隼人との出逢いは、突然だった。
本来 私のチョコは違う人にあげるつもりで・・

「わりぃ・・俺、君の事よく知らないし。」

『貰えない』と言われ、返されたチョコ。
それを仕方ないから自分で食べてた。



傍にいる



日も落ちて、すっかり暗くなった道。
其処をチョコを食べながらヤケになって歩いてた。
そしたら前に立ち塞がる影に気づいて、私は足を止めた。

顔を上げると、悪そうな男が二人。
ニヤニヤと笑って、私を見てる。

「どいてくれませんか?」

丁度苛々してて、睨むような感じで言う。
「スカしてんなよ おジョーちゃん」
「失恋しちゃったんだろ?俺達が楽しませてやるよ」
そう言って、男達に腕を引っ張られた。
どうせやる事と言えば一つ、強姦くらいだ。

好きな人に振られた日に、男に犯される。
最悪の日になり兼ねない。

「離して!」
「うるせーな!」

掴まれた腕に力を込め、必死に動かしてると
苛立った男は、力任せに私の頬を叩く。
あまりの衝撃に 意識が飛びそうになった。
これは真剣にマズイ・・・
けど 力じゃ適わない、このままなんてイヤ。
誰か・・誰でもいいから 助けて!

ニタニタした男が、私の制服に手を掛けようとした時
「やめろよ」
落ち着いたトーンの声が割って入り、男の手を掴む。
涙の浮かんだ目で、私は声の主を探す。
その人は、男と私の間にいて 庇うように立ってた。

「てめぇ、邪魔すると痛い目見るぜ?」
「ふーん・・どうなるんか教えて貰いたいね」
「何だとコラ!ふざけるのも・・・」
ドカッ
男が皆まで言い終わらぬうちに、割って入った青年の拳が炸裂。
見事に男の体は吹っ飛び、私の視界も開ける。
「まだやる?今度は手加減しねぇぜ?」

倒れた男に、もう一人の男が駆け寄り助け起こす。
それから男達は、何かに気づいたのか青年をジッと見た。
「コイツ・・・黒銀の矢吹か?」
「ご名答」
「マズイぜ!矢吹は!」
おどけた感じで、矢吹と呼ばれた青年はピースを作る。
それを見た男達は、お決まりの台詞を残して立ち去った。

「大丈夫だった?」
逃げた男達を見送り、青年が私を振り向く。
口許に優しい笑みを作って聞く姿は、凄くカッコイイ。
きっと学校ではモテモテだろうなぁ。
何て考えてたら、青年が不思議そうに私を見て
「あ、此処ケガしてんじゃん!女の子殴るなんてサイテーだぜ」
「平気です、口の中切っただけだし。」
「それじゃ俺がヤなの!」

初めて会ったばかりなのに、何でそんなに心配してくれるのか
不思議な人・それが私の隼人への第一印象。

それと、あの後彼は私が半分まで食べたチョコを
美味しいって言いながら食べてくれた。
「俺ならのくれる物、喜んで貰うのにな」
「会ったばかりなのに?矢吹君って変わってる。」
「そう?」
「うん、それと助けてくれて有り難う。」
冗談かと思った。
だから その時は軽く流してた。
お礼を言った私を、隼人は微笑んで見てたのを覚えてる。

学校が黒銀と分かって、私は桃女で
互いに近いって分かってから 私は気づくと隼人を探してた。

彼には他に仲間が四人いて、仲間思い。
帰りが一緒になる事も数回あり、一緒に遊んだりもした。
そうしてるうちに、私の心の中には隼人が住み着いた。
どんな時も彼の姿が離れないし、声とかがリフレインする。
これは重症だと、自分でも思った。
くせっ毛の髪、掠れ具合の色っぽい声。

スラリと伸びた手足に、力強い腕。
触りたい・・触られたい。
これじゃ変態みたいじゃん!!

もういてもたってもいられなくて、私は黒銀へと向かった。
時間は放課後、この時間ならまだ校門から出てない。
ずっと見てたから知ってる。
ちゃんと告白したい、彼を自分の物にしたい。
切に思って、隼人の姿を探す。

見つけたい時には見つからない。
息が切れて、私は3Dのクラスの前で壁にもたれた。
「矢吹君ったら・・何処に行ったんだろう。」
どうしても言っておきたい事があるのに・と呟く。

「俺に何を伝えんの?」
「だから、ちゃんと告白・・・え?矢吹君!?」

いないと思って言ったのに、その本人が目の前にいた。
至近距離の問いかけ、自然と顔が熱くなる。
彼が一人なのが幸いだった。

「あ、あれっ・・竜君達はいないの?」
話を逸らすように聞くと、少しムッとしてから彼は答えた。
「ああ、がこっちに行くの見えたから。」
「気づいてたの?」
「ちげーよ、迷い込んだんかと思ってさ。」

照れてる・・・でも何故彼が照れるの?
「それと、今告白って言ってなかった?」
「こ!?そ・・そんな事言ってないよ!」
聞いてないのかと思ったのに〜!!
赤くなった顔を隠そうと、顔を横に向けて行こうとすれば
目の前に腕が現れ、私の行く手を塞ぐ。

