それは急速に



意識し始めれば、その感情は留まる事はなく
ただまっすぐ 加速し続ける。

始めはただの興味本意だった。
それが今ではどうだ?
気がつけば、目はを追ってる。

少しでも姿が見たくて、漂わせてる。
視界に納めれば、予想のつかない事をしでかすから逸らせない。

仕事に私情を挟むのはよくないんだけど
自分の感情が、それを許さない。
亀がを好きだとも分からないのに、ピリピリしちまうし。

ホント、他人を惹きつける奴。
昨日の演技にだって、俺を始めスタッフや監督まで惹き込まれた。
あそこであんな事するか?って演技だった。
リアルさを出す為に、俺の手が触れてから飛びやがって・・

あれには、度肝を抜かれたしビビッた。
監督もマジで心配してたし、仁美さん顔青ざめてたし。
タイミング悪く、ホントに当たってたら仁美さんに殺されてたかも。

あのヒヤヒヤ感っつーか、本人じゃなくて
マネージャーさんから拳が飛んで来そうって危機感を感じたのは、山口さんとのタイマンシーン以来だな。

あの後は楽しそうに笑ってたけど、俺はそれドコじゃなかった。
まあ・・も謝ってくれたし、あれはあれで面白かった。
テレビで流れりゃ、見てる人は絶対ヒヤヒヤするって!

体張った演技をしたは、今日はまだいない。
学校だったっけ?まあいいや、午後には会えるし。

仁が人知れず、夕暮れに近い空を見上げた頃。
あたしは学校の教室で、帰る準備をしてた。
夕方過ぎに予定されてるのは、撮影じゃなくて記者会見。

今こうゆうドラマを撮影中で、出演者はこの人達です。
とかゆうのを発表するらしい。
今まで素人だったにとって、表に出るのは初めて。
しかも記者の人達が沢山来る所なんて!

主な出演者として、会見に臨むのはメインの5人と
主役を前回から引き継いだ、仲間さんと監督。
ヒロインだけど、男装ヒロインって形でお披露目は滅多にない。

何もかもが初めての体験だから、今から緊張しちゃってる。
こんなんでインタビュー答えられるかなぁ。
って不安になるけど、皆と一緒だし大丈夫大丈夫。
一緒の方が逆に緊張したりして?

きっと一気に皆に知られて、メディアとか雑誌で
特集が組まれたり、特別番組とか組まれるんだろうなぁ。

最初の放送から、三年は経ってるだろうし
注目度だって、並みのドラマとは違うはず。
ってゆうか、とっくに去年の終わりから最初の奴流してたよね?
ヒロイン役・・・随分慎重に探してたんだなぁ。

〜」

ぼんやりと、考えながら歩いていたら
後ろから誰かに呼ばれる。

そんなに急いでないのもあって、は足を止めた。
振り向いて視界に入ったのは、クラスメイトの子。
ってゆうか、あたしの友達。

分かり易く言うと、コンサートに行った時
順番待ちの暇つぶしにと MDを貸してくれた奴だね。

「にしてもさ!凄いよね!」
「・・・何が?」
「だから!芸能界芸能人に興味なかったが、あの人気ドラマのオリジナルヒロインに選ばれて
仁君亀ちゃんと一緒に仕事してるなんてさ!」

追いつくのを待って、隣に来た彼女はいきなり口を開けば
そんな事をさも意外そうに言ってきた。

あの頃のあたしは、夢も目標もなかったからね。
ただ何となく毎日を過ごして、何も変化のない日常に
退屈してた時だったから。

「そうだね、でも今の自分には凄く満足してる。」
は、やりたい事を見つけたんだね!」
「うん 自分じゃない自分になれるのって、凄く楽しいんだ。」
「そっかぁ〜確かに今の、いい顔してるよ。」

隣で笑うの顔を眺めて、彼女も笑った。
やっかまずに、純粋に自分を応援してくれる彼女。
そうゆう人が身近にいた事を、は感謝した。

「今日も撮影?」
「ううん、記者会見。」

校門までの距離を歩きながら、彼女が問いかけてきた。
撮影かと聞かれ、首を振って記者会見だと言えば
ピタッと彼女は足を止めて、目を見開いてに突っかかった。

「記者会見!?マジで!?そんな凄い事サラッと言わないでよ!」
「ななななな、何でよ?」
「だってカメラとか、写真とかインタビューとかされるんだよ?」
「当たり前じゃない、記者会見なんだから。」
ってば、変なトコで肝が据わってるなぁ!」
「変なトコってどうゆう意味よ」
「フツーは緊張するモンじゃん!」

