外の世界へ
えー、此方猫選抜を勝ち抜いた上田竜也です。
只今キャリーケースの中にいます。
とかまあ実況してみた。
今俺はさんに同行させてもらってる。
理由は聞かなくても察知してよ(無茶振り
にしてもひっさしぶりに外出たなあ〜・・・・
街並みは・・都会っぽくないね。
判断材料は少ない。
ケースから見えるのは極僅かな物。
だが確実に東京っぽくないのは分かる。
でも洗練された街並み。
街並みも何となくお洒落な感じ。
その街並みの中、はキャリーケースを持って歩いている。
擦れ違う人もチンチラの姿を見て、口許を綻ばせたりしている。
此処に暮らす人達の人柄を垣間見たように気になった上田。
わー・・・渋谷とか原宿じゃ、全く感じない印象だね。
ケースの入り口から僅かに見える景色を眺めつつそんな事を思ってみた。
何事もなければすぐにマンションには戻れるだろう。
【コレ上田に預けとく、多分コレがあれば容易に近づいて来ないと思うから】
アレの気配を案じた俺に、亀梨が寄越したネックレス。
俺なんかが持ってもいいのかと気になったら
【俺達は上田の事信じて持ってろって言ってんだよ】
なんて恥ずかしい台詞が返って来た。
まあ信用してるなんて言われるとグウの音も出ないのでありまして
俺の首に下げられてるって訳ですよ。
仕方ないから応えてあげないとね、亀梨達の信頼にさ。
ちょっとだけ誇らしく感じながら首に揺れる蒼玉を眺めた。
再び景色に視線を向けると、大分ビルが増えてきている。
オフィス街、とまではいかないが結構な数だ。
この何処かにの勤めるビルがあるのだろう。
生憎と今は会話が成立しないのでそう思うしか出来ない。
どのくらい歩いただろうか、漸く見えてきたのは7階建てのビル。
白を基調にした物で、それ以外の窓枠やドアは黒になっている。
流石はデザイナーさんの事務所だな〜
感心してから気付いたけど、さんったら結局一人で行くつもりだったんだね。
カメ達にはさん連れて行くって言ってたのに、一人だしさ。
さんがさんの名前出したからカメ達は俺を連れて行かせたのに(
鈍い子は可愛いね←
わざとでも狙った訳でもない生粋の鈍感さん。は可愛いよ?
計算でされるとアレだけど。
天然さんの鈍感さんか、結構手強いね(何が
そんでもって美人さんだからモテてそう。
頑張れ、カメと赤西。
俺大人だから別の方に回らせて貰います。
無事仕事場に着いたは、受け付けの人達に挨拶してからエレベーターへ。
先ずは仕事場にいるスタッフの所に立ち寄った。
「皆こんにちー」
「あ!先生、アレ?仕事は自宅でやるって言ってませんでした?」
「そうそう、その事で説明しておこうかと思ってさ」
「可愛いチンチラですね先生♪」
何とも砕けた挨拶をかまして部屋に入る。
すると早速気付いたスタッフが二人近づいて来た。
電話でそう聞いていたスタッフの一人が不思議そうに問う。
その傍らでは巻き毛のスタッフが、上田に気付いてケージを覗き込む。
メイクばっちりの女性スタッフのアップに吃驚した上田。
さり気なくケージを自分の後ろの床に置いて
残りのスタッフを集めると、説明を開始。
知人から猫を預かる事になり、家を空けられなくなってしまった事。
結構大変なんだ、とは付け加えた。
留守に悪戯したりしたら(しないけど)後が大変だしね、と
それを聞くとスタッフ達も確かに、と同意したり納得したりする声をあげた。
「そのチンチラも預かった猫ちゃんなんですか?」
「そうなの、可愛いでしょ?」
「可愛いですね〜♪私も飼いたいんですけど、生地があるから飼えないんですよ」
「先生、荷物どう運ぶんですか?歩きだと無理かもしんないですよ?」
「それを考えてなかった・・・・・」
「ニャー」
「じゃあ俺がマンションまで運びますよ、このくらいなら持てますし」
「いいの?助かるわ〜」
って、ちょっと待てさん!
和やかに会話してる場合じゃないってば!
スタッフ君も自然な会話のリードでどさくさに紛れるなってのっ
俺達が家にいる事すっかり忘れてくれちゃってるぞ・・・
上田は気付かせねばとケージの中から鳴いた。
まだ気付いてないらしいを見て、思いっきりケージの壁を爪で引っ掻く。
ニャーニャー!と鳴きながらケージを掻く音に、漸く視線を向けたへ
懸命に首を振ってみせる上田。
上田君何で首振って・・・・・・・?
疑問符を浮かべるの隣では、手伝ってくれると言った男の子のスタッフが
持って行けそうな荷物をまとめて手に持ち
「これだけっすよね?じゃあマンション案内して下さい」
と笑顔で言っている。
そしたらその言葉を聞いた上田君が更に慌てた様子になった。
何か訴えてるにしても・・・可愛いなあ(
じゃなくて、あ!!!
「ごめん真梓羅(ましら)君、知り合いの兄さんに頼んでたんだった!」
「え?ああ、さんっすか?」
「うんそうなの、迎えに来てくれるように頼んでたの忘れてたわ〜」
「じゃあ下まで運びますよ」
「あ〜・・・うん、有り難う」
意味に気付いて咄嗟に兄さんに頼んでる、と言い訳。
頼み忘れてたし、この展開は予想してなかったから口から出任せですけども;;
家には和也達がいるんだったよ、バレたら気まずいんだった!
まあ下まで運んでくれるくらいならいいか。
ヒヤヒヤしたのはだけではない。
それを知らせた上田もである、気が気ではない・・・・
ヌケてると思ってるけどここまでヌケてたとは。
にしてもあのスタッフ君、間違いなく狙ってるね・・さんの事。
さんの名前が出たから引き下がってみたいに見える。
上田がケージから送る心配そうな視線を向けられたは、ケータイを弄っていた。
つまりはさんに連絡してるんだろうね。
カメ達を呼ぶにしても場所知らないし。
メールにしたのか通話をする様子はない。
暫く返事を待つとして、はケージを持ち上げてエレベーターへ。
他のスタッフ達に自分の不在を謝ってから仕事場を去った。
1Fに着くと、全ての荷物を運び終えた真梓羅(ましら)とか言うスタッフの姿。
奴の所に向かう途中、さんからの返信が届いた。
「さんどのくらいで着きそうですか?」
「あ、うーんと・・・・ちょっと掛かりそうだって」
「やっぱり俺がマンションまで運びますよ」
「それは悪いからいいよ、仕事君にも任せてあるんだから」
いやーな空気だなあ。
こう思ったのはケージの中の上田。
どうやら顔色が優れないさんからして、さんの都合が悪いのかも。
となるとコイツウザイな・・・俺猫だし引っ掻くくらいしか出来ないもんな〜・・・・
も何かを悟ったのか、やんわりと断りつつ誰かに電話をかけている。
誰でもいいからその電話に早く出て欲しい、そう上田は祈った。