が言うまで逃がさない」

目を細めて言うその表情、駄目だっ!!その顔止めて!
少しずつ近づいて来る顔・・・もう駄目だ〜
私は腹をくくり、全て言う事にした。

「だからっ一ヶ月前逢った時から・・矢吹君が好きなの!
バレンタインデーがあんなんだったし、ちゃんと言いたくて・・」
開き直り万歳、恥ずかしいのをかなぐり捨てて
私は隼人に想いをぶちまけた。
勢いのある言葉の嵐に、隼人も表情が固まる。

吃驚したってもじゃねぇよ・・!
こんなに上手く行っていいのか?って思った。
だって俺だって、をずっと見てた。
初めて逢った時から・・惹かれてたのかもしんねぇ

「矢吹君?」
「隼人」
「え?」
「もう名前で呼んでよ」

俺が言う言葉で、再び染め上がる頬。
恥ずかしそうに目を逸らす仕草。
横を向いた時、俺を刺激する首筋・・・

「やだ」
「は?」

赤い顔のまま、彼女は俺に言う。
その理由が分からずに、俺は間抜けな声を出した。

「分からない?へ・ん・じ。私の気持ちに対する答えが聞きたいの」
「あぁ〜そうだった」(嬉しすぎて忘れてた)
曖昧な言葉に、私は矢吹君を睨む。
全く!一大決心して言ったのに、この余裕は何!?

膨れてると、顔の横に矢吹君の手が置かれた。
うん?と腕を伝って彼の方を見る。
その顔はどんどん近づいて来て、かなり近くで止まった。
それだけで心臓がバクバクしてる。
何とか心を落ち着かせ、その答えを待つ。
これでノーだったら殴ってやろう。
しかしその決意は必要なかった。

「俺もが好きだ、あの時からずっと見てた。」
甘く響くテノール・・掠れる語尾の妖艶な声。
私の大好きな、彼の声。
ずっと見てた・という言葉、彼も同じ気持ちでいてくれた。
嬉しくて、どうしようもなくて涙が零れた。
流れた涙を 細長い指が拭う。

「矢吹く・・」
「だから隼人って呼べって言ったじゃん。」
「いきなりは無理だよ〜」
「おまえ、さっきの勢いはどうした?」
名前を呼ぼうとしたら、長い指が口に当てられて止められる。
どうしても呼んで貰いたいのかなぁ・・

そしたら、喜んでくれる?
もっと色んな顔を見せてくれる?
私の傍に・・・いてくれる?

「その顔やめろ、キスしたくなるから」

ボン!
きっと顔から火が出たら、こんな音になるだろう。
いやぁ・・寧ろして欲しい。
もっと私に触れて欲しいな。

「ホワイトデーのお返しは、隼人からのキスがいい。」

くわぁ〜!!今の、サイコーに殺し文句。
キスなんて、に言われると意識しちまう・・・
視線が勝ってに、柔らかそうなの唇を捉える。

「いいの?物じゃなくて」
「今の私は、そのキスが宝物なの!もっと触れて欲しいから」

ごにょごにょと、語尾が小さくなってく。
俯いた顔は、凄く赤いんだろう。
想像すると、隼人は顔がニヤけるのが止められなかった。
何でこんなにコイツ、可愛いんだ?
誘ってるようにしか見えない仕草と言葉。

今更待ったは聞かないよ?
今の俺は、自分でもセーブ出来そうにねぇから。

「好きだ・・、ずっと傍にいろ」

甘い言葉に囚われ、私は頷く事しか出来ない。
自分で言ったとはいえ、かなり恥ずかしい台詞だ。
耳元に響く、囁き声。
体中がジィンと痺れる感覚。

「はや・・んっ、ふぁっ・・」
そこから先は、キスの嵐に酔いしれた。
口内を犯される、舌を吸われると吐息が漏れてしまう。
流されないように、私は隼人の腕を強く握った。

夢中で唇を重ねる隼人。
耳元で聞こえるの艶っぽい声。
これ以上聞いてたら、理性が飛びそうだ。
身を引こうとするのを、頭を引き寄せて阻止。
この甘い感覚に、ずっと浸っていたくなる。
を好きになる程 手放せなくなる。

やっと唇が離れた時、互いの唇から
離れるのを拒むかのように 銀色の糸が引く。
隼人の舌は、私の糸ごと舐め上げ 自分の口許も舐める。
ゾクッとするくらい、セクシーな仕草。

自分の彼になるとは信じられないわ・・
「物足りなかったらこの先も続けるけど?」
この先・・?まさか・・
「え・・遠慮しときます!」
隼人が体を離した時、チラッと見えた肌。
それを見ただけでもクラッと来るなら、この先なんて無理!

断固拒否したら、残念そうに隼人は声を漏らした。
ごめんね、隼人・・心の準備が整ったら・・その時は・・。

「隼人、大好き。」
「おお・・俺も」

歩き始めた隼人の腕に、自分の腕を絡め
頬を寄せて言えば、優しい声音で彼も答えた。

不思議だね、出逢ったのは最近なのに。
こんなにも貴方への想いが募ってたなんて・・
出逢いは無数にある。
その中のどの出逢いが、どう変わっていくのかは自分次第。
私はその出逢いで、最高の人に出逢えた。

キスがお返し、なんてのもアリかもしれないね 隼人。