止められない
――好きだ
掠れるような色っぽい声で、告げられた想い。
言葉と同時に、優しくそっと口付けられた。
絡み合う吐息・・・
角度を変えて交わされる口付け。
激しくなるキスに、あたしの息もあがった。
苦しくて、息を吸おうとしたタイミングで仁が唇を離した。
キスの最中、必死にしがみついてたあたし。
仁が唇を離しても、あたしの手は仁の二の腕を握ってた。
しばらく余韻で、頭がボォーッとする。
目の前にある仁の顔、それをしばらく眺めた。
次第に落ち着いてくる呼吸と思考。
「わりぃ、けど俺本気だから。」
「!!」
「気づいたら気になってた、マジで好きだから。」
「仁・・・」
「行こうぜ、皆待ってる。」
あたしが落ち着いた頃、すぐ近くで仁が言う。
『本気』だって。
素直な気持ちだけを、飾らずにぶつけてくる。
仁は返事を急かしたりしなかった。
一通り言い終えると、普段の顔に戻って笑う。
あたしに向けて手を差し伸べ、少年のように笑うんだ。
憎めない・・憎むドコか、強く心に残った。
さっきのキスで、仁の存在を強く焼きつけられた感じ。
本当は騒ぎたくて仕方なかった。
突然の告白と、初めてのキス。
騒いで混乱して、少しずつ気持ちを落ち着けたい。
けれど、あたしは女優だ。
しかもこれから、大事な記者会見が待ってる。
ただでさえ遅刻ギリギリ、私情よりも仕事を優先しないと。
だからは、精一杯気持ちを静め
差し伸べられた仁の、大きい手に自分の手を重ねた。
閉じられたドアを開くと、眩しい光が飛び込んで来た。
次々と切られるシャッター。
光の正体は、集まった記者達のフラッシュ。
「全員揃いましたね?」
と仁は、吃驚しつつも頭を下げて一礼。
それを見つけた司会者のような人が、確認するように眺め
集まった記者達に、会見の開始を告げた。
こうして無事、ごくせん2の記者会見が始まった。
始まると共に、出演者へ順繰りに質問が始まる。
監督には、2を撮るに向けてのきっかけと抱負。
続いて、生徒役の自分達が役名と抱負を言う番になった。
最初に言うのは、ツートップの仁と亀ちゃん。
「矢吹隼人役の、赤西仁です。
前回のごくせんに負けないよう、頑張ります。
隼人役を赤西仁がやるんじゃなく、赤西仁が隼人を演じるんだと
思って貰えるような演技をしたいと思います。」
「小田切竜役の亀梨和也です。
前回以上の作品に出来るよう、やって行きたいです。
いつまでも皆さんの心に残るような演技をしたいです。」
マイクに手を添えて、力強いコメントを仁と和也はした。
切られるシャッターと光の嵐。
会場に沸き起こる拍手。
次はの番となった。
学ランに身を包んだ、選ばれし異色のヒロイン。
その発表は、メディアとして注目の的だった。
「男装のヒロイン、嘩柳院 鴇役の片瀬です。
このヒロインは、とても過去に複雑な物を抱えているので
その辺を上手く理解し、私らしく演じたいと思っています。」
口から出たハスキーな声、そしてその存在感。
普通にコメントしただけなのに、全ての記者が顔を上げた。
今まで素人だったらしいが、堂々と話す姿からは
全くそれを感じさせない。
誰もが、これは凄い作品になると実感した。
その後も、順調に会見は続き
予定の時間を少しオーバーして、会見は終わった。
「やあ皆、お疲れ様。」
「加藤さん、俺達少し遅れてしまってすみませんでした。」
「それは構わないよ、間に合った事だし。」
「「有り難うございます!」」
優しい加藤さんの言葉に、またもやあたし達はハモった。
顔を見合わせようとして、あたしはさっきのキスを思い出し
仁と顔を見合わせる前にパッと顔を背けた。
昨日までと雰囲気の違う2人に、監督も気づく。
これは何かあったな、とは思ったが・・今は撮影の最中。
「さて、これから撮影だから気を抜かないでくれよ?」
「今日はどの撮影ですか?加藤さん。」
「初の乱闘シーンだから、心してね。」
「「「「「「乱闘シーン!?」」」」」」
楽しそうに笑った加藤さん、達は一斉にハモった。
これはマジで、動揺してる場合じゃないよ〜
どうすればいい?これは誰にも相談出来ないよ。
なんか・・『鴇』みたいな状況になってる。
2人からってのじゃないけど、どうすればいいのかは同じ。
『鴇』と違うのは、ヤンクミ=仲間さんに相談は出来ない。
今日撮影する乱闘シーンは、どんなシーンなんだろ。
今まで撮ったのは、ドラマ3話分。
台本を読む限り、4話に乱闘シーンなんてない。
じゃあドコの乱闘シーン!?
