突然変異??



その日は、何時もより頭が痛くてだるかった。
これは休む事にしようって思って
ベッドサイドに置いてある子機に手を伸ばした・・つもりだった。

と・・・取れない!

普段なら、難なく取れるはずの高さ。
それなのにどうした事か、幾ら手を伸ばしても
指先に触れさえしない。
おかしい、絶対におかしい。
そう思って目を開けた俺は、少しの違和感に気づいた。

「おっきい・・・」

目にした物全てが大きい、しかも天井が遠いし
何よりも 自分が発した声に驚いた。
まるで幼い子供のような声・・・風邪のせいか?

風邪のせいで声が掠れて、そうなってるのだと解釈し
ベッドから起きて再度 子機に手を伸ばした。

伸ばした自分の手を見て、今度こそ 俺は驚愕し叫んだ。

「俺の手じゃにゃい!」

にゃいって俺は浩介か!何て一人で突っ込んでみる。
とにかく、自分が見た手はどう見ても幼児。
ぷにぷにした柔らかい皮膚、絶対に俺の手じゃねぇ!
しかも、更に在り得ない事に 子機が重い。

これじゃあ電話出来ねぇじゃん!!
さあ困った、風邪なのに電話が出来ない上に
鏡を見なくても想像出来てしまう、体の異変。

こんなんじゃ、誰か来ても出られねぇ!!
出なきゃいいんか・・ってそうゆう訳にもいかん。

よく見れば、パジャマとして着ていた服もダボダボ。
乱れまくり・・・まあ色気の『い』の字もないけどさ。
・・・自分で言うと、虚しくなるな。
俺は布団を頭から被って素肌を隠す。

この具合からして、今の自分は3歳児になってる。
何がどうなればこうなるのか、誰か説明してくれ。
このまま行かなければ絶対ヤンクミが電話してくる。

出る以前の問題で、受話器が取れねぇっつーの。

「喋り方まで幼児になってるよ」
如何せんこうしていても腹は減るし、生理現象だって催す。
どうしよう・・・トイレすら一人じゃ行けなくねぇ?
隼人達の手を借りるにしろ、俺は元々女。
いくら幼児化してたとしても 限度がある。

せめてヤンクミには話すべきか・・・
そう決意して、再度受話器に挑戦しようとした時
テーブルに置いてあったケータイが、賑やかに鳴った。

幸い電話じゃなくてメール。
小さい体になったせいで、動きもゆっくり。
ベッドを降りるだけでもこんなに大変だとは思わなかったよ。
つーか、そう思う事もないって思ってたからなぁ。

「タケからだ」

受信したメールは、フォルダ分けで『高校の友達』に
振り分けられ 送信者名にはタケの名前。
時間からして、もう学校にいるのか?
いや・・それはない、まだ7時30分。

家からか、通学路からのメールと見た方がいい。
タケの行動を推理しながら、受信したメールを開く。
『おっはー、今さんちの近く何だけど一緒に行かねぇ?ガッコ。』
爽やかっつーか、何で俺んちの近くにいんの?
歩きながらメール打ってんのかな。

てゆうか一緒に行けねぇー!こんなの見られたらヤバイだろ!

アセアセしながら、小さい指で必死に返事を打つ。
あーもー!幼児がメール打ってんなよ!(自主突っ込み)

☆☆

の身に起きている事なんて、ちっとも知らないタケは
メールの返事をワクワクして待っていた。
折角の早起き、しかも隼人達はいない。
これを逃す手はないっしょ!

上手くすれば 朝からと二人で登校♪
隼人達に自慢出来ちゃうぜ!

タケの目には、もうのいるマンションが見える。
軽い足取りで歩くタケのケータイが、軽快な着信音を鳴らした。
内容が早く見たくて、着信音を途中で止めてケータイを開く。

素早い動きで受信BOXを開き、受信したてのメールを開き
ざっと読んだだけで、一気にテンションが下がった。

『ごめん、わりぃけどちょっと体調悪いから行けない。』

何だぁ・・・折角二人っきりで登校出来ると思ったのに〜
うん?・・・体調が悪い?風邪?
ひょっとしたらこれは、の看病が出来る!?
俺ってばラッキーかも♪そうと決まれば、コンビニで何か買ってご。

☆☆

タケの暴走を知らない俺は、何とかメールを返すと
返事のない事を承知と受け取り、ベッドへ戻った。
その時も、情けないがよじ登って。

体調不良の旨は、タケが伝えといてくれるだろう。
そう考えたら安心して 再び睡魔に襲われる。

寝れば治ってるかもしれないし。
もしかしたら夢かもしんないじゃん?
風邪のせいかも、よーし今日は寝てよう日だ。

とか思って寝転がると、玄関のチャイムが鳴った。
マジ?どうしよう!何でこんな朝っぱらから来るんだよ。

焦っても仕方ない、何とか誤魔化そう!

来客がモニターに映るシステムな為、台所の机によじ登り
背伸びしてモニターを凝視・・・・ん?
このツンツン頭、ヘアピンだらけのスタイル。
色の具合といい、もしかしなくても・・・

「タケ〜!!」
『!?』

安堵感から、つい受話器を取り来客者へ叫んでいた。
反対に、ではない高い声に名前を呼ばれ
タケは吃驚して扉を見上げた。

表札を見て確認する、其処には確かに『嘩柳院』と書かれている。
でも 今の声は絶対にじゃないって。
これじゃ、完璧に女の子だしって確かに女の子だけど
は男の俺から見ても、男らしい女の子で
こんないかにも女の子って声じゃないハズ・・・

胡散臭いけど、確かめなきゃ気が済まない。
タケは思い切って扉を開けてみた。

しかし、目の前には誰もいないし 周りを見ても姿はない。
悪戯??と疑い始めたタケの耳に、再度可愛らしい声が届く。
今度はハッキリと、その姿も確認出来た。

「タケ〜」
?何処にいんの・・・・」

悪戯でもない声は、弱々しくてか細いが女の子の声。
その声を頼りに家に入り、扉を閉めてキッチンを進み
背後からの声で振り返って タケは言葉を失った。
其処には、見るからに3歳児の可愛らしい女の子がいて
テーブルの上から自分を呼んでいる。

初めて見る顔なのに、その子は自分の名を知っていた。
の・・・妹?でも竜は嘩柳院家に、子供は一人だけって・・
じゃあこの子は誰??よく見ると が小さくなった感じ。

子供の頃ってこんな可愛いかったんだ〜
・・・・って事は?この子はもしかして?

「まさか・・ホントに?」

確認するような問いかけに、小さいは大きく首を縦に振った。
か・・可愛い。
吃驚するより先に、小さいの可愛らしさに
そう思わずにはいられなかった。

「マジで?でも何でそんな姿になってるの??」
「知らないよ!目がしゃめたらこうなってたの!」

しゃめたらって・・覚めたらって事?
ヤベー!舌ったらずみたいな感じがマジ可愛い!!

「訳はわかんねぇけど、マジ可愛い!!」
「いいわけないでしょ!抱きちゅくなっ!」

暴走気味のタケ、俺にいきなり抱きついてきやがった。
この姿じゃ引き離す事すら出来ない。
よしよし と抱き上げられれば、まるで親子のよう。
このまま戻らなかったら、どうなるんだ?

小さい自分に顔を綻ばせてあやし始めるタケを見て
俺は些か・・でもない、大きな不安を覚えるのであった。