少しの触れ合い
ちょっとしたきっかけで、久美子と隼人の決闘が決まり
俺等3Dは、それを見に行く事となった。
俺としてはちょっと心配だ。
こうなる前から、隼人と真正面から向かい合い
彼の怒りを買っていた久美子。
他のセンコーとは違うけど、喧嘩が強いとは思えない。
まあ・・ヤバくなったらまた俺が止めるしかねぇな。
などと思いながら、タケ達と隼人が指定した川原に向かう。
タイマン宣言をされた久美子の顔は、少し複雑そうだった。
一体どうなるんだろう。
などと思っていると、自然と歩く速度が遅れる。
タケ達はそれに気づかず、先に土手を降りて行った。
同じ女として、女性である久美子が殴られてるのを
黙って見てられるだろうか。
ただでさえ、俺は情けない位に争い事が嫌いで
夫婦喧嘩さえも、目を逸らしてた。
友達が喧嘩した時だって、一人でオロオロしてて
結局・・・あの時も無力で・・・何も出来なかった。
「はぁ・・・」
「何 溜息吐いてんだよ。」
「うわっ!竜!?・・じゃなくて、小田切・・。」
「わざわざ言い直すなよ」
不意打ちだ、いきなり真横から声かけやがって。
竜の声って低くて、凄く響くんだよな・・。
「だって、初対面じゃん。」
「は?初対面で俺にズカズカ言いたい事 勝手に言って
帰ってった奴が、今更遠慮してんなよ。」
そりゃまあそうだけどよ、そんな事だけ覚えてんなよ。
「そ、そっか?・・じゃあ竜って呼んでいいのか?」
「・・・好きにしろ」
自分から突っ込んで来たくせに、何だこの偉そうな態度は。
まあとにかく、許可が出たし心置きなく呼べるな。
てゆうか・・・俺、いつの間にか楽しんでねぇ?
最近俺が分からない・・つーか、どうすればいいのかわかんねぇ。
このまま此処にいると、自分が保てなくなりそう。
「俺やっぱ此処にいるわ」
足を止めた俺が指したのは、木陰。
隼人達がいる川原からは、少しだけ離れてる。
あそこに行ったら、もうの為に生きられなくなりそうで
自分がどうにかなってしまいそうで、怖い。
「・・・」
何を思ったのか、を見ていた竜だが
無言で足を止めると、俺の隣に立った。
行かないのか?と視線で問えば、別に・・興味ねぇし。
とゆう返事だけが返ってくる。
何だかよく分からないが、いて嫌な事もないし
まあいいかと、俺も遠くから傍観する感じで決闘を見守った。
徐々に川原の方が騒がしくなる。
そろそろ始まったようだ。
結果がどうであれ、これで変わる物もあるんだろうか。
不安に駆られる。
立ってるのが不思議と億劫になった。
「おい?具合でもわりぃのか?」
木に寄りかかって、ズルズルと屈めば上から掛けられる声。
心配をしてくれてるらしい。
ちょっと嬉しくなった。
「いや、平気だ。ちょっと座りたくなっただけだ。」
「・・始まるみたいだぜ」
の返事にはあまり突っ込まず、話題を変えるように
竜は川原の方を顎で示すと、そっちを見させた。
俺が見た時は、隼人が上着を放り投げ
久美子も上着を脱いだが、さむっと口が動き
一度投げた上着をもう一度着てる所だった。
なら脱ぐなよ・・・と突っ込みを入れてみる。
隼人は久美子を呆れたような目で眺めてた。
そんなによく見えないが、そんな顔をしてそうだと思った。
両者の間を風が吹きぬけ 二人の髪を弄ぶ。
その風は、木陰で見守る俺と竜の所も吹きぬけた。
「さむっ・・」
これは確かに寒い・・。
「着るか?」
両腕で自身を抱きしめるようにしてるを見兼ねて
竜が学ランに手を掛けながら、問いかけた。
微かに伝わってくる彼の優しさ。
自分が女として存在してれば、素直にそれを受け取ったと思う。
けど今、俺は男として償いの為に生きてる。
そんな風に誰かの優しさを受け取る事が、許されない気がした。
「いや、平気だよ。」
竜は目だけで語り、学ランに掛けた手を下ろす。
それから二人の間に沈黙が流れ、竜はへ話しかけようとした。
「あの時おまえ・・・」
「ん?」
気遣うような声音に、あくまで笑顔で振り向いた。
だが 彼がその先を言う前に、罵声にかき消された。
「コラ〜!お前達!何してんだ!!」
吃驚して土手の先を見れば、警棒を手に叫ぶ警官の姿。
マズイ!黒銀でしかも悪名高い3Dと分かれば、厄介だ。
それに、今の自分は察になんて行きたくない。
「竜、逃げるぞ!」
「ああ」
急いで竜へ言い、木陰から走り出れば
土手の下でも久美子の指示を受けたクラスメイト達が
一斉に駆け出していくのが見える。
つっちー達はちょっと遅れていたが、無事逃げられた。
若い彼等と、中年警官では運動能力の異なる。
最初竜より前を走っていたが、川原から離れた神社に着く頃には
竜がを引っ張るようにして走っていた。
常に駆け回っていた竜とは違い、今まで誰かから逃げる事もなく
平穏にお嬢様として安全な日々を送っていた自分。
体力の違いも、男と女では分かれる。
「平気か?」
もう大丈夫だろうと立ち止まり、辺りを伺っていた竜。
一方肩で荒々しく息をしていた俺へ気づき、そう聞いてくる。
こんな時でも余裕そうな表情・・。
少し落ち着いた時、境内近くから聞き覚えのある声が聞こえた。
竜と共に近づいてみると、久美子に果敢に挑む隼人の姿。
何度殴りかかって行っても、簡単にかわされてる。
そんな姿を、俺は始めて見た。
人一倍プライドの高い隼人、今の彼はきっと憤りを感じてる筈。
多分 あまり負けた事なんてないだろうから。
さっき叫んでた隼人の言葉。
胸に鋭く刺さった。
「俺はセンコーが嫌いなんだよ!」
『あたしはセンコーなんて信じない!』
昔裏切られた時に叫んでやった言葉。
「センコーなんて、頭ごなしに怒鳴ってるだけじゃん。」
『上っ面だけで分かったような気になんな!』
キレイに作られた仮面の上での言葉。
「自分の都合が悪くなったら逃げるんだろ?」
『そのくせ手に負えないって思ったら、さっさと逃げて』
もう何も信じない、心配してるのは表面上だけだ。
「アンタもそうなんだろ!」
『不良の言う事に逆らえない大人もセンコーも必要ない!』
真実を知ってても、耳も傾けない・・・
俺の心をそのまま表したような、そんな叫びだった。
自然と重ねちゃって、ギュッと竜の学ランの裾を掴んでた。
重心の掛かる感覚にが学ランを握っていると気づく。
それと、その顔がとても泣きそうに見えた。
何時も笑ってるかしか見た事がないだけに、衝撃を受けた。
「俺はセンコーなんて信じない」
夕方の境内に、呟いた隼人の言葉がやけに響いた。