ソファーと君



「やーに見せたいモンがあるんば、帰りに寄れよ。」

学校に行ったら、私の席に裕次郎が来てそう言った。
いきなり家に呼ばれるなんて、とドキッとしたが

「分かった」

どんな家なのか見てみたい好奇心に負け、承諾した。
その日の授業は、ずっと上の空だったかも。

そしてやってきた放課後。

私は足早に教室を出て、クラスメイトに別れを告げ
待ち合わせの玄関に向かう。

私と裕次郎は、先月のバレンタインデーから付き合い始めた。
テニス部に入ってる裕次郎は、同じ部員の凛ちゃんと人気を二分してる。
2人とも運動神経がいいし、テニスの技も凄くてモテモテ。

凛ちゃんは女の子慣れしてる感じだったけど、裕次郎はそうではない気がした。
純粋というか・・・無邪気と言うか。

「待ったか?」
「ううん、今来たトコだから平気。」
「良かったさぁー、んじゃ行こうぜ」
「うん」

其処まで考えた時、微かに変化した空気。
私と裕次郎が付き合ってるのは、いつの間に知れていたけど
そうなった今でも、彼の人気は下がらない。

現に周りにいた女子生徒達の視線が裕次郎に向けられいる。
彼女達が幾ら騒ごうと、裕次郎の彼女は私。
ちょっとした優越感に浸ると共に、私でいいのかと心配にもなる。

当の本人、全く意に介さずにご機嫌で歩いてるし。
一体何を見せてくれるんだろう。

湧き上がった疑問は、裕次郎の家に着いて部屋に通された時
解消されたのだった。

「わぁーーー!!コレどうしたの!?」

裕次郎の家は、沖縄の青に映える白い壁と空色のトタン屋根だった。
素朴な感じが出ていて、私的にはいいと思う。

そんで、部屋にあったのは 大きなソファー。
モノクロで統一された裕次郎の部屋、それに合わせた黒色の大きなソファー。
駆けて入り、真っ先にソファーに座りながら問う。

「昨日届いたんばよ、通販で取り寄せた。」
「届いたばかりなんだね、でもどうしてわざわざ?」

ドアの付近に立ったままの裕次郎、通販で買ったと話す。
今までソファーなんて置いてなかったのに?と理由を尋ねると
何とも恥ずかしそうに裕次郎は言った。

「やーと一緒に座りたかったから」

かっ・・可愛い!!
男の子にそれって失礼だけど、何この可愛い人!!

ばふばふとソファーに抱きつき、その手で肌触りのいいクッションを叩く。
それにしても、高かったんじゃない?こんなにふわふわだし。
それに、ちょっとだけ裕次郎の匂いもする。

あーなんか気持ちいいかも、裕次郎に抱き締められてるみたい。

ソファーにダイヴして、何故かクッションを叩いてる。
あんなにソファーに抱きついてるさぁー。

「抱きつくならソファーじゃなくて、わんにしろよ。」

ソファーにさえも嫉妬して、可愛い恋人の隣りに座ってその体を抱き寄せる。
小さな体は温かくて、何より柔らかかった。

「温かいね」
「やーは柔らかいさぁー」
「・・・裕次郎のエッチ」

「男は皆エッチな狼なんだよ」

細くて小さな腕が、わんを抱き締め返す。
心地よい時間に浸っていると、すぐ下で聞こえた言葉。

温もりを分け合うのはとても心地いい。
だから正直に答えれば、口を尖らせたような言い方をされる。

やーが大事で、傷つけたくないから触れるだけにしてた。
けどそんなわんの決意を、コイツは簡単に壊して行くんだ。
心で感じたままに言うから・・・・

「裕次郎も狼なの?」
「わんは、健全な青少年だぜ?狼にはならんばよ」

笑いながら言ったわんに、やーはサラッと呟いた。
思わず耳を疑った位、サラリと。

「何だ残念・・裕次郎なら狼になってもいいのに」

「え?」
「裕次郎は狼にはなってくれないの?」

腕の中から聞こえるか細い声。
きっとその顔は真っ赤なんだろう。
でもそのままわんを見ないでくれ、きっとわんもやーに負けないくらい真っ赤になってるから。

殺し文句、とはこれを言うんだとわんは思った。
嫌われたくなくて、傷つけたくなくて抑えていた気持ち。

そんな風に言われたら、タガが外れてしまう。
だってわんは、ずっとやーに触れたいって思ってたんだから。

「他の奴等の前で、そんな事絶対言うなよ?」
「どうして?」
「どうしても!やーに触れていいのは、わんだけだ。」
「裕次郎・・・・」

「やーに、こうするのだけは・・これから先わんだけだ」

買ったばかりのソファー、その肘置きにゆっくり寝かせ
滑らかな頬に触れながらわんは言った。

愛しくて、誰にも渡したくなくて仕方がない。
そんなやーにだけしか、わんは狼にはならないだろう。
これからも、これから先も。

近づけた唇で、桜色の唇を封印――

その仕草と声で他の男を誘わないように。