すれ違う心



その日の授業は、何故かサッカー。
久美子の提案なのだが、生徒達は今一乗り気じゃない。
普段から真面目にしてないんだから
いきなり言う事聞いたらこぇーだろ・・・

グラウンドの中心くらいの所で、久美子が何やら叫んでる。
あまりよく聞き取れないが、熱く語ってる様子。
「てか・・何で数学の時間にサッカーなの?」
「わかんねぇ〜」
芝生に座り込み、後ろ手に地面に手をつきながら
疑問符を頭の上に浮かべて日向が呟く。
日向に答えたのは 隣に座った武田。
土屋は扇を広げ、無言で何処となく景色を見てる。

隼人は俺の隣で特に何も言わず、呆れ果てた目をしてた。
少し視線を外せば、ゴールにもたれて立つ竜の姿。
彼も参加する気はないらしい。
「しっかし、元気な奴だよな ヤンクミは。」
「おまえねぇ・・何そんなに馴染んでんだよ。」
いい天気に芝生の上、気持ちも緩んでそんな事を口にしてみた。
早速突っ込んでくれる隼人。
「別に?おまえの方こそ、意地張ったりしてねぇ?」
「んなわけねぇだろ」
そうか〜?まあ、本当の所どうだかは分からないけどな。
ツンとした態度でそれだけ言うと、隼人は再び視線を泳がせる。
俺も何処を見るまででもなく、視線を泳がせた。
それからしばらくすると、久美子がプロ顔負けのシュートを決め
満足気に振り向くタイミングで 隼人達は桃女に釘付け。
誰一人として、久美子のシュートを見てはいない。
むなしぃ〜〜〜。

俺は女だから、桃女なんて見ない。
女が女を見て奴らと同じ反応をしろ、と言われても困る。
の視線は、ゴールにもたれて話す竜と久美子の姿。
何を話してるのかは聞こえないが、不思議と気になる。
竜の顔からして、久美子に駄目だしをしてるような?
まあいいか、いきなり慣れ慣れしくするのもね。
とは思うが・・何か満足がいかない。
学校には来た、じゃあそれでお終いってのは出来ない。
「なあタケ、サッカー終わったら竜呼んでみろよ。」
小声でそう言ったら、何故凄く驚かれた。

え?マズがった?
あまりの驚き方に、言葉を詰まらせた
だが、驚くだけ驚き終えたタケが次に発したのは
「今・・なんつった?」
「だから・・タケ。駄目だった?」
「駄目な訳ないじゃん!あだ名で呼ばれた方が嬉しい!」
「わ〜だからくっつくなって!」
まるで子犬のようにはしゃいだタケは、ガバッと俺に抱きついて来る。
正面からは初めてで、カァッと顔に朱が走った。
「そこ!男同士でイチャイチャしない!」
桃女を見終わったのか、土屋の突っ込みが入る。
「だってつっちー、が俺の事『タケ』って呼んだんだぜ♪」
ヒラヒラと扇子を翳しながら来た土屋。
タケの言葉に、隼人達の顔が変わり・・・
「タケだけズリィ!俺の事もつっちーって呼べよ!」
「俺は浩介!」
二人が掴みかかるような勢いで、言いながらにじり寄って来た。

体格のいい土屋に寄られると、自然に体が逃げる。
迫力満点だってばよ・・。
「分かったから落ち着けって、つっちーに浩介。」
タケを腰にくっつけたまま二人へ言う。
単純な彼等は凄く喜び、肩を組み合ってる。
何で男にあだ名で呼ばれるのが嬉しいんだ?
やっぱ、『仲間』だからかな。
笑顔でつっちー達を見ていると、突然肩に腕が回されてきた。
何だ!?と思い、首を動かしたら10cmくらいの距離に
隼人の端正な顔が・・・!?
「俺だって呼ばれたい〜呼んでみろよ、『隼人』って。」
う・・・おちゃらけからいきなり真顔になるな!
声が色気ありまくりなの自覚しろ!!
は 顔が赤くなるのを隠しながら、その名を口にする。
「は・・隼人」
「よし!よく出来ました!」
何故かとても満足気な隼人の声と代わり、久美子の声が聞こえる。

