スキンシップ苦手 Mの場合Ⅱ



🖤「!!」
🐇「―――っ!!」

空中に体が浮くのと、ヤケに切羽詰まった蓮の声がしたのは同時。
左に傾くように横向きで転落した私だったが
痛みではなく、良い香りと力強い腕に包まれるように受け止められた。

しかし完全に受け止める為にセットの手摺に掴まった目黒だが
受け止めた際の勢いが止められず、を横向きに抱えたまま手摺を支える欄干に背中を強打した。

🖤「ぐっ・・・」
🐇「れ、蓮っ大丈夫!!?」
🖤「こんなの・・ヘーキ、それよりてめぇ!」
👤「――ひっ!俺は別に何もしてねぇよ、そいつが勝手に落ちたんだ!」

スタジオに響いた衝撃音、これはその場にいたスタッフの目を引き
状況に気づいたアシスタントがマネージャーを呼びに走り
カメラ助手さんが私と蓮の方へ駆けつけてくれる。

欄干に背中を強打した蓮の顔は険しく、痛みを堪えてるようにも見え
私のせいだと一気に心が冷え、足の痛みも忘れ様子を窺い見てると
すぐ目の前にある蓮が鋭く階段上のスタッフを睨みつけた。

蛇に睨まれたカエルのように小さくなった男は、ぺらぺらと弁明を始める。
しかしその手にはの白い布を持っており、怪しさは増した。

自分は悪くないと焦る男に追い打ちをかけるように
男がに迫り、布を舐めてるような様子と
セクハラ紛いの発言を聞いてたスタッフが現れ
二の句を紡げなくなった所にマネージャーも現れた事で意気消沈。

警察に引き渡されるまで別室に隔離される男を横目に
を自分の布で隠すようにしながら睨みつけていた目黒。
漸く男がスタジオを出た所で布を外し、腕の中に庇ったままのへ優しく問うた。

🖤「大丈夫?」
🐇「私なんかより蓮は?背中、大丈夫だったの?!」

最後まで傍で男を睨み、視線から守ってくれていた目黒だが
強打した背中の方が気になり、抱えられた体勢のまま手を伸ばして背中の衣装を捲ろうと試みる。
が、大丈夫だよと言い張る目黒に阻止されてしまった。

そうは言っても結構な音が響いてたから・・絶対腫れてるはず。
とそこへマネージャーが戻って来るのが見えた。

👨‍💼「蓮とくん大丈夫?ちょっとケガ見せてみ」

有無を言わせない様子に流石の目黒も背中を向け
は捻ったっぽい左足首をマネージャーに見せる。
先ず目黒の衣装を捲り、背中の方を確認した。

目視で見た感じ、腫れてる様子もない事から
偶々近くに置いてあった小道具のクッションが挟まったんだろうとの見解だった。
だとしたらナイスクッションとしか言いようがない・・・。

それから私の左足首を見たマネージャー。
見せてから気づいたのだが、既に青紫色に肌が変わっており
鈍痛のような痛みが今になって強く感じるようになっていた。
これはすぐに手当てしないと、と呟いたマネージャー。

👨‍💼「くん」
🐇「大丈夫です、撮影の残りも蓮とふっかさんで終わりますしやり遂げて見せますから」
🖤「でも・・立てる?」

平気だからと訴えてみたが、疑惑の眼差しを向けられた('ω')
プロとして撮影に穴は開けられない、と立ち上がって見せるも

左足をセットの地面についた瞬間体を貫かれるような激痛に見舞われ
立っていられなくなり、前へ傾いた体は正面に居た目黒に支えられた。

👨‍💼「その足じゃ無理だな・・すぐ患部を冷やして安静にしてないと・・・」
🐇「私やれます、マネージャーお願いします穴を開けたく無いんです」
🖤「・・・マネージャー俺からもお願いします、メンバーとしてフォローしますから」
🐇「蓮・・・」
👨‍💼「うーん、マネージャーとしては反対だけど・・絶対無理しないって約束出来るか?」
🐇「はい!約束します」

断固として中断を考えていたマネージャーだったが
食らいつき、言い募ると、意外にもフォローを申し出た目黒の真剣さに押され
ふかーい溜息を吐いた後、仕方ない・・と口火を切り承諾した。

だがその表情は厳しく、内心は反対してるのが丸分かり。
撮影をやり遂げるならカメラマンや他のスタッフに気を遣わせないよう振るまえと指示し
勿論無理しないようにと釘も刺しつつ、背中を強打している目黒にも念を押し
撮影再開が出来る旨を伝えに一旦スタジオを出て行った。

マネージャーが退室した後、念の為もう一度目黒の背中を確認。
黒のダブルスーツに身を包んだ目黒に上だけジャケットを脱ぐように言い
確認したいからと頼み込むと、13.5㎝上にある目黒の顔が笑む。