「ねぇ、初めての乱闘シーンだね♪」
「だね〜なんか緊張する!」
「なんか、5話の乱闘シーンみたいだぜ?」
「和也・・5話話の乱闘シーン?」
呆然と(まではしてないけど)してたら、後ろからてっちゃん。
てっちゃんも緊張するってゆうから、あたしも一緒に同意。
そしたら、更に現れたのは和也。
台本を手に冷静に会話に入ってくる様は、既に竜。
教えられたシーンの台本を、和也から受け取り開いた。
5話の話は、タケが主役の話。
鴇と同じバイト先で働いてる、真希ちゃんを好きになったタケ。
しかし、真希ちゃんの好みは強い男。
鴇とそれを話し合い、打ち解けた2人。
その帰り道、鴇は竜神高校の卒業生と名乗る男達に絡まれ
真希だけは逃がしたが、鴇は彼等に殴られてしまう。
だが、隼人達を侮辱された鴇がキレ とうとう乱闘になってしまう。
「鴇は真希を逃がした後、男等に殴られてしまう。」
「乱闘シーンの前は、それを撮るらしいね。」
「ちなみに、乱闘シーン撮るのはだけだって」
はぁ!?
描写を読み終えたあたしに、アッサリと徹平が一言。
思わず開いた口が閉まらなくなった。
監督は仁にも言ってたから、全員かと思ったのに!
今まで喧嘩した事ないのに、いきなりかい!
しかもよく読むと、両の頬を殴られた挙句に
油断したトコを首を蹴られ、危機に瀕してしまうようだ。
空手を習ってるみたいだけど、あたし習ってないよ?
「それはスタジオに行ってから、簡単に教えるってさ。」
「んな早く覚えられるかっつーの」
「、鴇が出てきてるよ?」
混乱と焦りのあまり、役柄が顔を覗かせた。
徹平が励ましを含めて、あたしの背中をバシッと叩き
和也も反対側からあたしの頭を叩いた。
励ましは嬉しい、あたしの頭の中は
演技の事もあるけど、それよりもアレが・・・
『他の誰から、何て思われたっていいし。
どんな噂が流れたって構わねぇ、俺はが・・・・』
考えるより、思い出すより先に仁の言葉が甦った。
あんな熱ッポイ目で言うから、胸が締め付けられたよ。
それに、距離が近すぎだったし。
ヤバイ!!仁の顔が近づいて来た時を思い出すと恥ずかしい!!
出逢いは最近だけど、こんな風になるとは・・・
全く知らない人だったのに、出逢って話して。
知っていくうちに、意識してたのかな。
ファンの子に詰られた時、石を投げられたりした。
その時思った、役者同士としての付き合いで
撮影が終わったらサヨナラってゆうのが・・・
あたしは嫌だって思ってるって・・・。
次の撮影は、この会場近くの公園で行われる。
時間的にはピッタリで、すぐに空手の型を叩き込まれた。
初めての経験に、真剣に打ち込むの姿を仁達も見守っていた。
自分が気持ちを抑えられなくて、キスしてしまった。
その事で、明らかにが困惑してるのは目に見えて分かる。
けれど、止められなかったんだ。
助手席で笑う姿とか、役とのギャップとかを見てて
意外性ってゆうもあるけど、話し出すタイミングも一緒で
鼻歌のタイミングも同じ、そうゆう一致が嬉しくて
もっと知りたいし、何よりも他の奴にそれを見せて欲しくなくて。
「やべぇ・・止まんないかも。」
を想うと、走り出した気持ちが止まらなくなる。
キスだけじゃ止まりそうになかった。
何とか押し留めた気持ち、タガがいつ外れるかはわかんねぇ。
小さく呟いた言葉、目は真っ直ぐにだけを捉える。
皆が見守る中、の初乱闘シーンは開始された。