「さておまえら!もういっちょやるかっ」
達があだ名の事で盛り上がってる間に、一通りゲームは終わり
久美子は2ゲーム目を提案している所だ。
勿論3Dの連中に、それに同意する者はいない。
「俺もう帰るわ めんどくせぇ」
「もう疲れたニャー」
「ギブアップニャ」
率先して隼人が言い出すと、取り巻きの土屋達も同意し
妙に可愛らしい台詞を残すと 歩き出してしまう。
当然俺も一緒にいる訳だから、ヤンクミには悪いが
タケと肩を並べて歩き出す。
「おい、おまえらっ」
呼び止めようとしている久美子の声が、虚しく聞こえる。
そんな時、俺とタケの視界に一人で歩く竜の姿を捉えた。

「「竜!」」
本能的に声を掛けようと、タケと思わずハモる。
声を掛けられた本人は、見向きもせずに歩いて行った。
やはり 隼人がいるから、顔を合わせにくいのか?
それとも、あの事で?
考えていると 戻って来た隼人にきつく言われた。
「ほっとけよ」
「だけど」とタケのでも・がまたしてもハモる。
「いいから構うなって」
さっきの笑顔は何処へやら、凄く冷たい目。
凄みの利いた声音に、俺とタケは黙るしかなかった。
この溝は、どうすれば修復出来るんだろう。

「武田、嘩柳院。」
二人して立ち止まってると、俺等を見つけた久美子に呼ばれる。
「小田切と矢吹に、一体何があったんだ。」
とても気にしている様子の久美子。
俺と似てて、何とかしたいと思ってるんだろう。
本当・・変なセンコー。
「おまえなら、何か知ってるんじゃないか?」
振り向いたタケも、少し黙ったが真剣な問いかけに
視線を泳がせ 去って行く仲間達の背を見てから、久美子に
少しずつ話し始めた。
自分を入れた黒銀の5人と、荒校の5人とでやり合うはずだった事。
やり合うとゆうのは、簡単に言うと喧嘩をする事。
俺が聞かされるのは二度目だから、久美子程は驚かなかった。

タケは詳しくは話さなかったが、久美子なら一つの疑問に
必ず行き当たると 俺は思った。

それから俺とタケは、隼人達とは合流せず
二人で竜の通り道へと行く事にした。
何やら、タケも竜に言っておきたい事があるみたいだ。
コンクリートの壁にもたれ、しばらく俺達は待った。
タケの心を理解し、一人で荒校の頭に詫びを入れた竜。
『仲間』を大事に思う者なら、隠された気持ちに気づく。
竜は優しい・・それから仲間思いだ。
だから、それを分かってもらえないのは寂しい。
「竜はさ・・タケの頼みを聞いたけど、それにはちゃんと
竜なりの理由もあったと思うぜ?」
壁にもたれ、星空を見上げながら切り出せば
「理由?」
とタケが問い返す。
「ああ、竜はさ・・おまえ達の事を考えたんだよ。
面子よりも、おまえ等が怪我したりするのを心配したんだ。」
例え弱虫とか、裏切り者って言われてもな。

タケに微笑み タケも淡く笑い返した時、見慣れた姿が
こっちに向かって来るのに気づき、立ち上がる。
が立った事で、タケもその存在に気づき立ち上がった。
鞄を肩に担いで歩いて来たのは、ずっと待っていた竜。
何も言わなくてもその彼は、俺達に気づき 足を止めた。
「タケ・・・それに、嘩柳院だったっけ?どうしたんだよ。」
その目は驚いた色をしている。
長ったらしいこの名を、竜は覚えていたらしい。
驚かされたけど、安心もした。
タケは竜に短く手を挙げ、それから素直な気持ちを舌に乗せる。
「あのさ・・竜がまた学校来るようになって良かったよ。
もしずっと来なかったらって、心配だったんだ。」
隼人達の前では言えなかった言葉を伝える。
告げられた竜は、照れる反応こそ無かったが少しだけ視線を動かす。
「やっぱ俺・・皆に本当の事話した方が・・」
タケが皆まで言い終わらぬうちに、竜が先に止める。
「余計な事考えんなよ」
まるで、そう思われてるならそのままでいい・・って感じ。

何でそうまでするんだ?
タケはおまえ等に仲良くなって欲しいのに。
「おまえはそれでよくても、タケはどうなるんだ?
険悪なお前達の間で コイツはずっと後悔して苦しむ事になるんだぞ?」
・・いいよ」
「よくないだろ!俺は認めないからな?一度結んだ『絆』を簡単に断ち切るな!」
竜の目が、を探るかのように細められた。