大切だから



行きたくないのに、拒否権はなく
ヤンクミも同行して、6人でタケの後を追いかけた。
追いかけなくても、だけは行き先を知っている。

俺のバイト先だっつーの。

何て突っ込みは、自己消化される。
だって、内緒でやってんのに自分から言えねぇって。

でもどっちみちバレるのは、時間の問題だろうな。
真希ちゃんも、俺が内緒でバイトしてるなんてしらねぇし
口止めするのも高そう(!?)だから、バレるな。

「結構お洒落なトコじゃないか」
「だろ?」
「・・・何でオマエが得意気になるんだよ」
「え!?いや、何でもないって!」
「「「じぃーーっ」」」

バレるのを覚悟したからか、つい口が滑って危うい発言をしてしまった。
案の定、竜に隣から突っ込まれ 隼人達からは疑いの眼差しで見られる。

その視線を避けて店を見上げて、ゲンナリ。
何度見ても、自分がバイトしてる店だ。
はぁ・・・もうタケは入ってるし、真希ちゃんもいるだろうし
勿論隼人達も入る気満々だし、隠しててもバレるんだな・・。

も此処まで来たからには、入るしか選択はなく
浮かない顔つきで、店の中へと入った。

店内に入ると、見知った者達が忙しなく動いている。
特に客の方を見ずに、いらっしゃいませと言う。
そのおかげで、初っ端からバレる事はなかった。

隼人がタケを発見すると、声を出さずに皆に合図。
互いに頷き合い、早足でタケの後ろへ移動する面々。
取り残されると浮く為、もいそいそとついて行った。
タケは柵に両腕を乗せて、動き回る真希ちゃんを眺めている。

「可愛いじゃん」
「ああ」
「上玉だな」
「ああ・・!?」

足音も立てずに近寄り、後ろに立った所で隼人とヤンクミが
タケに聞こえるように呟いた。

可愛いじゃんの言葉に、ニコニコとタケも頷き
つっちーの言葉に、やっと気づいたのか
ビクッと肩を震わせると、コチラを振り向いた。

「もう告ったのか?」
「まだそこまでは・・」
「名前なんつーの?」
「水島 真希ちゃん」
「おっ、何だよ積極的じゃん。」
「だって、名札に書いてあるから」

ガタッ!
心配したようにヤンクミが言うと、続けて竜がタケに問う。
聞かれたタケは、珍しく自信満々に答えた。
感心したのもつかの間、次の発言に全員がコケて隼人が後ろからタケの頭を叩く。

それじゃ駄目だろ〜とヤンクミの駄目出し。
そうだぞタケ、そんな傍観してたんじゃ真希ちゃんは落とせないぞ。

「あんなに可愛いんじゃ、うかうかしてたら他の奴に取られちまうぞ?」
「あれは競争率たけぇな」
「桃女だもんな〜」

何か盛り上がってる・・・隼人の奴、俺に告白したのは嘘か?
そう思わせたいのか?真希ちゃんの事でれぇーっと見てさ(怒)。
うわ、ヤキモチ!?いやだな、意識してるみたいで・・って
してんじゃないの?俺、え!?認めたくねぇ〜

皆の後ろで、1人苦悩してる
幸い 皆真希ちゃんに夢中で、気づいてない。
ってゆうのも虚しいよな。

そんな時、真希ちゃんはコーヒーカップを
灰皿代わりにしてるお客へ、臆する事無く注意をした。
それを見た隼人が、パッと見と中身が違い過ぎねぇ?と呟く。
対する竜も、気ィ強そうだな と一言。

そうだぞ、真希ちゃんはとっても気が強い。
そんでもって、明るくて元気な子だ。
人に対する気遣いとか、優しさも持ってる。

「前にさ、痴漢に遭ってる子助けてるの見て いいなって思ったんだ。」

嬉しそうに言うタケの前で、更に彼女は転んだ男の子へ駆け寄り
助け起こしてあげている。
男に対する『強さ』を聞いて来た真希ちゃん。
助け起こされた子は、大丈夫と頷き去って行った。

ヤンクミが、その様子を見てタケを褒めた。
女見る目あるな〜と、そう言われて照れ臭そうにタケが応える。

タケは達の知らない所で、真希ちゃんのいい所を見つけたらしい。
真希ちゃんも、タケのいい所分かってくれるといいな。
それはともかく 取り敢えず、達もテーブルについた。
なるべく目立たないトコへ、は座る。

ヤンクミや隼人達が、声を掛けろとタケを急き立てるが
タケは中々声を掛ける勇気がなく、つっちーに頼み込んだ。
その姿に、皆ガクッと勢いを殺される。

「タイプってゆうか、好きなのは強い男 嫌いなのは弱い男かな。」

一先ず、タケを紹介してからの質問。
飾る事なく、キッパリ答えた真希ちゃん。
やっぱね・・変わってないよ、その好み。

一気にテンションの落ちたタケを見て、も気が落ちる。
去り際に、偶々こっちを真希ちゃんが見た。
目が合いそうになって、慌てて隼人の後ろに隠れるが
真希ちゃんは見逃さなかった。

