月の魔法



PM 23時

寝れねぇ・・・・
こう枕が変わると眠れないって奴だ。
何度目かの寝返りをした所で、耐え切れずに亀梨は体を起こした。

周りを見れば5色の猫が眠り込んでいる。
他の奴らはどうやら神経が図太いらしい・・・
スヤスヤと寝息を立てている赤西らを横目に、喉が渇いたなあと歩き出す。

そして気付いた。
が気を利かせて半開きになったままのドア。

其処に近づく為に踏み出した足・・
靴下穿いてねぇ?

まさか?と思い立って両手を翳してみる。
うわっちゃんと五本の指がある!
服装を心配したが、昨日の打ち合わせで着てた服のままだった。

人知れずホッとする亀梨。
て言うか何で戻ったんだ?他の奴らは猫のままだし。

どういう訳か戻ってるのは自分だけで
眼下には他のメンバーが猫のまま寝てる姿がある。
よく分からんけど家主のと話をするんだとしたら今しかない。

でもいきなりこの姿で現れても驚かすだけだろうな・・・
うーーーん・・・・・

けどいつまた戻れるかわかんねぇし、行くしかないか。

腹を括ると静かに部屋から出て先ずはキッチンに。
喉渇いたし先に潤しておこう←
まださん起きてればいいけどな〜・・・・・

と思いつつ部屋の中を進む。
何て言うかアレだ、電気は消えてんだけど足元を照らすライトみたいなのがセンサーで照らしてくれる。
至れり尽くせりと言うか、やっぱ家賃とか高そうな感じだ。

無事キッチンに着くと、シンクに近づいてコップを探す。
それから気付いた事がある。

蛇口が捻れないデス。
今時のって感じでミストシャワーって言うか何だ。
イオン水も出るし先端外してって事も出来るいいシンクなんだけど

本来捻らなくちゃならない蛇口が、ガムテープで固定されてて
其処から水が飲めなくなってるんだよな。

皿洗いとかどうしてるんだろ?
浮かんだ疑問は横を見て解消された。
どうやら食器洗い機で済ませてるらしい。

・・・って、隣の晩御飯じゃあるまいし

自分に自分で突っ込みを入れてからどうすべきか悩む。
目的は水だったからなあ・・
あ、冷蔵庫に水とかないのか?

閃いて大型の冷蔵庫に近づく。
勝手に開けるのはプライバシーに関わりそうだな・・・・・・・

またしても悩む。
そうこうしてるうちに猫に戻ったらヤバイな。
先にさん探すか・・・・

キッチンを抜けて移動。
玄関方面に行く途中に右に曲がる通路を発見。
こっちは何だろう?と視線を向けて思わず隠れた。

その先には部屋があって、中に人影を見つける。
よく見るとそれは家主ので、どうやら服を畳んでいる所のようだ。

いざ声をかけるとなると不思議と緊張。
コンサートでもこんな緊張しないぜ?
努めて脅かさないようにと近づかずに普通のトーンで名前を呼んだ。

「あの、さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「えーとこっちです」
「・・・・・・・・・・・・え」
「怪しい者じゃないっすよ?」
「・・・え?え?えぇぇっ!??」
「わーーーーっ!声がデカイからーーっ」(お前もな)

しかし甘かったらしい。
洗濯物に回す奴なのか、畳んでいた服をそっちのけに
亀梨を見て固まったは、見事に指差し確認しながら叫んでくれましたとさ。

奴らが起きたら面倒になると思い、咄嗟にの口を手で塞いでいた。
赤西達が起きたか?と気になって耳を澄ますが、幸い聞こえていなかったようだ。

それから漸く亀梨はの口を塞いでいた手を外した。
未だ目をパチクリさせているを正面から眺め
落ち着いたかどうかを図りつつ、改めて口火を切った。

「えーと、俺はアンタがリュウって名づけた奴デス」

我ながら混乱しそうな説明だなあと突っ込む。
どうも上手い切り出し方が分からない。

一方で突然知らない男の子が家の中にいる事実には付いて行けてなかった。
猫は拾った、否、居た。
でも男の子を拾った記憶はない。

さっき私の口を塞いだ手は意外にも大きくて、ちょっといい香りもした。
その子は私がリュウって名づけたんだ、と名乗る。
・・・・最近そう名づけたのって、確かアメショー・・・・・・・

うん?!
今目の前にいるのは男の子(結構な美形

あれ?あれ?
つまりこの子の名前もリュウ?

どうにも脳みそが追い付かない。
目の前の子も困っている風だった。
ちょっと待って、私は猫しか家に入れてないから・・この子が入れる訳はない。

それと同じ名前で・・・・・・
このネックレス・・確かアメショーも付けてたのと同じ・・・・
って事はやっぱりそうなの?

「本当に・・・・あのリュウ?」
「そうみたい、です。」
「わー・・・え、変身?」
「いやそれってかなり嘘くせー・・・」
「だよね」
「・・・・・」
「・・・・・」

「「ぷっ」」

茶髪で切れ長な目をした美青年をジッと観察。
その時、彼とあの猫が紛れもなく同じなのだと決定付ける物を見つけた。

アメショーが首に下げていたあの蒼玉と同じ物を彼もつけていた。
確認するみたいに目の前の男の子に問う。
すると何とも心許ない返答が返って来る。

でも私は確信していたから特に触れずにおいた。
何か変身みたいな感じだね〜と口にしたら直ぐに突っ込みが返される。
思わず同意してみたら余計に面白くなってしまい、互いに顔を見合わせて噴き出してしまった。

猫だった本人が自分で嘘くさいとか言っちゃう辺りにツボがっ
一通り笑ってから早速ぶつける疑問。

「名前はやっぱリュウ・・・・ではないよね?」
さんは芸能人とかあんま知らない?」
「・・・・うん、て・・芸能人さん?」
「芸能人さんってあんま言わない言い方だよね」
「あ、そうか。えーと仕事ばっかしててあんま知らない・・・・」
「いや気にしてないっすよ、その方が何か気楽に接しられそうですし」

面白いなあさんって(

「そう?じゃあ名前教えて下さいな」
「改めまして俺は亀梨和也です」
「亀梨君?あ!思い出した!」
さんシィーーーッ」
「ごっごめんなさい」

聖と同じ系か?(笑)
名前を教えたらさんはちょっとハッとした感じになった。

何だろう、きゃーきゃー騒ぐ系の人でなくてちょっとホッとする。
さんは何を思い出したんだろう?

取り敢えずこのゆったり流れる時間をもう少し愉しみたいと亀梨は感じていた。

「確か二年前くらいに、祖母と共演してたよね?」
「はい、あの時はお世話になりました」
「ううん、祖母が言ってたよ?とても礼儀正しくて演技にも真剣に取り組んでる子達だって」
「それはちょっと褒めすぎじゃ・・・・」
「謙遜しないでよ、私も祖母が気に入った人達と会ってみたいって思ってたし」
「すげー光栄ですね、さんって仕事何してるんですか?」

さんが思い出したのは俺が夕さんと仕事してたって事。
何か高評価して貰えただけで光栄すぎると思った。
『達』って事は赤西の事も覚えてくれてるだろう。

会話を進めるうちに分かったのは、歳は同い年だって事と仕事はデザイナー。
仕事をする事務所みたいなのも建てて、自立してる女性だと言う事だ。
同じ歳で立派に事務所経営してるとかすげぇー・・・・

服を畳むのを再開させたを眺めながら尊敬の眼差しを送る亀梨。
すっかり本題を忘れている亀梨だった。