双子でも 性格は違うらしく、喋り方も全く違う。
銀髪の方が言葉が荒い・・でも顔はカッコイイ。
見目麗しい双子に睨まれ、男子生徒達は何度も謝ってから立ち去った。

「さて・・不届き者は退散した、危なかったなお前。」
「お前って呼んじゃ駄目だよ、今日から僕達の主なんだし。」
「てゆうか、お前のその『主』って呼び方何だよ」
「たった一人の女の子だよ?僕達の役目は護衛なんだし」
「それとこれで、『主』何て呼ぶ必要はねぇだろ」

何か突然 目の前で双子のバトルが始まってしまった。
さっきから自分には分からない世界の話をしてる・・・
金髪の方が言う『主』って誰の事?
うん?でもさっき、学園長は私を守る人達がいるって・・・

「もしかして・・私の身の回りを守ってくれる人?」

不意に漏らした言葉で、双子の言い争いも止まり
「うん、君はこの男子校のお姫様。僕達は君を守る為にいるんだ。」
何ともクサイ台詞を、金髪美形さんは簡単に言ってくれた。

はまるよ・・美形さんって。

「お前ってやっぱ天然ってゆうか、意味不明な事言うよなぁ」
お前と双子何て、顔が違ってりゃ誰もおもわねぇよ。

ギュッとの手を握った金髪美形さんの後ろで
呆れた顔をしてるのは、片割れの人。

「ねぇ 君の名前を教えてよ。僕はライ。」
「俺はコウ」
握手をした姿勢で、金髪美形さん―ライ―は問いかけてきた。
銀髪の方がコウで金髪の方が、ライというらしい。

「初めまして、あ、助けて下さって有り難うございます。
私はルシア=レイ・と申します。」

フワフワして天使みたいなライさんの微笑みに、つられるようにして
は二人に自分の名前を名乗った。

「君にピッタリ、これから宜しくね。」
「お前・・・ナンパ?まあ兎に角、男ばかりで大変だろうけど
学園の中では 安心していい、俺達が守るからな。」

恥ずかしい・・・けど、嬉しいかもしれない。
初めは不安だらけだったけど、この人達がいるならやって行ける。

「はい!こちらこそ、宜しくお願いします!コウさんライさん」
ニッコリ笑ったの姿に、双子はちょっと頬を染めた。
名の通りに可憐な少女、これからは自分達が守るべき者。
二人の中に、新しい風が吹いた。

「お二人の他にも、生徒会の皆さんっているんですよね?」
必然的にコウがの荷物を持ち、ライが傍でエスコート。
滅多にお目にかかれない美形な双子に護衛され、はご満悦。

無邪気な笑顔を、ライは隣でニコニコと見ている。
後ろを守るコウが、その問いかけに答えた。

「俺達の他に三人いるな、それと生徒会もしてるが別名もある。」

別名?生徒会の他にどんな呼び名があるってゆうんだろう・・・
は足を止めて、後ろのコウを振り返った。
青い瞳と間近で目が合う。

「学園の規律を守り、秩序を守る『学園ガーディアン』ってな」
「そうそう、新たな任務も加わったしね。」

コウの言葉を引き継ぎ、前方からライがを見て言った。
この言葉に、は父の言葉を思い出した。
この学園に自分の運命が待っている・って言葉を。
どんな事かは分からない、でも何とかやって行けると思う。

校舎に入り、珍しそうに辺りを見ているに聞こえぬよう
双子は後ろからそれを見つつ、小声で言葉を交わした。

「コウ・・あの光りとさっきの力って・・・」
「間違いないだろうな、があの『扉』かもしれない。」
「そうだとしたら、全力で守らなきゃだね。」

ライの瞳が、前を歩くに向けられる。
何も知らない無邪気な少女は、二人の視線に気づき笑みを向けた。

「ああ・・・この世界と学園とカムイの為にもな。」

つづく