騒動
「いいか?一回ぽっきりだからな?分かったか?」
場所を移した場内に、緊迫めいた隼人の声が響く。
彼の前には1つの箱。
其処にはクラス分の棒が入れられている。
どうやらくじ引きで決める事にしたらしい・・・
何か複雑だな俺、隼人は付き合いとか言ってるけど
何だかんだで隼人はモテるし・・(ツートップはモテモテ
しかもさ、一応互いに何か通じてるのに(気持ちが)
その相手を合コンに連れて行くか?そもそも付き合いでも合コン行くのか?
くじ引きを開始した賑わいの中、何故か1人では苛立っていた。
もう完全に答えは出てしまっていた、この時点で。
しかもくじ引きは大いに荒れて、混戦状態。
これには隼人達も唖然。
くじ引きで決めようと思ったのが失敗だったのだろうか?
「・・・・どうすんだよコレ」
「どうすんだよってお前・・・どうしましょ」
惨状を見て呟く竜。
そしてまた隼人も問いに問いを返すしか出来ていなかった。
俺も知らないぞ〜・・・・・
結局どうしたかと言うと・・・・・・・・・
□□□
場所が変わって・・・
【カラオケ右大臣】
「あの〜・・全員で来たんですか?」
「はい!宜しくお願いします!」(クラス全員)
そう。
そうなんだよ・・結局決まらなくて全員ついてきやがった。
隼人達はセンターに座ってたんだけど(勿論俺もセンター)
両端にはぎっちぎちに詰めたクラスメイト達。
これには桃女の女の子達の顔も困惑気味だ。
そりゃそうだよな〜・・・・
普通合コンにクラス全員でこねぇよ。
俺は密かに溜息を吐く。
「ごめんなパーイ・・」
「えっと、じゃあ・・・自己紹介から行く?」
マイクを持ってボソッと謝った隼人に続き
タケが自己紹介を切り出した。
呆れ半分の俺の隣で、竜も気まずそうに目を泳がせている。
我先にと立ち上がったのは主要面子以外の大熊。
どうしてか桃女の子達からは、可愛い〜と叫ぶ声。
思わず全員がえぇーーっ、と声をハモらせたのは言うまでもない。
それから途中端折ったりしながらも自己紹介が進み
何か俺も挨拶する羽目に・・・
「何で俺まで・・・・(女の子なのに・・)」
「これも付き合いだよ」
「後は座ってるだけでいいから」
「(ちぇーっ・・・)」
タケに否応なしにマイクを手渡され、促される。
渋る俺に、小声で隼人が囁いた。
耳元は止めてくだパイ・・・・・エロイ声が・・っ
竜を見れば、肩をポンと叩かれた。
つまりは取り敢えずしとけ、と言う意味だろう。
仕方なくマイクを手にその場で挨拶した。
「あー・・えーと、名前は嘩柳院 。適当に宜しく」
少しめんどくさくて声が低めになった。
適当にかよ、と隼人が突っ込む。
マイクをテーブルに置いた瞬間。
目の前の桃女側から、何故か歓声が聞こえた。
カッコイイ・・・・と漏らされる声。
あ、あのう・・俺これでも同性だからっ
・・・皆の視線が痛い
次に自己紹介した隼人と竜の処でも、黄色い歓声が上がった。
奴等顔だけはいいからな・・いや、中身もいいけどさ
うっとりとした視線が注がれる中
ノリにノッたクラスメイト達のカラオケ大会が始まる。
タケの隣にいたつっちーは、先ず先にトイレへと席を立った。
座ってるだけでいいと言われたので、取り敢えず目の前のジュースを飲む。
隼人も俺の傍から動く事なく騒いでいた。
女の子達と入り乱れて席を移動している奴等と同じじゃなくてホッとしてる自分がいる。
もう隼人をただのクラスメイトだと見れなくなってるから
こうして隣にいてくれる事が嬉しい。
「何か食べるか?」
「え、あ!ああ・・うん」
「何ドモってんの、まさかカラオケ初めてとか?」
「・・・・・そう言えば、来たのすげぇ久し振りかも」
「マジで?」
「ホラ、三年ぶりって奴」
ぽけーっと隼人を見ていたら、その本人と目が合う。
何か食べる?と問われていた事に気付き、慌てて答えた。
言葉を詰まらせた俺に、隼人が小さく笑みを漏らした。
あ、隼人ってこんな風に柔らかく笑うんだな・・・・・
と考えながら、問われた問いに記憶を巡らせた。
