試練?
ドラマって、順番に撮影するのかなぁ。
その辺の事って全然分からない。
映画だと バラバラに撮影するみたいだけど。
初日に撮ったのは、第一話のシーンだったから
一週間の間に撮った話と言えば、あたし抜きのシーン。
でもね、後から分かったんだけど
あの『海賊帆』のコンサート前からも撮影はしてたんだって。
そりゃそうだよね、考えてみればあたしが合流してから
一話撮ってたら間に合わないもん。
だから、大体のシーン(主人公抜き)は撮り終わってるんだ。
だったらあの5人が仲良くなるのが早いのも、頷ける。
あたしが来るより先に撮影してて、一緒にいれば仲良くなるって。
何か気が楽になった!バカだなぁ自分。
会って最近のあたしと、あの5人じゃ築いてきた信頼の度合いが違うじゃん。
それをたった一週間くらいで築けなんて無理だもん。
よし、それなら負けないように 濃いものにしなくちゃね。
は気合いを入れ、勇んでロケバスを降りた。
「、ちょっと打ち合わせようぜ。」
「あ うん、何かアドリブとか入れちゃう?」
「アドリブ?面白そうだけど、入れられそうにない感じじゃん。」
和也の指摘に、パラパラッと台本を捲ってみれば
確かにシリアスが続いてて、とてもアドリブとか入れられる感じじゃないわ・・・。
このシーンは、主人公が過去を少し思い出して
苦しくて 辛くて、涙してしまうというシリアスな場面。
確かにこれじゃあアドリブなんて、入れられないね。
台本をよく見てから言えばよかった。
「ホントだね、違うシーンで入れてみようかな。」
「それもいいんじゃない?」
「じゃあ打ち合わせようか、あたしさココ大袈裟にやってみる。」
気を取り直し、はあるシーンを指で指して提案。
指されたトコを見てみると、それは竜が主人公に声を掛けた所。
驚き方を、少し明るい感じで大袈裟にしてみたいと
楽しそうな目をして、は言った。
太陽のような笑み、つられて自分も笑顔になってしまう。
「いいんじゃない?此処から先はずっとシリアスだしさ。」
「ホント?じゃあそうやってみるね!」
笑顔を見せた和也、まさか自分につられて笑ってるとは思わず
笑った顔が見れて嬉しくて、心底喜んで
あたしは監督の所へ、自分達の提案を告げに走った。
自分じゃない人を演じるのって、凄く楽しい。
役について提案した事が通ったり、作り上げてるって感覚が
とっても満足感をくれる。
とことんやってみたい、この道を確かな物にしたい。
と和也の提案は、無事通り 演技に組み込まれた。
さあ 全員の配置も完了し、後は合図を待つだけ。
いつの間にか、この土手にもギャラリーが詰めかけ
辺りは賑わいを見せてる。
この集まった人だかり、大半は仁と和也を見に来たんだろう。
二人共カッコイイし、人気あるからなぁ〜
時たま もこみちを呼ぶ声と徹平を呼ぶ声も聞こえる。
恵介の名前は、今の所聞き取れない(ごめん)。
「それじゃあ『ごくせん』第二話、シーン10よーい・・!」
警備員さん達が、ギャラリーを静かにさせ
監督の加藤さんの声を合図に、カチンコが鳴らさせ
シーンスタート!
