「です、秋から皆さんと勉学を共にしたいと思います宜しくお願いします」
転入するクラスで挨拶を済ませ、好奇の視線を向けられる中席に着く。
この学園はクリスチャン系なのか、朝の挨拶の後聖歌が歌われる習わしのようだ。
生憎とは特定の宗教を信仰しない無宗教。
まあ学園の決まりならば聖歌を歌わなくてはならない。
リアリストであるは神さまなんていないし誰も救わない、と冷めた考えを持っていた。
と思っているが虚空から髪を引っ張られ諫められる。
彼女のお叱りを受けてしまったようだ、これ以上怒りをかわないようにと聖歌に集中し乗り切った。
午前の半分を過ぎた頃、校内放送が流れる。
その呼び出しは、生徒会メンバーを呼び出すものだった。
中庭と窓際が見渡せる窓側の席に座る。
広くて大きな花壇にレイニア理事長が水を撒くのが見え
一旦目を離してから再度中庭に目をやった時、授業が終わり、中休みになった。
特にトイレに行く用もないので外を見ていると、チャペルから出て来た六人の生徒が
居合わせたレイニア理事長と何事かと言葉を交わしている。
「見て見て!中庭に有閑倶楽部の皆様が居るわ!」
何となく様子を見ているの背後から歓声が上がり
数人の女子生徒らがドッと窓側に押し寄せた。
何やら初めて聞く単語も飛び出す、有閑倶楽部・・て言っていたけど・・・彼らは生徒会の人達よね?
「今日も素敵ね・・」
「校長は皆さま方をお嫌いですものね、あのように何度も呼びだされて皆様大変だわ」
「きっと神無祭が近いのもあると思うわよ?」
「そうね、先輩の沢登さんも出場なさるみたい」
の頭に浮かぶ疑問は窓側に押し寄せた女子達が囀ってくれる為自ずと知れた。
一般の学校にも文化祭というものがあったが、富裕層の子息子女が通う学校にもそういうのがあるんだなーと感心する。
「年に一度の神無祭ですものね、今年は優勝出来るかしら」
「大関先輩も沢登先輩もダンス部ではかなり上位の腕みたいだから今年は期待出来るって先生も仰られていたわ」
「応援に行こうかしら、でも美童さまは出場されないし・・迷うわね」
ダンスの大会かあ・・裕福な学校の文化祭は内容も上品ね。
少しだけ賑やかな中学時代の文化祭を懐かしく思った。
生徒達が模擬店を考えて手作りしたり、各クラスを飾りつけしたり夜遅くまで練習したり・・・楽しかったなー
学校全体でお祭り騒ぎだったけどこの学園はそう言うの無いんだろうな・・・
St.プレジデント学園には多数の部活があり、それぞれに運動全体の部長と文化部全体の部長が存在する。
驚く事にどちらの部長も女子生徒が勤めてるんだとか。
しかもその部長二人は、この女子生徒達に留まらず 全校生徒憧れの生徒会メンバー・・もとい『有閑倶楽部』のメンバーのようだ。
聞いてるだけでは何故そこまで彼らが全校生徒の憧れなのかが分からない。
学校行事とかで接する機会があればいいのにな。
そうすれば彼らが慕われる理由が分かるのに、女子生徒たちの話す華やかな世界の話を
どこか遠い所の出来事のように聞いていたに、まさかの出会いが待っているとは本人も予想していなかった。
02:襲撃
登校初日は何となく過ぎて行き、終わりのホームルーム後担任からこの学園のパンフレットに生徒手帳とか配り物を貰い
後は学園に存在する部活の一覧を受け取った、この学園に帰宅部のようなものは存在しないようだな。
誰もが皆何らかの部活に所属しており、文武両道をモットーにしているらしい。
ふーん・・・どちらの部活に入ろうか悩むなあ・・部活一覧と睨めっこしながら1人唸る。
だってね、先ず部活の数がおかしいくらいにあるのよ。
運動部だけで13あって、文化部なんて20ある・・・説明を読めばそれ部活にするの?てな物が多い。
部活=趣味というかそんなの1人の趣味でしょ?みたいな?
先ずは運動部から、と決めて一通り見学はしてみた。
オーソドックスな物からマニアックな物まで幅広く存在しているSt.プレジデント学園。
普通の学校と違うからこその多様化かもしれないわね・・
部活の活動費だってバカにならない、富裕層が通う学園にしか展開出来ない数だろう。
「明日は文化部ね・・・流石に一度で全部は回り切れないから半分ずつにしよう」
兎に角校内の構造を覚えない事には簡単に迷子になれるのだ。
今話題のダンス部は一番最初に見学しといたわ。
ここは学校なのか?と見紛う造りの部室・・・いや、部室?オサレな喫茶店みたいな内装だったな。
まあ今話題なだけに見学者が多くて、どんな人達が使ってるのかまでは見れなかった。
唯一見れたのは日本人には先ずいない金糸の髪をした男子生徒と
これまた黒髪しかいない女生徒の中では抜きん出て目立つ茶色の巻き毛にモデル並みのルックスをしたスレンダー美人が踊ってた事くらいかしら。
目を惹く彼らがクラスの女生徒達の話題を浚ってた生徒会メンバーだと言うのは一目瞭然だった。
集まった生徒達が声高に叫ぶわーきゃーという歓声で賑やかな中踊る二人は一層輝いて見えた。
先ず私とは関わり合いになる事はないだろう・・物凄い人だかりの中を抜けて次の部活を見に行ったが
初日と言うのもあり、気疲れしたのだろ帰る頃には疲れ切った顔では帰路に付いた。
生来人込みは得意ではない。
人の少ない中帰れるのは恐らく部活を決めるまでだろうな・・・・
ただでさえ人込みは色んなものが視えるから疲れるというのに・・・
でも、だからこそ生前の母はに守りの石としてクリスタルを持たせてくれた。
古美術商を生業にして来た母の繋がりで、名のある霊能者が1年月光を浴びせ真水に浸した天然のクリスタルをくれたのだ。
これがくすんで来たら新しい石を差し上げましょう、と霊能者は言ってくれている。
制服の下から取り出したクリスタルの石は、まだまだ透明で透き通っていた。
「貴方達はどなた・・・?!」
うん?
