あちらにいたら味わえなかった体験。
少し驚き、そして苦行に感じられた・・
でもただ認められたい、それだけを一心に願い
形振り構わず進むしかなかった。
今思えば、がむしゃらだったかもしれません。
虹色の旋律 九章
「なあ、何で仁はあそこまでを目の敵にしてんの?」
「・・・・いきなりだなお前」
「まあ理由があるとは思うけど、きつすぎじゃない?」
「・・・アイツ見てっと何か苛々すんだよね・・」
「恵まれてるから?」
「違う」
「女々しいから?」
「確かに女顔だけどな」
「素人だから?」
「それ言ったら俺らもそうだったし・・」
「あまりにも素直だから?」
「バカが付くくらいにな」
「歌がうまいから?」
「それは認めてる」
別のレッスン室に向かいながら言葉のキャッチボール。
仁が其処まで邪険にする理由を知っておきたかった。
思いつく理由を手当たり次第に挙げていく。
一つ一つに真面目に答えを返す赤西。
どれもこれも違うと言ったりおどけて返してばかりの赤西。
コイツあんま妥協しないからなあ・・・・・
最後まで自分を貫くって言うか、まあ言うなれば頑固だって訳で
「お前と似てるから?」
試しにそう聞いてみたら、早速リアクションが返って来た。
少しピクッと肩が揺れる。
成る程な〜・・・仁もちょっとは自覚してるんだな。
でも、互いに認め合えたらきっと、この二人は仲良くなれると思うけどね。
似てるからこそ反発も強いし、絆も強くなると思う・・・・俺らもそうだったから。
「似てねぇだろちっとも・・それより俺はまだ認めねぇから」
「まあ認めないのは別として、本番近いんだから練習とかちゃんとやれよ?」
「んー」
「はお前と似てるよ、とことん突き詰めようとしてる。他人の言葉を素直に受け取るから多分無理するだろうね」
「・・・・・・・・・・似てねぇ〜」
苦笑を浮かべた亀梨。
立ち去り際に残した言葉を噛み締め、少しだけ後ろを振り向くと
雑念を振り払うように頭を軽く振ってから赤西は再び歩き出した。
気にしてなんかやんねぇもん。
やる気があんならちゃんと見せてもらわねぇとだから。
俺らだってもうプロだ、甘えてなんかいらんねぇ
覚悟したんなら見せてみやがれ。
それまで待っててやるよ。
スッ――と目を細めた赤西、その顔には挑発的な色
それでいて色気漂う物になっていた。
亀梨曰く、この顔になった赤西は本気になった・・と言う意味だとか。
さて一方のはと言うと、彼らとは別のレッスン室に到着。
所謂あのサンチェさんと顔合わせの最中です。
「君がルーキーの君?私は振り付けとレッスン担当のサンチェ、宜しくね」
「(るーきーとは何でしょう?)はい!宜しくお願いします!」
「うんうんいい返事だね、じゃあ早速準備体操からやろう。過去ダンス経験がない場合は体を柔らかくしなきゃだから」
「は、はいっ」
聞き慣れない言葉の意味を考えてる余裕はない。
次々と目の前の先生は言葉を列ねていく。
兎に角、体操と言う言葉は知ってる。
なので鏡の前で見本を見せるように体操を始めたサンチェに続き
見よう見まねではあるが体操を開始した。
あれ?でも女学校でやる物とは違うのね・・・・?
でもこの方が筋が延びて、体操してる感じがするかも。
屈伸したり、座って体を前に倒したりと・・
何か体が温まって来ました!