🖤「って大胆だね、昼過ぎとは言え此処スタジオだぜ?」

とか言いながらニヤリと笑う。
この歩く18禁男め・・・

🐇「そういう意味じゃなくて背中、ホントに平気なのか心配なだけ――」
🖤「ハイハイ、その前に移動しよ?」
🐇「ふぇ?!いや、重いから下ろそう?そこの窓辺で良いからっ」
🖤「なに、照れてんの?可愛いじゃん」

兎に角はよ下ろしてRENMEGURO!私まだ生きてたい😶

慣れた手つきで凄い自然に私を腕に抱えた様に焦った。
細身なのに軽々と抱えるとか、男らしくてドキッとしてしまったよ。
全目黒担が憧れるお姫様抱っこってやつだ。

慌てる私を見て楽しそうに笑む顔すらビューティフォー。
不意打ちすぎて顔から火が出そうになりながら何とか見つけた窓辺の淵に下ろして貰う。
そこへマネージャーに呼ばれたカメラマンが戻って来た。

📷「騒ぎは聞いたよ、2人とも無事で良かった。撮影再開はそこからでOKかい?」
🐇「本当にお騒がせしました・・;;」
🖤「再開は此処からで大丈夫です、いつでもいけます」
📷「頼もしい言葉だ、流石2人はプロ意識が高いね」

現れたカメラマンは先ず2人を労わり、すぐ仕事の顔つきに変わる。
それを見たと目黒も、意識を撮影に切り替えた。

すぐに目黒が動き、窓辺にを座らせたまま反対側へ行き
左右に開くタイプのセットの窓を開閉させ
横向きに窓辺に座ると腕を伸ばし、向こう側に座るの腰に絡ませた。
優しく腕で腹部を支えるみたいに添えられる目黒の腕。

ドキッと一瞬心臓が跳ねたが、表情には出さないよう心掛け少し伏し目がちに
2人が表情を作った辺りでカメラマンがシャッターを切る。
シャッターが切られる度に目黒はポーズを変え
続いては腰から外した腕を動かし、の白銀の髪を一房手に取って唇に寄せた。

髪に口付けるみたいな動作、前を見たまま髪を引かれる感覚だけを感じる。
多分目撃してたら恥ずかしさで動揺させられていただろう。

🐇「蓮ばかり動いて貰ってごめん・・」
🖤「いいよ、気にすんな」
🐇「うん・・」

思わず謝ったら有無を言わさぬ強い眼差しで見つめられる。
それ以上謝るなと言ってるみたいに思えてきた。

憂いを帯びるの表情は実に儚く、その場の誰もが見惚れた。
ガラス細工のような繊細さと儚さ、そこに加わる美しさは1つの美術品のよう。
アルビノ特有の色素の薄い白銀の髪と、白い睫毛に乳白色の肌を惹き立てる赤紫の双眸。

尚もその肌を惹き立てる赤々とした唇。
この容姿に見惚れぬ者は居ないだろうと言わしめる容姿・・
色素欠乏症という稀な病にも関わらず、それすらも個性と思わせるものがにはあった。

後最近気づいたのだが、の耳はエルフのように先が尖がっている。
耳介結節というこれまた障害なんだが・・アルビノと合わさって人間離れした印象を与えている。

そのを、反対側の窓辺から戻った目黒が腕に抱えると
物語からそのまま現れた森のエルフのようにも見えた。
更に言えば人間離れした魅力のと並んでも違和感がない目黒も凄いとカメラマンは感じている。
見劣りしない目黒や、他7人のメンバー達・・改めてSnow Manというグループの凄さを感じた。

🖤「しっかし軽いな、ホント妖精みたいなんだけど(笑)」
🐇「それは無い、一応3食食べてるよ?」
🖤「量食ってる?ああ次は此処座ってね」

腕に抱えながら少し驚いた顔でそう聞きながら移動する目黒。
ちゃんと食べてると答えるをセットのラグの上に下ろした。

3食食べてるって割に軽すぎる
恐らく小食なんだろうなと目黒は予想する。

捻挫に響かないよう下ろしてくれた目黒にありがとうを言い
どんなポーズをしたらいいかを目線で問うと
んとね、と口にしてから目黒はラグの上に寝転んだ。

右腕を伸ばして横向きに寝転ぶとその目に私を映し
は左向きに寝転んでみてと言った。
それだけでなく、顔の位置が目黒と同じになるようにと。
逆さに寝転んで欲しいとも注文が飛ぶ。

🐇「なんかアレみたい・・」
🖤「アレって?」
🐇「太極図」
🖤「なにそれ😀」
🐇「勾玉みたいなヤツが上下逆に合わさって1つの丸に見えるヤツ」
🖤「まがたま・・ちょっと調べとくわ」

