それは突然でした。
何処を見ても見つからないんです。
この世に一枚しかない大切な物。

あの時代に戻らない限り手に入らない物なんです。
だから失くしてはいけない物だったのに・・・



虹色の旋律 二十一章



朝食を済ませて出発したのは7時10分前。
まだ全員私服のままそれぞれに車内で過ごしての移動。
流れる景色をぼんやりとは眺めていた。

実感はまだ沸いていなかったせいもあり
ふわふわした感覚で、それでいて心の蓋は極限まで来ていた。

「よーし到着したぞ〜控え室は3Fだから先に向かってて」
「おし行こうぜ」(和
「はいっ」
「リラックスね、俺らもいるし緊張しなくていいよ」(淳
「緊張するなって言っても無理だろうから肩の力抜いて」(中
「つーかコメントの時以外喋んなきゃいんじゃね?」(赤
「そ、そうですね・・・」

あまり会見の方に気持ちが向いていなかった
取り敢えず赤西のトゲトゲをかわし、皆について行きながらそっと懐から写真を出す。
それから視線を向ける先には上田の背中。

心の中にずっと存在している継信の存在・・・
この世界にこれほど似てる殿方に会うなんて・・・・
だから親切なんでしょうか?

でも上田さんが継信さんの生まれ変わりとか言うのはなさそうですし・・
と言うより上田さんをそういった目で見たら駄目です!

上田さんは上田さん、継信さんとは違った魂を持つ方。
重ねて見たらいけない・・・でも・・写真と言う形的な物よりも目の前で同じ顔で笑って下さる様は

まるでこの時代にあの人が生きているみたいで、少し・・・苦しいんです。
辛いなんて思ったら駄目だわ!
そんな風に思う資格なんてない・・・・

ああー・・胸が苦しいです・・・

何だかぐるぐるするんですよね。
これから会見だと言うのに・・・・・

そっと写真を懐に戻す。
これをお守りに頑張らなくちゃ。
ギュッと胸の辺りの服を握り締めて早歩きで会場入り。

緊張しているはずだが何処か心此処にあらずの
少し心配そうに眺めていたのは亀梨と上田。
赤西も気にしないようにしていたが、視界に入ってしまい頭をガシガシしながら会場入りした。


++++++++++++++


控え室に到着した面々、時刻は7時半。
これからメイクと衣装チェンジ、軽い打ち合わせが入る。

は懐の内ポケットにある写真を衣装へどう移動させようか考えていた。
サッと出してサッと衣装に入れなければ見られてしまう。
先に衣装であるスーツの上着を観察。

スーツとか言う礼服なら、内ポケットくらいはありますよね?
軽く探ってみると入れられそうだった。

これなら大丈夫そうです。
ホッとして私服の内ポケットへ手を入れて写真を掴む。
誰も見ていないのを確認すると、勢いよく取り出して衣装を掴んで内ポケットへ。

しかし焦っていた為中々ポケットに入れられない。
あわわわわわわ!!!!
今此処で見つかってしまったら大変ですっ

焦れば焦るほどポケットの淵に突っ掛かって入らない。
その様はとても不自然で、気になった赤西は若干苛立ちつつ声をかけた。

「オイてめぇ何こそこそやってんだよ」
「ひゃあはい!!すみませんっ」
「さっさと着替えろよ、この後打ち合わせもあんだよ」
「すすすすすみませんっ」
「仁お前短気すぎ」
「うっせーなカメ」

ビクゥ!といつも以上に驚いたの手元が揺れ
ポケットに突っ込んだ手。
それから怒られるままに脱いだ私服をテーブルに乗せる。

慌てて羽織ったスーツのジャケット。
亀梨が赤西を指摘している声も何のその。
無事に写真を衣装の内ポケットに移せて一安心していた。

それから特に会話は何気なく進み、打ち合わせに突入。
打ち合わせと言うのは会見の流れの確認。

どのタイミングでどう合図したらを紹介に入るかとかの確認。
その間ずっとは知らずにいた。
写真は衣装へ移動させられておらず、控え室の衝立の後ろへ落ちてしまっていた事を。

