芝居
宮崎さんと別れ、が病院に着いたのは19時。
外はすっかり暗くなってしまった。
面会時間は、夜の22時まで。
そう思えばまだまだ余裕だ。
止まる暇も惜しんで、俺はエレベーターへ乗り込む。
乗り込んだエレベーターの中には、自分1人。
誰もいないのをいい事に、俺はケータイを取り出した。
電話したりはしないが、用があるのはDATE BOX。
此処には写メとか、曲とかの保存置き場。
片手でキーを操作し、BOX内の写メフォルダを開ける。
一番最新の写メ画像へキーを動かし、指定して開いた。
パッと画面いっぱいに開いたのは、隼人達の姿。
写メはこれ一枚だけじゃない。
教室で騒いでる時のとか、ゲーセン風景とか帰り道とか。
とっておきは、皆の寝顔♪
授業中寝てる時にパシャリと取りまくってやった。
俺しか知らない事、今開いたのはさっきタケを付けてた時。
俺以外の5人が、木に隠れて寄り添ってる姿。
まあ・・・竜は寄り添ってなんかいないけど。
後は、ゲーセンで隼人にご褒美と言われて貰ったプリクラ。
プリクラに写らない竜が、仏頂面で写ってるレア物(笑)
これをに見せてやろう思って持ってきた。
今一緒にいてくれる、大切な仲間だって言うんだ。
がいる階に、は着きエレベーターを降りる。
お見舞い品のケーキを手に、廊下を進む。
傍からフツーに見ると、は中々の美形。
擦れ違う人擦れ違う人殆どが、を振り向いて見たり
擦れ違う前から見惚れたりと、中々のモテぶり。
勿論本人は無自覚。
の頭の中は、他の視線よりもに会う事でいっぱい。
の病室、以前は隣に竜がいた。
あの時は過去の問題が解決したばかりで、まだ勇気がなくて
それでも会いたくて、自分からついて来てくれた竜。
その先を思い出すのは止めトコ。
いらん事まで思い出しそうだから。
707号室。
此処がの病室。
やっぱり緊張はしたけど、前程じゃなかった。
コンコン
ノックしてから、少しだけ間があった。
それからガタガタと音がしたと思ったら
中から受話器越しじゃない、の声がした。
「どうぞ」
やっと会える
やっと話せる
ノブを捻る手が、自然と汗でしっとりしてきた。
緊張が最高潮に達する。
ドアが視界から消えた時、の視界に病室と1人の姿が映った。
黒髪が腰まで伸び、少し痩せてるけれど可愛らしい子。
二重のパッチリした目が、3年前と変わらずに自分を見ている。
彼女の隣には、一足先に会ったおばさんがいた。
現れたに向かって、すっかり綺麗になったが微笑む。
「やっと会えたね、。」
「うん・・ずっと会いたかった。」
ぶわっと涙が浮かんで、の姿が滲む。
それでも瞬きすらしたくなくて、しっかりとを見た。
滲む視界の中で、が両手を広げたのが分かった。
おばさんがいるのも忘れて、はへ抱きついた。
フワリと抱きしめられて、が痩せた事を実感。
ずっとベッドにいたんだから、それは当たり前。
同時に、そうさせたのが俺だというのも思い知らされる。
「 その格好で通ってるの?それは私のせい?」
「そんな訳ない、これは俺を戒める為に・・・」
ホントは教頭に言われたからだけど、とは言えない。
それにしても、女の子っていいな〜
柔らかいし いい匂いがするし・・・って俺も女だろ。
ヤローと一緒にいるから、女っ気のカケラもねぇな。
望んでいる訳だから、居心地はいいけど。
そうだ、おばさんにも写メ見せてあげよう。
「あ!ケーキ大丈夫かな、潰れてたら買い直してくるから」
「いいって、潰れてたって構わないから。」
手に持ったままだったケーキに気づき、慌てて中を確かめる。
幸い一つも潰れてはいなかった。
俺って器用な抱きつき方したんかな(んな訳あるか)。
おばさんがケーキを開けに行き、俺は早速ケータイを出した。
3年経った今、ケータイもおニューに変えてド●モ。
奮発して新機種の●901isを買ってしまった。
以前にも●は使った事があったから、戸惑う事はなかった。
「に見せたいんだ、俺が今大切にしてる仲間をさ。」
「仲間が出来たんだね?良かった、そうゆう人達がにいて。」
「どうして?俺にとっては、だって大切な親友だよ?」
俺の言葉に、は少し寂しそうな顔で微笑んだ。
もしかして・・・でも、違ったら悪いし。
は頭に浮かんだ考えを消し、見せたい画像を探す。
ヤキモチなんて事はないよな、女同士だし・・。
でも、ヤキモチに女同士ってのは関係ないか?
