たまにくれるキス
ジリジリと肌を焦がす、うちなーのてぃーだ。
青い海と、真っ赤なアカバナが咲き乱れる島。
私はこの島で生まれ、この島で生きている。
とっても大切な人も出来ました。
その人はこのうちなーの中学の同級生で、テニス部に入ってる。
このテニス部の部長、木手君の下、毎日テニスに励んでる。
そんな彼と私が出会ったのはごく最近。
馴れ初めは置いて、本題に入るとしましょう。
「は最近彼とどう?」
きっかけは親友の一言だった。
彼とはどう?それって近況を教えろって事だよね?
私は正直迷った。
だって今時の中学生って(お前も中学生だろ)早いんだもん。
彼とキスしちゃったとか、ホテル行っちゃったとか。
今私に近況を聞いてる親友も、彼氏がいて結構進んでるらしい。
でもね、私の彼は他の人とは違うの。
テニスも出来て、カッコ良くてモテるのに・・奥手。
それは失礼かもしれないけど、私には丁度いいペース。
無理に関係を要求して来ないし、私に気持ちの整理というか何か気を使ってるってゆうの?
兎に角素敵な彼なの(説明が強引だ)。
「別に?何も変わりはないよ?」
「相変わらず遅い訳だ」
「いいじゃない、私達には私達のペースがあるんだから」
キスも満更にしてない私達の関係に、親友は焦れてるらしい。
別にだからって焦る必要もない、私達はこれでいいんだから。
◇◇◇
あの話を親友とした後も、彼、えっと甲斐裕次郎君とは普段通りに帰宅。
電話とかメールとかしたりの普通の日々を過ごしていた。
この日も変わらず、休みな事をいい事に朝から電話中。
「でね、加奈子が言うのよ」
【相変わらず聞いてくるのかよ、あにひゃーは】
「まあね、でも私は焦ったりしてないよ?」
【・・・・・・】
甲斐君に親友の話をしている最中、呆れつつ聞いていた甲斐君の声が不意に聞こえなくなった。
受話器から聞こえるのは、波の音。
どうかしたのかとしばらく待ってみる。
数分の間を要して甲斐君が言ったのは、特に驚く事でもなかった。
【今からやーの家、行ってもいいか?】
特に断る理由もないから、二つ返事で承諾。
これを言う為に間を使った訳でもないと思うけど。
電話を切って甲斐君が来るのを待つ。
部屋をある程度綺麗にして、支度を整えて待つ。
待つ・・・。
ピンポーン――
玄関の呼び出し音が鳴って来客を知らせる。
留守番してたから私が玄関に向かう、甲斐君が来るのは分かってるし。
ガチャッと玄関を開けた私の目に飛び込んで来たのは、眩しい笑顔。
一瞬てぃーだのようだと思ってしまった。
朝から爽やかね・・・
「うきみそーち」
「うきみそーち、上がる?」
「あのさ、今から海いかねぇ?」
「今から?うん、別にいいよ?」
何や分からないけど、取り敢えず海に行く事になった。
部屋に戻って水着に着替え、その上に服を着て甲斐君の所に戻る。
玄関に鍵を掛け、甲斐君のチャリの後ろに乗って海に向かった。
風を切って走るのがとても気持ちいい。
流れるような景色を見て、目の前の甲斐君の背中に頬を寄せてみる。
その瞬間、いつも以上にビクンと反応した甲斐君。
普段からそうしてるのに、この日に限って過剰な反応だった。
まあ特に気にする事なく海に着く。
テニス部でよくこの海に練習に来てるとか。
7月に入ったうちなー、海開きは先月くらいにしてしまっている。
それでも人は少なかった。朝だしね。
「わー!着いたね」
「・・ああ、泳ぐか?。」
「少しのんびりしてからにする」
「そうだな」
何やら元気がないような気がする。
いつもなら真っ先に海に入って行くのに。
何かあったのかな。
気になって、浜辺に座った甲斐君の顔を覗きこむ。
「元気ないよ?何かあったの?」
そう問いかけると、すぐに答えようとはせず目線を泳がせる。
逸らす事はないから、やましい事を考えてる訳ではなさそう。
いや、別に考えていてもいいんだけどね。
ただ甲斐君の場合、それを強いる事がないだけで。
「は・・・どう思ってるん?本当の所。」
「どう思ってるって?」
「だから・・加奈子が言ってた事さー」
「私達の事?まだキスしてないのか、とかタッチはないのかとか?」
「〜〜〜〜!!まあ、そう。」
しばらく考えて、間を要してた甲斐君が不意に口にした事。
それは電話で何気なく話した加奈子との会話だった。
まさかずっと気にしてたのかな。
私が聞き返せば甲斐君は顔を赤くして言葉短く答える。
私以上に照れてる!?
「やっぱ、そうゆうの・・・・したい?」
「・・・してみたいけど、焦らなくていいよ?」
「でも平古場みたいな慣れてる奴の方が良かったりしないか?」
「いや、凛ちゃんの場合は例外。慣れすぎても不安になるんだよ?」
「けど・・・嫌じゃないか?」
「嫌じゃない、寧ろ凛ちゃんみたいにはならないで」
甲斐君は気にしてくれていたんだ、親友に煩く言われてる事を。
自分が、凛ちゃんのように振舞えない事を。
顔を赤くして話す姿が可愛く思えてしまう。
ちゃんと甲斐君を安心させてあげなくちゃね。
「少しずつでいいの、想いを深めるのは触れ合う事ばかりじゃないよ?
こうして傍にいてくれたり、何気ないお喋りとかでだって想いは深められるんだもの」
ただ傍にいてくれるだけでいい、それだけで貴方は私を幸せにしてくれる。
「・・・」
「私はそのままの、今のままの甲斐君だから好きになったの」
無理に変わろうとする必要はないよ、と笑った時。
強くもない自然な動作で引き寄せられた。
目の前に、赤く染まった甲斐君の顔が近づいたと思った後
柔らかな唇が、私の唇に重なった。
それが甲斐君の唇だと、キスだと気づくのに時間は掛からなかった。
耳元で聞こえる波音、穏やかな時間の流れ。
此処には私達しかいなくて、初めてのキスも嫌なんかじゃなくて
逆にこの時間が心地よかった。
どのくらいそうしていたのか、やがて甲斐君の唇は離れて行き時間が再び動き出す。
「いきなりごめん、けどがあんし可愛かったさー・・・」
「うん、嬉しかった。」
「ちゅんにか?わん、恥ずかしいさー・・偶にしか出来ないかもしれない。」
「うん。」
「やーを不安にさせるかもしれないさー」
「ううん、甲斐君のペースでいいの。偶にくれるキスの方が何倍も嬉しいんだから」
奥手と言われようが、誰が焦れようが関係ない。
相手を思いやってくれる気持ちの方が大切。
それを知る事で、どれだけ私を大切に想ってくれてるのかが分かる。
お互いの心が大人になっていくにつれて、触れ合う事を覚えていくんだから。
今はまだ、このくらいで十分。
この時を大切にしよう、それが私達の想い方なのだから。
「わん、が大好きだ」
「私もだよ、甲斐君が大好き」
うちなーのてぃーだの下で、想いは深まって行く。
NOION