言葉も途切れぬマシンガントーク。
校門前の校庭な為、他生徒の視線が痛い。
肝が据わってるってのは、いい事じゃない。
と、興奮する友達を見ながら思う

まあ、彼女は彼女なりに 心配してくれてるんだろうけどね。
親身になって心配してくれる彼女。

「大丈夫だよ、一人じゃないし。」
「この余裕さとゆうか、視野の広さというか・・・」
「???」
「頑張って、それだけ言っとく。」

何処までものんびりしたに、苦笑を零す友達。
その顔は呆れてるんじゃなく、そんなを理解した上で
言った言葉だと分かる 穏やかな顔。

校庭の中ほどを過ぎ、校門に着くか否かの時
彼女はに、会場まではどうやって行くのかと聞かれた。

「マネージャーさんが迎えに来てくれる。」
「マネージャーさんか〜ホントに芸能人になったんだねぇ」
「しみじみしないでよ」

何て面白おかしく話をしていれば、一台の車が
校門を少し過ぎた辺りに停止した。

友達がアレ?とあたしに聞いて来るが
マネージャーの仁美さんが乗ってる者じゃない。
友達にアレじゃないよ、と返した所で車から誰か降りてきた。

 迎えに来たぜ」

色香漂う声が、自分の名を呼んだ。
その途端、隣にいた彼女が固まるのをは感じた。

だって・・・迎えに来たのは、仁美さんじゃなくて
会場で待ってるはずの、仁だったんだから。

ハネハネの髪に、目深く黒のニット帽を被り
白のシャツ、上には黒いジャージ。
ズボンは黒のジーパン・・・黒豹??

「じ・・!ちょっと仁っ、目立つよ!」
「大丈夫だって、オマエこそ声デカイ。」

車の傍にいる仁へ、抗議の為小走りに歩く
内心じゃ、かなりドキドキしてて・・嬉しいんだけど
流石に見つかったら誤解される。
いや・・別に誤解されても構わ・・・って、何思ってんの自分!

呼ぼうとした声を小さくしたのは無駄で
語尾の方はデカくなっちゃった。
近づいた仁が、逆に指摘して人差し指を唇に当てる。

うわーうわー!何その可愛い仕草!!
頬が赤く高揚しそうになる

一方 パニックになってるを見て
可愛いなコイツ、とか思ってたりして?
クールなイメージのが、真っ赤になって慌てる姿。
これは、迎えに来た甲斐があったってモンだな。

〜」
「え?あ、ごめん・・えっと内緒にしてくれる?」
「それはもちの論、その代わり握手とサイン♪」

はぁ!?まあ別にいいけど、仁が何て言うか・・・
ドアの付近で、内緒話を始めた達を
眺めている仁へ 心配げな目を向けてみる。
と目が合って、何となく悟ったのか仁が動いた。

こっちに向かってくるだけなのに、友達は凄く照れてる。
そりゃあたしだって同じよ、一緒に大分いるのに
このドキドキ感には、まだ慣れない。

「いきなり驚かせちゃったね、俺は赤西仁。」
「平気ですよ、私はの友達の巽 星(たつみ せい)っていいます。」

星の前に来ると、気さくに手を出して握手。
二回程交わした手を、上下させ
星が出した手鏡に、サラサラッと綺麗なサインを残す。

その光景を、苦笑して見てた
ふと ある事に気づく。

会場入りしろと言われたのは、午後4時。
ハッとして時計を見ると、針は午後3時半を指してる。
これはのんびりしてられんぞ〜!

「仁、もう3時半だけど会場まで どんくらいで着く!?」
「マジ?もう半?平気平気、裏道通れば間に合うから」

あたしの声に、ペンを星に返しながら一瞬慌てる仁。
けれど、少し考えた顔をしたと思ったら
すぐにあたしを見て、大丈夫だと笑った。

頼もしい発言と、安心する笑顔に心臓が高鳴る。
仁って、こんなに男らしい顔するんだったっけ?

コーチョクしたの前で、仁が星に謝り
立ち止まってたの手を掴み、車へと連れて行く。
ドキドキでいっぱいの耳に、星の見送る声が届き
何とか手を振り返した。

車に乗ると、フワッとした香水が鼻腔をくすぐる。
いつもこの香水付けてるのかな・・
車内を見渡すに、クスッと笑った仁が言う。

「どうぞ、お姫様。ちゃんとシートベルト締めろよ?」
「お・・お姫様!?」
「そ」
「またそんな事言って・・、他にも女の子乗せたりしてるんでしょ?」

助手席のドアを閉め、運転席に座った仁へ
ドキドキ感を紛らわせようと、茶化して言えば
甘い香りを纏った仁が、あたしに体を寄せて色っぽい声で言った。

が初めてだよ、助手席乗ったの。」
「え?」

エンジンをかけるのと同時で言われた台詞。
聞き返したあたしの声は、その音にかき消された。
ただ傍に、甘い仁の香りを残して・・・。