自惚れてるって思われるのはヤだし、聞くのはよそう。
「これが同じクラスで、つるんでる俺の仲間。」
「へ〜何か皆、カッコイイvv」
「確かにな〜特にコイツとコイツは隣の女子高から人気があってさ。」
「そうッポイ感じだね、でもだってカッコイイよ。」
「え゛?嬉しいような嬉しくないような・・・」
にそう言われるのは嫌じゃない。
モテてる実感、俺はないけどさ。
は俺からケータイを取り、他の画像も見ている。
そこへケーキを乗せた皿を持ち、おばさんが戻ってきた。
ちゃんと俺の分もあって、その気遣いが嬉しかった。
「あら 楽しそうね、何を見てるの?」
「の仲間だって、ホラ皆カッコよくない?」
「まあ本当・・あら?この子は確か。」
盛り上がる俺達を見て、おばさんもニコニコしてこっちに来た。
傍に来た母親に、娘らしい仕草でケータイを見せる。
棘とげしさもなく、実に自然な親子団欒。
元に・・戻れたんだろうか。
に見せられたケータイの画像を見たおばさんが
不思議そうに声を漏らし、少し驚いた目をした。
それから視線がを捉え、優しい笑顔で問うてきた。
「この子、最初に来た時ついて来てくれた子でしょう?」
そう言ってケータイの画面を見せながら言う。
ついて来てくれた子、と言えば竜しかいないだろう。
竜か、あの時は確かに心強かった。
俺 脚がすくんで動く事が出来なかったし。
あの後だっけ?好きだとか言われたの。
うわ・・思い出すだけで、こっぱずかしい!!
「 顔が赤いよ?もしかして・・」
「違うってば!絶対そんなんじゃねぇ!!」
ニヤニヤして聞いて来るに、即答では否定。
自分でもハッキリしないんだ、認めたくない。
隼人にだって返事してないのに。
黙り込んだを見て、これは地雷を踏んだかもとは思い
母親からケータイを受け取り、もう一度5人の姿を眺め言った。
「は、今 心から笑ってる?」
の問いかけ、それがの意識を向けさせる。
心から笑ってる?問いかけは簡単な言葉。
だけど、その簡単な問いかけの中に何かが含まれてる気がした。
の中で、記憶が一気に過去へ戻る。
胸の中から、咽返るような感情が沸き起こり泣きそうになった。
「今は、笑えてるよ。」
「辛くなったら、私にも言ってね?」
「いいの?」
「当然、私だっての事助けたい。」
「・・・」
「その人達はズルイわね、私よりの傍にいれるんだから」
って、恥ずかしい台詞を言うなぁ・・
そんなに俺の事を大切に思ってくれてたなんてな。
やっぱ、ヤキモチ妬いてくれたの?
なんか嬉しい・・・
おばさんの目も、優しい色が浮かんでいて
母親に見守られてる感じがして、安心した。
「 今度彼等を連れて来て?」
「え?何で?」
「は無茶ばっかするから、ちゃんと見守っててって。」
「えー!?いいよ別に!」
は本気?まあ何れ会わせようかとは思ってたけど
そんな事を頼もうとしてたとは・・・
それに既に俺って、アイツ等に面倒かけてるしなぁ。
拒否しようとしてたんだけど、だけじゃなく
おばさんまでもが、竜にもう一度会って話したいとか
他の子達にも会いたいと言い出した為
俺は連れて来ざるを得なくなった。
嫌な訳じゃない、何か恥ずかしい。
でも・・会ってもらいたい気持ちもある。
俺は、次の機会には皆に会わせると2人に約束し 病院を去った。
さて同じ頃。
夜の公園に、3人の人影が現れた。
何かを練習しているような会話。
背の高い影は、土屋光。
彼を筆頭に考え付いた芝居を練習しているらしい。
芝居の主役は、絡まれた真希役の浩介を助け出すタケ。
「よし!完璧だな・・・」
「ああ、流石つっちーだぜ」
「行くか」
夜空の元で3人は互いに満足し合い、作戦を決行すべく
真希と謎の男がデートする場所へと急いだ。
そこで意外な人物に会うとも知らずに。
帰り道の、偶々バイト先付近を通り
暗い道を歩いていた時、前を歩く人影を発見。
目がいいは、遠目からそれが真希と
柴田の先輩等と喧嘩し、危機一髪の時現れた奥寺。
ははーん・・真希ちゃんの好みのど真ん中じゃん。
正しくストライクゾーンだよ。
あの様子だと、デートの帰りッポイな。
の予想通り、2人はデートを終えたばかりで
これから真希を奥寺が送っていくようだ。
冷やかすつもりはなかったが、興味に駆られ
は2人の姿を追いかけた。
すると・・すっごい怪しい二人組みが現れて
ベタな絡み方をして来た。
サングラスとかかけて、変装はしてるけどアレは間違いなく・・
つっちーと浩介だった。
何考えてんだ?ナンパ?マズくねぇか?
は奥寺の強さを知ってる。
ボクシングの大会で、沢山の賞を取ってる実力者。
止めなくちゃ2人の方が危ない。
扇子を出した変装男、その時点でつっちーってバレバレ。
真希ちゃんが不安とゆうか、怪訝そうな顔になった時
奥寺の右腕が動くのを、は見て思わず叫んだ。
「奥寺!!」
の声に、少し反応を見せたが
奥寺の牽制じみたパンチが、つっちーと浩介に降り注いだ。