知らぬが仏・・・って違うか←

企画側との打ち合わせが済み、其処へジャニーさんが到着。
やはりそういった会見には社長が登場するものなんだろう。

としては二日ぶりに見る社長の姿。
記者が入る前に先に会場に入り、位置とやらを確認。

「ユー、どうだい?慣れたかな?」
「あ、お久し振りです。サラシは見られましたが敢えて見せて、この下に手術痕があるから見せられないと説明したので平気です」
「・・・・中々やるね、それなら安心だ。衣装もタンクトップくらいまでにしておこう」
「たんく、とっぷ・・はい分かりました」
「・・・生活面では平気かい?」
「はい。個室もあると聞いてましたから上手くやります・・バレたら其処で終わってしまうので」
「終わる?この生活がって事かい?」
「それもそうですけど、全て、ですよ・・・でも契約切れまでバレないように頑張りますから絶対・・バレてはいけません・・・・」
「・・・・・・」

他のメンバーが席や位置、流れの確認をしている中の会話。
笑顔で話す様は平気なのだという証・・・・・なのだが
の場合は違和感をジャニーに与える物でしかなかった。

張り付いたかのような笑み。
笑顔の中に見え隠れする困惑と疲労を感じ取った。

ちょっとマズイかもしれないねぇ・・・
環境の変化に心が追いついていない。
追いついてないのを無理矢理誤魔化しているみたいだ。

いつ崩れるか分からない。
せめて会見中もてばいいが・・
この子は知らないうちに心に負荷をかけてしまってる。

彼女専用に女性スタッフを早めにつける必要があるな・・・・
をメンバーの方へ行くよう指示してからジャニーは思案した。

それからケータイでメールを打つと、目が合ったメンバーを呼び寄せる。
ジャニーに呼ばれて来たのは亀梨だった。

「はいジャニーさん」
「亀梨、少し頼まれて欲しい事がある」
「俺でよければ・・頼まれて欲しいってのは・・・?」
「うん。の事を少し注意して見てて欲しいんだよ」
「・・・・ですか?」
「そう、メンバーにいきなりなって精神的に無理をしてるようだから」
「・・・やっぱそうなんですね」
「ユーには分かってたみたいだね話が早いよ。があまり心に負荷を掛けすぎないように注意してやってくれ」
「出来る限りは」
「任せたよ」

呼ばれて言われた事は俺自身も気にしていた事だった。
がダンスに集中してる時も感じた事だったから、ジャニーさんの言葉もすぐに理解した。
素直に相手の言葉を受け入れすぎて必要以上に無理をしちゃいそう・・まさにそれになってるらしい。

どう気をつけてやったらいいのか分からないけどやるしかない。
心に何が負荷を掛けてんのかから知らないとなあ・・・

けどそれを俺が、俺らが聞いてもいいのかが分かんない。
話したくないかもしれないし、は自分の感情ひっくるめて辛さとか戸惑いとか
仁が言うように全部しまい込んでる節があるから。

それでも着々と会見の時間は近づいて来ていた。
は後から登場する設定になっており、扉の内側で待機。
緊張は少ししていて、刻む鼓動を胸元の服を握って抑え込む。

もう一度写真を見て落ち着こう、そう思ったは衣装の内ポケットへ手を入れた。
カサッと指先に当たる紙の感触・・・・・がしない。

焦ったあまりに奥まで入れてしまったのだろうか?と不安に駆られた。
さっきより深めに指を差し込んで捜すが写真の感触がいつまで経っても指に触れない。

すると一気にの顔が青ざめて行き、全ての感覚がスーッと消えて行った。
膝が震えて頭が混乱して来た。
ない!ない!!確かにポケットに入れたはずなのに!

何処かで落としてしまったのだろうか???
誰かに拾われてしまったら?
そんな事になったら確実に捨てられてしまう!

どうしたら・・・っ・・もう時間もないし探しには行かれない!
継信さんの写真・・・手元にはあの一枚しかないのに・・・・・

私が慌てていたせいだ。
私が駄目なせいで失くしてしまった・・・
貴方を覚えていられる唯一の宝物を、私は自分で手放した――?

この瞬間、の世界から色が消え去った。