まずカメラは、土手に向かう自分達を撮り始める。
一般募集した3Dのクラスメイト達、無事演技をこなす。
それから徹平達、もといタケ達がパーンして映り
黙して歩くあたしと、後ろから続く和也―竜―を映した。
このシーンで、主人公の鴇は同性が殴られる事について考え
今までの争いを嫌い、弱かった自分の事を振り返ってる。
それから、何にも変わってない自分に呆れたのと悩みで・・
「はぁ・・」
「何 溜息ついてんだよ」
台本通り、見事に重々しい溜息を吐いたあたし。
それに続いて絶妙なタイミングで、竜(和也)の声が入る。
「うわっ!竜!?・・じゃなくて、小田切・・。」
「わざわざ言い直すなよ」
コメディーを加える感じで、提案通りの大袈裟な驚きを披露。
これを見た和也、内心笑いそうになりながらも
クールに呆れる竜を演じきる。
あたしと竜が撮影してる間、仁達は川原付近で
撮影の様子を映したモニターを見て待機。
こっちはカメラも回ってない為、の驚き方を見て
徹平達の口許に笑みが浮かんでいる。
「ナイスリアクションじゃん、。」
「うんうん、俺そっちにいたら噴出してたかも。」
「まさにボケと突っ込みだよな」
「ああ、放送されんの楽しみ!」
真剣な演技の前なのに、皆してモニターに釘付け。
笑いと共にそう言った仁を始めに、口々に四人が感想を言う。
皆がの演技を気にしてる、それから認めてる。
仲間さんも、遠巻きにモニターを見て
の演技に笑ってるのが見えた。
場面は進み、木にもたれて座った(鴇)へ
和也(竜)が上着を差し出そうとするシーン。
そこでは俄かに、ファンの女の子らしき子が小さく叫ぶのが聞こえた。
分かる気もするなぁ。
ファンの子達は、あたしが女って知ってるのかな。
記者会見とか見てた人が、言ってるだろうし知ってるか。
差し出そうとしたのを、断りながらそんな事を思う。
因みに、隼人とヤンクミが睨み合うシーンは 別々に撮ってる。
仁達は仁達で撮り、こっちはこっちで撮ってるのだ。
同時進行の撮影、此処で警官に追いかけられるシーンが終えれば
すぐまた場所を変えなくてはならない。
とっても忙しいけど、色々な所に行けるのは面白い。
初めて行く所もあるだろうし、それが楽しみ。
「ちゃん、カメちゃんお疲れ〜!」
「徹平、そっちもお疲れ!」
「驚き方すっげぇ面白かったぜ!」
カットの声が掛かると共に、川原の方から徹平と恵介登場。
早速あたしが提案したあの演技について、よかったと言ってくれた。
「ホント??よかった?なら安心したよ、アレあたしの提案だから」
「マジ!?が考えたんだ〜あの驚き方は自然だったぜ?」
「うんうん、俺もあんな反応しちゃいそうだし。」
「良かったじゃん、境内の撮影も頑張んなきゃな。」
あたしの傍に来た二人が、口々に褒め称える。
その二人の後ろから、あたしの頭を叩く人あり。
少し首を動かして見れば、笑顔で立ってる和也。
そうされるのは嬉しいけど、今は恥ずかしい。
ってゆうか、ファンの子達の目線が怖い。
悲鳴が上がりっぱなしだよ・・・向くのも気が引ける。
あたしはなるべくそっちを見ないようにしながら移動。
次はその辺の神社へ行く。
其処で本格的な、隼人とヤンクミのぶつかり合いを撮るのだ。
此処で徹平達三人とはお別れ、彼等の撮影は此処まで。
あたしと仁・和也、仲間さんはまだ撮影が残ってる。
『ごくせん』で撮る主人公?ヒロインのシーンは、どれも重要。
全ての撮影が終わるまで、簡単に気は抜けない。
それはそうと、仁の姿がさっきから見えないなぁ。
川原での撮影はとっくに終わってるだろうに
和也がスタッフさんと話してる間、は仁の姿を探した。
背が高いし、目立つと思うんだけどね〜
もこみちよか低いけど、あたしよかは高い。
「オマエさっきから誰探してんの?」
後ろバックして探してたら、背中に何かが触れて
同時に頭上から色っぽい声が下りて来た。
聴き惚れてしまいそうな、柔らかくて色気のあるこの声。
背中に触れたのは、仁の胸。
寄り掛かるようにしてぶつかっていた。
「わわわわ!ごめん、足とか踏んでないよね??」
「踏んでねぇよ、で 誰探してんの?」
ひたすら俺に謝る姿を、可愛いとか思って見てた。
カットが掛かれば、『鴇』からに戻る。
『鴇』の姿で平謝りされると、ギャップの激しさで笑えた。
を見てると、『鴇』はでもあって
は『鴇』でもあるんだって思える。
コイツはちゃんと、役を自分の物に出来てるんだ。
「えっと、仁を探してたんだ。ずっと姿が見えなかったから」
「俺を?ふーん、嬉しいね次は俺とも打ち合わせしてくれない?」
「そっか、境内で話するシーンがあるもんね。」
って鈍感、俺が何の事で言ってんのか気づいてない。
亀とも打ち合わせしてたんだから、俺ともしてくれって意味なのに。
あれだけ密接して打ち合わせてんの見せ付けられて
俺もかなり気が立ってた。
これから、数々の試練が俺達に課せられるだろう。
それぞれの決意や、気持ちに関しての。