三年前まではとよく行ってたけど
あの事件を機に、カラオケになんて行かなくなってた。
だって、の為だけに生きると決めた時から 俺は全ての娯楽を捨てたから。
へらっと笑って答えると、軽く目を見開いて驚く隼人。
そして俺の返答に少し真面目な顔になると、そうだったな、と呟いた。
気遣うような顔を見て、どうにも心がくすぐったくなった。
「隼人がそんな顔すんなよ」
「いや、また俺デリカシーない事聞いたかなって」
「隼人でもデリカシーって言葉知ってたんだな」
「「!?」」
答えた隼人の言葉を否定しようとした時、左隣から冷静なツッコミが。
吃驚して2人で振り向けば、口許にニヒルな笑みを浮かべた竜。
どうやら会話を聞いていたらしい。
つか、よくこの騒がしい中で聞き取れたな。
合間にストローでジュースを飲んで感心してみる。
「知ってたら悪いのかよ」
「悪くねぇだろ、まあ。」
「(黙々とジュースを飲む)」
「今日は騒がしいけど、これから何回だって来ればいいじゃん」
「――え?」
「そ、これからは何回だって来れるし。俺らもとカラオケ行きたいしな」
「お前は動機が不純、俺はが行くなら行く」
てめぇだって不純な動機じゃねぇかよby隼人
を真ん中に挟んで繰り広げられる漫才・・・・いや、やり取り。
隼人の睨みをかわして竜が呟く。
パッと竜を見れば、優しい眼差しが俺を見ていた。
竜の言葉に続いて右隣からも隼人の言葉が聞こえる。
此方も酷くやさしい眼差しをしていた。
サラリと恥ずかしい台詞を言う竜を睨み、隼人が何か言いたそうな目を向ける。
あれはきっと内心でぼやいてそうだ(大当たり)
賑わう店内、俺達三人の周りだけ流れていた穏やかな空気。
それをぶち壊さんばかりの勢いで、いきなり個室のドアが開いた。
息せきって入って来たのは、トイレに行ったはずのつっちー。
学園天国を歌う全員の視線が集まる中、1つのマイクを奪って彼はこう言った。
「トイレに教頭がいたぞ!」
「えぇっ!?」(クラス全員)
「何で猿がいんだよ!!」
「しらねぇよ!兎に角バックレようぜ!」
俺の隣で隼人が席を立ち、マイクを手にしたつっちーに怒鳴り返す。
勿論つっちーもそんな理由など知るはずもなく、知らないと言い返した。
一気にどよめいた室内の3D。
つっちーの言葉を合図に、桃女の子達の間をすり抜けるように慌てて外へ出て行く。
状況について行けずにいる俺の腕を、左側から竜が掴んだ。
「出るぞ」
「あ、ああ」
「日向行くぞ」
「でもまだこの子のメルアド聞いてないんだ」
「んなのいいから急げっ」
「え?、ちょっ」
引っ張り立たされる形になった。
腕を引かれるまま、名残惜しげに見る桃女の子の前を移動。
回り込んで出る竜が座ったままの浩介の肩を叩いて促す。
だが丁度メルアドを交換しようしていた浩介は、半笑いで受け流した。
どうしてもメルアドを交換したい浩介の制服を掴んで強引に俺が引っ張ると
案の定浩介から抗議の声が上がった。
この騒ぎで、誰しもが大事な事を忘れていた。
「聞いてねぇよ!!」
「メルアドーーっ」
わらわらと外へ飛び出す3D。
先頭のつっちーが一回転してコケた。
其処に追いついた隼人が納得いかなそうに叫び
竜と俺とタケに追いやられる形で出て来た浩介が悲痛な叫びを。
走る途中、名残惜しげに肩を落とす隼人を
後ろからつっちーが何やってんだよと激を飛ばし、隼人の首根っこを摘まんで走る。
その2人を追って達も、浩介の両腕を掴んで引っ張り走る。
他の3Dは俺達とは逆方向へと走って行った。
「もう追ってこねぇべ!」
「うわぁもうマジで驚いた!!」
「もうちょっとでメルアド聞けたのにっ」
陸橋の上まで逃げて来た処で、つっちーが隼人の首根っこから手を離す。
そのまま合流した竜と肩を組む。
俺も浩介から手を離して隼人の隣へ。
何か物凄く萎れた顔をしてる・・・・・
余程残念だったんだろう。
が苦笑したタイミングで、前方から現れた。
そう、カラオケ店の店長さんと
通報で駆け付けたと見える警察官が。