そしたら簡単な動きとやらを教えてくれる先生。
やっているうちにこれが踊りと言う物なんだと理解した。
手を使って曲のイメージを表現してみたり、中には複雑な動きもあったけど
初めての事を体験出来る喜びで気にならなかった。
手を動かしながら同時に足も動かし、後ろへ移動して首を上げて下げながら横へ動く。
そしたら左腕を前から自分の方へ動かし・・・・
続いては体を正面から横へ向けて、手を動かしつつ左右に跳ねる。
再び前へ体を向かせて、しゃがむような動作を入れて同時に上半身を左右に動かす。
そしたら左手を自分の前へ上から下へ下ろし・・・・・
とまあこの先もあるのですがこれがサビ?の一連の動作みたいですね。
複雑・・・・・・・・・・・
「ゆっくり何回か繰り返していきながら頭に入れてね」
「やってみます・・・」
「けど君は筋が良さそうだね、やってみてどう?」
「一生懸命やるだけです!でも・・何て言うか、所作が綺麗で好きです。」
「所作・・・?ああ、手の動きね。はは、そこに着目か、面白いね。」
「そうですか?」
「他のジュニアはカッコイイとは言うけど後は覚えるので精一杯みたいで一連の所作に感想は抱かないものだよ」
「変・・ですかね」
「ううん、本当は結構手の動きが重要だったりするんだ。曲の表現は体だけじゃなく、手の動きも大事なんだよ?繊細な表現が籠められてるから」
奥が深いのですね・・・・・そう考えると、やはり私は手の動きが好きかもしれません。
繊細な動き、繊細な感情を手の動きだけで表すのならば
とてもやり甲斐があると言う物ですね。
は一つ一つの動きにも意味があると教えてくれたサンチェを尊敬し
もっと知りたいという気持ちになった。
私に出来る事は少ないかもしれないけど
細かな所から物にしたい。曲に籠められた物を表現したいと願った。
それから何度も入念に動きを頭に叩き込む。
暫くしてサンチェは他のキャストの指導へと向かい
残ったはその振りのテープを貰うと、合わせて踊る練習に移った。
・・・速い←
ゆっくり教えて下さっていたから分からなかったけども
実際はこんなに速かったのですね;;
何度も何度も動きの流れは頭に叩き込んだから
後は合わせるだけなのに、今度はこの曲の速さに慣れなければのようです。
大正から時代が変わっただけで、こんなに曲調も変わるなんて驚きですわ。
もし戻れたら皆に教えてあげたいです。
新しい事を覚えるのが愉しくては夢中で踊った。
心から踊る事を愉しみ、真っ白な紙に文字を連ねるが如く吸収して行く。
愉しそうに踊る様は輝き、見る者に眩しく映った。
人を惹き付ける魅力であり、芸能界で生きる者には必要な武器。
それが備わっているには持って生まれた素質がある。
と見せ付けられていても、認めるには時間が必要だった。
様子を見に来てしまった赤西も、の才能は理解してると言うのに。
そんな己のガキっぽさは重々承知していた。
「あれ?仁?レッスンは?」
「ばっバカ、でけぇ声出すなよ!」
「いやデカイ声はそっちだろ・・・・?へーあれがルーキー君?」
「俺は認めてないけどね」
「頑張ってんじゃん、飲み込みもいいみたいだし」
「『特別』とか言われてっからそれくらい当然だろ」
「どうかな、持て囃されて無理に頑張っちゃいそうじゃない?そう言うの分かってそうだけどな〜・・仁なら」
「・・・・んな事」
「そんなに気になるなら監督してればいいじゃん、仁が。」
「だから気になってねぇし!・・・・って、監督?」
ジレンマが生じて更に苛々してきた。
いい加減立ち去ろうかとした時、真横から嬉々とした声。
振り向くと其処にはレッスン室にいるはずの山下の姿。
飲み込みが良さそうだと称したPの言葉が俺をイラつかせ
認めてないのに周りは認めて行く様に腹が立つ。
だから余計にムキになって参加なんか認めてないと吐き捨てた。
けどPは俺とは違う物が見えてるらしく、分かったような口振り・・
更に言い連ねられたくなくて背を向けたその背に届く声。
過剰な期待に応えようと無理をしてしまう、そう言うのは理解してない訳ではない。
でもそれは認めたくない。
その上何か話が変な方向に?
いい笑顔で何言ってくれちゃってるんですかねこの人は。
けどまあ・・・・ちゃんとやるのかどうか監視するつもりだし?その名目で監督してやらぁ←
とまあ見事に乗せられた赤西なのであった。