?」
「え?知り合いなの!?」
「え・・えぇっと・・・」

お盆を手に、こっちを伺い見てる。
その目線と以外な展開に、全員の目がを見た。

マズイ・・バレるのは覚悟してたけど、いざバレると心臓にわりぃ。
皆の視線が、に注がれる中 真希ちゃんは言葉を続ける。
ごく自然に、昨日の話題を舌に乗せた。

「あれから大丈夫だった?怪我の具合とか平気?」
「あ、ああ・・まだちょっと痛むけどな。」
「バイト一緒の時は、無理しなくていいからね。」
「お、おう・・サンキュ。」

一通りの会話を済ませ、真希ちゃんはこの場を去った。
・・・気まずい、バレた。
完全にバレたよな?怪我の事とか、バイトの事・・・。

案の定、全員の目がジドッと自分を見てる。
特にヤンクミと、隼人と竜の目は怖かった。
だよな〜隠して隠して隠し通せなくて、バレた理由が喧嘩。
喧嘩とは言ってないけど、そんな勢いじゃん。

「もしかして、昨日真希ちゃんといたのって?」
「え!?見てたんか??」
「偶々だよ?偶々。」

タケのこの言葉で、更に皆の視線が痛くなる。
マズイな、あの現場まで見られてたとは。
こうなればもう誤魔化せない。
また色気で迫られる前に、自白すべきか?

もう真希ちゃんよりも、に全ての視線が注がれた。
隼人・・半目がちな色目は止めろ。
そして竜、その鋭い目で見つめないでくれ。

やはり、2人の視線攻撃に負け 理由を話す事にした。

「バイトしてる理由はまだ言わねぇけど
昨日、柴田の先輩って奴等に絡まれたんだ。」

口を開いた途端、全員の目が警戒を帯びた。
全員、ソイツの事は知ってる。
っつーか、俺の為に駆けつけてくれた時 見た。

「またアイツか?もう務所入ってんだろ?」
「先輩が今更何の用だったんだよ」
「だから、落とし前?」
「「「落とし前!?」」」
「嘩柳院!まさか喧嘩したのか!?」
「・・・ああ」

隼人が怪訝そうに言い、竜が後に続く。
確かに、彼らにとっては今更だし
俺にとっても今更の名前。
ヤンクミがカッと叫ぶ、顔の湿布を見やりながら。

理由はどうであれ、喧嘩は喧嘩だとは頷いた。
皆の驚いた目が、再び自分を見つめる。
信じられない感じで、皆自分を見てる。

「俺 最近空手習い始めたんだ。」
「何でだよ」
「喧嘩の理由、あるんだろ?」
は理由もなしに、喧嘩なんかしないじゃん。」

空手の事を言っても、皆は喧嘩の理由を聞く。
頭ごなしに、決め付けたような言葉は言わない。

自分を信じようとしてくれる。
温かい、何とも言えないけれど 嬉しくなった。
だから話す事にした、照れ臭いってゆうか喧嘩の理由。

「だから、アイツ等・・バカにしやがったんだ。
隼人と竜、タケやつっちー・浩介の事。
それに、隼人と竜が手を出さなかったのは俺のせいだってのに・・
何も知らないくせに悪く言って、侮辱された気がして許せなかった。」

だから喧嘩しちゃったんだ、そう言って視線を外した
照れたように小さくなる背を見てて、たまらなく嬉しくなった。
くすぐったい気持ちになった。

の喧嘩は、自分達を侮辱されてした物。
自分達の事を大切に思ってる事が分かって、皆ジィンと心に響いた。

ったく、そんな事で無茶しやがって。
女って事自覚してんのか?
顔に痣なんか作りやがって、ホントほっとけねぇ奴。

縮こまってしまったを見て、小さく隼人は笑う。
より一層、傍にいてやりたいと思った。

「何で1人で無茶すんだよ」
「だって・・・」
「バカだな、俺等そんなの気にしねぇよ。」

ポンと頭に手を乗せて、優しい眼差しでを見て隼人が一言。
何も言い返せず、言葉を詰まらせる
そこへ竜も呆れたような、でも嬉しそうな目で続け
黙って聞いてる3人が、コクコクと頷いた。

ヤンクミはただ静かに、生徒達のやり取りを見守る。
すっかり『絆』の強くなった生徒達。
皆互いを思いやり、大切に思ってる姿勢。

こうなったのも、嘩柳院の影響か?

「それよりも、の怪我の方が心配だっつーの。」
「怪我、平気なのか?」
「俺等も心配してんぞ〜今度アイツ等来たら、倍にして返す。」
「いいねソレ、俺も賛成〜」

デコを弾いた隼人が、ニッと笑う。
それを始めに、一斉に怪我の事を気遣う隼人達。
盛り上がりだしたトコで、ヤンクミが喧嘩の仕返しは駄目だ!

と釘を刺して、一先ずこの場は落ち着いた。
にとっては、彼らの温かさを改めて知った日となり
誰かの為に戦うのも、いいもんだなと思った日でもあった。