まだまだ平気そうね、と取り出したクリスタルを眺めたの耳に届いた女性の声。
日中でまだまだ人のまばらな住宅街のせいか、声がよく聞こえる。
誰しも黙々と、または共に歩く人と会話を楽しみながら歩いている歩道。
そんな最中に『貴方は何方?』と聞くような事があるんだろうか?
あるとしたら・・・何だろう、不思議に思ったが声の主の方へ向かった矢先絹を引き裂くような悲鳴が響いた。
「や、やめて下さい!何なんですか貴方達・・!!きゃーーーーっ!!!」
何事?と思うより先に駆けだしていた。
街路樹の陰に隠れていた光景が目の前に飛び込んで来る。
「騒ぐな!」
「おい早くしろ、他人が来たら面倒だ!」
「いやーーーっ!!」
「くそ、黙れ!」
パシーン!という乾いた音が駆け付けたの前で響く。
黒塗りの車に隠すように黒服の男が3人。
帰宅帰りと思われる女生徒を取り囲み、1人が女の子を羽交い絞めにしてもう1人が女の子の前に立っている。
恐らく女の子の頬を張り飛ばしたのはこの男だろう。
もう1人長身の男は彼らを隠すように立っているだけ、2人の男の上司なのだろうか?
それよりも女の子の顔を殴るなんて!!
「ちょっとあんた達何やってんのよ!たった1人の女の子相手に3人で囲まなきゃ何も出来ない訳!?」
「あぁ!?何だてめぇは!」
理由はどうあれ下らない理由に決まってる、考えるより先に行動するタイプのは
後先考えず気づけば彼らの前に飛び出し、持っていた鞄を平手をかました男へ投げつけた。
女の子にしか目の行ってなかった男は投げつけた鞄をモロにくらう。
ぐえっと籠った声を男が発した事で、漸く残りの男達も女の子もに気づき驚いた。
逸早く声を発したのは女の子を羽交い絞めにしている男。
ギロリと向けられた敵意しかない目に一瞬だけ怯むが、女の子を助けなきゃと踏みとどまる。
近くに来た事で気づいたが、女の子の制服はと同じSt.プレジデント学園の物だった。
同じ学園の生徒と分かり、尚更怒りが沸いてくる。
「何だてめぇはじゃないわ!あんた達みたいなのを男のクズって言うのよ!無抵抗な女の子にこんな事して許さないわ!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇガキが!てめぇもダンス部の生徒か?」
はあ?話がかみ合わないわね何の話?
ダンス部だったらどうだと言うんだろう。
・・・うん?ダンス部?
そう言えば何処かで小耳に挟んだ話があったわよね。
確かダンス部に見学に行った時・・・・
『俺聞いたんだけどさ、何か最近神無祭に出場する生徒が通り魔に襲われてるらしい』
脳裏に浮かんだ男子生徒の会話。
頻発する出場者の通り魔被害・・・・
目の前の男が聞いてきたダンス部か?の問い・・
出場者は襲われている、そして今まさに目の前で変な男達に羽交い絞めにされた同じ学校の女生徒。
つまり彼女がSt.プレジデント学園の出場者。
そしてこの3人の男共が・・・・
「あんた達ね?神無祭の出場者を次々に襲ってる通り魔ってのは―――」
話の合点が行き、改めて男らを見た瞬間。
長身の男が既に目の前に立ち、片手を振り上げたのが見えた。
「危ない――!!」
羽交い絞めにされた女生徒の悲鳴に似た叫びに咄嗟に飛び退いたの目の前に男の持つ何かが振り下ろされる。
キン――と響いた金属音、もしかしなくてもこれは金属バット?
「気づかれちゃ仕方ない・・・ダンス部であろうがなかろうが関係ない、ただでは帰してやれなくなったな」
「な・・何よ!殺すの?殺すならこんな往来の場所でやるのはリスクが高いんじゃない?」
「ふん、よくわめくガキだな。殺しはしねぇよ、ただちょっと大人しくしててもらうだけだ」
「どういう事・・・」
飛び退いたにバッドを向け、誘導されるように女生徒の横に立たされる。
金属バットまで持ち出しておきながら殺さないときた、どんな手段で黙らすつもりなんだろう正直怖い。
ダンス部と思わしき女生徒、クラスの女子生徒らは先輩と言っていたから2年か3年生を横に来た流れで見ると恐怖に震えている。
巻き込まれた感は否めないが、割って入った事をは一片も後悔していなかった。
どうしよう、どうしたら切り抜けられる?
相変わらず人気はなく、辺りも静かで人の気配すらしない。
1人なら逃げられるかもしれないが、先輩は恐怖に震えているしそれに自分が来る前に負わされたのか足に怪我をしていた。
前後を男らに挟まれている今、退路も断たれてしまった。
こうなったら、頼りたくはないが使うしかないわね・・・・・・奥の手。
決意を秘めた目では男達を睨みつけた。
男らが怪訝そうにを見た時、辺りに一際強い風が吹いた。