上下逆に寝転び、向かい合う様が太極図みたいだなと感じた私。
ただ生憎と蓮に説明するには語彙力が足りなかったようね( 'ㅂ')

しかも分からない事だからきちんと調べようとする言葉に笑みが浮かぶ。
それと同時に騒ぎが起こる前に言われたカメラマンからの注文を思い出した。

もっとくっついてみようか。
に対してどうする考えなのかな、と。
蓮も考えてるのかな、最後くらい私から動いた方が良いかも。

🐇「ねぇ蓮」
🖤「ん?足痛い?」
🐇「あ、いやまあズキズキしてるけど平気だよ」
🖤「良かった、最後どんな風にしよっか」

声を掛けてみたら同じタイミングで聞き返される。
漢らしくて強引な時もあるけど気遣いが出来る目黒は素敵だ。

怖さの名残もあったから余計優しさが沁みる。
あの男の人に近づかれた時・・・妙な光景と重なったり声も聞こえた。
思い出しそうで思い出せない、思い出したくないような記憶?

あれが何の記憶で誰の記憶なのか分からないけど
思い出しそうになった時私の心は恐怖で支配された。
だから多分思い出したくなくて封じ込めた記憶なんだと思う。

いかんいかん今は撮影中なんだから集中しよう。
一点を見つめて思案していたら急に投げ出したままの左手を握られた。

🐇「??」
🖤「撮影中なんだから俺だけの事考えてよ」
🐇「(グハァ)あぁうん、てか蓮の手おっきいね」
🖤「そりゃ野郎だし?・・」
🐇「うん?」
🖤「さっきのさっきだし、怖かったら言えよな俺が安心させてやるからさ」
🐇「――お・・おお、頼りにしてるっ」

よし、ラスト撮るかー!と目を合わせたままニコッと笑うRENMEGURO。
変に言葉を飾らずストレートに伝えて来るモンだからめっちゃ照れた・・・
しかも手を握ったまま言うとかヤバいね?これはイチコロ(古い)ですよ?

内心ドキドキしているを見て少し笑うと、ラストの構図をどうするか考える目黒。
私だってモデルなんだから、とは意気込み
寝っ転がったままひっくる返しに寝てる目黒へ要望を口にした。

🐇「ねぇ蓮、ラスト1枚は・・こっち来て?」
🖤「えっ?」

自分の隣を指差しながら言ったら
思いの外吃驚した目黒のリアクションが見れた。
至って普通の頼み事をしたつもりでいる

口許を抑えて数秒静止していた目黒だが、漸く心を決めて立ち上がり
に言われた通り、寝転ぶの右側にもう一度寝転ぶ。

来たよ?と小さく言いながら、この後どう撮るの?と問う。
そうしたら彼女は口許を笑みにし、こうするの、と言うやゴロンと反転し
俺の方に体の向きを変え、ピトッと体を寄せて来た。
左側に感じるの体温と女の子らしい香りがふわっと鼻腔を擽る。

これはヤバい、え?これ無意識?誘ってる?

なんてグルグルと思案する間も、カメラマンは満足そうにシャッターを切っている。
その音で今は撮影中なんだ、と我に返った目黒。
暢気な彼女はコツンと俺の左肩の辺りにオデコを寄せ、蓮良い匂いするーとか言っている。

何とも言えない、心が騒いだ目黒はの方へ体を傾けて右肘を支えに起こすと
空いた左手をに伸ばし、柔らかな頬に添えて顔も寄せ・・・
近づく互いの距離と顔、の息遣いすら聞こえる位置まで近づいて囁いた。

🖤「――これからはの事、俺に守らせてよ」
🐇「・・・どういう事?えっ??」
🖤「どうもこうも言葉通りの意味だけど?」
🐇「だ、だだ大丈夫だよ皆が居るしさ」
🖤「俺に守られんのやなの?」
🐇「そんな事ないよ寧ろ贅沢だしファンの子に刺されそうだし?」
🖤「俺がさせない、これからはマジで行くから」
🐇「行くからってなに?蓮??」

近さも去ることながら言われた言葉にも私はパニックパニック。
マジで行くから、と口にした時の目黒の表情。
あの目は確かに本気で、決意を秘めたように見えた。

この日以降、目黒は岩本に倣いジムに通うようになったとか。
それがまさに撮影時の言葉を表してるようで、1人私は意味を理解し
1人で悶える事になるのだが、それはもう少し先の話。

カメラマンさんはくっついて寝転ぶ私達を写真に収めた。
現場のスタッフさんら曰く、最高に良い写真が撮れたよ!
との事だったが、その日1日私はずっと騒がしい心臓の音に悩まされる事となった。

それから捻挫の手当てに行き、いよいよ最後の撮影に挑むのだが
何となく血の気が引くような感覚も感じ始めていた。


🖤Ver.おわり